Projectsとは、資料と指示をまとめて置き、同じ文脈で会話を続ける機能のことです。
同じ説明を毎回やり直している。生成AIを使い始めた事務所の担当者が、最初にぶつかる非効率がこれです。案件の前提、事務所の文体、注意すべき点。会話を開くたびに書き直していれば、時間の節約になりません。この記事では、Claudeのプロジェクト機能を士業事務所の業務にどう当てるか、案件単位の設計と守秘義務の扱いを整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。生成AIの利用については個人情報保護委員会の注意喚起が判断の出発点になります。
毎回説明し直す非効率をどう解くか
問題の構造から整理します。生成AIとのやり取りは、原則として会話ごとに独立しています。前の会話で伝えた前提は、新しい会話には引き継がれません。
士業の業務では、この性質が効率を落とします。事務所の文体、使ってはいけない表現、確認すべき観点、案件の背景。毎回同じことを書き直すと、指示文が長くなり、担当者の負担が増えます。結果として、指示を省略した状態で使うようになり、出力の水準が下がります。
解き方は2つあります。1つは、指示文をテキストファイルに保存しておき、毎回貼り付ける方法です。単純ですが確実で、サービスを乗り換えても使えます。
もう1つが、資料と指示をまとめて置ける機能を使う方法です。Anthropicが提供するClaudeには、資料と指示を一つの場所にまとめ、その文脈のもとで会話を続けられる仕組みがあります。機能の詳細はAnthropicの公式ドキュメントで確認できます。
事務所にとっての利点は、担当者ごとのばらつきが減る点にあります。事務所として置いた指示が全員に効くため、誰が使っても同じ前提のもとで動きます。指示文を各自が管理する形では、この統一が難しくなります。
一方で、注意点もあります。資料を置くということは、その資料をサービス側に預けるということです。何を置くかの判断は、通常の入力と同じ基準で行います。汎用サービスの選び方はChatGPT・Claude・Gemini比較で扱っています。
士業事務所での使い分け 3つの単位
まとめる単位をどう切るかで、使い勝手が変わります。3つの切り方があります。
第1の単位は、業務の型で切る方法です。要約用、下書き用、点検用というように、作業の種類ごとに分けます。置く資料は事務所の汎用文例と作業の手順書で、顧問先の情報は含めません。最も扱いが軽く、最初に試す形として向いています。
第2の単位は、業務分野で切る方法です。相続、労務、登記、申請といった分野ごとに分けます。分野に固有の様式や、よく参照する行政の資料を置きます。担当者が分野で分かれている事務所では、この切り方が実務に合います。
第3の単位は、案件で切る方法です。個別の案件ごとに、その案件の資料と経緯を置きます。文脈が最も濃くなるため出力の精度は上がりますが、顧問先の情報をそのまま置くことになるため、扱いが最も重くなります。
順番としては、第1から始めます。顧問先の情報を含まないため、機能の使い勝手を情報管理の議論と切り離して確認できます。第2は事務所の判断で、第3は入力ルールを整えてから検討する、という段取りが現実的です。
第3の案件単位を採る場合でも、置く資料を匿名化するかどうかで扱いが変わります。顧問先名をA社、代表者を甲、取引先を乙に置き換えたうえで置く運用にしている事務所があります。手間は増えますが、万一の場合の影響を抑えられます。
単位を決めたら、置く資料と置かない資料の線引きを書き出します。この線引きが曖昧だと、担当者が判断を迫られ、結局は使われなくなります。
もう一つ、単位を細かくしすぎない工夫も要ります。案件ごとに作っていくと、数が増えて管理できなくなります。どこにどの資料を置いたかが分からなくなり、探す時間が増えれば本末転倒です。案件単位を採る場合でも、対象を規模の大きい案件や長期にわたる案件に絞る事務所が多く見られます。短期で終わる案件は、業務の型で切った場所で処理するほうが手間が少なくなります。
切り方を決めるときの目安として、その場所を何回使うかを考えると判断がつきます。数回しか使わないなら、専用に作るより既存の場所で足ります。何十回も使うなら、専用に作って指示を作り込む価値があります。この基準を所内で共有しておくと、担当者が迷わずに済みます。
事務所として置く指示の設計
まとめた場所に置く指示は、毎回の会話に効きます。ここに何を書くかが、出力の水準を決めます。
書く内容は4つの層に分けると整理できます。第1層は役割で、士業事務所の事務作業を補助する立場であることを書きます。第2層は禁止事項で、法的な評価や助言を書かないこと、書かれていない事実を補わないことを明示します。第3層は文体で、ですます調、一文の長さ、敬語の水準を指定します。第4層は出力の作法で、判断が要る箇所に印を付けさせること、確認できない事項を明示させることを書きます。
具体的な指示の例を挙げます。事務所として置く共通の指示です。
あなたは士業事務所の事務作業を補助する役です。以下の方針に従って回答してください。
役割の範囲:
- 資料の整理、要点の抽出、文案の下書き、記載漏れの指摘までを行う
- 法的な評価、見通しの提示、助言は行わない
- 判断が要る箇所は「(要確認)」と記し、内容は書かない
事実の扱い:
- 与えられた資料に書かれていない事実を補わない
- 条番号・様式番号・日付・金額は、資料に記載があるものだけを使う
- 記載が見当たらない事項は「資料に記載なし」と明記する
文体:
- ですます調で統一する
- 一文は60字以内を目安にする
- 箇条書きを使い、装飾記号は使わない
固有名詞:
- A社、甲、乙 などの記号表記はそのまま維持し、実名に戻さない
この指示を置いたうえで、個々の会話では作業の内容だけを書きます。毎回の指示文が短くなり、担当者の負担が下がります。
業務の型ごとに追加する指示の例です。点検用の場所に置く想定です。
このプロジェクトでは、作成済みの文書を点検します。
依頼があった場合、次の観点だけを確認し、指摘のみを出力してください。
観点:
- 数値・日付・金額が文書内で食い違っている箇所
- 参照先(条番号・別紙・様式番号)が文書中に存在しない箇所
- 固有名詞の表記がゆれている箇所
- 主語が抜けていて誰の行為か読み取れない箇所
出力形式:
- 該当箇所の引用(20字以内)/指摘の理由 を1行ずつ
- 指摘がない場合は「指摘なし」とだけ出力する
修正案は書かないこと。内容の妥当性については判断しないこと。
指示は作って終わりではなく、うまくいかなかった場面を材料に更新します。月に一度、所内で持ち寄って直す運用にしておくと、事務所の型として育っていきます。
指示を書くときの注意として、条件を足しすぎないことが挙げられます。禁止事項を並べるほど守られるように思えますが、条件同士が矛盾すると出力が不安定になります。4層の構成を守り、それぞれを数行に収めるほうが、結果として安定します。足りない部分が見つかったら、その都度1行だけ足す。この回し方が現実的です。
もう一つ、事務所として置く指示と、個々の会話で書く指示の役割分担を決めておきます。置く指示には、どの作業にも共通することだけを書きます。個々の作業に固有の条件は、その会話で書きます。この分担が曖昧だと、置く指示がどんどん長くなり、特定の作業にしか合わない内容が混ざっていきます。
守秘義務と規程 資料を置く前に決めること
まとめた場所に資料を置く行為は、通常の入力と同じ性質を持ちます。判断の基準も同じです。
第1に、契約プランを確認します。読む観点は、入力が学習に使われるか、保持期間はどれくらいか、処理はどの地域で行われるか、管理者が利用状況を把握できるかの4点です。Anthropicはプライバシーポリシーと商用利用規約を公開しています。事務所として使うなら法人向けの契約に寄せる、という選び方が主流になりつつあります。
第2に、置く資料の区分を決めます。公表資料や事務所の汎用文例はそのまま置いてよいもの。顧問先の事案に関する資料は、識別できる情報を落としてから置くもの。マイナンバー、口座番号、健康情報などは置かないもの。この3段階に分けます。
第3に、置いた資料をいつ消すかを決めます。案件単位でまとめる場合、案件が終わった後も資料が残り続けます。案件終了時に削除する手順を決めておかないと、事務所として把握できない蓄積が生まれます。
第4に、誰が作れるかを決めます。担当者が自由にまとめた場所を作れる状態にすると、事務所として把握できないものが増えます。作成の権限を絞るか、作った場合に記録を残す運用にします。
守秘義務の根拠は、それぞれの資格法に置かれています。弁護士は弁護士法第23条、税理士は税理士法第38条、公認会計士は公認会計士法第27条、司法書士は司法書士法第24条、行政書士は行政書士法第12条、社会保険労務士は社会保険労務士法第21条、弁理士は弁理士法第30条です。個人情報の側では、安全管理措置が個人情報の保護に関する法律の個人情報保護法第23条に置かれています。
これらの条文は、この機能の利用を直接扱ったものではありません。事務所として説明できる運用を持っているかが分かれ目になります。規程への落とし方は士業事務所のAI利用規程テンプレートで扱っています。
使い始めた事務所でよくある失敗
1つ目は、置く資料を増やしすぎた失敗です。関係の薄い資料まで置くと、回答が的を外します。その場所で行う作業に直接使う資料だけに絞ります。
2つ目は、指示を書き込みすぎた失敗です。条件が矛盾して出力が不安定になります。役割、禁止事項、文体、出力の作法の4層に整理し、それぞれを簡潔に書きます。
3つ目は、案件終了後も資料が残り続けた失敗です。削除の手順を決めていないと、事務所として把握できない蓄積が生まれます。案件の終了処理に、資料の削除を組み込みます。
4つ目は、担当者が自由に作れる状態にした失敗です。事務所として把握できないものが増え、退職時の停止も追いつきません。作成の権限を絞るか、記録を残す運用にします。
5つ目は、匿名化を飛ばして案件の資料をそのまま置いた失敗です。手間を惜しんだ結果ですが、案件の全体が識別可能な形で外部に置かれることになります。
6つ目は、置いた指示があることを忘れて、会話で矛盾する指示を出した失敗です。出力が不安定になり、原因が分からなくなります。指示を更新したら、所内に知らせる運用にしておきます。
7つ目は、便利さに引きずられて確認工程が緩んだ失敗です。文脈が効いているぶん出力の質が上がるため、そのまま使えると感じる場面が増えます。ですが、出力の正しさが保証されるわけではありません。数値、固有名詞、参照先の3点を確認する工程は、置く指示の有無にかかわらず残します。
8つ目は、担当者が変わったときに引き継がれなかった失敗です。置いた資料と指示がどういう意図で作られたかが分からないと、後任は使い方を判断できません。作った意図を一行添えておくだけで、引き継ぎの負担が変わります。
費用と体制
費用は、契約プランのライセンス料に含まれる形が一般的です。まとめる機能そのものに別料金がかかるかどうかは、プランによって変わるため、料金ページで確認します。
工数は、初期の設計に集中します。参考値として、まとめる単位の決定と置く資料の線引きに1日、共通の指示の作成と試行にさらに数日を見ておくと、無理のない立ち上げになります。運用が始まってからは、月次の指示の更新が中心になります。
体制では、共通の指示を持つ人を決めます。事務所として置く指示は全員に効くため、誰でも書き換えられる状態にすると出力が安定しません。更新の権限を持つ人を決め、変更したら所内に知らせます。
あわせて、置いた場所の一覧を管理します。誰が、どの単位で、何のために作ったか。一覧がないと、使われていない場所が残り続け、そこに置かれた資料も残ります。棚卸しは半年に一度でも足りますが、行う日を決めておかないと実施されません。
導入の効果を測る方法も決めておきます。作業にかかる時間でも、指示文を書く手間の減り方でも、担当者の実感でも構いません。基準がないと、便利になった気がするという感想だけが残り、続けるか広げるかの判断ができません。
導入の順番としては、業務の型で切る形から始め、顧問先の情報を含まない状態で使い勝手を確認します。そのうえで、業務分野や案件の単位に広げるかどうかを判断します。導入全体の進め方は士業事務所のAI導入の進め方にまとめています。
これから変わること
資料と指示をまとめる仕組みは、各社が強化を進めている領域です。事務所内のファイル置き場と直接つながる形が広がれば、資料を手で置く作業そのものが減ります。
一方で、つながるほど、何がどこまで参照されているかが見えにくくなります。事務所としては、参照範囲を把握できるかどうかが、選定の条件として重みを増します。
制度面では、個人情報保護法の見直しの議論が続いています。委員会の公表資料は個人情報保護委員会の報道発表で追えます。規定が変われば、置いてよい資料の区分も見直しの対象になります。
事務所の蓄積を活かす方向としては、社内文書の検索と組み合わせる形も出てきます。この設計は士業事務所のRAG構築で扱っています。
よくある質問
通常の会話と何が違いますか
資料と指示をまとめて置けるため、毎回同じ説明を書き直す必要がなくなります。事務所として置いた指示が全員に効くので、担当者ごとのばらつきも減ります。会話ごとに前提が引き継がれない性質を、置いた文脈で補う仕組みです。
顧問先の資料を置いてよいですか
通常の入力と同じ基準で判断します。契約プランのデータの取扱いを確認し、識別できる情報を落としてから置く運用が多く見られます。個別の事案で置いてよいかどうかは、扱う資料の性質によって整理が変わるため、有資格者の判断が要る領域です。
どの単位でまとめるのがよいですか
業務の型で切る形から始める例が多く見られます。要約用、下書き用、点検用というように作業の種類で分ければ、顧問先の情報を含まないため使い勝手の確認がしやすくなります。分野や案件の単位は、入力ルールを整えてから検討します。
置いた資料はいつ消しますか
案件単位でまとめる場合、案件の終了処理に資料の削除を組み込んでおきます。手順を決めていないと、事務所として把握できない蓄積が残ります。業務の型で切っている場合は、使わなくなった資料を定期的に見直します。
共通の指示には何を書きますか
役割、禁止事項、文体、出力の作法の4層に整理します。法的な評価や助言を書かせないこと、書かれていない事実を補わせないことは、士業事務所では外せない項目になります。書き込みすぎると条件が矛盾するため、簡潔に書きます。
担当者が自由に作れる状態にしてよいですか
事務所として把握できないものが増えるため、作成の権限を絞るか、作った場合に記録を残す運用にする例が多く見られます。退職時の停止まで含めて考えると、把握できている状態を保つほうが管理が楽になります。
参考文献
- Anthropic 公式サイト
- Anthropic プライバシーポリシー
- Anthropic 商用利用規約
- 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等
- e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律
- e-Gov法令検索 弁理士法
- 情報処理推進機構 情報セキュリティ関連の各種ガイドライン
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/
本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。
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