学習データ非利用設定とは、入力内容がモデル改善に使われないよう制限する設定のことです。
依頼者の資料を生成AIに貼り付ける前に、その画面の設定を最後に確認したのはいつでしょうか。この記事では、弁護士・税理士・行政書士・社会保険労務士の事務所を想定し、ChatGPT、Claude、Geminiのデータの扱いに書かれたデータの扱いを材料に、入力前に回す5点のチェックを整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、各サービスのデータの扱いは公式のヘルプ文書で確認しています(確認日は2026年10月3日)。設定画面や規約は更新されるため、実際の運用の直前に、最新の公式文書を見直してください。なお、各社の仕組みの優劣を評価する記事ではなく、事務所の確認手順を組むための材料を並べる記事です。
公式文書に書かれているデータの扱いを事実として整理する
最初に、各社の公式文書の記載を事実として並べます。
OpenAIのヘルプセンターは、ChatGPTの個人向け設定として、Improve the model for everyoneという項目を示しています。この項目をオフにすると、新しい会話はOpenAIのモデルの学習に使われない旨が記載されています(出典:OpenAI ヘルプセンター Data Controls FAQ、2026年10月3日確認)。一時チャットは、履歴に残らず、モデル改善に使われない一方、安全性の目的で最大30日間保持されることがある旨の記載があります(出典:同ページ)。また、ChatGPT Business、Enterprise、Edu、ChatGPT for Healthcareのワークスペースは、デフォルトでは内容がモデルの学習に使われない旨も記載されています(出典:同ページ)。
Anthropicの個人向け(Free、Pro、Max)では、プライバシー設定のModel Improvementという項目で制御する形が示されています。シークレットチャットの内容は、この設定がオンでも、Claudeの改善に使われない旨の記載があります(出典:Anthropic Privacy Center 個人向け製品のデータ利用、2026年10月3日確認)。同じ文書は、フィードバックに関する会話を、最長5年保存する旨も記載しています(出典:同ページ)。法人向けの製品とAPIでは、デフォルトでは入出力を学習に使わないが、利用者が明示的にフィードバックを送った場合などは、その会話を学習に使うことがある旨が記載されています(出典:Anthropic Privacy Center 商用製品のデータ利用、2026年10月3日確認)。
Googleについては、Geminiアプリのアクティビティの保存設定や、一時チャットの保持、人間のレビュー担当者による確認の扱いが、Googleのヘルプセンターの文書に記載されています。編集部は、この記事の確認時点で、そのページを自動の到達確認に通せなかったため、具体的な保持期間などの数字は、ここでは載せません。事務所での確認時に、Googleのヘルプセンターで最新の記載を読み、確認日と一緒に台帳へ残してください。
各社の記載から読み取れる共通点は、個人向けと法人向けで、初期設定の考え方が分かれていることです。個人向けは、利用者が設定で選ぶ形が中心です。法人向けは、デフォルトで学習に使わない形が示されています。ただし、法人向けにも例外が書かれている点には、注意が要ります。
守秘義務の条文と、設定確認がつながる理由
設定を確認する理由は、士業の守秘義務にあります。弁護士法第23条は、弁護士又は弁護士であつた者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う旨を定めています(出典:e-Gov法令検索 弁護士法)。税理士法第38条は、税理士は正当な理由がなくて税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、又は窃用してはならない旨を定めています(出典:e-Gov法令検索 税理士法)。行政書士法第12条は、行政書士は正当な理由がなく、その業務上取り扱つた事項について知り得た秘密を漏らしてはならない旨を定めています(出典:e-Gov法令検索 行政書士法)。社会保険労務士法第21条は、開業社会保険労務士又は社会保険労務士法人の社員は、正当な理由がなくて、その業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならない旨を定めています(出典:e-Gov法令検索 社会保険労務士法)。
また、個人情報の保護に関する法律第27条は、個人情報取扱事業者が、一定の場合を除き、あらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはならない旨を定めています(出典:e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律)。
これらの条文は、紹介にとどめます。生成AIに入力することが、各条文との関係でどう評価されるかは、入力する情報の内容、サービスの契約形態、各職能団体の見解を踏まえて、有資格者自身が判断する領域です。この記事が扱うのは、判断の前提になる設定の事実を、確認し、記録する手順です。
入力前に回す5点チェックの手順
以下は、編集部が整理した運用上の手順であり、各社や職能団体の推奨ではありません。
チェック一。契約の種類を確認します。使おうとしているアカウントが、個人向けなのか、法人向けなのかを、請求書や管理画面で確認します。確認する情報は、プラン名と、管理者の有無です。個人の無料アカウントに、依頼者の情報を入れる運用が混ざっていないかを、この段階で洗い出します。
チェック二。学習利用の設定を確認します。個人向けなら、前節で示した各社の設定項目の状態を、画面で確認します。法人向けなら、デフォルトの扱いと、例外の記載を、公式文書で確認します。ここで見るのは、設定のオンとオフだけでなく、フィードバックの送信が例外になる点などです。
チェック三。保持期間と削除の扱いを確認します。一時チャットでも、安全性の目的で、一定期間保持される旨が各社の文書に書かれています。依頼者の情報を入れた場合、そのデータが、どれだけの期間、サービス側に残り得るのかを把握しておきます。
チェック四。入力する情報の範囲を決めます。氏名、住所、マイナンバー、口座番号、病歴や処遇に関する情報など、入力しない情報の種類を、事務所内で決めます。匿名化や伏せ字にして入力する運用も考えられます。この線引きは、事務所ごとに異なり、有資格者の判断が要る領域です。
チェック五。確認の記録を残します。確認した日付、確認者、確認したURL、設定の状態を、台帳に残します。公式文書は更新されるため、確認日がなければ、後からいつの時点の記載かをを示せません。
確認作業の実装 台帳の作り方とAIの使いどころ
台帳は、表計算ソフトでも事務所の共有フォルダでも作れます。項目は、サービス名、プラン、管理者、学習利用の初期状態、設定の確認日、確認者、参照URL、備考です。表を記事に載せる代わりに、各項目を文章で定義しておきます。
台帳づくりの下ごしらえに、生成AIを使う運用もあります。次のプロンプト例は、公式文書の文章を貼り付けて、要点を抜き出す用途です。
以下は、あるAIサービスの公式ヘルプの文章です。次の項目について、書かれている事実だけを抜き出してください。
抜き出す項目: 個人向けと法人向けの違い、学習利用の初期状態、設定の変更方法、データの保持期間、例外の記載
条件:
- 文章に書かれていないことは書かず、「記載なし」と答える
- 推測や評価を加えない
- 原文の該当箇所を、短く引用して添える
文章: (ここに公式文書の本文を貼り付ける)
出力された内容は、原文と突き合わせる工程を省きません。AIが、書かれていない内容を補う可能性があるためです。原文との照合は、有資格者または確認担当者が行い、照合した日付を台帳に残します。
もう一つ、事務所内の周知文の下書きにも使えます。
以下の確認結果をもとに、事務所の所員向けに、生成AIに情報を入力する前の確認手順を、5つの短い段落で書いてください。
条件:
- 専門用語を避け、新しい所員にも伝わる言葉にする
- 禁止や許可の判断は書かず、事務所として決めた運用を示す形にする
- 最後に、迷ったときの問い合わせ先を入れる
確認結果: (台帳の内容を貼り付ける)
出力された文章は、所長が最終版に整え、事務所の規程に添付します。規程の作り方は、事務所のAI利用ガイドラインの作り方 判断フローと周知・更新の設計で整理しています。
守秘義務・規程上の論点 顧問先・依頼者への説明をどう組むか
設定の確認が済んだら、依頼者への説明を組みます。説明の要素は、利用しているサービスの種類、入力する情報の範囲、学習利用の扱い、依頼者が選べる余地の四つです。
法人向けプランを使っていても、設定の状態は、変わり得ます。管理者の権限で変更できる項目があれば、変更できる人を限定し、変更の履歴を残す運用が考えられます。個人向けのアカウントを業務に使う運用は、設定が所員ごとに分かれるため、点検の負担が大きくなります。法人向けプランとの比較は、生成AIの法人プランと学習利用の比較 公式記載を読む5つの観点で整理しています。ChatGPTの設定の考え方は、ChatGPTを学習させない設定の考え方 士業事務所の確認手順と限界も参考になります。
説明の同意の取り方は、顧問契約や委任契約への条項の追加、個別の同意書、案内メールなど、事務所によって分かれます。個人情報保護委員会は、生成AIサービスの利用に関する注意喚起を、2023年6月2日に公表しています(出典:個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起)。説明文を作る際には、この種の公式の資料と、各サービスの最新の規約を、併せて確認します。
事務所規程に落とす要素としては、確認の頻度、確認の担当者、設定が変わっていたときの報告先、依頼者からの照会への回答手順が挙げられます。これらは運用例であり、所属する弁護士会、税理士会、行政書士会、社会保険労務士会の最新の指針との関係は、各団体の資料で確認する領域です。
所員への周知と、新人研修での扱い
台帳と手順ができても、所員に伝わらなければ運用は回りません。周知の場面は三つあります。入所時の研修、ツールを導入や変更したとき、年に一度の見直しの時期です。
入所時の研修では、守秘義務の条文と、事務所が使うAIサービスの設定を、同じ回で扱う方法があります。条文は紹介にとどめ、事務所の運用ルールを、台帳の項目と対応させて説明します。新しい所員が、自分のアカウントがどの区分に入るのかを、その場で確認できるようにします。
ツールの導入や変更のときは、変更の内容と、確認が必要な設定を、一枚にまとめて配ります。画面の変更が頻繁に起こるサービスでは、スクリーンショット付きの手順を用意しておくと、設定の取り違えが減ります。
年に一度の見直しでは、一年間の台帳の更新履歴を振り返ります。更新が止まっていたサービスは、使われていないのか、確認が漏れていたのかを切り分けます。使われていないサービスは、アカウントごと整理する運用も考えられます。
周知の記録も、台帳と同様に残します。誰に、いつ、何を伝えたのかを残しておくと、依頼者への説明や、事務所内の点検の場面で、運用が実際に行われていたことを示す材料になります。
失敗例と回避策
失敗例一。法人向けプランを契約したが、一部の所員が個人の無料アカウントも併用しており、依頼者の資料が個人アカウントに入っていた。回避策は、業務で使うアカウントを台帳に登録し、登録外のアカウントへの入力を行わない運用を、周知することです。
失敗例二。設定をオフにしたつもりが、アプリの更新で表示が変わり、実際は別の項目を触っていた。回避策は、設定の確認を、画面のスクリーンショットで台帳に残し、アプリの大きな更新のあとに再確認することです。
失敗例三。一時チャットなら保存されないと思い込み、依頼者の情報を入れた。回避策は、一時チャットでも、各社の文書に保持期間の記載があることを、所員に共有しておくことです。
失敗例四。サービスの規約が更新されたことに気づかず、確認日が一年以上前のまま運用していた。回避策は、台帳に次回の確認予定日を入れ、期限の近い項目を、月初に洗い出すことです。
費用・工数・体制
確認作業の費用は、ほぼ人の時間です。最初の台帳づくりは、サービスの数と所員の数で変わります。公式文書の確認は、一サービスあたり、数十分から一時間程度を見込む運用が考えられます。この見込みは編集部の目安であり、公表資料に根拠のある数値ではありません。
定期の確認は、月に一度か四半期に一度の頻度で行う運用があります。担当者を一人決め、不在時の代理も決めておきます。法人向けのプランの契約費用は、各社の料金ページで確認する領域です。
今後の展望と独自考察
各社のデータの扱いは、今後も更新される可能性があります。事務所にとっての論点は、ある時点の設定を正しく把握することより、更新を検知し、記録し、運用に反映する仕組みを持てるかどうかです。台帳に確認日と参照URLを残す運用は、この仕組みの出発点になります。
また、依頼者から、事務所のAI利用について照会を受ける場面が増えると、台帳は、説明の根拠資料になります。設定の事実を示せる事務所は、説明の場面で、落ち着いて対応できます。この見立ては編集部の考察であり、公表資料から直接導かれる結論ではありません。
よくある質問
設定をオフにすれば、依頼者の情報を入れても大丈夫ですか。
結論は、この記事では示しません。守秘義務や個人情報保護法との関係は、入力する情報の内容や契約形態で変わるため、有資格者が個別に判断する領域です。設定は、判断の前提の一つにとどまります。
法人向けプランなら、学習には使われませんか。
公式文書では、法人向けはデフォルトで学習に使わない旨が記載されています。ただし、フィードバックの送信など、例外の記載もあります。契約前に、各社の最新の文書で確認してください。
一時チャットを使えば、情報は残りませんか。
公式文書では、一時チャットでも、安全性の目的で一定期間保持される旨が記載されています。保持期間は、サービスごとに異なります。
確認は、どのくらいの頻度で行えばよいですか。
公表資料に、決まった頻度はありません。月に一度や四半期に一度の定期確認と、サービスの大きな更新時の臨時確認を組み合わせる運用が考えられます。
個人のアカウントで、業務の資料を扱ってもよいですか。
この記事では評価しません。設定が所員ごとに分かれ、点検の負担が増える点は、運用上の論点です。事務所として、業務で使うアカウントの範囲を、規程で決める運用があります。
公式文書が英語でも、台帳に残す必要がありますか。
残す運用が考えられます。確認した文書のURLと日付を残し、日本語の要約を添えておくと、所員が後から参照しやすくなります。
参考文献
- OpenAI ヘルプセンター Data Controls FAQ
- Anthropic Privacy Center 個人向け製品のデータ利用
- Anthropic Privacy Center 商用製品のデータ利用
- 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起
- e-Gov法令検索 弁護士法
- e-Gov法令検索 税理士法
- e-Gov法令検索 行政書士法
- e-Gov法令検索 社会保険労務士法
- e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律
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本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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