OpenAIは2026年8月、Mac操作を記録する新機能Computer Historyを公表しました。
OpenAIが、Macでの操作を記録して検索可能なタイムラインに変える新機能「Computer History」を公表しました。クリック、キー入力、キーボードショートカット、アプリの切り替えを記録し、その要約をローカルのMarkdownファイルとして保存します。顧客の氏名や取引内容をキーボードから打ち込む機会が多い士業事務所にとって、この機能は「便利さ」と「守秘義務」が正面からぶつかる論点を含みます。本記事は公表資料の範囲で事実関係を整理したもので、法的な評価や個別事案への当てはめは行いません。
Computer Historyは何を記録して何を記録しないのか
Computer Historyが記録するのは画面そのものではなく、操作イベントです。OpenAIの公式ドキュメントによれば、macOSのアクセシビリティ機能を通じてクリック、キー入力、ショートカット、アプリ切り替えを取得します。一方でスクリーンショット、画面録画、マイク入力、システム音声は取得せず、プライベートブラウジング中の操作も対象外とされています。
この設計は、以前の研究プレビュー「Chronicle」がスクリーンショットに依存していたのとは対照的です。The Decoderは「Computer Historyは画面を撮るのではなく操作イベントを記録するという点で、まったく異なる動き方をする」と説明しています。
記録されたイベントは定期的にテキスト要約へ変換され、ローカルのメモリーファイルとして保存されます。タイムライン画面では要約が日付と時刻でまとめられ、どのアプリが関係したかも表示されます。繰り返し発生する作業パターンをChatGPTが検知すると、タイムライン上で「スキル」や自動化が提案され、Codexにその作業を再利用できるテンプレートとして組み立てさせることもできます。直近で編集した書類を探す、朝会用の作業サマリを作る、といった使い方が想定用途として挙げられています。
利用にあたっては、メモリー機能を有効にしておく必要があります。ビジネス版とエンタープライズ版のワークスペースでは、まず管理者が機能そのものを有効化し、そのうえで利用者ひとりひとりが個別に同意しないと動きません。記録の対象にするアプリとWebサイトは、許可リストと除外リストで利用者が選べます。記録の一時停止と再開はmacOSのメニューバーからいつでも操作できます。なお現時点では欧州経済領域、スイス、イギリスでは提供されていません。日本はこの除外地域に含まれていないため、国内の事務所は「使える側」に立っていることになります。
士業事務所にとっての3つの論点
第一の論点は、キー入力の内容が要約として残ることです。士業事務所の実務では、依頼者の氏名、法人名、取引金額、家族関係、病歴、係争の見通しといった情報を、書面作成ソフトや会計ソフトに直接打ち込みます。Computer Historyはその打鍵を記録対象とするため、要約ファイルに依頼者を特定しうる情報が入り込む可能性があります。弁護士、税理士、社会保険労務士をはじめとする各職種は職務上の守秘義務を負っており、記録の範囲を事務所として把握しないまま導入すると、その前提が崩れます。生成AIへの顧客情報の入力については顧客情報を生成AIに入力するリスクでも整理していますが、今回はキーボード操作そのものが対象になる点が新しい要素です。
第二の論点は、保存されるファイルが暗号化されていないことです。The Decoderの報道によれば、一時的なイベントファイルはChatGPTアプリのアプリグループ内に置かれ48時間後に削除される一方、そこから生成されたメモリーファイルは利用者が手動で削除するまで平文のMarkdownとしてローカルに残ります。これらのファイルは暗号化されていないため、同じmacOSユーザーアカウントで動作するプログラムであれば読み取れる状態にあります。事務所の端末を複数名で使い回している場合、貸与端末を退職者から回収する場合、端末を持ち出して外出先で使う場合など、事務所ごとに影響の出方が変わります。
第三の論点は、学習利用とプロンプトインジェクションです。OpenAIはメモリーファイルをAIの学習には使わないとしていますが、そのメモリーが後のチャットで文脈として登場した場合、そのチャットの内容はデータ管理設定によっては学習データになりうるとされています。学習させない設定の扱いはChatGPTを学習させない設定で整理したとおりで、Computer Historyを検討する事務所は、この設定と合わせて確認する段階にあります。加えてOpenAI自身が、アプリやWebサイトの内容を取り込む性質上プロンプトインジェクションのリスクが高まると公式ドキュメントで注意を促しています。Webページに埋め込まれた悪意ある指示が、ChatGPTやCodexに意図しない動作をさせる可能性があるという指摘です。
事務所が今の段階で確認していること
OpenAIは、会話に参加する全員の明示的な同意がない限りコミュニケーションアプリでの利用を避けるよう促し、健康、財務、個人に関わる機微な情報を扱うアプリについては記録の一時停止か除外を推奨しています。この推奨は、依頼者とのメールやチャットを日常的に扱う士業事務所の業務形態と正面から重なります。
実際の事務所では、次のような確認を進める動きが見られます。ひとつは、ビジネス版とエンタープライズ版の管理者設定で機能を有効化するかどうかを、事務所としてまず決める段取りです。管理者が有効化しなければ利用者は使えないため、判断の順番を組織側に置けます。次に、有効化する場合の除外アプリと除外サイトの一覧を、依頼者情報を扱う業務システムから先に洗い出す作業です。さらに、メモリーファイルの保存場所と削除手順を確認し、端末の貸与や返却の運用に組み込めるかを点検する動きもあります。
事務所のAI利用ルールをまだ文書化していない場合は、個別機能の可否を都度判断するより、判断の枠組みを先に作るほうが運用しやすくなります。この点は事務所のAI利用ガイドラインの作り方で扱っています。
今後は、日本国内での提供範囲や管理者向けの制御項目がどこまで細かくなるかが注目点になります。欧州経済領域とイギリスで提供が見送られている理由について、公表資料からは詳細を確認できません。
まとめ
OpenAIのComputer Historyは、Macのクリックとキー入力を記録して検索可能なタイムラインに変える機能です。記録はローカルに平文のMarkdownとして残り、管理者と利用者の二段階の同意が必要とされています。士業事務所にとっては、依頼者情報の打鍵が記録対象になりうる点、ファイルが暗号化されない点、学習設定とプロンプトインジェクションの扱いという3つが確認どころになります。
参考文献
- OpenAI Computer History ドキュメント
- OpenAI Memories ドキュメント
- The Decoder OpenAI’s Computer History turns your clicks and keystrokes into a searchable ChatGPT memory timeline
- The Decoder OpenAI’s Codex now watches your screen to remember what you’re working on
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/
引用元: The Decoder
本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。
記載内容に誤りを見つけられた場合は、お問い合わせよりご指摘ください。確認のうえ速やかに訂正し、訂正履歴を記事内に残します。編集方針の詳細は運営者情報をご覧ください。