Claude Securityとは、自社コードの脆弱性を探すAnthropicの診断機能のことです。
事務所のソースコードや内製スクリプトを、外部のAIに読ませてよいか。この問いに、事務所として答えを持っている先生は多くないと思います。この記事では、Anthropicが法人向けに提供するClaude Securityを題材に、弁護士・税理士の事務所が外部提供の前に確認しておきたい7点を整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、製品の仕様はAnthropicの公表ページで確認しています。Anthropicのヘルプ記事によると、新しいClaude Securityの利用にはClaude Enterpriseプランとユーザーごとのプレミアムシート、従量課金用の利用クレジットが前提とされています(出典: Use Claude Security)。
Claude Securityが2026年に動き出した背景とプランの前提
Claude Securityは、リポジトリを読み込み、脅威モデルを作ったうえで脆弱性を探す機能です。以前はClaude Code Securityという名前で、現在の名称に変わっています。Anthropicの公表ページは、Claude Enterpriseの顧客向けにパブリックベータとして提供し、ClaudeのチームプランとMaxプランへの提供は今後としています(出典: Claude Security is now in public beta)。この記事は4月30日付とされており、搭載モデルもOpus 4.7と記載されています。後日の記事とは記載が重なる部分と異なる部分があるため、現行の仕様はヘルプ記事で再確認する前提で読んでください。
2026年10月21日付のAnthropicの記事では、継続スキャンと修正追跡が案内されています。リポジトリのコード変更を見ながら継続的にスキャンし、修正が反映された指摘は修正済みと表示し、同じ問題が再び見つかれば自動で再オープンされる仕組みです。対象組織には、2か月間、毎月25,000ドル分の無料利用クレジットが付与され、適用は2026年12月31日までの利用分とされています(出典: Claude Security now scans continuously and tracks fixes)。
ここで、士業の事務所に何が関係するのかを整理します。弁護士事務所や税理士事務所の多くは、自前でアプリケーションを開発していません。ただし、顧問先との連絡用のポータル、申告データの変換スクリプト、書面の自動作成ツール、ExcelのマクロやPythonの小さな補助プログラムを、所員や外部の協力者が作っている事務所はあります。こうしたコードは、顧問先の氏名、口座情報、事件の概要といった情報に近い場所にあります。コードの中に接続情報やサンプルデータが埋まっていれば、コードを外部に出すことは、そのまま情報を外部に出すことにつながります。
もう一つ前提があります。Claude Securityの対象は、自社が所有し、スキャンする権利を持つコードに限られるとヘルプ記事に書かれています。オープンソースや、会社のコードベース以外のリポジトリは対象外とされています(出典: Use Claude Security)。事務所が外部の開発会社に作らせたツールのコードを、事務所が読み込んでよいかは、委託契約の権利関係の確認が先に来ます。
この記事の立場は、導入を勧めるものではありません。外部に提供する前に、事務所として何を決めておくかを、公表されている仕様から逆算して並べる記事です。
読み込ませる前に押さえる仕様 接続範囲と保持の取り扱い
仕様のうち、守秘義務の検討に直結する部分を先に整理します。ヘルプ記事によると、リポジトリの接続は、GitHubでは組織のオーナーがClaudeのGitHubアプリをインストールし、スキャン対象リポジトリへのアクセスを許可する形です。GitLabやBitbucketなどの場合は、リポジトリのアドレスと認証トークンが必要とされています。1つのプロジェクトには最大8つのリポジトリを接続でき、各リポジトリはスキャン対象か、読むだけで指摘はしないコンテキストのみかを選べます(出典: Use Claude Security)。
アクセス管理については、プロジェクト単位の共有ロールが用意されています。Fullは指摘、設定、アクセス権の管理ができ、Triageは指摘の閲覧、ステータス更新、修正開始ができ、Viewは閲覧のみです。管理者設定では、カスタムロールにより、誰がプロジェクトを作れるか、誰が全プロジェクトを閲覧・管理できるかを決められるとされています(出典: Use Claude Security)。
データの保持については、同じヘルプ記事に重要な記載があります。Zero Data Retentionはサポートされていないと書かれており、Anthropicは法律上の要求や利用規約違反への対応のために、データを保持する場合があるとされています。ゼロデータ保持を求める事務所や、第三者のモデル提供元を使いたい事務所には、Claude Code用のClaude Securityプラグインという別の選択肢が案内されています。ただし、プラグインの具体的な仕様はこの記事では確認していないため、要確認です。
また、検出の仕組みにも注意点があります。同じコードでも、実行のたびに結果が変わることがあると明記されています。重大度は脅威モデルに基づいて決まり、誤検知や文脈の見落としが起こりうるとされています。却下した指摘は、今後のスキャンで再表示されません。この仕様は、却下の理由を残す運用と組み合わせて考える必要があります。
ヘルプ記事に記載がなく、本記事では確認できなかった事項もあります。入力データのモデル学習への利用の扱い、データの保存地域、再委託先の一覧です。これらは記載なしの事実として控え、Anthropicの利用規約やトラストの資料で別途確認する事項にします。記載がないことを、問題がないことと同じに扱わない姿勢が出発点です。
外部提供の前に決める7点 事務所規模で組み立てる手順
ここからは、実際に確認する7点を、弁護士と税理士が数名ずつ在籍する合同事務所を想定して順に示します。内製のPythonスクリプトが複数あり、顧問先ごとの計算補助と書面の差し込みに使われている、という設定です。
1点目は、スキャンしてよいコードの棚卸しです。リポジトリや共有フォルダにあるコードを一覧にし、誰が書いたか、外部の開発会社が関わったか、ライセンスはどうなっているかを記録します。ヘルプ記事が対象を自社所有のコードに限っている以上、権利関係が曖昧なコードは外します。
2点目は、コードの中の機微な情報の洗い出しです。認証情報、接続文字列、顧問先名が入ったテスト用データ、実在の書面のサンプルなどが、コードやコメントに埋まっていないかを確認します。スキャンに出す前に、機密情報の検出ツールを所内で回す運用が考えられます。ここで見つかったものは、スキャンの前に取り除くか、そのリポジトリを対象から外します。
3点目は、接続範囲の設計です。ヘルプ記事では、大規模なリポジトリには、フォルダのスコープを設定して不要なフォルダを除外することが推奨されています。事務所の場合は、顧問先のデータに近いフォルダを最初から除外し、ロジックだけのフォルダに限る進め方があります。
4点目は、ロールの割り当てです。Full、Triage、Viewのうち、誰に何を渡すかを決めます。事務所の責任者がFull、内製ツールの担当者がTriage、他の所員はViewかアクセスなし、という分け方が一例です。
5点目は、費用の上限設定です。ヘルプ記事では、Claude Security専用の支出上限を設定でき、プロジェクト設定で当月と日ごとのコストを確認できるとされています。料金は直接のトークン費用のみで、追加のプラットフォーム料金はないとされています(出典: Use Claude Security)。無料クレジットの期間が終わった後の費用感は、事務所の規模では見えにくいため、上限を先に置きます。
6点目は、指摘の取り扱い手順です。指摘を受けたら、誰が内容を読み、誰が修正するかを決めます。ここが有資格者の確認工程に当たる部分です。AIが出した重大度は目安であり、顧問先の情報が動く処理に関する指摘は、事務所の責任者が内容を読んで優先順位を決めます。却下する場合は、理由を誤検知、許容リスク、重複、その他から選び、トリアージノートに残します。
7点目は、記録の置き場所です。指摘はCSVまたはMarkdownで書き出せ、WebhookでSlackやJiraなどに送ることもできます(出典: Claude Security is now in public beta)。書き出した記録に、コードの断片や脆弱性の詳細が含まれる点は、論点になります。連携先のチャットに流すと、閲覧範囲が広がります。事務所の保管場所と閲覧範囲を、書き出す前に決めておきます。
次のプロンプト例は、1点目の棚卸しを、事務所の担当者が作業メモとして整理するときに使えます。架空のリポジトリ名を前提にしており、実際のコードや顧問先の情報は入力しません。
あなたは法律事務所の情報管理担当を手伝うアシスタントです。
以下は、架空の内製ツール「ツールA」「ツールB」「ツールC」について、
私が手で書いた棚卸しメモです。コードそのものは含みません。
各ツールについて、次の四点を分けて整理してください。推測で補わず、
メモにない項目は「記載なし」と書いてください。
(1) 作成者と権利関係 (2) 顧問先の情報に触れる処理の有無
(3) 認証情報やテストデータが残っている可能性 (4) 外部提供の前に追加で調べる事項
【棚卸しメモ】
(ここに手書きメモを貼る)
2本目は、指摘を受けた後の対応方針メモの下書きに使えます。
以下は、架空の内製ツールについて、脆弱性診断の指摘を私が要約したものです。
指摘の内容を、事務所の責任者が判断するための材料に整理してください。
断定的な安全の保証は書かず、確からしさが不明な点は不明と書いてください。
(1) 影響が及ぶ範囲 (2) 修正に必要な作業の見込み
(3) 修正までの間に取りうる暫定措置 (4) 責任者が決める事項
【指摘の要約】
(ここに要約を貼る)
どちらの場合も、AIが整理した内容は、事務所の責任者が元の指摘と照らし合わせたうえで使います。AIの整理をそのまま事務所の判断の記録にしないことが、有資格者の最終確認の中身です。
守秘義務の根拠条文と、顧問先への説明の組み立て方
守秘義務の面から、外部提供の前に確認したい条文を挙げます。ここでは条文の引用に留め、個別の事案への当てはめはしません。
弁護士については、弁護士法第23条が、弁護士または弁護士であった者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負うと定めています。ただし書で、法律に別段の定めがある場合は例外としています。税理士については、税理士法第38条が、税理士は正当な理由がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、または窃用してはならないと定めています。税理士でなくなった後も同様とされています。
個人データの扱いでは、個人情報保護法第23条が、個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じる義務を定めています。同法第25条は、個人データの取扱いの全部または一部を委託する場合に、委託先に対する必要かつ適切な監督を行う義務を定めています。コードに個人データが含まれる状態でAIの診断サービスに出す場合、この委託や安全管理の枠組みで検討する余地があるかどうかは、論点になります。当てはまるかどうかの判断は、個別の事実関係を踏まえた有資格者の業務です。
事務所の規程に落とすなら、運用例として次のような項目が考えられます。外部のAIサービスにコードを提供できる条件、提供前の機密情報の検出手順、提供してよいリポジトリの承認者、提供した記録の保管期間、サービスを変更したときの再確認の手順です。これらは規範ではなく、事務所ごとに決める運用の素材です。
顧問先への説明については、コードそのものが顧問先の情報を含まない設計にしている事務所は、その旨を契約書や案内に書く運用があります。コードに顧問先のデータが含まれる可能性が残る場合は、外部のAIサービスを使うことを事前に説明し、同意を得る運用も考えられます。いずれの場合も、ヘルプ記事に書かれている保持の取り扱い、つまりゼロデータ保持が非対応であることを、説明の材料に含めるかどうかを事務所で決めます。
総務省・経済産業省のAI事業者ガイドラインとの関係は、別の記事で整理しています。AI事業者ガイドラインの第1.2版を事務所の規程に落とす手順は、AI事業者ガイドライン第1.2版 事務所のAI利用規程に足す7項目が参考になります。外部のAIと所内のサーバーをつなぐ構成を取る場合の論点は、MCPトンネルで所内サーバーをClaudeにつなぐ前に 士業事務所が確認する7論点で扱っています。
想定される失敗例と回避策
失敗の筋書きを三つ挙げます。いずれも架空の事例ですが、起こり方は現実の運用に近いものです。
一つ目は、テスト用データに実在の顧問先の情報が残っていたまま、リポジトリを接続してしまうケースです。開発の途中で本番のデータを一部コピーしてテストに使い、そのまま残っていることがあります。接続の前に、機密情報の検出と、テスト用データの確認を済ませる運用で避けやすくなります。
二つ目は、ロールの割り当てを決めないまま導入し、所員の全員が全プロジェクトを閲覧・操作できる状態になるケースです。ヘルプ記事にあるカスタムロールで、プロジェクトの作成権限と閲覧・管理権限を分けておけば、誰が何を見られるかを追いやすくなります。
三つ目は、AIの指摘を、事務所の判断の記録として扱ってしまうケースです。同じコードでも実行のたびに結果が変わりうることから、ある時点で指摘がなかったことは、問題がないことの記録にはなりません。指摘がなかった場合も、いつ、どの範囲に対して実行したかを記録するにとどめ、安全性の判断とは切り分けます。
また、却下の運用にも注意が要ります。却下した指摘は今後のスキャンで再表示されないため、却下の理由と日付をトリアージノートに残さなければ、後から経緯を追えなくなります。誤検知として却下したものが、コードの変更後には誤検知でなくなる可能性もあります。
費用・工数・体制の目安
費用は、ヘルプ記事の範囲では、Claude Enterpriseプラン、ユーザーごとのプレミアムシート、従量課金の利用クレジットが前提です。追加のプラットフォーム料金はなく、直接のトークン費用のみとされています。シートの単価や、スキャン1回あたりの費用は、ヘルプ記事では確認できなかったため、要確認です。無料クレジットの適用は2026年12月31日までの利用分とされているため(出典: Claude Security now scans continuously and tracks fixes)、費用を見積もる際は、無料期間の後の費用を別に試算します。
工数は、事務所の規模より、コードの本数と、顧問先の情報への近さで変わります。棚卸しと機密情報の洗い出しに数日、ロールと保管場所の設計に数日、初回のスキャンと指摘の読み込みに数日、という配分を置く事務所が考えられます。ヘルプ記事では、初回のベースラインスキャンの所要時間は、リポジトリの規模により数分から数時間とされています(出典: Use Claude Security)。
体制は、事務所の責任者、内製ツールの担当者、情報管理の担当者の3役が目安です。小規模な事務所では、一人が兼ねることになるため、少なくとも、指摘を読む人と、公開範囲を決める人を分けておくと、確認の工程が一人に集中しません。
今後の展望と独自考察
論点になるのは、士業の事務所が、AIを使う側にとどまらず、AIに読ませる側にもなるという点です。これまでの議論は、顧問先の資料をAIに入力する場面が中心でした。コードの診断では、事務所が作ったものを外に出します。この場合の守秘義務の検討は、コードに含まれる情報の洗い出しから始まります。
もう一つの論点は、サービスの仕様が短い間隔で変わることです。この記事で参照した公表ページ同士でも、公表日、モデル名、提供の範囲に差があります。仕様の確認は、導入のときだけでなく、更新のたびに行う運用が、論点になります。
プラン面では、チームプランやMaxプランへの提供が今後とされています。事務所の規模では、Enterpriseプランの契約が負担になる場合があるため、提供範囲の拡大が、検討の入口を変える可能性があります。ただし、提供の時期は公表されておらず、要確認です。
よくある質問
Claude Securityは、事務所のExcelマクロも診断できますか。
ヘルプ記事に書かれているのは、リポジトリに接続してコードをスキャンする使い方です。Excelのマクロを直接診断できるかは確認できていないため、要確認です。
顧問先の情報がコードに入っていなければ、守秘義務の論点はなくなりますか。
コードに顧問先の情報が含まれないことは、論点を小さくする要素の一つです。ただし、接続情報やコメントに情報が残っていないかの確認が先に来ます。弁護士法第23条や税理士法第38条との関係は、個別の事実関係で検討する事項です。
ゼロデータ保持に対応していないと、利用できませんか。
ヘルプ記事は、ゼロデータ保持が非対応であることを記載しています。利用できるかどうかは、事務所が扱うコードの性質と、規程で決める事項です。別の選択肢として案内されているプラグインの仕様は、要確認です。
指摘が出なければ、ツールは安全だと説明してよいですか。
説明の仕方は事務所が決めます。ヘルプ記事では、同じコードでも実行のたびに結果が変わることがあると明記されているため、指摘がなかったことを安全の保証として扱わない考え方があります。
無料クレジットが終わった後の費用は、どう見積もればよいですか。
ヘルプ記事の範囲では、単価が確認できません。専用の支出上限を設定し、月次と日次のコストを確認しながら、小さな範囲から始める運用が考えられます。
外部の開発会社に作らせたコードは、診断に出せますか。
ヘルプ記事は、自社が所有し、スキャンする権利を持つコードに対象を限っています。委託契約で権利がどう決まっているかを確認し、不明な場合は開発会社に問い合わせる事項になります。
参考文献
- Anthropic Claude Security is now in public beta
- Anthropic Claude Security now scans continuously and tracks fixes
- Claude ヘルプセンター Use Claude Security
- e-Gov法令検索 弁護士法第23条
- e-Gov法令検索 税理士法第38条
- e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律第23条・第25条
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/
本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。
記載内容に誤りを見つけられた場合は、お問い合わせよりご指摘ください。確認のうえ速やかに訂正し、訂正履歴を記事内に残します。編集方針の詳細は運営者情報をご覧ください。