報酬設計とは、事務所が提供する業務に対する対価の決め方を整理することです。
会計事務所で働く743名への調査で、顧客に有償のAIサービスを提供している事務所は40%、AI活用によって収入または労働時間が改善した回答は67%でした(出典:PR TIMES レックスアドバイザーズ 会計事務所の生成AI活用に関する実態調査)。本記事では、この調査の数字を材料に、税理士事務所や会計事務所が顧問報酬とAI活用の関係を整理する際の判断軸を7つに分けて示します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、調査の数値は発表元のプレスリリースで確認しています。
調査の概要と読み方
まず、調査の前提を確認します。調査はレックスアドバイザーズが公表したもので、プレスリリースの記載では、実施機関は株式会社PRIZMA、対象はPRIZMA社のリサーチパネルのうち現在会計事務所で働く方、有効回答数は743サンプルです。調査期間は2026年9月3日から9月7日、公表日は2026年9月30日とされています(出典:PR TIMES レックスアドバイザーズ 会計事務所の生成AI活用に関する実態調査)。
ここで押さえたいのは、対象が会計事務所の職員も含む回答者であり、事務所の代表者だけを集計した数字ではない点です。リサーチパネルを使ったアンケートであるため、全国の会計事務所の実態を代表する数字かどうかは、公表資料の範囲では確認できません(要確認)。数字は、事務所の現在地を考えるための材料として扱い、自事務所の目標値としては使わない運用が考えられます。
ツールと用途の数字
ツールの利用率は、ChatGPTが64%、Geminiが41%、Copilotが36%です。用途は複数回答で、リサーチと資料作成が55%、文字起こしと議事録が49%、データ入力と仕訳が42%と示されています(出典:PR TIMES レックスアドバイザーズ 会計事務所の生成AI活用に関する実態調査)。
業務への組み込みについては、定常的にAIを活用している回答が8割以上、教育研修を実施している回答が70%以上とされています。同じ調査の中で、リスク対策としてルールやポリシーを策定している回答は83%、リスク研修の実施は43%、マニュアル整備は36%、ツールの制限は33%です(出典:PR TIMES レックスアドバイザーズ 会計事務所の生成AI活用に関する実態調査)。
ここで、同じ時期に公表された別の調査との違いにも触れておきます。ミロク情報サービスの会計事務所白書2026では、AI利用のルールが未整備の会計事務所は70%と示されています(出典:PR TIMES 会計事務所白書2026)。ルールを策定している83%と、未整備の70%は、一見すると逆の方向を向いています。調査の対象、質問の文言、選択肢の定義が異なるため、数字を単純に比べることはできません(要確認)。両方の調査で、ルールの整備が論点になっていることは読み取れますが、実態の水準は事務所ごとに確かめる必要があります。
顧客サービスと報酬に関する数字
報酬設計に直結するのは、顧客サービスに関する数字です。有償のAIサービスを提供している回答は40%、サービスの中でAIの提案を行っている回答は55%でした(出典:PR TIMES レックスアドバイザーズ 会計事務所の生成AI活用に関する実態調査)。
AI活用による影響として、収入または労働時間が改善した回答は67%、収入が増え、かつ残業が減った回答は23%です。採用については、採用を減らした回答が約50%、採用要件が変わった回答が30%と示されています(出典:PR TIMES レックスアドバイザーズ 会計事務所の生成AI活用に関する実態調査)。
これらの数字から読めるのは、AIが事務所の中の効率化にとどまらず、顧客に提供するサービスや、採用の考え方にまで影響し始めているということです。ただし、収入と労働時間が、どの程度、どの期間で改善したのかは、公表資料の範囲では確認できません(要確認)。報酬を見直す際は、数字の大きさよりも、自事務所でどの業務の時間が変わったかを、実測で確かめる運用が考えられます。
報酬設計を考える7つの判断軸
以下は、税理士と職員を合わせて数名から十数名ほどの事務所が、顧問報酬とAI活用の関係を整理する場面を想定した運用例です。報酬の水準の妥当性や、特定の報酬体系の評価は行いません。どの軸を採るかは、各事務所の判断になります。
1つ目の判断軸は、作業時間の実測です。記帳の確認、議事録の作成、資料の下書きなど、AIが関わる業務について、導入前後の作業時間を数件分記録します。調査の数字ではなく、自事務所の数字が、報酬を考える際の土台になります。
2つ目は、時間で測る業務と、判断で測る業務の区分です。AIによって作業時間が減る業務と、有資格者の判断そのものが価値になる業務は、報酬の考え方が異なる場合があります。作業の量に連動する部分と、判断に対する部分を、顧問報酬の中でどう位置付けるかを整理します。
3つ目は、効率化の成果を、誰に帰属させるかです。作業時間が減った分を、事務所の利益とするのか、顧問先への還元とするのか、新しいサービスへの投資に回すのか、という整理です。これは経営上の判断であり、一律の答えはありません。
4つ目は、有償AIサービスの切り出しです。調査では、有償のAIサービスを提供している回答が40%でした(出典:PR TIMES レックスアドバイザーズ 会計事務所の生成AI活用に関する実態調査)。顧問契約に含める形、オプションとして切り出す形、別のサービスとして設計する形など、提供の形が考えられます。
5つ目は、顧問先への説明です。AIを補助に使うこと、入力する情報の範囲、最終の確認は有資格者が行うことを、報酬の説明と一緒に伝える運用があります。報酬の根拠が不透明だと、顧問先の不信につながるおそれがあります。
6つ目は、採用と育成との関係です。調査では、採用を減らした回答が約50%、採用要件が変わった回答が30%でした(出典:PR TIMES レックスアドバイザーズ 会計事務所の生成AI活用に関する実態調査)。作業の補助が減る一方で、出力を確認できる人材や、顧問先に説明できる人材の重みが増す場合があります。育成の設計は、報酬とあわせて考える論点です。
7つ目は、見直しの周期です。AIのサービスは変化が早く、作業時間も変わります。報酬の見直しの時期を、年に1回など、あらかじめ決めておく運用が考えられます。
実装の手順とプロンプト例
報酬の整理を、運用例として示します。まず、事務所の業務を一覧にし、AIが関わっている業務に印を付けます。次に、印を付けた業務について、導入前後の作業時間を測り、作業ごとの差を出します。さらに、差が出た業務を、顧問報酬に含まれる業務と、別の対価が考えられる業務に分けて整理します。最後に、整理した内容を、有資格者が確認して、顧問先への説明の案を作ります。
整理を補助する場面で、生成AIに渡すプロンプトの例を2本示します。どちらも架空の設定で、実在の顧問先の情報は含みません。
あなたは会計事務所の業務整理の補助です。
架空の事務所の業務一覧を、次の3つに分類する案を作ってください。
- 作業の量に連動する業務
- 有資格者の判断が中心の業務
- どちらとも言えない業務(理由を添えてください)
業務の例: 月次の仕訳の確認、決算書の説明、議事録の作成、資料の下書き、相談対応
最後に、事務所が自分で確認すべき観点を列挙してください。断定的な表現は避けてください。
あなたは会計事務所の顧問先向け案内文の下書きを補助します。
架空の顧問先に向けた、AIを補助に使っていることの説明文の案を作ってください。
- AIは下書きや整理の補助に使い、最終の確認は有資格者が行う旨を入れてください
- 入力する情報の範囲について、事務所の方針を差し込む箇所を【】で示してください
- 報酬の金額や具体的な数字は書かないでください
守秘義務・規程上の論点
AIを使った有償サービスを提供する場合、顧問先の情報の取り扱いが、サービスの前提になります。税理士法第38条は、税理士は、正当な理由がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、又は窃用してはならないと定め、税理士でなくなった後も同様としています。公認会計士法第27条も、公認会計士は、正当な理由がなく、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならないと定めています。これらの条文を、個別のAIサービスの設計にどう当てはめるかは、契約と運用によって異なります。本記事では判断せず、個別の事案は有資格者の判断に委ねます。
個人情報の面では、個人情報保護法第27条が、個人情報取扱事業者が、あらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはならないと定めています(例外が列挙されています)。顧問先のデータをAIサービスに入力する場合の整理は、個人情報保護委員会の公表資料などで個別に確認する論点です(要確認)。
規程に落とす際の確認項目としては、有償サービスで使うツールの、入力データの保管と学習への利用の扱い、顧問先からの同意の取り方、事故が起きた際の報告の経路があります。報酬と規程は、別の議題に見えますが、有償のAIサービスを提供する事務所では、一体で設計する必要が出てきます。規程の作り方は、士業事務所のAI利用規程テンプレートや、事務所のAIガイドラインの作り方で扱っています。
失敗例と回避策
報酬設計とAI活用の関係で起こりがちな失敗を、3つ挙げます。いずれも一般的なシナリオで、特定の事務所の事例ではありません。
1つ目は、作業時間が減ったことだけを理由に、報酬を機械的に下げてしまうケースです。有資格者の判断が価値の中心である業務まで、時間で測ってしまうと、事務所の経営に影響が出るおそれがあります。回避策は、時間で測る業務と、判断で測る業務を、先に区分することです。
2つ目は、有償のAIサービスを、顧問先への説明なしに始めるケースです。入力する情報の範囲や、最終の確認の主体が不明確だと、顧問先の不信につながるおそれがあります。回避策は、サービスの内容と、データの扱いを、書面で説明することです。
3つ目は、他の事務所の数字を目標にしてしまうケースです。調査で、収入または労働時間が改善した回答は67%でしたが、その程度や期間は公表されていません(出典:PR TIMES レックスアドバイザーズ 会計事務所の生成AI活用に関する実態調査)。回避策は、自事務所の実測で目標を決めることです。
費用・工数・体制
報酬の整理には、ライセンス費用はかかりません。工数としては、業務の一覧作成、作業時間の実測、顧問先への説明資料の作成が発生します。作業時間の実測は、数週間から数か月ほど、継続して記録する設計が考えられます。具体的な工数は、事務所の規模と業務の内容によって異なるため、本記事では数字を示しません(要確認)。
体制としては、報酬の見直しの責任者を、税理士または公認会計士の中から置きます。作業時間の記録は、職員の協力が欠かせないため、目的を共有し、記録の負担を小さくする工夫が論点になります。調査では、教育研修を実施している回答が70%以上とされており(出典:PR TIMES レックスアドバイザーズ 会計事務所の生成AI活用に関する実態調査)、研修の機会に、記録の目的を伝える方法もあります。
今後の展望と独自考察
調査の数字から読めるのは、AI活用が、事務所内の効率化から、顧客サービスと採用の見直しへ広がり始めている姿です。論点になるのは、次の3点です。
1つ目は、効率化の成果を、報酬にどう反映するかです。作業時間が減った分を、価格に転嫁するのか、サービスの拡張に使うのかで、事務所の戦略が分かれます。2つ目は、有償のAIサービスを、独立した商品として確立できるかです。調査では40%が提供しており(出典:PR TIMES レックスアドバイザーズ 会計事務所の生成AI活用に関する実態調査)、提供の形が今後広がる可能性があります。3つ目は、有資格者の役割を、どう言語化して顧問先に伝えるかです。AIの出力を確認し、判断する役割が、報酬の根拠として説明できるかが問われます。
AIツールの選び方は、会計事務所向けAIエージェントの比較で整理しています。報酬の整理と並行して、ツールの選定を進める際の参考になります。
よくある質問
743名という標本は、全国の会計事務所の実態を表していますか。
リサーチパネルを使ったアンケートであり、全国を代表する数字かどうかは、公表資料の範囲では確認できません(要確認)。傾向を知る材料として扱う運用があります。
有償のAIサービスとは、どのようなものですか。
プレスリリースの範囲では、サービスの具体的な内容は確認できません(要確認)。自事務所で提供する場合は、サービスの範囲と、データの扱いを、書面で整理する運用があります。
作業時間が減ったら、顧問報酬は見直すものですか。
事務所の経営判断になります。時間で測る業務と、判断で測る業務を区分し、顧問先への説明とあわせて整理する運用があります。
顧問先の資料をAIに入力する際の守秘義務はどうなりますか。
税理士法第38条や公認会計士法第27条が、業務上知り得た秘密に関する義務を定めています。個別の入力との関係は、契約と設計によるため、本記事では判断していません。
まず何から始めればよいですか。
AIが関わる業務の作業時間を、数件分記録するところから始める運用があります。自事務所の数字が、報酬を考える際の土台になります。
他の調査との数字の違いは、どう読めばよいですか。
調査の対象、質問の文言、選択肢の定義が異なるため、単純には比べられません(要確認)。それぞれの調査の概要を確認したうえで、傾向として読む運用があります。
参考文献
- PR TIMES レックスアドバイザーズ 会計事務所の生成AI活用に関する実態調査
- PR TIMES ミロク情報サービス 会計事務所白書2026
- e-Gov法令検索 税理士法
- e-Gov法令検索 公認会計士法
- e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律
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本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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