リーガルテックの原則とは、法務系AIサービスの提供者が共有する指針のことです。
導入を検討しているAIツールの提供会社は、どんな指針に沿ってサービスを作っているのか。この問いに、事務所として答えを持っているでしょうか。一般社団法人AIリーガルテック協会は、リーガルテックとAIに関する原則を公表しており、コンプライアンス、法律有資格者の関与、データ保護、サービス理解増進の4つの原則を掲げています(出典:AIリーガルテック協会 リーガルテックとAIに関する原則)。本記事では、この4原則を、士業事務所がAIツールを選ぶときの質問に変換し、7つの確認観点に整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、協会の原則は協会の公表ページで確認しています。
4原則の中身 公表ページで確認できる範囲
最初に、協会の公表ページに書かれている内容を整理します。協会のページによると、この原則は、協会の会員企業が提供するリーガルテックサービスの提供者を対象とし、会員が共有すべき指針として定められています。技術やサービス、社会の発展に応じて、適時に見直すともされています(出典:AIリーガルテック協会 リーガルテックとAIに関する原則)。ページには、策定の日付と最終更新の日付も表示されていますが、本記事では日付の細部には立ち入らず、原則の内容に絞ります(要確認)。
4つの原則は、次のように整理されています(出典:AIリーガルテック協会 リーガルテックとAIに関する原則)。
1つ目は、コンプライアンス原則です。弁護士法第72条をはじめとするあらゆる法令の遵守と、関連する重要なソフトローへの対応が挙げられています。2つ目は、法律有資格者の関与に関する原則で、弁護士等の法律有資格者を適切に関与させることで、信頼性を確保するという考え方です。3つ目は、データ保護原則で、関連する法令や契約に基づいて、データを適正に取り扱うことが示されています。4つ目は、サービス理解増進原則で、利用者がサービスの利点と制約を含む特性を踏まえて、適切に利用できるよう、理解を深める機会を提供するという内容です。
協会の名称変更の経緯も確認しておきます。協会は、2025年1月10日に、AI・契約レビューテクノロジー協会から、AIリーガルテック協会へ名称を変更したと発表しています。対象を、契約レビューにとどまらず、リーガルテック全体へ広げたと説明されています(出典:PR TIMES 協会の名称変更と原則の公表)。この発表では、法律専門家が不足する一方で需要が高まるなか、質の低いサービスが生まれる余地があるという問題意識も示されています。
ここで押さえておきたいのは、この原則が、協会の会員企業の自主的な指針だという点です。法令でも、行政のガイドラインでもありません。原則に沿っていることは、ツール選定の1つの材料になりますが、それだけで安全だと判断できる性質のものではありません。原則を材料にして、事務所自身が確認する項目を決める、という使い方が現実的です。
4原則を提供会社への問いに変換する
4原則を、ツールの提供会社への質問に変えると、選定の場で使いやすくなります。
コンプライアンス原則からは、提供会社が、弁護士法第72条などの法令との関係をどう整理しているかを聞く質問が作れます。弁護士法第72条は、弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で法律事件に関して鑑定、代理、仲裁、和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができないと定めています(ただし書で、別段の定めがある場合を除いています)。サービスの機能が、この条文との関係でどう整理されているかは、提供会社の説明と、必要に応じて有資格者の見解を確認する論点です。72条とAIの関係は、弁護士法72条のAI活用明確化 答申と新ガイドラインで動いた5論点でも整理しています。
法律有資格者の関与の原則からは、サービスの開発や運用のどの段階で、どの資格を持つ人が関わっているかを聞く質問が作れます。開発時だけの関与なのか、運用中の更新にも関わるのか、利用者が相談できる窓口があるのかが、確認の対象です。
データ保護の原則からは、入力データの保管、学習への利用、削除、第三者への提供について聞く質問が作れます。サービス理解増進の原則からは、サービスの限界、誤りが出る可能性、人が確認すべき場面を、どこまで利用者に示しているかを聞く質問が作れます。
事務所が使う7つの確認観点
ここからは、士業事務所がリーガルテックやAIツールを選ぶ場面を想定した運用例です。弁護士、司法書士、行政書士、弁理士の事務所を主な想定とし、数名から十数名規模の事務所で、選定の担当者が提供会社に質問する形を例にします。
確認観点1は、提供会社が原則に沿っていると表明しているかです。協会の会員であるか、原則を自社の資料に掲げているかを、提供会社の公開資料で確認します。会員であることは、原則の共有を示す材料ですが、個別のサービスの品質を保証するものではありません。
確認観点2は、法令との関係の整理です。サービスの機能の一覧を見て、法律事務に近い機能と、事務作業の補助にとどまる機能を分けて聞きます。提供会社の回答は、文書で受け取ります。
確認観点3は、有資格者の関与の実態です。開発、運用、問い合わせ対応のそれぞれで、どの資格の人がどのように関わるかを聞きます。
確認観点4は、データの取扱いです。入力データが学習に使われるか、保管場所はどこか、契約終了時に削除されるかを、約款と公式の記載で確認します。法人向けプランの比較の観点は、生成AIの法人プランと学習利用の比較 公式記載を読む5つの観点で整理しています。
確認観点5は、サービスの限界の示し方です。誤りが出る可能性や、人が確認すべき場面が、画面や資料に明示されているかを見ます。事務所が顧問先に提供する場合は、この表示を、顧問先への説明にも使えるかを確認します。
確認観点6は、事務所内の確認工程との接続です。ツールの出力を、誰が、どの手順で確認し、どこに記録するかを、事務所の手順書に落とせるかを見ます。
確認観点7は、提供会社の見直しの仕組みです。原則が適時に見直されるように、サービスの仕様や約款も変わります。変更の通知方法と、事務所が再確認する頻度を決めておきます。
次に、確認観点2と確認観点4で使えるプロンプトの例を2本示します。どちらも架空の設定で、実在の提供会社や顧客の情報は入力しません。
あなたは士業事務所のツール選定の補助です。
架空のAI契約書レビューサービス「Zサービス」の機能一覧(下に貼り付け)を読み、次の2つに分けて整理してください。
- 事務作業の補助にとどまると提供会社が説明している機能
- 法律事務に近い可能性があり、有資格者の見解の確認が必要な機能の候補
結論は断定せず、「確認が必要」の理由を一文ずつ添えてください。法令の条文の番号や内容は、貼り付けた文章にないものを補わないでください。
【機能一覧】
(ここに提供会社の公開資料の文章)
あなたは士業事務所のデータ取扱いの確認表の作成補助です。
架空のサービス「Zサービス」の利用規約とプライバシーポリシー(下に貼り付け)から、次の項目について、記載の有無と該当箇所の引用を表ではなく文章で整理してください。
- 入力データの学習利用
- 保管場所と保管期間
- 契約終了時の削除
- 第三者への提供・再委託
記載がない項目は「記載なし、提供会社に確認」と書いてください。推測で補わないでください。
【規約等】
(ここに公開されている規約の文章)
提供会社への確認票の作り方と、回答の読み方
7つの確認観点は、そのまま確認票にして、提供会社へ送る使い方ができます。確認票は、観点ごとに、質問、回答欄、根拠資料の欄の3つで構成します。回答欄には、提供会社の担当者が書いた文章をそのまま残し、事務所の解釈は別の欄に書き分けます。回答と解釈を混ぜると、後で提供会社の説明を読み返したときに、どこまでが相手の言葉なのかが分からなくなります。
回答の読み方には、いくつか癖があります。まず、はいかいいえで答えられる質問に、条件つきの回答が返ってくる場合です。たとえば、入力データを学習に使うかという質問に、特定のプランでは使わない、と返ってくる場合があります。この場合、事務所が契約するプランが、その条件に当たるのかを確認します。次に、一般的な説明にとどまる回答です。法令を遵守していますという回答だけでは、どの法令との関係を、どう整理しているのかが分かりません。もう一段、具体的な説明を求めるか、回答が得られない点として確認票に残します。
回答が得られない点を、どう扱うかも決めておきます。得られない項目を、そのまま空欄にして進めると、後で見落としの原因になります。確認票には、回答なし、または要確認、と明記し、導入の可否を判断する際の材料にします。重要な項目で回答が得られない場合は、導入を見送る、または限定した範囲で試す、といった選択肢があります。
確認票を作る際には、生成AIを下書きに使えます。7つの観点を入力し、提供会社の公開資料の種類に応じた質問文の候補を出力させる使い方です。ただし、質問文の最終版は、有資格者が読み、事務所が本当に知りたい点が含まれているかを確認します。生成AIが作る質問は、一般的になりやすく、事務所固有の事情が抜けることがあります。
資格ごとに、確認観点の濃淡はどう変わるか
7つの確認観点は共通の枠ですが、資格や業務によって、重みが変わります。
弁護士の事務所では、法律事務そのものにAIが近づくため、確認観点2の法令との関係の整理と、確認観点3の有資格者の関与の実態が重くなります。依頼者の秘密を扱う度合いも高く、確認観点4のデータの取扱いも、契約の細部まで読む必要が出ます。
司法書士の事務所では、登記や書類作成の補助として使う場面が多く、確認観点5のサービスの限界の示し方と、確認観点6の事務所内の確認工程との接続が重要になります。誤りが書類に残ると、手続に影響するため、人が確認する工程の設計が中心になります。
行政書士の事務所では、許認可や書類作成の支援に使う場面があり、行政書士の業務範囲と、AIサービスの機能との線引きが論点になります。書類作成の周辺には、業務の範囲に関する条文の整理もあるため、確認観点2で、機能の一覧を丁寧に分類する運用が考えられます。
弁理士の事務所では、出願前の技術情報が高い秘密性を持つため、確認観点4のデータの取扱いが、特に重い観点になります。入力した技術情報が、学習や第三者への提供に使われないかを、契約の条項で確認します。
どの資格でも、確認観点の重みづけは、事務所の取扱業務と、依頼者の層によって決まります。重みづけの結果を、確認票の冒頭に書いておくと、後日、選定の経緯を説明する際に役立ちます。
士業ごとの守秘義務と、ツールへの入力 守秘義務・規程上の論点
リーガルテックのツールは、契約書や事件の資料など、秘密性の高い情報を扱う場面が多くなります。入力する前に、士業ごとの守秘義務の根拠を整理します。
弁護士については、弁護士法第23条が、弁護士又は弁護士であった者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負うと定めています(ただし書あり)。司法書士については、司法書士法第24条が、正当な事由がある場合でなければ、業務上取り扱った事件について知ることのできた秘密を他に漏らしてはならないと定めています。行政書士については、行政書士法第12条が、正当な理由がなく、その業務上取り扱った事項について知り得た秘密を漏らしてはならないと定めています。弁理士については、弁理士法第30条が、正当な理由がなく、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならないと定めています。
これらの条文を、特定のツールへの入力にどう当てはめるかは、サービスの契約と設計によって異なります。本記事では判断せず、事務所が確認する項目を挙げます。1つ目は、ツールの提供会社が、入力データをどの範囲で扱えるかです。協会の原則のデータ保護原則は、関連法令と契約に基づく適正な取扱いを求めていますが、個別のサービスの契約内容は、事務所が読んで確認します(出典:AIリーガルテック協会 リーガルテックとAIに関する原則)。2つ目は、依頼者への説明です。ツールを使うことを、委任契約や案内の書面で説明する方法があります。3つ目は、入力する資料の範囲を、案件の種類ごとに決めておく運用です。
個人情報の面では、個人情報保護法第27条が、個人情報取扱事業者は、同条第1項に列挙された場合を除き、あらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはならないと定めています。クラウド型のサービスへの入力が、第三者提供と委託のどちらの整理になるかは、サービスの仕様と契約で変わります。個人情報保護委員会の公表資料と契約条項を確認する論点です。
事務所の規程に落とす場合の運用例としては、ツールごとの利用可否と入力できる範囲の一覧、提供会社の変更通知を受け取る担当者、利用の記録の保管場所を、規程に書く形があります。記録の設計は、事務所のAI利用ログを監査証跡にする 保管設計7項目と説明の型で扱っています。
確認票を埋めたあと 試験運用と規程への反映
確認票が埋まったら、導入の可否を判断する前に、試験運用を挟みます。試験運用では、実際の依頼者の資料ではなく、架空の資料や、公開されている文書を使います。提供会社の説明どおりに機能が動くか、誤りが出たときに画面でそれが分かるか、出力の根拠をたどれるかを、事務所の担当者が手で確かめます。確認票の回答と、試験運用の結果が食い違った点は、提供会社に再度問い合わせ、回答を文書で受け取ります。
試験運用の結果は、規程へ反映します。利用を認める業務の範囲、入力できる資料の種類、出力を確認する担当者、利用の記録の保管場所を、短い文章で規程に書きます。規程は、導入した時点の内容を記録し、提供会社の約款や仕様が変わったときに見直す前提にします。見直しの日付を、規程の末尾に残しておくと、後から内容の鮮度を判断できます。
規程の文面を作る際にも、生成AIを下書きに使えます。確認票の結果と、事務所の現行の規程を入力し、追記の候補を出力させる使い方です。この場合も、出力は候補にとどまります。規程は、事務所の責任で定める文書であり、最終の文面は有資格者が決めます。依頼者の個人情報や、案件の内容を、規程の下書きの依頼に含めないことも、運用の約束事として決めておきます。
選定で起こりがちな失敗と回避策
失敗の1つ目は、原則への賛同を、品質の保証として受け取ることです。原則は、会員の自主的な指針であり、個別のサービスの品質を示すものではありません(出典:AIリーガルテック協会 リーガルテックとAIに関する原則)。回避策は、7つの観点で、サービスごとに確認することです。
失敗の2つ目は、提供会社の説明を口頭だけで受け取ることです。後日、説明が食い違ったときに、根拠が残りません。回避策は、質問と回答を文書で残し、契約書や約款と照らして保管することです。
失敗の3つ目は、法律事務に近い機能を、事務作業の補助として使ってしまうことです。機能の名称だけで線引きができない場合があります。回避策は、機能の一覧を、有資格者が内容を見て分類する工程を置くことです。契約書レビューの機能の選定基準は、AI契約書レビューをどう選ぶか 事務所が置く7つの選定基準で整理しています。
失敗の4つ目は、導入後にサービスが変わっていることに気づかないことです。約款やデータの取扱いが改定されても、通知を見落とすと、事務所の規程と実態がずれます。回避策は、通知の宛先を、担当者個人ではなく、事務所の共有のアドレスにすることです。
費用・工数・体制
ツールの費用は、サービスと契約の形によって異なるため、本記事では金額を示しません(要確認)。選定の工数は、質問票の作成、提供会社への質問と回答の整理、試験運用、規程の改訂が中心です。質問票は、7つの観点を雛形にすると、複数のサービスを同じ物差しで比べられます。
体制としては、選定責任者を有資格者の中から決め、質問票の整理と記録を担う職員を決めます。法務AIエージェントの比較の観点は、法務AIエージェント比較 弁護士事務所が見る7つの評価軸と72条の線引きでも扱っています。
今後の展望と独自考察
協会の原則は、技術やサービスの発展に応じて見直すとされています(出典:AIリーガルテック協会 リーガルテックとAIに関する原則)。事務所の側も、一度作った質問票を固定せず、見直す運用が合っています。
論点になるのは、次の3点です。1つ目は、有資格者の関与という原則が、事務所と提供会社のどちらの責任として整理されるかです。サービスの開発に有資格者が関わっていても、個別の案件での使い方の責任は、使う事務所に残る場面があります。2つ目は、サービス理解増進の原則と、事務所から依頼者への説明との関係です。提供会社の説明を、事務所が依頼者へどう伝え直すかが問われます。3つ目は、自主的な指針と、法令や行政のガイドラインとの関係です。72条をめぐる行政の動きは、弁護士法72条ガイドライン対象拡大 顧問先への法務AI助言7手順で整理しています。
よくある質問
AIリーガルテック協会とはどのような団体ですか。
AIを活用した法務・コンプライアンス支援のリーガルテックサービスの開発と普及を進める一般社団法人です。2025年1月10日に、AI・契約レビューテクノロジー協会から名称を変更したと発表されています(出典:PR TIMES 協会の名称変更と原則の公表)。
4つの原則は何ですか。
コンプライアンス原則、法律有資格者の関与に関する原則、データ保護原則、サービス理解増進原則の4つです(出典:AIリーガルテック協会 リーガルテックとAIに関する原則)。
原則に沿っているツールなら、導入して大丈夫ですか。
原則は会員企業の自主的な指針であり、個別のサービスの品質を示すものではありません。事務所が、7つの観点でサービスごとに確認する運用があります(要確認)。
弁護士法72条との関係はどう確認しますか。
弁護士法第72条の条文と、提供会社の機能の説明を照らし、有資格者が内容を見て確認する運用があります。個別の機能の評価は、本記事では行いません。
依頼者の資料をツールに入力しても守秘義務は大丈夫ですか。
弁護士法第23条、司法書士法第24条、行政書士法第12条、弁理士法第30条が、それぞれの守秘義務を定めています。個別の入力との関係は、サービスの契約と設計によるため、本記事では判断していません。
質問票は、どこから作ればよいですか。
4原則を、提供会社への質問に変換するところから始める運用があります。本記事の7つの観点を、雛形として使えます。
参考文献
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/
本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。
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