個人情報保護法改正が成立 AI・統計特例が士業に与える5つの論点

個人情報保護法改正で新設される統計・AI特例の内容と施行時期を整理し、顧問先への説明で士業が押さえるべき5つの論点を解説します。

個人情報保護法改正が成立 AI・統計特例が士業に与える5つの論点

個人情報保護法の統計特例とは、統計作成にのみ利用する場合に本人同意を不要とする改正内容のことです。

個人情報保護委員会は2026年7月17日、「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」の公布を公表しました(「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」の公布について(令和8年7月17日))。この記事では、統計作成・AI開発目的での個人情報利用に関する特例が、顧問先企業を持つ士業事務所にどう影響し得るかを5つの論点で整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。個人情報保護委員会の発表によれば、この改正法は2026年7月10日に成立し、7月17日に公布されています(同発表資料)。

個人情報保護法改正を取り巻く2026年9月の状況

個人情報保護法には3年ごとに制度を見直す規定があり、今回の改正はその見直しの結果として成立したものです。個人情報保護委員会事務局が2026年4月7日の閣議決定にあわせて公表した資料によれば、改正の柱の一つは、統計情報の作成にのみ利用されることが担保されている場合に、本人の同意を得ずに個人データを第三者提供・目的外利用できる特例を設けることです(「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案」の閣議決定について(令和8年4月7日))。担保措置としては、提供元・提供先の間で統計作成目的にのみ利用する旨の書面合意を交わすこと、一定事項を公表すること、目的外利用や合意範囲を超えた第三者提供を禁止することが想定されています(同発表資料)。同資料では、この特例の対象に、統計作成等であると整理できるAI開発等が含まれる旨も示されています(同発表資料)。ここでいう統計作成等であると整理できるAI開発とは、個人を特定した状態でのモデル出力を目的とせず、集計・統計処理の一環としてAIを利用する場面を指すものと考えられ、顧問先が個人向けにカスタマイズされたサービスを提供する目的でAIを使う場面までを一律に含むものではないと考えられます。この線引きの詳細も、今後の政令・ガイドラインで明確化される見通しです。改正法の施行時期は、公布の日から起算して2年を超えない範囲内で政令によって定められることになっており、2026年9月時点では具体的な施行日は未定です(「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」の公布について(令和8年7月17日))。個人情報保護委員会は、円滑な施行に向けて政令・委員会規則・ガイドライン等の検討を行う方針を示しており(同発表資料)、統計特例の具体的な運用方法は、これらの検討結果が公表されて初めて明らかになる段階にあります。

顧問先への影響を整理する5つの論点

顧問先企業から相談を受ける際、士業事務所が押さえておきたい論点は次の5つです。

第一の論点は、特例の対象が統計作成にのみ利用される場合に限定されている点です。顧問先がAI開発や分析目的で個人データを活用したいと考えていても、統計作成という目的に限定されない利用(個人を識別した上でのマーケティング等)には、この特例は及ばないと整理されています(前掲「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案」の閣議決定について(令和8年4月7日))。

第二の論点は、担保措置の具体的な内容です。書面合意・公表義務・目的外利用の禁止という3つの要素が、政令や個人情報保護委員会規則でどこまで具体化されるかは、2026年9月時点では明らかになっていません。とくに公表義務については、どの媒体でどの程度の粒度の情報を公表すれば要件を満たすのかが、顧問先にとって実務上の関心事になると見込まれます。顧問先が特例の利用を検討する場合、政令等の公表を待つ必要があります。

第三の論点は、既存の個人情報保護法の枠組みとの関係です。顧問先の中には、今回の改正によって個人情報保護法の規制全体が緩和されると受け止めているケースも見られますが、統計特例はあくまで統計作成という限定的な目的に対する例外であり、それ以外の場面での個人データの取り扱いには従来どおりの規律が適用されます。現行法では、個人データの第三者提供には本人の同意を得ることが原則とされ(個人情報保護法第27条)、利用目的の変更にも制限があります(個人情報保護法第18条)。今回の改正は、これらの条項に統計目的の特例を追加する形で行われるものであり、既存の枠組み自体が撤廃されるわけではありません(e-Gov法令検索 個人情報保護法第27条、e-Gov法令検索 個人情報保護法第18条)。

第四の論点は、施行時期です。改正法は2026年7月17日に公布されていますが(「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」の公布について(令和8年7月17日))、施行は公布から2年を超えない範囲内の政令で定める日とされており、統計特例を含む改正内容がいつから実際に適用されるかは、政令の公布を待つ必要があります。

第五の論点は、顧問先への説明の仕方です。統計特例のニュースは経済メディアでも取り上げられており、顧問先の経営層がすでに概要を耳にしているケースも増えています。統計特例はAI開発を直ちに自由化するものではなく、書面合意や公表義務などの担保措置を満たして初めて利用できる仕組みです。顧問先がニュース等でAI開発なら同意が不要になったという断片的な情報だけを得ている場合、士業側から特例の対象範囲と担保措置の必要性を整理して伝える役割が期待されます。

顧問先への説明資料作成でAIを使う場合の手順は次のとおりです。

  1. 個人情報保護委員会の公表資料から、統計特例の対象範囲と担保措置の要素を箇条書きで抽出する
  2. 顧問先の具体的な利用場面(AI開発・マーケティング分析等)が、統計作成にのみ利用される場合に該当し得るかを整理する
  3. 該当し得る場合でも、政令等の具体的な要件が未公表である旨を明記した説明資料の下書きをAIで作成する
  4. 有資格者が内容を確認し、規範断定を含む表現がないかをチェックしたうえで顧問先に提示する

ChatGPT・Claude・Geminiで使えるプロンプト例を示します。

以下は個人情報保護委員会が公表した改正法の概要(本記事の内容を要約したもの)です。顧問先企業向けの
説明資料の下書きとして、①改正の背景、②統計特例の対象範囲、③現時点で未確定の事項、の3項目で
整理してください。法的な当てはめや断定的な結論は書かず、公表されている事実の整理に留めてください。
以下は顧問先企業(架空のA社)から寄せられた質問(架空の内容)です。AI開発なら個人情報を自由に使えるようになったと聞いたが本当か、という質問に対して、統計特例の対象範囲と担保措置の必要性を
説明する回答の下書きを、規範断定を避けた表現で作成してください。

守秘義務・規程上の論点

士業事務所が顧問先の個人情報の取り扱いについて相談を受ける際、事務所自身も顧問先から預かった情報について各士業法上の守秘義務を負います。弁護士は弁護士法第23条、税理士は税理士法第38条、公認会計士は公認会計士法第27条、社会保険労務士は社会保険労務士法第21条で、業務上知り得た秘密を漏らしてはならない旨が定められています(e-Gov法令検索 弁護士法第23条、e-Gov法令検索 税理士法第38条、e-Gov法令検索 公認会計士法第27条、e-Gov法令検索 社会保険労務士法第21条)。

顧問先の統計特例利用について相談を受ける際、事務所が顧問先から個人データの具体的な内容(氏名・連絡先等)を預かって検討する必要は通常はなく、利用目的や担保措置の設計についての相談が中心になると考えられます。それでも、相談の過程で顧問先の内部情報に触れる場合は、通常の相談業務と同様に守秘義務の対象になります。事務所規程に落とし込む際は、統計特例に関する相談も他の個人情報関連相談と同じ管理ルールの対象とする運用例が考えられます。これらは規範として断定するものではなく、各事務所の実情に応じて調整する前提のものです。

よくある失敗例と回避策

一つ目の失敗例は、統計特例をAI開発なら何でも同意不要になるという理解のまま顧問先に説明してしまい、後になって対象範囲の限定や担保措置の必要性を伝え忘れていたことに気づくケースです。回避策は、説明資料に対象範囲の限定と担保措置の存在を明記することです。

二つ目の失敗例は、政令等がまだ公表されていない段階で、具体的な運用方法を断定的に助言してしまうケースです。回避策は、政令・委員会規則・ガイドラインの公表状況を継続的に確認し、未確定の事項は「要確認」として明示することです。

三つ目の失敗例は、既存の個人情報保護法の同意取得ルール全体が緩和されたかのように顧問先が誤解し、統計特例の対象外の場面でも同意取得を省略してしまうケースです。回避策は、特例の対象範囲を具体的な利用場面に当てはめて確認する作業を、顧問先との相談の中で行うことです。

四つ目の失敗例は、統計特例の担保措置(書面合意・公表義務等)を、既存の個人情報保護方針の記載だけで満たしていると思い込み、統計特例専用の対応を怠ってしまうケースです。回避策は、政令等で担保措置の具体的な要件が示された段階で、既存の方針との差分を確認する作業を予定しておくことです。

費用・工数・体制

統計特例に関する顧問先への説明資料作成は、既存の個人情報保護法対応の延長線上にある業務であり、新たなツール導入を伴わないケースが多いと考えられます。工数としては、政令等の公表状況を確認する調査と、顧問先向け説明資料の作成に、案件の複雑さに応じて数時間から半日程度を見込んでおくと現実的です。運用の主担当は、顧問先の個人情報関連相談を日常的に担当するパートナーかシニアスタッフが持ち、政令・委員会規則の公表があった際に速やかに情報をアップデートできる体制にしておくことが望まれます。

複数の顧問先がAI開発や分析業務への関心を示している事務所では、政令等の公表を待つ間に、対象となり得る顧問先のリストと利用場面を整理しておくと、実際に政令が公表された際の対応を迅速化しやすくなります。

今後の展望と考察

統計特例の具体的な運用は、今後公表される政令・個人情報保護委員会規則・ガイドラインの内容次第という部分が大きく、2026年9月時点では制度の骨格が示された段階にとどまります。士業事務所にとっての論点は、政令等の公表を待って初めて具体的な助言が可能になる部分と、現時点でも顧問先に伝えられる部分(対象範囲の限定、担保措置の必要性)を切り分けて説明することです。政令の公布時期が明らかになった段階で、改めて詳細を確認する必要があります。

よくある質問

統計特例はすでに使えるようになっていますか

個人情報保護委員会の発表によれば、改正法は2026年7月17日に公布されています(「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」の公布について(令和8年7月17日))が、施行は公布から2年を超えない範囲内の政令で定める日とされており、2026年9月時点ではまだ施行されていません。

AI開発であれば同意取得の手続きは一切不要になりますか

個人情報保護委員会の資料では、統計作成にのみ利用されることが担保されている場合に限って本人同意が不要とされており、AI開発全般が同意取得の対象外になるものではないと整理されています。個別の利用場面が特例の対象範囲に収まるかどうかは、政令等の内容が明らかになった段階で確認する必要があります。

顧問先に今の段階で伝えられることはありますか

改正の方向性(統計作成にのみ利用される場合に限った特例であること、書面合意や公表義務などの担保措置が想定されていること)は、現時点の公表資料からも伝えることができます。具体的な運用方法については、政令等の公表を待つ必要がある旨をあわせて伝えておくことが実務的です。

この改正で既存の同意取得ルールは緩和されますか

個人情報保護委員会の資料からは、既存の同意取得の原則が撤廃されるという記載は見当たりません。統計作成にのみ利用される場合の特例が新設される形であり、それ以外の利用場面では既存のルールが引き続き適用されると整理されています。個人データの第三者提供に本人の同意を要する現行の枠組み自体(個人情報保護法第27条)は維持された上で、統計特例という限定的な例外が付け加えられる形になります。

士業事務所自身がこの特例を使う場面はありますか

士業事務所が顧問先の統計的な分析業務を代行する場合など、事務所自身が個人データを取り扱う立場になる場面では特例の対象になり得ますが、通常の相談業務においては、顧問先が特例を利用するかどうかを助言する立場になることの方が多いと考えられます。

政令の公表はいつ頃になると見込まれますか

個人情報保護委員会の発表からは、政令の具体的な公表時期は明らかになっていません。施行が公布から2年を超えない範囲内とされていることから、遅くともその期限までには政令が定められる見通しですが、実際の公表時期は委員会の検討状況を継続的に確認する必要があります。

参考文献

顧問先のAI利用と守秘義務の線引きについてはChatGPT Workを事務所に入れる前に 権限と守秘義務で引く7つの線、生成AIの越境データ移転については生成AIの越境データ移転で士業事務所が確認する7項目と同意の設計も参考にしてください。

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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