診断レポートのAI活用とは、材料の整理と文章化を分けて任せる工程設計のことです。
診断レポートは、集めた材料を構成に沿って並べ、経営者に伝わる形に書く成果物です。作業の大半は材料の整理と文章化であり、どちらも生成AIが当てられる領域です。この記事では、レポート作成の工程を分解し、どこに何を任せるかを整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。生成AIサービスの利用については個人情報保護委員会の注意喚起が判断の出発点になります。
レポート作成の工程を分解する
作業を分けると、AIの当てどころと、人が担う部分がはっきりします。
第1の工程は、構成を決めることです。何を、どの順番で伝えるか。支援先の状況と、読み手が誰かによって変わります。ここは人が決める部分になります。
第2の工程は、材料集めです。公開されている統計や業界の資料、ヒアリングで得た内容、財務のデータ。それぞれ性質が違います。
第3の工程は、材料の割り当てです。集めた材料を、決めた構成のどこに置くかを決めます。
第4の工程は、文章化です。割り当てた材料を、読み手に伝わる文章にします。
第5の工程は、確認です。数値、企業名、日付、出典を見ます。加えて、支援先が言っていない内容が混ざっていないかを確認します。
第6の工程は、経営者への説明です。レポートを渡して終わりではなく、内容を伝える場が続きます。
このうちAIが効くのは、第2の材料集めの一部、第3の割り当て、第4の文章化です。第1と第5は人が担い、第6は対面の作業になります。
事務所全体での使いどころは中小企業診断士のAI活用で扱っています。
第1の工程 構成を先に決める
構成をAIに作らせる使い方もありますが、実務では人が決めるほうが結果が良くなります。
理由は、構成が支援先の状況と読み手によって変わるためです。金融機関に見せるレポートと、経営者だけが読むレポートでは、何を先に書くかが変わります。この判断は、支援先との関係の中で決まる部分であり、機械には材料がありません。
事務所として、レポートの型をいくつか持っておくと判断が速くなります。現状の把握が中心の型、課題の整理が中心の型、施策の提案が中心の型。案件の性質に応じて選び、細部を調整する形です。
型を作る作業には、過去のレポートが使えます。事務所が作ってきたレポートから、構成の枠組みだけを抽出します。この抽出には支援先の情報が含まれないため、扱いが軽くなります。
あなたは文書の型を抽出する役です。以下の過去のレポートから、構成の枠組みだけを
抽出してください。
抽出する項目:
- 章立ての構成と順序
- 各章で記述されている内容の種類
- 図表が使われている箇所とその役割
- 定型的に使われている言い回し
条件:
- 支援先の具体的な情報を出力しないこと
- 数値や企業名を出力しないこと
- 枠組みとして繰り返し使える形で出力すること
- 評価や改善の提案を書かないこと
過去のレポート:
"""
(ここに貼り付け)
"""
抽出した枠組みは、事務所の型として蓄積します。担当者が変わっても、レポートの構成がぶれなくなります。新しく加わった担当者への説明にも、そのまま使えます。
第2の工程 材料の性質で扱いを分ける
材料には3つの性質があります。それぞれ扱いが変わります。
第1の性質は、公開情報です。行政の統計、業界の公表資料、公開されている企業情報。これらは外部のサービスに入力しても、公になっていない情報が外に出ることにはなりません。整理させる作業に制約なく使えます。
第2の性質は、ヒアリングで得た内容です。経営者の発言、事業の課題、社内の状況。支援先の情報であり、扱いに判断が要ります。記号に置き換えたうえで整理させるか、外部に出さない設計を選ぶかを決めます。
第3の性質は、財務のデータです。売上、利益、資産の構成。支援先にとって最も外に出したくない情報の一つです。入力しない区分に置く例が多く見られます。
この3つを分けておくと、作業のどこで判断が要るかが明確になります。公開情報の整理は制約なく進め、支援先の情報を扱う工程で立ち止まる。この流れにしておけば、判断のたびに作業が止まりません。
なお、財務の分析そのものは表計算や専用のソフトの領域です。生成AIに計算をさせると、それらしい数字が返るぶん誤りに気づきにくくなります。計算はシステム、その結果の説明が生成AIという切り分けにします。
第3と第4の工程 割り当てと文章化
ここが最も効果の出やすい部分です。
割り当ての作業では、事務所の型と、集めた材料を渡します。材料が型のどこに対応するかを整理させ、対応がない項目を洗い出させます。
あなたは文書の構成を整理する役です。以下の「材料」を、「レポートの構成」に沿って
割り当ててください。
条件:
- 材料に書かれている内容だけを使い、推測で補わないこと
- 対応する材料がない項目は「材料に該当なし」と出力すること
- どの項目にも当てはまらない材料は「未分類」としてまとめること
- 評価や提案を書かないこと
- 支援先は A社、経営者は 甲 のまま扱うこと
- 数値・日付は材料のまま変更しないこと
レポートの構成:
"""
(ここに貼り付け)
"""
材料:
"""
(匿名化した箇条書きを貼り付け)
"""
該当なしとされた項目が、追加で材料を集める対象になります。この洗い出しが、実は最も価値のある部分です。人が整理すると、分かった気になって抜けを見落とします。次のヒアリングで何を聞くかも、ここから決まります。
文章化の作業では、事務所の過去のレポートを文例として渡します。ゼロから書かせるより、既存の型に沿って書き換えさせるほうが手直しが減ります。
文章化で注意するのは、支援先が言っていないことを書かせないことです。生成AIは、それらしい分析や提案を自然に補います。指示文で明示的に禁じ、確認の観点にも入れておきます。
第5の工程 確認の設計
確認の観点は5つです。
第1に、数値が材料と一致しているか。第2に、企業名や人名の表記が正しいか。第3に、日付の前後関係が矛盾していないか。第4に、統計の数値に出典が付いているか。第5に、支援先が言っていない内容が混ざっていないか。
第4と第5が、このレポートに固有の観点になります。統計の数値については、生成AIがそれらしい数値と出典を組み合わせて出力することがあります。出典として挙げられた資料が実在するか、その資料に該当の数値が書かれているかを確認します。行政の統計は公表資料の原典で確認します。
第5については、材料と突き合わせます。材料にない分析や提案が入っていれば、それは生成AIが補った部分です。補われた内容が結果的に妥当な場合もありますが、支援先の実態に基づかない記述としてレポートに残すことはできません。
確認の負荷を下げる工夫として、文章化の段階で材料への対応を示させる方法があります。各段落がどの材料に基づくかを併記させておけば、確認が突き合わせの作業になります。併記は最終のレポートには残さず、確認が済んだ段階で外します。
確認する人を分けられる事務所では、作った人と確認する人を別にします。自分が書いた文章の誤りは、書いた本人ほど見落とします。個人で活動している場合は、時間を置いて読み直す、印刷して読む、といった工夫で代替します。
もう一点、確認の記録も残します。誰がいつ確定させたかを一行書いておくだけで足ります。支援先から後日に問い合わせがあったとき、どの時点の内容かが分かります。
守秘義務と規程 診断業務での設計
中小企業診断士は、他の7士業と資格法の建て付けが異なります。経営診断の業務に従事する者の登録は中小企業支援法第11条に置かれ、試験については中小企業支援法第12条に定めがあります。実務では、支援先との契約に守秘条項を置いて対応する例が一般的です。
したがって、設計の起点は契約になります。契約で守秘の範囲が定められているなら、その範囲が入力の判断にも及びます。
個人情報の側では、安全管理措置が個人情報の保護に関する法律の個人情報保護法第23条に置かれています。従業員に関する記述を含むレポートでは、この観点も重なります。
決めるのは4点です。第1に、入力してよい情報の区分。第2に、匿名化の水準。企業名を記号に置き換えても、業種と地域と規模が揃えば特定できる場面があります。第3に、確認の工程。第4に、記録です。
支援先への説明も準備します。何に使っているか、何を入力しないか、誰が確認するかの3点です。公的な支援制度を利用している案件では、支援機関の情報管理の運用も確認します。中小企業向けの支援制度全般は中小機構の情報にまとまっています。規程への落とし方は士業事務所のAI利用規程テンプレートで扱っています。
レポートの分量と伝わり方
生成AIを使うと、分量を増やすことが容易になります。ここに注意が要ります。
経営者が読む資料としては、分量が増えるほど伝わりにくくなります。網羅的に書かれたレポートは、読み手にとって何が重要かが分かりません。書けるようになったから書く、という方向に流れないよう、分量の目安を先に決めておきます。
伝わるレポートの条件は、分量ではなく構造にあります。結論が先に書かれているか、根拠が示されているか、次に何をするかが明確か。この構造は、AIが自動的に作ってくれるものではありません。第1の工程で人が決める部分です。
分量を絞る作業にも、AIが使えます。書き上げたレポートを渡し、重複している記述や、結論に寄与していない記述を指摘させる。この指摘を材料に、人が削る判断をします。
読み手による書き分けも設計に含めます。経営者向け、金融機関向け、社内の担当者向け。同じ内容でも、強調する部分と省略する部分が変わります。事務所の型を読み手ごとに持っておくと、この書き分けが速くなります。
書き分けの作業自体は、生成AIが得意とする領域です。同じ材料から、読み手を変えた版を作らせる。ただし、版が増えるほど、どれが最新かの管理が難しくなります。版ごとに数値が食い違う事故も起きやすくなるため、元になる材料を一つに保ち、そこから作り直す形にしておきます。
図表の扱いも決めておきます。生成AIは文章を扱う道具であり、図表そのものは別に作ります。文章と図表の対応、つまり本文で言及した図表が存在するか、図表の番号が正しいかは、確認の観点に含めておきます。
作成でつまずくパターン
1つ目は、構成までAIに作らせた例です。構成は支援先の状況と読み手によって変わり、機械には判断の材料がありません。
2つ目は、財務の分析そのものを任せた例です。計算は表計算や専用のソフトの領域です。
3つ目は、統計の数値をAIに尋ねた例です。それらしい数値と出典が組み合わされて出力されます。原典で確認します。
4つ目は、支援先が言っていない分析が混ざった例です。生成AIはそれらしい内容を自然に補います。指示文で禁じ、確認の観点にも入れます。
5つ目は、分量が膨らんで伝わらなくなった例です。書けるようになったから書く、という方向に流れないよう、目安を先に決めます。
6つ目は、材料が足りないまま文章化に進んだ例です。材料が足りない状態で書かせると、埋めるためにAIが補います。該当なしの洗い出しを先に行います。
7つ目は、事務所の型を更新しないまま使い続けた例です。読み手の関心も、制度の枠組みも変わります。型を作った時期を記録しておき、年に一度は見直す日を決めておきます。
8つ目は、レポートを渡して終わりにした例です。第6の工程、つまり経営者への説明の場が本番になります。文章として整っていても、伝わらなければ意味がありません。説明の場で使う要点をまとめた資料を別に用意しておくと、その場が動きます。
費用と体制、導入の順番
費用は、法人向けプランのライセンス料が中心になります。金額は事業者と契約形態で変わるため、各社の料金ページで確認します。
工数は、事務所の型を作る作業に集中します。参考値として、過去のレポートから構成の枠組みを抽出するのに数日、指示文の型を整えるのに半日ほど見ておくと、無理なく形になります。型の抽出は、道具を入れなくても担当者の育成に使える資産になります。
体制では、型を管理する担当を決めます。個人で活動している場合は自分ですが、型を更新する日を決めておかないと、古い構成のまま使い続けることになります。
導入の順番としては、第3の割り当てから始めます。材料と型を突き合わせる作業であり、該当なしの洗い出しという副次的な価値もあります。導入全体の進め方は士業事務所のAI導入の進め方にまとめています。
これから変わること
支援先の側でもAI利用が進みます。経営者が自社で作った分析を持ち込む場面が増え、その分析が自社の実態に合っているかを判断する部分に、診断士の役割が移っていきます。
行政の統計やデータの公開も進みます。行政のデジタル化の動きはデジタル庁の重点計画で確認できます。データが扱いやすくなれば、材料集めの負担が下がります。
制度面では、個人情報保護法の見直しの議論が続いています。委員会の公表資料は個人情報保護委員会の報道発表で追えます。
レポートの価値がどこにあるかも問い直されます。情報を並べる部分の価値は下がり、支援先の状況に照らしてどう判断するか、次に何をするかを示す部分に重心が移ります。この部分は、支援先との関係の中でしか作れません。
よくある質問
レポートの構成もAIに作らせてよいですか
構成は支援先の状況と読み手によって変わるため、人が決めるほうが結果が良くなります。事務所としてレポートの型をいくつか持っておき、案件の性質に応じて選ぶ形が実務に合います。
財務の分析に使えますか
計算は表計算や専用のソフトの領域です。生成AIに計算をさせると、それらしい数字が返るぶん誤りに気づきにくくなります。計算はシステム、その結果の説明が生成AIという切り分けにします。
統計の数値を尋ねてよいですか
それらしい数値と出典が組み合わされて出力されることがあります。統計は公表資料の原典で確認し、生成AIに使わせるなら確認済みの資料を渡して探させる形にします。出典が実在するかの確認も、確認の観点に含めます。
どの工程から始めるのがよいですか
材料を型に割り当てる工程からです。効果が見えやすく、該当なしの洗い出しによって追加で集めるべき材料がはっきりするという副次的な価値もあります。
支援先が言っていない内容が混ざらないようにするには
指示文で明示的に禁じたうえで、確認の観点にも入れます。材料と突き合わせて、材料にない分析や提案が入っていないかを見ます。文章化の段階で各段落がどの材料に基づくかを併記させておくと、確認が突き合わせの作業になります。
レポートの分量はどう決めますか
目安を先に決めておきます。生成AIを使うと分量を増やすことが容易になりますが、経営者が読む資料としては分量が増えるほど伝わりにくくなります。伝わる条件は分量ではなく構造にあります。
参考文献
- e-Gov法令検索 中小企業支援法
- e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律
- 中小機構 中小企業向け支援情報
- 中小機構
- 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等
- 個人情報保護委員会 法令・ガイドライン等
- デジタル庁 デジタル社会の実現に向けた重点計画
- 情報処理推進機構 情報セキュリティ関連の各種ガイドライン
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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