日税連がカスハラ対応方針を公表|10月1日義務化と士業事務所の3論点

日税連が2026年8月28日にカスタマーハラスメント対応方針を公表。10月1日施行の改正労働施策総合推進法による義務化を控え、士業事務所が確認する3つの論点とAI活用時の守秘義務を整理します。

日本税理士会連合会は2026年8月28日、カスタマーハラスメントへの対応方針を公表しました(出典: 日本税理士会連合会)。

日本税理士会連合会(日税連)が、職員を税理士会員や納税者などからの不当な言動から守るための対応方針を公表しました。士業の職能団体が、自らの窓口業務におけるカスタマーハラスメント(以下カスハラ)への姿勢をここまで具体的に文書化した例は多くありません。背景には、カスハラ防止措置を事業主の義務とする改正労働施策総合推進法の施行が2026年10月1日に迫っていることがあります(出典: 厚生労働省)。この記事では、公表された内容の事実関係と、士業事務所が自分の事務所の運用として何を確認する段階にあるのかを整理します。なお本記事は有資格者による確認を経ていない編集記事であり、個別事案の判断は所属の職能団体や専門家にご確認ください。

日税連が公表した対応方針の中身

日税連が公表したのは、職員・嘱託・派遣職員等を対象とした3つの基本方針と、カスハラの定義、そして実際の対応手順です。日本税理士会連合会のお知らせによれば、基本方針は「カスタマーハラスメントを容認しない」「職員等の尊厳と安全を最優先とする」「組織として対応し、職員等個人に責任を負わせない」の3点です。3つ目の「個人に責任を負わせない」という宣言は、窓口対応が個人の忍耐力に委ねられがちだった実務を組織の問題として引き取るという意思表示にあたります。

定義として挙げられているのは、権限のない事項に関する不当な要求、暴言・侮辱・人格否定・差別的発言、脅迫や威圧的言動、同じ言動の繰り返しや長時間の拘束、過度または不合理な要求、身体的攻撃またはその恐れのある行為、そしてSNSやインターネットを用いた誹謗中傷や職員の個人情報の公開の7類型です。要求の内容そのものだけでなく、要求を実現するための手段や態様が社会通念上の許容範囲を超えるかどうかという軸が示されている点が実務的です。

対応面では、カスハラが認められた場合に対応を中止する場合があること、記録を共有すること、必要に応じて顧問弁護士や警察への相談、所属税理士会への通知といった措置を執ることが明記されました。あわせて電話応対についても方針が示され、威圧的な言動や同一内容の執拗な繰り返しが見られた場合に担当者の判断で通話を終了する場合があること、応対品質の向上と内容の正確な把握のために通話を録音する場合があることが案内されています。

2026年10月1日の義務化と士業事務所への影響

この公表の時期は、法改正のスケジュールと重なっています。厚生労働省は、令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について、令和7年6月11日に公布された令和7年法律第63号により、カスハラ防止のために雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となり、2026年(令和8年)10月1日から施行されると案内しています。指針についても、令和8年2月26日に令和8年厚生労働省告示第51号として公布されています。施行日まで残り1週間あまりという段階です。

ここで士業事務所にとって論点になるのは、自分たちが「事業主」の側でもあるという二重性です。税理士事務所も社会保険労務士事務所も法律事務所も、職員を雇用していれば措置義務の対象となる事業主です。同時に、顧問先企業から「うちは何をすればよいのか」と相談を受ける立場でもあります。社労士にとっては顧問先の規程整備や相談窓口設計という受注機会そのものであり、税理士や司法書士にとっては自事務所の窓口運用を見直す契機になります。厚生労働省はWebマガジンの解説記事でも制度の概要を紹介しており、顧問先への説明資料を組み立てる際の素材として使えます。

もうひとつの論点は、日税連の方針が「連合会の窓口対応」を対象にしたものである点です。そのまま個々の事務所の規程として転用できるわけではありません。ただし、基本方針・定義・対応手順という3層構造そのものは、規模の小さい事務所が自前の方針を組み立てるときの骨格として参照しやすい形になっています。

記録と通話録音をAIでどう扱うかという実務論点

カスハラ対応の実務は、突き詰めると記録の勝負になります。日税連の方針でも「記録を共有し」という一文が対応の中核に置かれています。ここで生成AIの出番が想定されるのが、通話録音の文字起こしと、対応記録の定型化です。録音データをテキスト化して日時・相手方・要求内容・応対者・対応結果という項目に整理する作業は、AIが得意とする定型処理にあたります。

一方で、士業事務所がこの用途にAIを使う場合、守秘義務との関係が最初の検討事項になります。通話の相手は多くの場合、顧問先の関係者や納税者本人であり、音声には氏名・事業内容・税務や労務の具体的な事情が含まれます。これを外部の生成AIサービスに送信するかどうかは、そのサービスが入力データを学習に利用するか、データがどの国のサーバーに保存されるか、ログの保持期間はどれだけかという条件次第で判断が変わります。各ベンダーの公表しているデータ利用ポリシーを確認したうえで、事務所として許容する範囲をあらかじめ決めておくという運用を採る事務所があります。ローカル環境で完結する文字起こしを選ぶ、あるいは音声はAIに渡さず人が要約した匿名テキストだけを整形に使うといった線引きも選択肢です。

施行日までに各事務所が確認する段階にある項目を挙げると、雇用契約や就業規則にカスハラ対応の位置づけがあるか、相談を受けた職員が誰にエスカレーションするかの経路が決まっているか、通話録音を行う場合に相手方への告知方法をどうするか、記録の保管場所と保管期間が定まっているか、そしてAIを記録処理に使う場合に守秘義務との関係を整理した内部ルールがあるか、の5点です。

まとめ

日税連は2026年8月28日、職員をカスハラから守るための基本方針・定義・対応手順を公表しました(出典: 日本税理士会連合会)。改正労働施策総合推進法によるカスハラ防止措置の義務化は2026年10月1日施行とされており(出典: 厚生労働省)、士業事務所は自らが措置義務の対象となる事業主であると同時に、顧問先から相談を受ける側でもあります。記録の整備はAIと相性のよい領域ですが、通話音声の取り扱いについては守秘義務との兼ね合いで事前に線引きを決めておく事務所が増えそうです。

参考文献

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引用元: 日本税理士会連合会

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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