青色65万円の要件が2027年から拡がる 税理士が今から進める7つの準備

令和9年分から青色申告特別控除65万円の要件に電子取引データの新しい保存方法が加わります。税理士が顧問先の棚卸しから届出まで進める7工程とAI活用を解説します。

青色65万円の要件が2027年から拡がる 税理士が今から進める7つの準備

電子取引データの新しい保存要件とは、青色申告特別控除の最大額に至る第三の入口のことです。

令和9年分の所得税から、青色申告特別控除65万円を受ける道がもう一本増えます。この記事では、財務省と国税庁の公表資料をもとに、何が変わるのか、顧問先のどこを見て準備を始めるのか、そこに生成AIをどう噛ませられるのかを整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。この措置は令和9年1月1日以後に法定申告期限等が到来する国税について適用され、青色申告特別控除の部分は令和9年分以後の所得税について適用されます(出典: 財務省 令和7年度税制改正 納税環境整備)。

令和9年分から青色65万円の入口が三本になる背景

結論から書きます。これまで青色申告特別控除65万円の要件は、優良な電子帳簿の保存か、e-Taxによる電子申告か、そのいずれかを満たすことでした。今回の改正で、国税庁長官が定める基準に適合するシステムを使い、新設された要件に沿って電子取引データを送受信・保存している場合にも、同じ控除額が適用できるようになります(出典: 財務省 令和7年度税制改正 納税環境整備)。優良な電子帳簿の保存に代えて選べる、第三の入口が用意されたと理解すると早いです。

条文の構造も確認しておきます。租税特別措置法第25条の2は、正規の簿記の原則に従って記録している個人について55万円の控除を定め、その上で一定の要件を満たす場合に55万円を65万円と読み替えて適用できると規定しています。読み替えの要件として現行条文に置かれているのが、電子帳簿保存法に基づく一定の帳簿書類の電磁的記録による保存と、確定申告書の期限内の電子送信です。ここに、今回の電子取引データの保存という選択肢が加わる形になります。

新設される要件は三つに整理されています(出典: 財務省 令和7年度税制改正 納税環境整備)。第一に、データの送受信と保存を、訂正削除の履歴が残るシステム、またはそもそも訂正削除ができないシステムで行うこと。これが改ざん防止の確保にあたります。第二に、電子取引データの金額を訂正削除したうえで電子帳簿に記録することができないこと、または訂正削除の事実を確認できるようにしておくこと。これが記帳の適正性の確保です。第三に、電子取引データと電子帳簿との関連性を相互に確認できるようにしておくこと。これが相互関連性の確保です。

国税庁長官が定める基準に適合するシステムの中身も明示されています。デジタル庁が管理する仕様に従って送受信されたデジタルインボイス、具体的にはInvoice JP PINTまたはJP Self-Billing、あるいは預貯金口座における決済データのいずれかについて、右の三要件に従って保存できる機能を持つものとされています。つまり、汎用の会計ソフトなら何でもよいという話ではありません。デジタルインボイスの規格に沿ったデータの流れか、口座の決済データの流れが前提になっています。

対象となるデータの範囲にも限定があります。請求書や納品書といった重要書類に相当するデータに限られます。あわせて、見読可能装置の備付け、システムの概要書の備付け、検索機能の確保という、従来からの要件も満たす必要があります。そして忘れやすいのが届出です。保存義務者は保存要件を満たしていることを確認できるようにしておく必要があり、あらかじめ届出が必要とされています。

もうひとつ、同じ改正のなかで、この新設の送受信・保存を行っている電子取引データは、電子取引データに関連する隠蔽・仮装行為に重加算税を10パーセント加重する措置の対象から除外されます(出典: 財務省 令和7年度税制改正 納税環境整備)。控除の話だけを追っていると見落としますが、顧問先に説明する際はこちらのほうが刺さる場面もあります。

なお、令和8年度税制改正大綱に基づく続きの動きや、国税庁長官が定める基準の詳細な告示、届出書の様式の最終版については、本記事の執筆時点で確認できた範囲を超える部分があります。実際の指導にあたっては国税庁 電子帳簿・電子書類関係および国税庁 電子取引関係の最新版を確認してください。要確認の事項として扱います。

顧問先の棚卸しから届出までを7つの工程に割る

先に結論を書くと、いま動くべきなのは制度の説明ではなく、顧問先のデータの流れの棚卸しです。デジタルインボイスか口座決済データのどちらかに乗っていない顧問先は、そもそも新しい入口に立てないからです。

工程1 顧問先を三つの群に分ける

第一群は、すでにe-Taxで電子申告しており最大額の控除を取れている顧問先。ここは今回の改正で急いで動く理由が薄いので、優先度を下げます。第二群は、控除額が一段下にとどまっている顧問先。ここが本命です。第三群は、そもそも青色申告の帳簿要件を満たしきれていない顧問先。ここは新制度の前に記帳の土台の話になります。

工程2 請求書のやり取りの形を洗い出す

第二群の顧問先について、売り手として発行する請求書と、買い手として受け取る請求書のそれぞれが、どの経路で流れているかを書き出します。紙、PDFのメール添付、取引先ポータルからのダウンロード、デジタルインボイスの規格に沿った送受信。この4つに分類するだけで、新しい入口に届くかどうかの目星がつきます。

工程3 使用中の会計ソフトと販売管理ソフトを確認する

訂正削除の履歴が残る仕様になっているか、デジタルインボイスの送受信に対応しているか、口座連携のデータをどう取り込んでいるか。この3点をベンダーの公表資料で確認します。対応予定の告知が出ている場合は、告知の日付と対応時期をメモに残しておくと、後で説明しやすくなります。

工程4 生成AIで顧問先向けの説明メモを量産する

ここでAIを使います。制度の要点は共通でも、顧問先ごとに刺さる論点は違います。次の型を使うと、顧問先の状況に合わせた説明メモの下書きが短時間で揃います。出力はあくまで下書きであり、担当の有資格者が内容を確かめてから渡します。

あなたは税理士事務所の顧問先向け説明メモの下書きを作る補助ツールです。

【前提】
- 顧問先は架空の「甲商店」とし、実在の固有名詞や個人情報は入れないこと
- 税額計算や個別の適用可否の判断は行わず、確認すべき事項の整理にとどめること
- 断定的な表現を避け、確認が必要な箇所は「要確認」と明記すること

【顧問先の状況】
業種: {業種}
申告形態: 個人事業 / 青色申告
現在の控除額: {55万円 or 65万円}
請求書の発行方法: {紙 / PDFメール / 取引先ポータル / デジタルインボイス}
請求書の受領方法: {同上}
使用中の会計ソフト: {ソフト名}

【出力】
1. この顧問先が新しい保存要件の対象になり得るかの確認ポイントを3つ
2. 対象になる場合に、次の申告期までに準備が必要な作業を時系列で
3. 対象にならない場合に、代わりに検討できる選択肢
4. 税理士に確認すべき事項のリスト

A4一枚に収まる分量で、専門用語には短い注釈を付けてください。

工程5 データの流れの図を作って認識を揃える

文章より図のほうが伝わります。売り手のシステムから買い手の会計ソフトまで、どこでデータが手入力に切り替わるかを一本の線で描きます。手入力が挟まる箇所が、相互関連性の確保でつまずきやすい地点です。

工程6 届出の要否と時期を一覧にする

新しい送受信・保存を行う場合、あらかじめ届出が必要とされています。顧問先ごとに、届出の対象になるか、いつまでに出すか、誰が作成するかを一覧に落とします。届出書の様式は国税庁の該当ページで公表されているものを確認します。

工程7 税理士が全件を確認する地点を明示する

AIが作った説明メモも、データの流れの図も、そのまま顧問先に渡しません。担当の有資格者が、制度の記述に誤りがないか、その顧問先の実態と合っているかを確認してから渡します。確認した日付と担当者名を、顧問先ファイルに1行残す運用にします。

説明メモの精度を上げたいときは、次の型で下書きをチェックします。

以下の顧問先向け説明メモから、事実確認が必要な記述だけを抽出してください。

【入力】
{下書きの全文}

【抽出対象】
- 法令名と条番号の組み合わせ
- 施行日、適用開始時期、期限
- 控除額、割合、金額
- 官公庁の資料名やページ名

【出力形式】
「記述 / 確認先(e-Gov・国税庁・財務省のいずれか) / 未確認」
の3列で列挙してください。評価やコメントは書かず、抽出のみ行ってください。

なお、電子帳簿保存法まわりの要件緩和とAI-OCRの組み合わせについては、電子帳簿保存法の2026年 要件緩和とAI-OCRで会計事務所が削る6工程で工程の切り方を扱っています。あわせて読むと、今回の準備と既存の受領業務の関係が見えやすくなります。

顧問先データをAIに入れる前に税理士が決めておく4つのこと

守秘義務の根拠は税理士法第38条です。同条は、税理士が正当な理由なく税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、または窃用することを禁じており、税理士でなくなった後も同様と定めています。この条文を、生成AIを使う日常業務の手順にどう落とすかが設計の中心になります。

第一に決めるのは、入力してよい情報の粒度です。前掲のプロンプト例では、顧問先を架空の甲商店として扱い、業種と請求書の授受方法だけを入れています。実務では、これだけでも十分に使える下書きが出ます。逆に、顧問先名、代表者名、取引先名、金額の実数を入れないと成立しない作業は、そもそもAIに投げる作業ではないと切り分けたほうが早いです。

第二に決めるのは、使うツールの契約形態です。法人向けプランと個人向けプランで、入力データの学習利用の既定値が異なります。OpenAIはエンタープライズプライバシーのページで、業務向け製品に投入したデータを既定では学習に用いない旨を公表しています。確認したいのは、契約中のプランでの扱い、管理者側で設定を上書きできるか、ログの保存期間の三点です。ベンダーの表記は更新されるため、確認日を記録しておきます。

第三に決めるのは、顧問先への説明です。顧問契約書やその附属文書で、AIを補助的に使用すること、最終的な判断と責任は税理士が負うこと、入力する情報の範囲を明示する形が採られています。今回の制度改正の説明メモをAIで作る場合も、この枠組みの中に収まっているかを確認します。

第四に決めるのは、記録の残し方です。どの案件で、どの資料の種別を、いつAIに入力したか。この3項目を顧問先ファイルに追記する運用にしておくと、後から説明できます。所内で誰がどこまで操作してよいかの整理は、士業事務所の生成AI権限設定 有資格者と補助者で分ける5階層のルールに階層別の考え方をまとめています。

規程の形にするなら、長文にする必要はありません。入力してよい情報、入力してはいけない情報、使ってよいツール、有資格者による最終確認の地点、記録の残し方。この五項目を数行ずつ書いた一枚があれば、所内の運用は揃います。長い規程を作って誰も読まない状態にするより、一枚を全員が読んでいる状態のほうが機能します。

制度改正の説明でつまずいた3つのパターン

ひとつめは、AIが出した控除額や施行日をそのまま顧問先に渡してしまうケースです。生成AIは、実在する制度名と実在しない数字を自然に組み合わせて出力します。控除額、適用開始時期、届出の要否は、財務省と国税庁の公表資料で突き合わせてから渡す。この一手間を工程に固定します。

ふたつめは、すべての顧問先に同じ説明を配ってしまうケースです。デジタルインボイスの規格に乗っていない顧問先に新しい入口の話をしても、動きようがありません。むしろ、e-Taxによる電子申告で最大額の控除を取る従来の道のほうが近い顧問先もいます。三つの群に分けてから配るだけで、問い合わせの質が変わります。

みっつめは、届出の存在を伝え忘れるケースです。新設の送受信・保存についてはあらかじめ届出が必要とされているため、システムを入れただけでは要件を満たしません。顧問先が自力でシステムを導入していた場合ほど、この抜けが起きやすくなります。

制度そのものの話に加えて、周辺の期限も同時に走っています。インボイス制度の経過措置の切り替わりについては、インボイス70%控除は2026年10月開始 税理士が顧問先に配る6つの準備で整理しています。顧問先向けの案内は、時期の近いものをまとめて配るほうが読まれます。

準備にかかる工数と、誰が持つか

工数は、顧問先の棚卸しと、説明資料の作成と、届出の実務の三つに分かれます。棚卸しは顧問先の件数に比例します。請求書の授受方法を確認するだけなら、一件あたり十数分で終わる先が多いはずです。ただし、取引先ごとに経路が違う顧問先は、その分だけ時間がかかります。

説明資料の作成は、生成AIを使うかどうかで差が出るところです。共通版を一本作り、群ごとに差分を当てる形にすれば、顧問先ごとの個別作成に比べて大きく圧縮できます。ここで作った資料は、担当の有資格者が内容を確かめたうえで顧問先に渡します。

届出の実務は、対象になる顧問先が確定してからの作業です。様式と提出方法を早めに押さえておき、確定申告期と重ならない時期に処理できるよう、逆算して予定を組みます。

体制としては、税理士ひとりと担当スタッフひとりで進行を持つ形が現実的です。税理士側は制度の解釈と確認地点を、スタッフ側は棚卸しの進捗と届出の期限管理を担当します。削減できた時間を測っておくと、翌年以降の投資判断がしやすくなります。測定の手順はAI導入の年間削減時間をどう検証するか 税理士事務所の測定7手順で扱っています。

デジタルインボイスを前提にした記帳へ寄っていく流れ

今回の改正から読み取れる方向は明確です。手入力やOCR処理を挟まず、データ連携で自動的に保存される流れをつくった事業者を、税制上有利に扱う設計になっています。財務省の資料に示された適用イメージでも、手入力等されたデータに基づく処理と、データ連携で処理される流れが対比されています。

会計事務所の側から見ると、記帳代行の中身が変わっていく可能性が論点になります。データが規格に沿って流れてくるなら、入力作業そのものは減ります。減った分をどこに振り向けるか、報酬をどう組み替えるかが、次に来る経営判断です。

もうひとつの論点は、顧問先ごとの取引先構成です。デジタルインボイスに対応している取引先が多い顧問先ほど、新しい入口に乗りやすくなります。逆に、紙の請求書が主流の業界では、しばらく従来の道が現実解であり続けます。顧問先の業界構造を見て、どちらの道を勧めるかを判断する場面が増えていきます。

よくある質問

青色申告特別控除65万円の要件はいつから変わりますか

青色申告特別控除に関する部分は、令和9年分以後の所得税について適用されます。あわせて、電子取引データの重加算税加重の除外は、令和9年1月1日以後に法定申告期限等が到来する国税について適用されます(出典: 財務省 令和7年度税制改正 納税環境整備)。

どんなシステムを使えば新しい要件を満たせますか

国税庁長官が定める基準に適合するシステムとされています。財務省の資料では、デジタル庁が管理する仕様に従って送受信されたデジタルインボイス、またはInvoice JP PINTもしくはJP Self-Billing、あるいは預貯金口座における決済データについて、改ざん防止・記帳の適正性・相互関連性の三要件に従って保存できる機能を持つものと説明されています。

対象になるデータの範囲を教えてください

請求書や納品書といった重要書類に相当するデータに限定されると説明されています。すべての電子取引データが対象になるわけではないため、顧問先のデータの棚卸しでは書類の種別まで見る必要があります。

届出は必要ですか

新設の送受信・保存を行う場合は、あらかじめ届出が必要とされています。保存要件を満たしていることを確認できるようにしておく必要があるとも記載されています。様式と提出方法は国税庁の公表情報で確認してください。

従来のe-Taxによる電子申告の道はなくなりますか

なくなるという記載は確認できていません。改正後は、優良な電子帳簿の保存に代えて新しい保存要件でも適用できるようになるという整理です。顧問先の状況によっては、従来の道のほうが近い場合があります。

顧問先への説明資料を生成AIで作るときの運用はどうなりますか

実務では、顧問先名や取引先名を伏せた条件だけを入力して下書きを作り、担当の有資格者が内容を確かめてから渡す運用が採られています。制度の数字や施行日は、財務省と国税庁の資料で突き合わせる工程を入れることが前提になります。

記帳代行の報酬は見直したほうがよいですか

入力作業が減る顧問先については、作業量と報酬の対応関係が変わります。実測した削減時間をもとに、翌期の見積もりを組み替える事務所があります。制度の適用開始前に測定を始めておくと、比較の基準を持てます。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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