モデル就業規則とは、厚生労働省が就業規則の規程例を解説とともに示した資料のことです。
顧問先の就業規則を見直すとき、モデル就業規則の新しい版との差分を、どのくらいの時間で洗い出しているでしょうか。厚生労働省は、令和7年12月版のモデル就業規則を公表し、国会または地方議会の議員に立候補するための休暇の規程例の追加などを案内しています(出典: 厚生労働省 モデル就業規則)。この記事では、新旧の版を生成AIで比べて差分の候補を出し、社労士が確認して顧問先の規則に反映するまでを7つの手順で示します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は厚生労働省の公表資料で確認しました。個別の顧問先への当てはめは行わないため、規則の文言は有資格者が決めてください。
令和7年12月版で何が変わったのかを一次情報で確認する
厚生労働省のモデル就業規則のページには、令和7年12月の改訂事項として、次の3点が掲載されています。国会または地方議会の議員に立候補するための休暇に関する規程例を追加したこと、第5章の解説に犯罪被害者等の被害回復のための休暇などの特別休暇の紹介を追加したこと、法改正の反映などその他の所要の改正を行ったことです(出典: 厚生労働省 モデル就業規則)。
全体版のPDFで条文を見ると、第32条の見出しは裁判員等のための休暇等で、第1項が裁判員や裁判員候補者になった場合の休暇、第2項が国または地方公共団体の議会の議員の選挙で候補者となった場合に、選挙運動の期間につき、選挙運動のために必要な日数の休暇を与える旨の規程例です(出典: 厚生労働省 モデル就業規則 令和7年12月版(PDF))。目次の見出しは裁判員等のための休暇等のままで、解説の見出しには立候補のための休暇が加わっています。見出しと解説で表現がそろっていない点は、顧問先の規則に写すときに注意したい箇所です。
解説の部分には、選挙運動の期間外に立候補に向けた準備を行う場合について、労働関係法令上、使用者が労働者の請求を拒んではならないものではないが、各事業場で任意に休暇の対象とすることができる、という趣旨の説明があります(出典: 厚生労働省 モデル就業規則 令和7年12月版(PDF))。法定の範囲と、事業場が任意に広げる範囲が分けて書かれているため、規則に写すときはどちらの話かを区別する必要があります。
第5章の参考の項目には、特別休暇の例として、ボランティア休暇、ドナー休暇、犯罪被害者等の被害回復のための休暇、更年期症状による体調不良等のための休暇が挙げられています。犯罪被害者等の被害回復のための休暇は、犯罪被害等による心身の治療のための通院や、警察等からの事情聴取、裁判への出廷や傍聴等に活用できる休暇、と説明されています(出典: 厚生労働省 モデル就業規則 令和7年12月版(PDF))。
位置づけについても、PDFの冒頭の説明で確認できます。この資料は、表紙に記載の時点での関係法令等の規定を踏まえて就業規則の規程例を解説とともに示したもので、あくまでモデル例であり、就業規則の内容は事業場の実態に合ったものとする旨が書かれています(出典: 厚生労働省 モデル就業規則 令和7年12月版(PDF))。つまり、モデルとの差分があること自体が問題なのではなく、差分を把握したうえで事業場の実態に合わせて判断する、という使い方が想定されています。
条文の側も押さえておきます。労働基準法第89条は、常時十人以上の労働者を使用する使用者に、就業規則の作成と行政官庁への届出を定め、休暇に関する事項などを記載事項に挙げています(出典: 労働基準法第89条)。第90条は、作成や変更の際に、労働者の過半数で組織する労働組合または過半数代表者の意見を聴くことを定めています(出典: 労働基準法第90条)。第106条は、就業規則を労働者に周知させる旨を定めています(出典: 労働基準法第106条)。差分の洗い出しは、この手続全体の入口にあたる作業です。
新旧の差分を生成AIで洗い出す7手順
想定するのは、社労士と補助者が数名の事務所で、顧問先の就業規則を年に一度見直している場面です。各手順で、何を入力し、何が返り、有資格者がどこで確認するかを示します。
1手目は、比べる版の固定です。入力は、厚生労働省のページから取得した令和7年12月版のPDFと、比較対象とする前の版のPDFです。返ってくる成果物はありません。取得日と版名を台帳に記録するだけの作業で、AIは使いません。この記録が、後で何と何を比べたのかを示す根拠になります。
2手目は、PDFのテキスト化です。PDFから文字を取り出す作業は、AIではなく変換ツールで行うと、条文の文言が変わるおそれが小さくなります。取り出したテキストを条ごとに分けておくと、次の手順で比較しやすくなります。表記のゆれ、たとえば全角数字と半角数字の違いは、比較の前にそろえます。
3手目は、条ごとの差分の候補を生成AIに出させる作業です。入力は、同じ条番号の新旧の本文2つです。返ってくるのは、文言が増えた箇所、減った箇所、順序が変わった箇所の一覧です。差分の抽出は機械的な作業ですが、AIが原文にない変更を作り出すことがあるため、一覧の各行は原文で一行ずつ確認します。
差分抽出のプロンプトの例を示します。
以下は、モデル就業規則の同じ条の旧版と新版の本文です。
文言の違いだけを、増えた部分、減った部分、並びが変わった部分に分けて
箇条書きにしてください。
意味の評価や、どちらが望ましいかの意見は書かないでください。
本文にない内容は補わないでください。
【旧版】
(ここに旧版の本文を貼る)
【新版】
(ここに新版の本文を貼る)
返ってくるのは差分の候補です。補助者が原文と照らして一行ずつ確認し、有資格者が最終確認をします。
4手目は、顧問先の規則との対応づけです。顧問先の就業規則の条項を、モデル就業規則の条番号と並べて、どの条がどれに対応するかを一覧にします。顧問先の規則は独自の構成を持つことが多いため、この対応づけは人が行うほうが確実です。AIには、対応づけの案を出させ、人が修正する使い方にとどめます。
5手目は、反映の要否を判断する材料の整理です。たとえば、立候補のための休暇について、顧問先の規則に近い規定があるか、ないか、あるなら対象の範囲がモデルとどう違うかを、表ではなく文章で整理します。要否の判断そのものは、顧問先の実態を知る有資格者が行います。生成AIに判断を求めると、当てはめの評価に踏み込んだ回答が返ることがあるため、プロンプトには評価をしない旨を明記します。
6手目は、顧問先への説明文の下書きです。変更案がある場合に、顧問先の担当者向けに、モデル就業規則の改訂内容と、規則の見直し案をまとめた説明文を作ります。生成AIには、入力した事実の言い換えだけをさせます。
説明文の下書き用のプロンプトの例です。
架空のC株式会社の人事担当者向けに、モデル就業規則の改訂内容の説明文を
作ってください。次の事実だけを使い、それ以外は書かないでください。
・国会または地方議会の議員に立候補するための休暇の規程例が追加された
・特別休暇の例として犯罪被害者等の被害回復のための休暇が紹介された
法的な評価や、規則の変更をすすめる表現は使わないでください。
返ってくるのは説明文の案です。社労士が事実関係と文面を確認します。
7手目は、手続の確認と記録です。就業規則を変更する場合の意見聴取、届出、周知の手続は、労働基準法の条文に沿って進めます。変更の履歴、確認した版、確認者、日付を記録に残します。ここまでの記録があれば、後で顧問先から経緯を問われたときも、事務所として根拠を示せます。
顧問先の就業規則をAIに入力する前の守秘義務・規程上の論点
就業規則の見直しでは、顧問先の現行の規則、賃金に関する規程、従業員に関する情報が資料に含まれます。これらをクラウドの生成AIに入力する場合の論点を整理します。条文の当てはめは行わず、確認先と運用例を示します。
社会保険労務士の守秘義務は、社会保険労務士法第21条に定められています。見出しは秘密を守る義務で、開業社会保険労務士または社会保険労務士法人の社員は、正当な理由がなくて、その業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならず、その地位でなくなった後も同様とされています(出典: 社会保険労務士法第21条)。生成AIへの入力がこの条文の論点にどう関わるかは、ツールの契約条件、入力する情報、顧問先への説明の有無などによって変わり得るため、個別に有資格者が判断します。
業務の範囲についても確認しておきます。社会保険労務士法第2条は社会保険労務士の業務を列挙し、第27条は、社会保険労務士または社会保険労務士法人でない者が、他人の求めに応じ報酬を得て、第2条第1項第1号から第2号までの事務を業として行うことを制限しています(出典: 社会保険労務士法第27条)。AIの下書きは、有資格者の確認を経て初めて事務所の成果物になる、という位置づけを事務所内で共有しておくと、運用が安定します。
規程に落とす運用例として、入力情報を三つに分けます。公開情報、たとえばモデル就業規則やe-Govの条文は、どのツールに入力しても顧問先の秘密にあたりません。事務所内の一般情報、たとえば匿名化した事例は、承認済みのツールに限って入力します。顧問先の秘密情報、たとえば現行の就業規則の全文や従業員に関する情報は、データを学習に使わない設定が確認できたツールに限り、必要に応じて顧問先に説明したうえで入力します。
この運用では、モデル就業規則と、顧問先の規則の差分を見る作業の多くは、公開情報であるモデルの新旧比較の段階で終えられます。顧問先の規則の本文を入力するのは、4手目以降の対応づけの段階にとどめる、という設計が考えられます。入力が必要な範囲を小さくする工夫です。
ツールの確認先は、各提供事業者の公式ドキュメントです。入力データの学習利用、保存期間、管理者による設定の可否を確認し、確認日とともに台帳に残します。規程づくりの型は、士業事務所のAI利用規程テンプレート 全10条の骨子と作り方の手順が参考になります。
差分確認で起こりやすい失敗例と回避策
実在の事務所の事例ではなく、運用上の想定として3つ挙げます。
1つ目は、見出しだけを見て内容を取り違えることです。この版の第32条は、目次の見出しが裁判員等のための休暇等のままで、本文の第2項に立候補の休暇が入っています。見出しだけを手がかりにAIへ質問すると、立候補の休暇が見落とされる場合があります。回避策は、見出しではなく本文の全体を入力することです。
2つ目は、法定の休暇と任意の休暇の混同です。解説は、選挙運動期間中の請求と、期間外の準備とで取扱いが異なることを書いています(出典: 厚生労働省 モデル就業規則 令和7年12月版(PDF))。AIの要約では、この区別が薄れることがあります。回避策は、要約を使わずに原文の該当箇所を並べて読むことです。
3つ目は、手続の抜けです。規則の変更案ができても、意見聴取、届出、周知のいずれかが抜けると、見直しの記録として不完全になります。回避策は、手続のチェックリストを案件ごとに用意し、完了日を記録することです。
もう1つ、モデルに合わせることが目的化する失敗もあります。モデルは、あくまでモデル例であり、実態に合った内容とする旨が資料に書かれています(出典: 厚生労働省 モデル就業規則 令和7年12月版(PDF))。差分があった箇所をそのまま取り込むのではなく、顧問先の実態に照らして判断する工程を省かないことが大切です。
費用・工数・体制の目安
この作業の費用について、統計に基づく平均値は確認できていません。そのため、数字ではなく工数の内訳の考え方を示します。数字を置く場合は、自事務所で測った実績値を使ってください。
工数が大きいのは、版の取得と記録、差分の原文確認、顧問先の規則との対応づけ、手続の管理です。生成AIで短縮できるのは、差分の候補の抽出、対応づけの案、説明文の言い換えまでです。顧問先ごとの判断と、文面の最終確認は人が行います。
顧問先が複数ある場合は、モデルの新旧差分の部分を一度作れば、顧問先ごとの作業は対応づけ以降になります。モデル側の差分を事務所の共通資料にしておくと、改訂のたびに同じ作業を繰り返さずに済みます。体制は、差分を作る担当と、顧問先ごとの判断をする担当に分けることが考えられます。
費用は、利用する生成AIサービスの料金表で確認し、確認日を台帳に残します。効果の測定は、版ごとに、差分確認にかかった時間と、原文確認で見つかった修正の件数を記録する方法があります。
モデル就業規則の改訂と今後の論点
一次情報から言える範囲で、確認しておくとよい論点を整理します。
1つ目は、改訂の周期と通知の取り方です。モデル就業規則は、法改正の反映などを理由に改訂されます(出典: 厚生労働省 モデル就業規則)。厚生労働省のページを定期的に確認する担当者を決めておくと、顧問先への連絡の遅れを防げます。
2つ目は、特別休暇の広がりです。解説には、任意に設ける特別休暇の例が複数挙がっています。顧問先から制度の相談を受けたときに、どの休暇が法定で、どれが任意なのかを説明できるよう、事務所の資料を整えておく考え方があります。
3つ目は、差分確認の標準化です。事務所内で、比較の手順、プロンプト、確認者の記録の様式を共通にしておくと、担当者が替わっても品質をそろえられます。
よくある質問(FAQ)
モデル就業規則と異なる規定があると、顧問先の規則に問題が出ますか。
差分があること自体の評価は、有資格者が個別に判断する事項です。資料自体が、モデル例であり事業場の実態に合ったものとする旨を記載しています(出典: 厚生労働省 モデル就業規則 令和7年12月版(PDF))。
新旧の比較を、生成AIにすべて任せてもよいでしょうか。
差分の候補の抽出には使えますが、原文にない変更が混ざることがあるため、各行を原文で確認する工程を残してください。この記事の手順では、補助者が確認し、有資格者が最終確認をする流れにしています。
立候補のための休暇は、顧問先の規則に入れる必要がありますか。
入れるかどうかは、顧問先の実態を踏まえて有資格者が判断する事項です。解説には、選挙運動の期間外の準備を任意に休暇の対象とすることができる旨の記載があります(出典: 厚生労働省 モデル就業規則 令和7年12月版(PDF))。
顧問先の就業規則の全文を、生成AIに入力してよいでしょうか。
入力してよいかは、社会保険労務士法第21条の秘密を守る義務を踏まえ、ツールの契約条件や顧問先への説明などを総合して判断する事項です(出典: 社会保険労務士法第21条)。入力範囲を小さくする設計も検討できます。
就業規則を変更した後の手続は、どう確認すればよいですか。
労働基準法の第89条、第90条、第106条で、届出、意見聴取、周知に関する規定を確認できます(出典: 労働基準法第90条)。実際の運用は、所轄の労働基準監督署の案内も確認してください。
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規則の改訂案をAIで下書きするときの再確認の手順は、就業規則の改定案をAIで下書きするときの再レビュー7手順で扱っています。
参考文献
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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