JICPAが監査基準報告書240の改正公開草案を公表しました。
日本公認会計士協会は2026年8月10日、監査基準報告書240「財務諸表監査における不正」の改正(公開草案)を公表しました。意見募集の期限は2026年9月10日です。今回の改正案は現行から項目の追加と削除の幅が大きく、新旧対照表そのものが作成されていません。あわせて監査基準報告書など34本の適合修正が予定されており、リスク評価から監査報告書の記載まで、監査実務の広い範囲に関わる内容になっています。本記事は公表資料と参考資料をもとに要点を整理したもので、有資格者による確認を経たものではありません。原典にあたって判断してください。
監査基準報告書240の改正案が出た経緯
今回の公開草案は、国際監査・保証基準審議会(IAASB)が2025年7月に公表したISA 240 (Revised)への対応として検討されたものです。IAASBの改訂は、企業の倒産や不祥事が続くなかで、財務諸表監査における不正に関する監査人の役割と責任に利害関係者から疑問が呈されてきた状況を背景としています。
日本公認会計士協会が公表した参考資料によれば、IAASBが掲げた改訂の目的は4点あります。不正に関連する監査人の役割と責任を明瞭化すること、識別した重要な虚偽表示リスクへの有効な対応を促すこと、監査の過程を通じて「職業的懐疑心を適切に発揮すること」の重要性を強調すること、そして不正に関連した手続の透明性を適切な形で強化することです。
日本には国際的な基準にはない「監査における不正リスク対応基準」があります。現行の監査基準報告書240は、この基準に準拠して監査を行う際の要求事項を、項番号の頭に「F」を付す形で日本独自に取り込んできました。改正案でもF項は原則として現行から引き継がれる一方、ISA 240の改訂で同様の内容が盛り込まれた一部の日本独自項については、重ねて置く必要がないものとして整理されています。
改正案の6つの柱と、監査現場で論点になりそうな点
参考資料は、主な改正内容を6つに分けて示しています。監査手続の改正、コミュニケーションの強化、監査報告書利用者への透明性向上、そして職業的懐疑心という4つの軸で整理されている点が特徴です。
最も大きな変更は、「不正又は不正の疑い」という新しいセクションが設けられたことです。ここでいう不正または不正の疑いには、監査人が手続の実施のなかで直接識別したものだけでなく、企業内外の者による不正の申立てが含まれるとされています。改正案の第55項では、適切な階層の経営者や監査役等への質問、企業の調査プロセスの適切性の評価、是正措置が実施されている場合のその適切性の評価が求められる形になっています。
リスク評価の面では、経営者による内部統制の無効化リスクを財務諸表全体レベルの不正による重要な虚偽表示リスクとして扱うことが第40項で示されています。収益認識に不正による重要な虚偽表示リスクがあるという推定に変更はありませんが、適用指針では、この推定に反証することは通常適切でないという整理が加えられています。
コミュニケーションの範囲も広がります。監査役等に伝えるべき対象が、現行の「財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性がある不正又は不正の疑い」から「不正又は不正の疑い(明らかに軽微なものを除く。)」へと変更されており、報告のハードルが実質的に下がる建て付けです。監査上の主要な検討事項(KAM)についても、不正に関連することが分かる小見出しを付して記載する取扱いが第62項に置かれています。
職業的懐疑心では、現行にあった「記録や証憑書類の真正性に疑いを抱く理由がある場合を除いて、通常、記録や証憑書類を真正なものとして受け入れることができる」という趣旨の一文が削除され、疑いを抱く状況の例が適用指針に追加されています。ただし参考資料は、これが真正性に関する手続を増やすことを意図したものではないと明記しています。
会計士事務所の初動と、AIをめぐる論点
公認会計士と監査法人にとって、当面の焦点は意見提出です。期限は2026年9月10日、提出先は日本公認会計士協会業務本部の監査グループとされています。新旧対照表がないため、本文と参考資料を並べて読む作業が必要になります。実務上は、参考資料の目次に沿って自事務所の監査調書のどこが影響を受けるかを洗い出す進め方を採る事務所が多いと考えられます。
適合修正の34本には、監査調書を扱う監査基準報告書230、確認を扱う505、監査サンプリングを扱う530のほか、イメージ文書により入手する監査証拠に関する実務指針も含まれています。デジタル化された証憑を前提とする実務指針が対象に入っている点は、証憑の扱いを見直す事務所にとって確認しておきたい部分です。
生成AIとの関係については、注意が必要です。今回の公開草案の前書文と参考資料からは、AIに直接言及した記載は確認できません。したがって「この改正はAIを想定したものだ」と読むことはできません。一方で、証憑を真正なものとして受け入れられるという一文が削除され、疑いを抱く状況の例示が増えるという方向性は、電子的な文書の生成と加工が容易になった環境と無関係ではないという見方もできます。AI技術で不正検知の精度を上げる議論と、AIによって作られた資料をどう扱うかという議論が、同じ改正の周辺に同居している状況です。
適用時期については、本記事が参照した前書文と参考資料には記載がありません。確定版の公表とあわせた確認が必要な事項です(要確認)。
まとめ
日本公認会計士協会が2026年8月10日に公表した監査基準報告書240の改正公開草案は、不正または不正の疑いへの対応を独立したセクションとして立て、監査役等とのコミュニケーション範囲を広げ、不正に関連するKAMの記載を明確化する内容です。適合修正は34本に及びます。意見募集は2026年9月10日まで受け付けられています。
参考文献
- 日本公認会計士協会 監査基準報告書240「財務諸表監査における不正」の改正(公開草案)の公表について
- 日本公認会計士協会 監査基準報告書240の改正(公開草案)の概要(参考資料)
- 日本公認会計士協会 前書文
- 日本公認会計士協会 公開草案・論点整理
- IAASB ISA 240 (Revised)
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引用元: 日本公認会計士協会
本記事の作成体制について
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