WorkOnの人事AIエージェントが社労士業務に与える影響と6つの確認軸

人事業務を担うAIエージェントWorkOnの提供開始を受け、社労士事務所が顧問先から導入相談を受けたときに確認する6軸を整理。法定帳簿との関係、承認フロー、守秘と個人情報の論点を一次情報でまとめました。

WorkOnの人事AIエージェントが社労士業務に与える影響と6つの確認軸

WorkOnとは、人事業務を担うAIエージェント型のサービスのことです。

顧問先の人事担当者から、在籍証明書はもうAIが作っていると言われたら、事務所は何を答えるでしょうか。株式会社On Technologiesは2026年4月21日に、人事業務を担うAIエージェント「WorkOn」の提供を開始しました(出典: On Technologies プレスリリース)。本記事では、この種の人事AIエージェントが社会保険労務士事務所の受託業務にどう作用するかを整理し、顧問先から相談を受けたときに確認する軸を6つ提示します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、製品仕様は提供元の公表資料で確認しています。

人事業務にAIエージェントが入ってきた背景

まず事実関係を押さえます。WorkOnを提供するOn Technologiesは、株式会社LegalOn Technologiesのグループ会社で、専門領域におけるAI開発を行う会社です。代表は角田望、本社は東京都渋谷区、資本金は1,000万円と公表されています(出典: On Technologies プレスリリース)。法務領域で培った基盤を人事領域に展開したという位置づけで説明されています。

公表されている特長は3つです。1つ目が、サービス内の従業員の基本情報、具体的には雇用形態、業務内容、勤務時間などを参照して、在籍証明書や就業証明書といった人事が担う各種書類をAIが作成する機能です。従業員から依頼が届き次第、AIが必要情報を労務担当者へ提供するとされています。2つ目が、定型業務をAIが自律的に処理し、人の判断が必要な場面のみ引き継ぐ設計です。労働時間を超過した従業員がいた場合に、勤怠情報を収集してリスト化とグラフ化を行う例が挙げられています。3つ目が、企業ごとに異なるルールや運用を学習して精度と範囲が向上するという設計です(出典: On Technologies プレスリリース)。

同社は、人事領域でのAI活用が進まない要因として、人事データがAIで扱える状態に整っていないことと、判断プロセスの不透明さを挙げ、その根拠として厚生労働省が公表した調査報告書を参照しています(出典: 厚生労働省 令和6年度 AI・メタバースのHR領域最前線調査報告書)。ここは製品の宣伝ではなく、行政の調査に基づく構造的な指摘なので、社労士事務所としても押さえておく価値があります。

社労士事務所の立場から見ると、この動きは受託業務の輪郭を変えます。従来、顧問先が自社でやりきれない部分を事務所が引き受けるという分担でしたが、自社でやりきれる範囲が広がると、事務所に残るのは判断と例外対応です。事務所の側から見て、なくなる仕事より増える仕事のほうを先に把握しておくほうが建設的でしょう。労務相談の一次回答をAIに任せる場合の検証工程は労務相談AIの一次回答を検証する工程の記事に整理しています。

顧問先が人事AIエージェントを入れると相談されたときの6つの確認軸

顧問先から導入の相談を受けたときに、社労士として確認する軸を6つに分けます。導入の可否を事務所が決めるわけではありませんが、確認軸を提示できるかどうかで顧問としての価値が変わります。

第1軸は、AIが作る書類の法的な位置づけの整理です。在籍証明書や就業証明書は、社内で完結する書類と、行政や第三者に提出する書類とで、求められる確認の重さが違います。誰の名義で発行するのか、発行前に誰が確認するのかを、顧問先の運用として明文化してもらいます。

第2軸は、元データの正確性です。AIが参照する従業員の基本情報が誤っていれば、出力される書類も誤ります。労働基準法第107条は、使用者が各事業場ごとに労働者名簿を調製し、労働者の氏名、生年月日、履歴その他厚生労働省令で定める事項を記入することを定めています(出典: e-Gov法令検索 労働基準法)。AI導入は、この法定帳簿の整備状況を点検する良い機会でもあります。

第3軸は、記録の保存です。労働基準法第109条は、使用者が労働者名簿、賃金台帳および雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存することを定めています(出典: e-Gov法令検索 労働基準法)。AIが自動生成した書類が、この保存の枠組みにどう乗るのかは確認する論点になります。生成した記録がサービス側にのみ残る設計なら、解約時に何が手元に残るかを事前に確認してもらってください。

第4軸は、承認フローの設計です。公表資料では、AIが事前に設定されたルールや承認フローに基づいて自律的に業務を進める設計と説明されています(出典: On Technologies プレスリリース)。ここで見るのは、どの処理に人の承認を挟むかという線引きです。自律の範囲を広く取りすぎると、誤りが表に出るまでの経路が長くなります。

第5軸は、社労士の独占業務との関係です。社会保険労務士法第2条は、労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成、提出手続の代行などを社会保険労務士の業務として定めています(出典: e-Gov法令検索 社会保険労務士法)。事業主が自社の手続を自ら行うことと、外部の者が業として行うことは、法律上の位置づけが異なります。ツールが何をどこまで担うのかは、事務所として整理しておく論点です。

第6軸は、事務所と顧問先の役割の再定義です。顧問先が自社で処理する範囲が広がるなら、事務所の顧問料の根拠も見直す必要が出ます。作業量に紐づいた料金体系のままでは、顧問先から見た価値と料金が乖離します。料金設計の考え方は士業のタイムチャージと定額報酬の移行に関する記事に整理しています。

顧問先への確認リストを作るためのプロンプト例を示します。実在の顧問先名は使わず、架空のA社として扱います。

あなたは社会保険労務士事務所の補助者です。顧問先が人事AIエージェントの導入を検討しています。
社労士が顧問先に確認すべき事項のリストを作ってください。

【顧問先】サービス業A社、従業員120名、拠点3か所、人事担当は2名
【検討中のツール】人事書類の自動作成、勤怠データの集計、問い合わせ一次対応を行うAIサービス

【出力】確認事項ごとに、
  (1) 何を確認するか、(2) なぜ確認するか、(3) 確認先(ベンダー/社内)、
  (4) 回答が芳しくない場合に想定される運用上の懸念

【注意】
- 法的な適否の断定は書かないでください。「論点になる」という書き方にしてください
- 条番号は書かないでください。社労士が後から一次情報で確認して補います
- 不明な点は「要確認」と明記してください

もう1本、顧問先の運用ルールのたたき台を作るプロンプトです。

人事AIエージェントを導入した企業の、社内運用ルールのたたき台を作ってください。

【前提】人事書類の下書きをAIが作成し、人事担当者が確認して発行する運用
【想定規模】従業員120名、人事担当2名

【構成】
1. AIに参照させてよい情報の範囲
2. AIが作成した書類の確認手順(誰が、何を見るか)
3. 人の承認を必須とする処理の一覧
4. 誤りが見つかった場合の訂正と記録の手順
5. 従業員への説明事項
6. サービス解約時のデータの取扱い

各項目は運用例として書き、規範として断定しないでください。
最終的な内容は社会保険労務士と顧問先が確認して確定する前提です。

どちらの出力も、そのまま顧問先に渡さず、社会保険労務士が制度面を確認してから提示してください。特に条番号と保存期間は、AIが取り違えやすい箇所です。

従業員データを扱うサービスで確認する守秘と個人情報の論点

人事AIエージェントは、従業員の氏名、雇用形態、勤務時間、給与といった情報をまとめて扱います。守秘と個人情報の観点は、通常のAIツールより重く見る必要があります。

第1に、社会保険労務士自身の守秘義務です。社会保険労務士法第21条は、社会保険労務士が正当な理由がなくて、その業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、または盗用してはならないこと、社会保険労務士でなくなった後も同様であることを定めています(出典: e-Gov法令検索 社会保険労務士法)。顧問先が導入したサービスに事務所のアカウントを持つ場合、事務所側の守秘の設計もそのサービスの中に及びます。事務所として、顧問先のシステムに接続する際のルールを持っておいてください。

第2に、個人情報の取扱いです。個人情報保護法第27条は、個人情報取扱事業者が、法令に基づく場合など一定の場合を除き、あらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはならないと定めています(出典: e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律)。従業員データをどこまで外部サービスに置くかは、顧問先が判断する事項ですが、判断材料を整理して渡すのは事務所の役割になり得ます。個人情報保護委員会の公表資料もあわせて確認してください(出典: 個人情報保護委員会)。

第3に、従業員への説明です。人事評価や労働時間の管理にAIが関与する場合、従業員側から見た透明性が論点になります。前掲の厚生労働省の調査報告書も、AIによる判断プロセスの不透明さが導入の障壁になっていることに触れています(出典: 厚生労働省 令和6年度 AI・メタバースのHR領域最前線調査報告書)。就業規則や社内規程に、AIの利用範囲を明記する動きは今後増えると見ておくのが自然です。規程整備の進め方はカスハラ義務化に伴う社労士の規程整備の記事の手順が参考になります。

事務所内のルールとしては、顧問先システムへの接続権限を持つ者の限定、接続時に閲覧してよい範囲の明文化、作業ログの保存、退職時のアカウント停止手順の4項目を定めておくと運用が締まります。権限の階層設計は士業事務所の生成AI権限設定に関する記事にまとめています。

顧問先の導入でつまずく3つの場面

第1は、元データが整っていないまま導入する場面です。前掲の厚生労働省の調査報告書は、人事領域でのAI活用を阻む要因として、人事データがAIに入力できる形式になっていないことと、その準備にかかるコストを指摘しています(出典: 厚生労働省 令和6年度 AI・メタバースのHR領域最前線調査報告書)。導入前にデータ整備の工数を見積もらないと、稼働開始が遅れます。社労士事務所が労働者名簿と賃金台帳の整備状況を点検する役割を担えば、これは受託業務として成立します。

第2は、承認を挟まない処理を広げすぎる場面です。AIが自律的に処理する範囲が広いほど省力化は進みますが、誤りが表に出るまでの時間も伸びます。特に、従業員に直接届く書類や通知は、人の確認を挟む設計にしておくほうが安全です。誤った在籍証明書が金融機関に渡ったときの回収は、事務作業では済みません。

第3は、事務所が蚊帳の外に置かれる場面です。顧問先が導入を決めてから事務所に相談が来ると、確認軸を提示する機会そのものを失います。回避策は、事務所側から先に話題を出しておくことです。人事系のAIサービスが増えていること、導入時に確認したほうがよい点があることを、通常の顧問訪問の中で伝えておけば、相談が先に来るようになります。

事務所として何にどれだけ投資するか

事務所側の投資は、ツール費用ではなく学習時間です。顧問先が導入を検討する人事AIサービスは今後増えるため、個別製品を追いかけるより、確認軸を持つほうが費用対効果は高くなります。本記事で挙げた6軸は、製品名が変わっても使い回せます。

工数としては、確認リストの整備に半日から一日、顧問先一件あたりの初回ヒアリングに一時間から二時間程度を見ておけば足ります。その後の運用ルール整備を受託するなら、顧問先の規模と拠点数に応じて別途見積もる形になります。データ整備の支援まで踏み込むなら、労働者名簿と賃金台帳の点検を含めて、規模に応じた工数を積むことになります。

体制は、確認リストの運用を担当社労士、顧問先システムへの接続作業を限定した補助者、規程整備を有資格者という分け方が現実的です。顧問先のシステムに触れる人を絞ることが、守秘の設計上いちばん効きます。

料金は、導入相談を顧問料の範囲で受け、運用ルールの整備と規程改定をスポットにする形が説明しやすいでしょう。導入相談を無償で受けきってしまうと、事務所の負担だけが増えます。

これから論点になること

ひとつは、AIエージェントが行った処理の責任の所在です。事前に設定されたルールと承認フローに基づく自律処理という設計は、裏を返せば、ルール設定を誤ったときに誤った処理が自動で流れるということでもあります。ルールを誰が設計し、誰が点検するのかという役割分担は、顧問契約の中で整理される論点になっていくはずです。

もうひとつは、事務所自身が同種のツールを使う流れです。顧問先の人事データを扱う業務は、事務所側でも同じ構造の効率化が可能です。ただし事務所が扱うのは複数の顧問先のデータなので、テナント分離と権限設計の要求は顧問先企業より厳しくなります。外部サービスの審査観点は外部MCPサーバーの安全性審査に関する記事の枠組みが応用できます。

3つ目は、制度改正への追随です。人事労務の分野は改正が頻繁で、ストレスチェックの対象拡大のように、施行までに数年の準備期間を要するものもあります(出典: 厚生労働省 小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアルを公表します)。AIサービスが改正にどれだけ早く追随するかは、顧問先の選定基準になり得ます。改正対応の具体像はストレスチェック全事業場義務化に社労士が備える記事にまとめています。

よくある質問

WorkOnはどのようなサービスですか

人事業務を担うAIエージェント型のサービスで、株式会社On Technologiesが2026年4月21日に提供を開始しました。従業員の基本情報を参照して在籍証明書や就業証明書などを作成する機能や、勤怠情報の収集とリスト化などが公表されています(出典: On Technologies プレスリリース)。

顧問先が導入したら社労士の仕事は減りますか

作業量に紐づく業務は減る方向に働きますが、確認軸の提示、運用ルールの整備、制度改正への追随、例外対応は残ります。事務所として、料金の根拠を作業量から判断と設計に置き換えられるかどうかが論点になります。

AIが作った在籍証明書をそのまま発行してよいですか

誰の名義で発行し、発行前に誰が確認するかを顧問先の運用として明文化してもらうのが実務的です。従業員に直接届く書類や第三者に提出する書類は、人の確認を挟む設計にしておくほうが安全でしょう。

AIが生成した書類の保存はどう考えますか

労働基準法第109条は、労働者名簿、賃金台帳および労働関係に関する重要な書類を五年間保存することを定めています(出典: e-Gov法令検索 労働基準法)。生成物がサービス側にのみ残る設計の場合、解約時に何が手元に残るかを事前に確認しておく論点になります。

従業員への説明は必要ですか

法令上の要否は個別の運用によりますが、AIによる判断プロセスの不透明さが導入の障壁として指摘されていることを踏まえると、説明を用意しておく実務上の意味は大きいと考えられます(出典: 厚生労働省 令和6年度 AI・メタバースのHR領域最前線調査報告書)。

事務所が顧問先のシステムに接続する場合の注意点は何ですか

接続権限を持つ者を限定し、閲覧してよい範囲を明文化し、作業ログを残す設計にしてください。社会保険労務士法第21条の守秘義務との関係で、事務所側の運用も設計対象になります(出典: e-Gov法令検索 社会保険労務士法)。

導入相談は顧問料に含めるべきでしょうか

事務所ごとの判断ですが、初回の確認軸の提示までを顧問料の範囲とし、運用ルールの整備や規程改定をスポットとする分け方が説明しやすい形です。無償で受けきると事務所の負担だけが増えます。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

記載内容に誤りを見つけられた場合は、お問い合わせよりご指摘ください。確認のうえ速やかに訂正し、訂正履歴を記事内に残します。編集方針の詳細は運営者情報をご覧ください。