QueryStoryが、AIの答えの根拠を残す分析基盤を公開しました。
生成AIに社内のデータを尋ねると、答えそのものは返ってきます。ところが、その答えがどのデータをどう読んだ結果なのかは見えにくいままです。米国のスタートアップQueryStoryは2026年8月26日、この見えにくさを埋める分析基盤としてステルス状態を解除したとTechCrunchが報じました。日本の士業事務所がすぐ導入する種類の製品ではありませんが、根拠を残す設計そのものは、確認の記録が仕事の質に直結する事務所にとって読みどころがあります。本記事は公表資料と一次情報をもとに、事実関係と論点だけを整理したものです。

何が起きたか:サイバー攻撃の調査手法を分析基盤に移した
QueryStoryはデータ分析の根拠を残すことを売り物にした基盤で、2026年8月26日にステルス状態を解除しました。TechCrunchによると、同社は2025年終盤にBrightmind VenturesとNew York Life Venturesから、評価額6,000万ドルで600万ドルのシードラウンドを調達し、その後の期間を製品開発と顧客とのパイロットに充ててきました。狙いは大規模な自社データベースを抱える大企業で、営業やオペレーションの担当者が分析とレビューを同じ場所で回せる基盤という位置づけです。
製品の出自は創業者の経歴に表れています。CEOのシャポア・ナギブザデーは2009年、Googleのシステム運用エンジニアとして、中国を背景とする攻撃「Operation Aurora」の対応室に呼ばれ、サーバーの中で何が起きているのかを説明する役目を負いました。ばらばらのネットワークをまたいで攻撃の筋道を追う作業は、検証された知識の価値を教えると同時に、それが高くつく時間のかかる仕事だということも教えた、と本人は振り返っています(TechCrunch)。その後の6年をデータとセキュリティの接点に費やし、2016年にはGoogleのX Labs内でChronicleを共同創業しています。CTOのスタンリー・ヤンはGoogle時代の同僚でEvolutionIQのリードエンジニア、CPOのデービッド・グルーシックはAccenture出身です。
社名の由来も同じ発想から来ています。データにいくつもの問いを重ね、その積み重ねを一つの筋書きにまとめる。ナギブザデーはこの調査のパターンを社名の起点として挙げ、「真実に根ざした筋書きを組み立てること」だと説明しています。
なぜ重要か:答えではなく、答えの裏側を製品にしている
QueryStoryが売ろうとしているのは分析結果そのものではなく、その結果を信じてよいかを判断する材料です。TechCrunchの記者が宇宙活動のデータベースを渡して試したところ、かつて開発者と数週間かけて作った可視化が数時間で出てきたうえ、AIエージェントがその分析を正確だと判断した理由を示す信頼度の指標が併記されたと報告されています。
同じような作業は、大手AI企業が提供する作業用ツールでもできます。ただしTechCrunchは、それらのツールは利用体験の面で意図的に絞り込まれていると整理し、あるIT企業の幹部がClaude Cowork経由で社内データベースに問い合わせ、モデルが書いたSQLを表示させて筋が通っているかを確かめてから人間のアナリストのレビューに回した例を紹介しています。QueryStoryでは、そのSQLが自動的に表に出てきて、分析に印を付けて同僚のレビューに回すことができ、レビューの結果が基盤側に記録として残ります。
ナギブザデーは、企業のデータをそのまま対話型のAIにつなぐと「組織の中の数百人から数千人がそれぞれの問いを投げ、それぞれの版の真実を手にして、それをスライドに貼って共有する」状態になり、その内容をデータに結び付けて置いておく場所がないと指摘します。出資したBrightmind Partnersのテイラー・シッパリーも、大きな事業が依存する耐久性のあるものを作る場面では、AIは思われているよりもろいと述べています。
製品側の答えは、公式サイトの説明を読むと四つの組み合わせに整理できます。プロジェクトごとに参照元と権限とルールを設定すること、共通の指標定義で数字をそろえること、ゴールデンクエリと呼ぶ基準の問いで品質を時系列で測ること、出典と前提と系譜を透明にすることです(QueryStory公式サイト)。基盤はモデル非依存で、現時点では主要各社の最新モデルを中心に使うとしています。
士業事務所から見た四つの論点
ここからは士業とAIの視点です。QueryStoryは日本の士業事務所に向けた製品ではありませんが、設計の考え方は事務所のAI利用と重なる部分があります。
第一に、答えの根拠が後から取り出せるかどうかです。AIが何を読んで何を計算したのかが表に出ないと、確認の作業は答えの妥当性を一から検討し直すところから始まります。事務所側でこの記録をどう残すかは、事務所のAI利用ログと監査証跡の運用やMCP経由の操作ログ設計で扱ってきた論点と地続きです。
第二に、誰がいつ確認したかが残るかどうかです。QueryStoryは同僚のレビューを基盤側に記録として残す作りにしています。事務所では有資格者の確認が成果物の前提になる場面が多く、その確認が口頭やチャットで流れてしまうと、後から経緯を追えなくなります。AIの出力を人が確かめる工程の組み方は、生成AIのハルシネーション対策の実務でも触れてきたところです。
第三に、用語と集計の定義がそろっているかどうかです。同じ「売上」「従業員数」「対象期間」でも、担当者ごとに違う定義で数えていれば、AIが出す数字も食い違います。ナギブザデーが指摘した「それぞれの版の真実」の問題は、複数のスタッフが同じ顧問先のデータを別々に扱う事務所でも起こり得ます。
第四に、データの置き場所と学習利用の扱いです。QueryStoryの公式サイトは、顧客のデータは顧客自身のクラウド・リージョン・インフラに留まり、それを扱うAIは責任あるAIの国際規格に沿って第三者の監査を受けた管理体制のもとにあり、顧客データはモデルの学習には使われないと説明しています。認証としてSOC 2、ISO 27001、ISO 42001、GDPRを挙げています(QueryStory公式サイト)。国内の事務所が受託業務でこの構成をどう評価するかは、委託先の管理や契約条件の実務に依存するため、個別の判断は各社の公表資料と契約書に当たる段階です。日本語対応や国内リージョンの有無、日本法人の設置状況は、今回参照した公表資料からは確認できません(要確認)。生成AIの各社プランごとの学習利用の違いは、法人プランの学習利用比較にまとめてあります。
今後の動き
注目したいのは、根拠の可視化がどこまで標準装備になるかです。QueryStoryが独立した製品として成り立つのは、大手AI企業の汎用ツールが根拠の提示を絞り込んでいる間だけとも言えます。逆に言えば、SQLや参照元、信頼度の指標を出す機能が汎用ツール側に取り込まれれば、専用製品の輪郭は薄まります。
もう一つは料金の考え方です。ナギブザデーは、計算資源や保存容量、トークンの消費量を土台にした事業モデルを採っていない点を強みとして挙げ、費用がいくらになるのかを財務責任者が見通せるようにすることが目標だと語っています。従量課金が読みにくいという不満はAIツール全般に共通しており、士業事務所がツールを比べるときの評価軸としても無視できません。
まとめ
QueryStoryは、AIの答えそのものではなく、その答えを支える根拠と確認の記録を製品にした分析基盤です。シード600万ドルを調達済みで、SQLの自動表示、信頼度の指標、レビュー記録、指標定義の統一といった機能を掲げています(TechCrunch)。士業事務所がいま自分の環境で確かめられるのは、根拠が後から取り出せるか、誰が確認したかが残るか、定義がそろっているか、データがどこに置かれるか、という四点です。
参考文献
- QueryStory 公式サイト
- TechCrunch: QueryStory wants you to believe what AI is telling you
- TechCrunch: OpenAI is building AI agents for everything. Will everyone use them?
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引用元: TechCrunch
本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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