契約書レビューAIで5時間が10分に 神戸マリン綜合法律事務所の事例を読む7つの視点

LegalOnの導入事例で語られた5時間が10分になった感覚は、何の作業の何を比べた数字か。神戸マリン綜合法律事務所の事例を分解し、自事務所で測り直す7つの視点を整理します。

契約書レビューAIで5時間が10分に 神戸マリン綜合法律事務所の事例を読む7つの視点

契約書レビューAIの事例とは、導入事務所が公表した時間短縮の声のことです。

LegalOn Technologiesの導入事例ページに、見出しで5時間が10分になったと謳う法律事務所の事例があります。この記事では、その事例が何の作業の何を比べた数字なのかを分解し、自分の事務所で同じ種類の短縮を測り直す7つの視点を整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、事例の中身は提供元が公開している個別ページで確認しました。導入の可否や契約書の最終判断は、各事務所の有資格者が行う事項です。見出しの数字は、事例ページの本文を読むと、計測値ではなく取材に応じた弁護士の体感として語られていました(出典: LegalOn Technologies 神戸マリン綜合法律事務所 導入事例)。

見出しの数字が指している作業を、本文で確かめる

最初に、公表されている事実を切り分けます。事例ページによると、短縮されたと語られているのは、契約書の作成やレビューに入る前の、知識確認の下準備にあたる時間です。レビュー作業全体が5時間から10分になった、という書き方ではありません。取材に応じた弁護士は、まともにやれば5時間かかっていた作業が10分になった感覚だと述べており、本文はこれを体感として扱っています(出典: 神戸マリン綜合法律事務所 導入事例)。

取材日は2024年6月と記載され、掲載内容は取材当時のものとされています。公開日の記載は見当たりませんでした。事務所の規模は明記されていませんが、本文からは弁護士が3名ほど在籍する事務所と読み取れます。顧問先には介護事業所、歯科医院、寺院が挙がっていると本文にあります(出典: 神戸マリン綜合法律事務所 導入事例)。

つまりこの事例から言えるのは、少人数の事務所で、顧問先の契約書を扱う弁護士が、下準備の時間が大きく減ったと感じている、という範囲です。一般化できるのはここまでです。見出しの数字が何件分の何の作業だったのか、短縮後の時間の中に弁護士の読み込みが含まれるのかは、ページからは確認できません(出典: 神戸マリン綜合法律事務所 導入事例)。確認できない点は、読む側で空白として残しておくのが安全です。

もう一点、導入前の経緯も押さえておきます。本文によると、この事務所は以前、同じ提供元の旧製品を使っていました。デモを見て弁護士の本来の仕事の進め方に近いと感じたことが、乗り換えの理由として述べられています(出典: 神戸マリン綜合法律事務所 導入事例)。新規にAIを入れた事務所の数字ではなく、すでに契約審査ツールに慣れた事務所の使い替えである点は、数字を読むときの前提になります。

事例に登場する機能と、時間が動く場所の関係

本文に挙がっている機能は、契約リスクチェック、条文検索、統合編集画面、バージョン管理と比較、ひな形の5つです。統合編集画面では、編集、リスクチェック結果の確認、比較、保存やダウンロードを一つの画面で行えると説明されています(出典: 神戸マリン綜合法律事務所 導入事例)。

時間が動きやすい場所を、機能ごとに考えてみます。条文検索は、過去に扱った契約書から類似条項を引く作業の時間を縮める機能です。本文でも、過去の契約書をナレッジとして活用しやすくなった点が語られています。契約リスクチェックは、不利な条項や欠けている条項の見落としを減らす機能で、レビュー結果に法的な根拠が表示される点が効果の背景として挙げられています。ひな形は、ゼロから作らずに済む時間を生みます。

ここで大事なのは、これらが縮めるのは主に、探す、並べる、見比べるといった周辺作業だという点です。依頼者の事情を踏まえて、この条項を受けるかどうかを決める判断そのものは、機能の対象ではありません。弁護士が担う判断と、道具が担う下準備の線引きは、事例を読むときも導入後の運用でも変わらない軸になります。

自事務所で同じ種類の短縮を測り直す7つの視点

事例の数字を鵜呑みにせず、自事務所の数字に置き換える手順を整理します。測るのは、下準備の時間です。以下は運用例であり、これが唯一の方法というわけではありません。

  1. 測る作業を一つに絞る。契約書レビュー全体ではなく、類似条項の確認や過去書面の参照といった、下準備にあたる作業を一つ選びます。
  2. 導入前の基準を取る。直近の同種の案件を数件選び、所要時間を実測します。記憶ではなく、タイムシートか自己記録を使います。
  3. 件数と難度の条件を揃える。定型の取引基本契約と、個別交渉が多い契約は分けて集計します。事例の数字が成り立つ条件は、扱う契約書の種類に左右されると考えられます。
  4. 導入後に同じ作業を同じ方法で測る。ツールの操作時間と、結果を読む時間の両方を含めます。
  5. 結果の読み込み時間を別建てで記録する。AIの出力を読んで取捨選択する時間が、削減分を食いつぶしていないかを見るためです。
  6. 有資格者の最終確認を計測対象から外さない。確認の工程を省いた短縮は、事務所の品質基準と両立しません。確認の時間は短縮の分母にも分子にも入れて記録します。
  7. 3か月ほど続けて平均を見る。一度の印象で判断せず、期間と件数で均します。

この7つを回せば、体感で語られた短縮が自事務所でどの程度再現されるかを、数字で言えるようになります。測定の設計そのものは、生成AIに下書きさせることもできます。次のプロンプト例は、測定シートの項目案を出させるためのものです。

あなたは法律事務所の業務改善担当です。
架空の事務所「甲法律事務所」(弁護士3名、事務職員2名)が、契約書レビュー前の
「類似条項の確認・過去書面の参照」にかかる時間を、AI導入前後で比較する測定シートを作ります。
次の条件で、記入項目の案を出してください。
- 記録者は弁護士と事務職員の両方
- 案件の種類(定型/個別交渉)を分けて集計できること
- AI出力を読む時間と、弁護士の最終確認の時間を別欄にすること
- 顧問先名や契約当事者名は記入欄に入れず、案件番号だけで管理すること
出力は項目名と記入例の一覧にしてください。法的な判断や結論は書かないでください。

守秘義務・規程上の論点 顧問先の契約書をAIに通す前に決めておく3つのこと

ここからは、守秘義務と規程の話です。契約書レビューAIには顧問先の契約書そのものを入力するため、導入の前に事務所として決めておくべき事項がいくつかあります。

一つ目は、入力データの取扱いを提供元の公式資料で確かめることです。入力した契約書が学習に使われるのか、保存期間はどうか、どの国のサーバーに置かれるのか。これらは製品ごとに異なり、事例ページには書かれていません。契約前に、提供元の利用規約とセキュリティ関連の公開資料を読み、自事務所の記録として保管しておくことを勧める事務所があります。

二つ目は、守秘義務の根拠を押さえることです。弁護士法第23条は、弁護士またはその職にあった者に、職務上知り得た秘密を保持する権利を認め、義務を課しています。ただし、法律に別段の定めがある場合は別とされています(出典: e-Gov法令検索 弁護士法第23条)。また、刑法第134条は、弁護士などが正当な理由がないのに、業務上知り得た人の秘密を漏らしたときの罰則を定めています(出典: e-Gov法令検索 刑法第134条)。AIツールへの入力がこれらの規定の関係でどう評価されるかは、条文の当てはめにあたります。本記事では判断せず、論点として示すにとどめます。個別の事案は、事務所内の有資格者が検討する事項です。

三つ目は、顧問先への説明と同意の範囲です。個人データを第三者に提供する場面について、個人情報保護法第27条は、原則としてあらかじめ本人の同意を得ることを求め、例外を列挙しています。委託に伴う提供など、第三者に当たらないとされる場合の定めも同条にあります(出典: e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律第27条)。契約書に個人の氏名や住所が含まれる場合に、AIツールの利用がこの条文の関係でどう整理されるかは、論点になります。顧問契約書や委任契約書に、クラウド型ツールの利用を想定した一文を入れておく事務所もあります。

事務所規程に落とすなら、たとえば次の項目が候補になります。利用を許可するツールの一覧、入力してよい情報の範囲、入力前の匿名化の手順、出力を依頼者に提出する前の有資格者の確認、利用履歴の保管。これらは運用例であり、規範として示すものではありません。自事務所の実態に合わせて、有資格者が決める事項です。

事例から読み取れる注意点と、失敗に至りやすい場面

同じ提供元の別の導入事例には、使い手への注意を述べた弁護士がいます。ベンチャーラボ法律事務所の事例では、弁護士の淵邊氏が、経験の浅い利用者は取引特有のリスクを十分に検討しないままレビューした気になる恐れがあるため注意が必要だと語っています。その上で、このツールを自分の頭で考えるための一つの道具として使うべきだと述べています(出典: ベンチャーラボ法律事務所 導入事例)。

この指摘を手がかりに、失敗に至りやすい場面を三つ挙げます。

一つ目は、出力のチェック結果を、そのまま結論として依頼者に返してしまう場面です。リスク指摘が出なかったことと、リスクがないことは別の話です。指摘されなかった条項について、取引の背景を踏まえて読み直す工程を省くと、見落としが残ります。

二つ目は、短縮の数字が一人歩きして、見積りや報酬の基準になってしまう場面です。5時間が10分になったと聞いて、下準備の時間を前提に見積りを組み替えると、実際の案件で再現しなかったときに採算が崩れます。数字は、自事務所で測り直したものだけを根拠にします。

三つ目は、ツールの利用が野良化する場面です。個々の弁護士が各自の判断でツールを使い、誰が何を入力したのかを事務所として追えなくなると、守秘義務の管理が破綻します。利用者の登録と、利用履歴の保管は、導入と同時に決めておく項目です。

事例の数字を、顧問先や所内に伝えるときの言い方

導入後に、顧問先から、AIを入れたなら費用は下がるのかと聞かれる場面があります。このとき、見出しの数字を借りて短縮を約束すると、後で食い違いが出ます。自事務所で測った数字と、測れていない範囲を分けて話す事務所があります。たとえば、下準備にあたる作業の時間は、導入前後の実測で数割動いた、一方で依頼者の事情を踏まえた判断の時間は変わらない、という説明です。

所内向けには、数字より運用の変化を先に伝えるほうが定着しやすいと考えられます。条文検索で過去の書面を引く、リスクチェックの結果を見てから読み始める、確認の工程で有資格者が目を通す、といった動作の単位で共有します。動作が揃えば、測定の条件も揃います。

また、事例の中で語られた声は、導入した事務所の主観を含みます。取材は提供元が行い、掲載も提供元のサイトです。事例の価値を否定する意味ではなく、情報の出どころを意識して読むという意味で、複数の事務所の事例や、第三者が行った検証と突き合わせることが、判断の精度を上げます。同じ提供元の他の法律事務所の事例が、どのような業務の何を比べているかは、一覧ページから個別に確認できます(出典: LegalOn Technologies 法律事務所の導入事例一覧)。

事例を読む順番にも工夫があります。見出しの数字は後回しにして、まず事務所の規模、扱う契約書の種類、取材日、使われている機能の4点を拾います。その上で、数字が何の作業の何を比べているかを確かめます。この順で読むと、数字に引きずられずに、自事務所との距離を測れます。

導入の検討段階では、提供元に問い合わせて確認する質問も用意しておくと役立ちます。短縮の数字は誰がどう測ったのか、対象の契約類型は何か、利用開始から効果が出るまでの期間はどれほどか、使われなかった機能はあるか。これらの回答は、記録として残しておきます。回答が得られない項目は、自事務所の測定で埋める項目として扱います。

費用と工数と体制の見積り方

事例ページには、料金に関する記載は見当たりませんでした。費用は、提供元への問い合わせで個別に確認する必要があります。ここでは金額ではなく、見積りに入れる項目の種類を示します。

費用面では、ライセンス料、利用人数による変動、旧ツールからの移行費用が確認項目になります。工数面では、導入時の設定、ひな形や過去書面の整理、利用ルールの策定、所内研修の時間を見込みます。体制面では、運用の窓口を誰が持つかを決めます。少人数の事務所なら代表弁護士が兼ねる形もありますが、日々の問い合わせと記録の管理を事務職員に分担する事務所もあります。

費用対効果の測り方は、別の記事でも整理しています。導入前後の時間を測って金額に換算する手順は、士業事務所のAI費用対効果をどう測るか|ROI測定の7手順が参考になります。ツールの比較の観点は、AI契約書レビューをどう選ぶか 事務所が置く7つの選定基準にまとめています。

今後の展望と独自考察

この事例で興味深いのは、短縮が語られている場所が、判断の手前の下準備だという点です。契約書レビューAIの価値を、判断の自動化として語る風潮がある中で、現場の弁護士が実感している価値は、判断に入る前の探索と整理の時間の圧縮にあるように読めます。

今後の論点は三つあります。一つ目は、下準備が縮んだ分の時間を、事務所がどこに振り向けるかです。依頼者との対話に回すのか、案件の受任数を増やすのか。二つ目は、体感で語られた数字を、業界としてどう検証していくかです。計測の方法が公開されれば、比較の土台ができます。三つ目は、導入事例の取材時期が古い場合の読み方です。製品は更新されるため、取材日と現在の機能の差を意識して読む必要があります。この点は、同じ提供元の事例ページの注記からもうかがえます。

提供元の製品は、弁護士設計のスキルやプレイブックの機能も拡張されています。関心がある場合は、LegalOnに弁護士設計のスキル40種超搭載、選ぶだけで使う7つの視点も併せて読んでください。

次のプロンプト例は、契約書の下準備メモを作らせる際の型です。実在の顧客情報は入れず、架空の当事者名で運用を試すところから始めます。

あなたは契約書レビューの下準備を支援するアシスタントです。
次の条項(架空のA社とB社の業務委託契約書の損害賠償条項)について、
弁護士がレビューに入る前の整理メモを作ってください。
- 条項の要旨を3行以内で
- 弁護士が判断すべき論点の候補を3つ。結論は書かず、論点の提示にとどめる
- 確認すべき追加資料の候補
法律上の結論や、有効無効の評価は書かないでください。
(以下に条項の文面を貼る)

よくある質問

見出しの5時間が10分は、レビュー全体の短縮ですか。

違います。事例ページの本文では、契約書の作成やレビューに入る前の、知識確認の下準備にあたる作業の時間と説明されています。取材に応じた弁護士の体感であり、計測値ではないと本文から読み取れます。

同じ短縮は自事務所でも起きますか。

起きるかどうかは、自事務所で測らないと分かりません。契約書の種類、過去書面の蓄積量、ツールへの習熟度で結果が変わると考えられます。前述の7つの視点で、導入前後を同じ条件で比べる方法があります。

顧問先の契約書をAIに入力する前に、何を確認しますか。

入力データの学習利用、保存期間、保存場所を、提供元の公式資料で確かめます。あわせて、顧問契約書の記載と顧問先への説明の範囲を確認します。守秘義務の根拠である弁護士法第23条と、個人情報保護法第27条の関係は、論点として事務所内で検討します。

AIがリスクを指摘しなかった条項は、読まなくてもよいですか。

読み直す工程を残している事務所が多いと考えられます。指摘がないことは、リスクがないことの証明ではありません。同じ提供元の別事例でも、取引特有のリスクの検討を省く恐れが、使い手への注意として語られています。

事例の取材時期が古い場合は、どう読みますか。

取材日と現在の機能の差を意識して読みます。この事例の取材日は2024年6月と記載され、ページには取材当時の内容であると注記があります(出典: 神戸マリン綜合法律事務所 導入事例)。最新の機能は、提供元の現行ページで確認します。

少人数の事務所でも、測定は現実的ですか。

現実的です。測る作業を一つに絞り、数件の案件を記録するだけでも、傾向は見えます。大がかりな仕組みは要りません。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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