国税庁の予測AIと生成AI 税理士が顧問先に説明する7つの論点

国税庁レポート2026が示した予測AIと生成AIの使い分けを整理し、税理士事務所が顧問先へ説明するときの7つの論点と、顧問先データを生成AIに入れる前の確認事項をまとめます。

国税庁の予測AIと生成AI 税理士が顧問先に説明する7つの論点

国税庁の予測AIとは、申告漏れの可能性を推定する分析手法のことです。

顧問先から、税務署がAIで申告漏れを見つけているらしい、と尋ねられたときに何を答えるか。この記事では、国税庁が公表した資料をもとに、予測AIと生成AIがどこに使われているかを整理し、税理士事務所が顧問先へ説明するときの7つの論点にまとめます。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。国税庁は2026年7月に公表した国税庁レポート2026の第Ⅱ章にコラム1として、国税庁におけるAIの活用を掲載しています(出典: 同レポート目次)。

国税庁レポート2026がAIの活用をどう位置づけたか

国税庁レポート2026は、税務行政のデジタル・トランスフォーメーションを扱う第Ⅱ章の中に、AIの活用をコラムとして置いています。同章は納税者の利便性の向上、課税・徴収の効率化と高度化、税務組織のデジタル化推進の3本立てで構成されており、AIはその全体を支える手段として説明されています(出典: 国税庁レポート2026 目次)。

報道によれば、国税庁は予測AIと生成AIを性質の違いに応じて使い分けています。予測AIは既知のデータをもとに未知の事象を推定することに強みがあり、申告漏れの可能性が高い納税者の判定などに用いられていると説明されています。生成AIは文書生成や対話に強みがあり、職員の業務効率化、課税・徴収事務の効率化と高度化、納税者サービスの向上に活用する方針が示されています(出典: 税のしるべ電子版)。

徴収事務での具体例も示されています。滞納者の過去の接触事績、申告書データ、業種といった情報をもとに、電話、臨場、文書のうち接触できる可能性の高い方法を推定するモデルと、曜日や時間帯ごとの応答可能性を推定するモデルが構築されていると報じられています(出典: 税のしるべ電子版)。これは調査の選定ではなく、接触の効率化を狙った使い方です。

ここで押さえておきたいのは、AIが調査そのものを行うわけではないという点です。税務調査における質問検査権は国税通則法第74条の2に規定があり、その主体は当該職員と定められています。AIは職員が判断するための材料を整えるところまでを担う構図であり、この線引きは顧問先への説明でも最初に伝えたい部分です。

顧問先に説明するときの7つの論点

顧問先の関心は、たいてい2つに集約されます。うちは狙われるのか、そして何をしておけばよいのか、です。この2つに答えるための論点を7つに分けます。

第一の論点は、選定の主体です。前述のとおり、質問検査権の主体は職員であり、AIは分析の道具です。AIが調査先を決めていると説明すると、顧問先に誤った印象を与えます。分析の結果を職員が確認して選定するという構図で伝える方法が正確です。

第二の論点は、使われるデータの性質です。予測AIは既知のデータから推定する手法です。国税当局が保有するデータには、申告書、法定調書、支払調書、国外送金等調書などが含まれます。つまり、顧問先が提出した書類そのものが分析の材料になります。この当たり前の事実を丁寧に伝えると、記帳と申告の精度を上げる動機づけになります。

第三の論点は、業種と規模による違いです。予測モデルは業種などの属性を説明変数に用いると報じられています(出典: 税のしるべ電子版)。同業他社と比べて極端に外れた数値が出ている場合、その理由を説明できる資料を手元に持っておく実務が有効になります。

第四の論点は、説明資料の準備です。売上総利益率が前年から10ポイント動いた、役員報酬が大きく変動した、といった変化の背後には、たいてい事業上の理由があります。その理由を決算のタイミングで文書化しておくと、後から思い出す手間が消えます。相続税分野での事前チェックの組み立ては相続税調査の非違割合は82.3%で整理しています。

第五の論点は、記帳の質です。摘要欄が空欄の仕訳、雑費に寄せられた経費、期末に集中した売上計上といった要素は、人が見ても機械が見ても引っかかります。AIの話題を入り口にして、記帳ルールを見直す提案につなげる方法があります。

第六の論点は、電子帳簿等保存制度との接続です。データで保存されている帳簿は、当局側でも扱いやすい形になります。制度対応そのものは別の論点ですが、顧問先には制度対応と分析対策を切り分けて説明する整理が要ります。

第七の論点は、事務所側の姿勢です。当局がAIを使うから、事務所もAIで対抗するという構図ではありません。事務所がAIを使う目的は、申告前のチェック工程を厚くして、指摘される前に自分で気づくことにあります。申告書チェックの自動化についてはfreeeの申告書チェックエージェントで検証軸を整理しています。

この7つを一度に伝えると顧問先は消化しきれません。実務では、第一から第三までを最初の面談で、第四から第七を決算前の打ち合わせで扱う二段構えにすると、話が定着しやすくなります。前半は当局側の仕組みの理解、後半は自社で取れる行動という切り分けです。

説明の順番も効きます。仕組みの話から入ると身構えられるため、記帳の精度を上げると何が良いかという実利の話から始め、その背景として当局側の分析に触れる流れにすると、受け止め方が変わります。

顧問先への説明資料を作るとき、次のようなプロンプトが使えます。

あなたは税理士事務所の顧問先向け資料の下書き担当です。
以下の公表情報をもとに、中小企業の経営者向けの説明メモを作成してください。

制約:
- 与えられた公表情報に書かれていないことは書かないこと
- 断定を避け、公表資料で確認できる範囲にとどめること
- 「AIが調査先を決めている」という誤解を招く表現を使わないこと
- A4で1枚に収まる分量にすること
- 最後に「詳細は担当税理士へご確認ください」と入れること

公表情報:
(ここに国税庁レポート2026の該当箇所の要旨を貼る)

申告前のセルフチェックには、次の形が使えます。

以下は架空のA社の当期と前期の試算表です。
前期比で大きく動いた勘定科目を抽出し、それぞれについて
「事業上どのような理由が考えられるか」の候補を3つずつ挙げてください。

制約:
- 税務上の判断や結論は書かないこと
- 数値の計算根拠を必ず併記すること
- 断定せず、確認すべき点として列挙すること

試算表:
(貼付)

出力はあくまで確認候補の一覧であり、税務上の判断は税理士が行います。この線引きを工程表に明記しておくと、事務所内での役割分担が崩れません。

顧問先データを生成AIに入れる前に決めておくこと

顧問先の試算表や申告書をクラウドAIへ投入する場面では、守秘義務の整理が先に来ます。税理士法第38条には、秘密を守る義務の規定が置かれています。公認会計士法第27条にも同じ表題の規定が置かれています。条文の当てはめは有資格者の判断領域であり、ここでは条文の所在を示すにとどめます。

決めるべきことは3つあります。1つ目は、投入してよいデータの粒度です。法人名と代表者名を伏せた試算表なら投入可、勘定科目内訳明細書の取引先名は伏せる、といった線引きを事務所として定めておく運用が広く採られています。伏せる作業を担当者の判断に任せると、基準がぶれます。

2つ目は、顧問先への説明です。個人データを外部サービスへ渡す場面については、個人情報の保護に関する法律第27条が第三者提供の制限を定めています。同条第5項第1号は、利用目的の達成に必要な範囲内で取扱いを委託する場合の扱いを規定しています。個別の事案がどの類型に当たるかの判断は、有資格者が行う領域です。実務としては、顧問契約の更新時に、AIを含む外部サービスの利用について説明する機会を設ける事務所が増えています。

3つ目は、ログの保存です。誰が、どの顧問先の、どの資料を、どのモデルへ投入したかを記録に残します。保存期間は事務所によって異なりますが、顧問契約の期間に合わせる考え方があります。ログがあると、顧問先から照会を受けたときに事実で答えられます。リーガルテック側のデータ管理の見方はAI孔明統合のリーガルテックVDRを税理士業務で読むで整理しています。

規程に落とすときは、利用を認めるモデルの一覧、投入可能なデータの粒度、伏せ字の作業手順、ログの保存先と期間、顧問先への説明のタイミング、違反があったときの報告先の6項目が骨格になります(出典: 規程項目の整理は士業のチカラ編集部による)。

説明で起きやすい4つの失敗と回避策

1つ目は、煽ってしまう失敗です。AIで狙われる、という伝え方は顧問先の不安を煽るだけで、行動にはつながりません。公表資料に書かれている範囲を淡々と伝え、記帳と説明資料の準備という具体的な行動に着地させる進め方が有効です。

2つ目は、公表されていない部分を推測で埋める失敗です。予測モデルの説明変数や重みは公表されていません。どの指標が引っかかるかを断定的に語ると、後で食い違いが出ます。公表されている範囲と、公表されていない範囲を、説明の中で明示的に分ける整理が要ります。

3つ目は、事務所内で説明の内容がばらつく失敗です。担当者ごとに言うことが違うと、顧問先の混乱を招きます。説明メモを1枚作り、事務所全体で同じ内容を使う運用にすると、この問題は消えます。メモは公表資料が更新されたタイミングで見直します。

4つ目は、行動につながらない失敗です。仕組みの説明で終わると、顧問先は聞いた話を忘れます。説明の最後に、次の決算までに用意しておく資料を2点か3点だけ具体的に挙げ、期限を切ると定着します。挙げる資料は、大きく動いた勘定科目の理由を書いたメモと、同業比較で外れている指標の背景説明の2点から始める方法が扱いやすくなります。

費用と工数をどう見積もるか

顧問先向けの説明メモを作る工数は、公表資料の読み込みに2時間、メモの作成に2時間、事務所内での確認に1時間で、合計5時間程度が目安になります(出典: 士業のチカラ編集部による試算)。生成AIで下書きを作れば、作成部分は1時間程度まで縮みますが、公表資料との突き合わせは人が行う工程として残ります。

申告前のセルフチェックを生成AIで組む場合、初期構築に10時間程度、1件あたりの運用は10分程度が目安です(出典: 士業のチカラ編集部による試算)。顧問先が100件あれば、月あたり17時間前後の作業になります。この時間を確保できるかが、導入判断の分かれ目になります。

体制面では、プロンプトと出力の管理を1名に集約し、税務上の判断は各担当の税理士が行う形が扱いやすくなります(出典: 体制の整理は士業のチカラ編集部による)。管理者を置かないと、プロンプトが担当者ごとに分岐し、出力の品質が揃わなくなります。

当局のAI活用が進むと税理士の役割はどう動くか

当局側の分析が高度化すると、申告書の数字だけでは説明しきれない部分の比重が上がります。なぜその数字になったのかを事業の文脈で説明する資料は、機械が作れない領域です。ここは税理士が顧問先の事業を理解しているかどうかが直接に効いてきます。

もう1つの論点は、事前の説明責任の位置づけです。国税庁は納税者サービスの向上にも生成AIを使う方針を示しています(出典: 税のしるべ電子版)。チャットボットによる一般的な照会対応が広がれば、顧問先が自分で調べる場面も増えます。そのとき税理士に求められるのは、一般論ではなく、その顧問先の事情に即した判断です。役割の重心が、情報提供から判断へ動く可能性があります。

3つ目の論点は、記帳代行の位置づけです。分析の材料が顧問先の提出書類である以上、記帳の質は当局側の評価にも影響します。記帳代行を単なる作業として扱うか、説明可能性を作る工程として扱うかで、事務所の提供価値が変わります。インボイス制度の経過措置対応も同じ文脈で、インボイス70%控除は2026年10月開始で準備の手順を整理しています。

4つ目の論点は、事務所内の知見の蓄積です。顧問先ごとに、どの数値が動きやすく、どのような説明資料を用意したかを記録に残していけば、翌期以降の準備が短くなります。この記録は生成AIに読ませる素材にもなり、事務所固有の文脈を持ったチェックリストへ育てられます。逆に、担当者の頭の中だけに置いておくと、担当替えのたびにゼロに戻ります。

最後に、当局側の公表が今後どう変わるかという論点があります。国税庁レポートは年次で公表されており、AIの活用に関する記載も年を追って厚くなる可能性があります。事務所としては、毎年の公表時に説明メモを更新する運用を年間スケジュールへ組み込んでおくと、顧問先からの照会に後手を踏みません。公表資料を読む担当を決めておくと、更新が滞りにくくなります。

よくある質問

国税庁はAIで調査先を決めているのですか

公表資料から読み取れるのは、予測AIが申告漏れの可能性が高い納税者の判定などに用いられていると説明されている点です(出典: 税のしるべ電子版)。質問検査権の主体は国税通則法第74条の2に当該職員と規定されており、AIが調査を行うという構図ではありません。

どのような数値が分析の対象になりますか

説明変数の詳細は公表されていません。報じられている範囲では、滞納整理の場面で過去の接触事績、申告書データ、業種が用いられています(出典: 税のしるべ電子版)。公表されていない部分を推測して顧問先に伝える対応は避ける整理が安全です。

顧問先にはどう説明すればよいですか

公表資料に書かれている範囲を伝え、記帳の精度と説明資料の準備という行動に着地させる進め方が現実的です。説明メモを1枚作り、事務所全体で同じ内容を使う運用にすると、担当者によるばらつきを防げます。

一次情報はどこで読めますか

国税庁レポート2026の第Ⅱ章にコラム1として、国税庁におけるAIの活用が掲載されています。同章のPDFは国税庁のサイトから取得できます。

顧問先の試算表を生成AIに入れてよいですか

守秘義務の条文としては税理士法第38条が置かれています。個別の資料が投入可能かの判断は有資格者が行う領域であり、事務所としては投入可能なデータの粒度と伏せ字の手順をあらかじめ定めておく運用が広く採られています。

事務所側もAIを入れたほうがよいですか

導入の目的を、当局への対抗ではなく申告前のチェック工程の厚みに置くと、判断がしやすくなります。初期構築に10時間程度、1件あたりの運用に10分程度を見込み、顧問先の件数に掛けて工数を試算する方法があります(出典: 士業のチカラ編集部による試算)。

説明メモはどのくらいの頻度で見直しますか

国税庁レポートは年次で公表されるため、少なくとも年1回の見直しが基本になります。加えて、国税庁や財務省から関連する公表があったタイミングで、該当箇所だけを差し替える運用が扱いやすくなります。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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