生成AIの調達・利活用ガイドライン2.0版とは、府省が生成AIを調達し使う際の指針のことです。
公共案件の提案書でAIの扱いはデジタル庁のガイドラインに沿っている、と書く前に、そのガイドラインが誰を対象にした文書かを確かめているでしょうか。この記事では、デジタル庁が2026年6月12日に公表した生成AIの調達・利活用に係るガイドライン2.0版の公表資料を確認し、行政書士や中小企業診断士が提案や支援の場面で参照するときの手順を7つに整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。デジタル庁の公表ページによると、2.0版は2026年6月12日に開かれたデジタル社会推進会議幹事会で承認されています(出典: デジタル庁 ガイドライン2.0版(英語ページ))。
公表資料から確認できる2.0版の位置づけ
最初に、公表されている事実を整理します。デジタル庁の英語ページによると、2.0版は2025年5月27日に策定された最初の版の改訂版で、生成AI関連技術の進展、利用場面の広がり、国内外の制度や政策の動きを踏まえた改訂とされています(出典: デジタル庁 ガイドライン2.0版(英語ページ))。同ページには、仮訳と概要、初版との変更箇所を示す資料も載っているとされています。
概要資料を確認すると、このガイドラインは、生成AIの利活用促進とリスク管理を表裏一体で進めるため、政府におけるAIの推進、ガバナンス、調達、利活用のあり方を定める文書、と説明されています(出典: デジタル庁 ガイドライン2.0版概要)。対象は、各府省の生成AIシステムに関わるAI統括責任者、企画者、提供者、利用者です。つまり、このガイドラインが直接に名宛人としているのは、国の府省の側です。士業事務所や民間の事業者が、そのままの形で従う文書ではありません。ここは、提案書に書く前に押さえておきたい点です。
概要資料によると、運用開始は2025年5月で、2.0版の内容は2026年9月1日から施行され、AIガバナンスの枠組みの対象は2026年7月1日からとされています(出典: デジタル庁 ガイドライン2.0版概要)。日付の細部は、本文のPDFでも突き合わせる必要があるため、要確認とします。
なお、デジタル庁の資料の本文PDFは、デジタル社会推進標準ガイドラインDS-920として公表されています(出典: デジタル庁 DS-920 本文)。提案書で引用する場合は、概要ではなく本文の該当箇所を確認する運用があります。
調達チェックシートや事故報告など、概要資料に書かれている項目
概要資料から確認できる仕組みを、順に見ていきます。
対象範囲については、原則として、入力がテキストまたは音声で、出力がテキスト、画像または音声となり得る生成AIシステムが対象で、特定秘密や安全保障などの機微な情報を扱うシステムは対象外、と記載されています(出典: デジタル庁 ガイドライン2.0版概要)。出力に画像や音声が含まれる点は、2.0版の対象範囲の広がりとして読む余地があります。
リスク管理については、高リスク判定シートの三つの観点があります。生成AI利活用業務の性格、利用範囲、出力結果が政府職員などの判断を経て利活用されるか、の三つで、これを見て各府省がアドバイザリーボードに助言を求めるかを判定する、と書かれています。
事故報告については、リスクケースが生じた場合に、提供者と利用者が各府省のAI統括責任者へ報告し、提供者が必要な対応を行う、とされています。アドバイザリーボードは報告を受け、必要に応じて再発防止策を検討する、という流れです。
調達については、調達チェックシートが事業者への要求事項を二十一の要件項目として整理しており、AI事業者ガイドラインの遵守、有害情報や偽誤情報の出力制御、バイアスの抑止、個人情報や知的財産の取り扱い、ベンダーロックインの回避などが挙がっています。契約チェックシートは、契約で取り決める項目を整理しています。適用の判断は各府省が行う、とも書かれています。
AIエージェントについては、キーワードとして話題になっていますが、概要資料には記載が見当たりませんでした。本文PDFで確認できていないため、AIエージェントの扱いは要確認とし、本記事では断定しません。
提案や支援の場面で参照する7手順
ここから、行政書士や中小企業診断士が、公共案件の提案や顧問先支援でこのガイドラインを参照するときの手順の一例を示します。
手順1は、文書の名宛人の確認です。前述のとおり、名宛人は府省側です。提案書には、ガイドラインを遵守している、と書くのではなく、発注側が参照している文書として、どの項目を意識して提案を組み立てたかを書く運用があります。
手順2は、案件の公告資料の確認です。仕様書や募集要項に、ガイドラインや調達チェックシートへの言及があるかを見ます。言及があれば、その部分が提案に求められる範囲になります。
手順3は、チェックシートの項目との対応表づくりです。調達チェックシートの要件項目を、事務所の提案内容に対応づけます。対応が取れない項目は、取れないと正直に書くか、外部の協力先を加えるかを検討します。
手順4は、個人情報や知的財産の扱いの整理です。提案書に、AIへ入力する情報の範囲と、出力物の権利の扱いを書く運用があります。
手順5は、事故が起きたときの連絡経路の記載です。概要資料の事故報告の仕組みに沿って、提供者と利用者の役割を整理し、自事務所がどの立場かを明示します。
手順6は、生成AIによる下書きの活用です。提案書の各章の下書きや、対応表の素案づくりに生成AIを使う方法があります。ただし、条文や日付の引用は、原文と照合します。
手順7は、有資格者による最終確認です。提案書に書いた内容が、公表資料と合っているかを、担当者が一つずつ確かめます。ガイドラインの解釈や、案件への当てはめは、本記事では評価しません。事務所の判断事項です。
対応表の下書きに使うプロンプト例
手順3と手順6で使う指示は、次のような形にする方法があります。案件名や会社名は、架空のものに置き換えて使います。
あなたは行政書士事務所の提案書づくりの補助役です。
次の調達チェックシートの項目と、甲事務所の提案内容を照らして、対応表の素案を作ってください。
資料に書かれていないことは補わず、対応が取れない項目は「対応未定」と書いてください。
条件:
- 法令やガイドラインの解釈は書かない
- 各行に「項目」「提案内容の該当箇所」「根拠資料の頁」を入れる
項目:
(ここに調達チェックシートの項目を貼る)
提案内容:
(ここに提案の要点を貼る)
次の提案書の一節を、発注側の担当者が読みやすいように整えてください。
言い切りを避け、根拠は資料名と頁で示してください。
原文にない数字や日付を加えないでください。
一節:
(ここに提案書の一節を貼る)
返ってきた対応表は、原本のPDFと照合します。項目の数や名称が、実際の資料と一致しているかを、担当者が確かめます。
職種ごとの使いどころ
行政書士は、官公庁への申請書類や契約書類の作成を業とする立場から、公共案件の入札参加資格の申請や、提案書の書式面の支援に関わる場面があります。そのときに、発注側が参照している文書の位置づけを説明できると、依頼者との会話が進めやすくなります。ただし、書類の作成範囲や、他の士業の独占業務との線引きは、各事務所の有資格者が判断する事項で、本記事では評価しません。
中小企業診断士は、補助金の申請支援や、経営改善計画の策定支援で、AIの導入計画を扱う場面があります。公共の調達で使われるチェックシートの考え方は、民間の中小企業がAIを導入する際の自己点検にも、参考にできる部分があるという見方があります。ただし、府省向けの文書をそのまま中小企業に当てはめるのではなく、考え方を借りる形で使います。
どちらの職種でも、依頼者に国のガイドラインの内容を伝えるときは、名宛人、適用の範囲、施行の時期を併せて伝えると、誤解を減らせます。
公告資料を読むときの見方
公共案件の公告資料を読むときは、いくつかの観点で整理する方法があります。
観点の一つ目は、生成AIの利用を求めているのか、制限しているのかです。仕様書の記載から、提案で生成AIを使ってよいかが読み取れる場合があります。記載がない場合は、質問の機会を使って確かめる運用があります。
観点の二つ目は、データの取り扱い条件です。発注側から受け取る資料の持ち出し、第三者への提供、クラウドサービスの利用に関する条件が、契約書や仕様書に書かれていることがあります。生成AIへの入力は、この条件との関係を先に確かめます。
観点の三つ目は、成果物の権利です。提案書や納品物に生成AIの出力を含める場合の、権利の帰属や表示の求めが、書かれているかを見ます。
観点の四つ目は、事故が起きたときの報告の求めです。概要資料の事故報告の仕組みと併せて、公告資料に連絡経路や期限の記載があるかを確かめます。
提案書の構成例
提案書にAIの扱いを書く場合の構成例を示します。これは編集部が想定した一例で、案件によって書き方は変わります。
最初に、提案の目的と対象業務を書きます。次に、生成AIを使う工程と使わない工程を分けて示します。そのうえで、使う工程では、入力する情報の範囲、出力の確認方法、最終確認を行う担当者の役割を書きます。さらに、事故が起きたときの連絡経路と、再発防止の考え方を書きます。最後に、参照した公表資料の名称と日付を、一覧にして添えます。
この構成にすると、発注側の担当者が、チェックシートの項目と見比べやすくなります。提案書の文章は、断定を避け、根拠の資料名と頁を併記すると、後から確認しやすくなります。
施行までの準備の進め方
概要資料に書かれた施行の時期を踏まえると、準備には段階を設ける方法があります。編集部が想定する一例として、まず公表資料の確認を済ませ、次に自事務所の提案書の雛形にAIの扱いを書く欄を設け、その後に公告資料が出るたびに対応表を更新する、という流れです。
雛形を先に整えておくと、案件ごとの手戻りが減ります。雛形には、生成AIを使う工程と使わない工程の区別、入力する情報の範囲、確認の担当者、参照した資料の一覧、の欄を設けます。欄の見出しは、チェックシートの言葉に寄せておくと、発注側が読みやすくなります。
準備の途中で迷いやすいのは、自事務所がガイドラインの用語でいう、提供者と利用者のどちらの立場に近いかです。概要資料は企画者、提供者、利用者の役割を分けて書いています。公共案件に事業者として関わる場合の立場は、案件の契約形態によって変わるため、仕様書と契約書で確かめます。判断がつかないときは、発注側の質問窓口を使う運用があります。
あわせて、所内の勉強会で、概要資料を読み合わせる方法もあります。担当者ごとに読み方が分かれやすいため、読み合わせの際に、名宛人、適用の範囲、施行の時期の三点を最初に確認すると、議論が整理されます。
加えて、概要資料を読んだ後は、気づいた疑問点を一覧にしておくと便利です。たとえば、AIエージェントの扱い、画像や音声の出力を含む場合の確認事項、事故報告の具体的な期限などです。これらは本文PDFや、発注側への質問で確かめる項目になります。疑問点の一覧は、所内で共有し、確認が済んだものから消していく運用があります。
守秘義務と個人情報の論点
提案や支援の場面でも、守秘義務の整理は欠かせません。行政書士法は第12条で、業務上取り扱った事項について知り得た秘密を漏らしてはならないと定めています。当てはめは、各事務所の有資格者の判断事項です。
顧問先の情報をAIに入力する場合の注意点としては、個人情報保護委員会の生成AIサービスの利用に関する注意喚起が公表されています。公共案件では、発注側から受け取る資料の取り扱い条件が別に定められていることもあり、生成AIへの入力の可否を契約書や仕様書で先に確かめる運用があります。
顧問先への説明では、提案書づくりにAIを補助的に使うこと、入力する情報の範囲、最終確認は担当者が行うこと、の三点を伝える運用例があります。
失敗例と回避策
失敗の一つ目は、府省向けの文書を、民間向けの基準のように書いてしまうことです。名宛人の確認を怠ると、提案書の主張が根拠を超えてしまうおそれがあります。回避策は、手順1のとおり、名宛人と適用の範囲を提案書の冒頭に明記することです。
二つ目は、概要資料だけを読んで引用することです。概要には載っていない項目があり、AIエージェントの扱いはその例です。本文PDFで確かめてから引用する運用があります。
三つ目は、生成AIが作った対応表の項目数や名称が、原本とずれていることに気づかないことです。回避策は、原本との照合を手順に入れることです。
費用と工数、今後の論点
ガイドラインの読み込みと対応表づくりは、主に事務所内の作業です。工数の目安として、概要と本文の確認に半日、対応表の作成に一日程度を見込む事務所があります。これは編集部の想定で、案件の規模によって変わります(要確認)。
費用の面では、ガイドラインの確認そのものに外部への支払いは生じにくく、主なコストは担当者の時間です。提案書の雛形を整える作業は、一度つくれば複数の案件で使い回せるため、最初の投資として位置づける事務所があります。
今後の論点は、2026年9月1日の施行後に、各府省の公告資料へガイドラインへの言及がどう現れるかです。公告資料の書きぶりが分かれば、提案書に求められる粒度も見えてきます。規程づくりの側からは、AI利用規程の四半期点検と改定履歴の7手順も参考になります。
よくある質問
このガイドラインは民間の事務所にも適用されますか
概要資料によると、対象は各府省の生成AIシステムに関わるAI統括責任者、企画者、提供者、利用者です。民間事務所への当てはめは、本記事では評価しません。
2.0版はいつ公表されましたか
デジタル庁の公表ページによると、2026年6月12日に承認されています(出典: デジタル庁 ガイドライン2.0版(英語ページ))。
施行日はいつですか
概要資料には、2.0版の内容は2026年9月1日から施行と記載されています(出典: デジタル庁 ガイドライン2.0版概要)。本文PDFでも確認してください。
AIエージェントは対象ですか
概要資料には記載が見当たりませんでした。本文PDFで確認できるまで、要確認です。
チェックシートはどこで見られますか
デジタル庁の公表ページに、本文と概要が掲載されています。調達チェックシートの項目は本文で確認してください。
提案書の下書きに生成AIを使ってもよいですか
下書きに使い、担当者が原資料と照合し、最終確認を行う運用があります。
参考文献
- デジタル庁 ガイドライン2.0版(英語ページ)
- デジタル庁 ガイドライン2.0版概要
- デジタル庁 DS-920 本文
- 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について
- e-Gov法令検索 行政書士法
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本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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