商標調査にAIとJ-PlatPat併用 弁理士が検証する7確認軸

商標調査に生成AIとJ-PlatPatを併用する動きが広がっています。弁理士が類否判断の限界を踏まえて確認すべき7つの軸を、実務上の注意点とあわせて解説します。

商標調査にAIとJ-PlatPat併用 弁理士が検証する7確認軸

商標の類否判断とは、既存の登録商標と紛らわしいかどうかの判定のことです。

生成AIを商標調査の下書きに使う弁理士事務所が増える一方で、AIによる類否判断には限界があるという指摘が実務者の間で続いています。本記事では、商標調査に生成AIとJ-PlatPatを併用する際、弁理士がどこを確認すべきかを7つの軸に分けて解説します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しており、法令の条文はe-Gov法令検索の原文で確認しています。J-PlatPatの称呼検索は、カタカナのみの検索に限定され、類似検索でヒットした商標がそのまま類似商標と判断されるわけではないと案内されています(出典:INPIT J-PlatPat講習会でのご質問と回答)。

商標調査にAIが持ち込まれる2026年の状況

商標調査の実務では、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)が提供するJ-PlatPatが、称呼検索、商標検索、図形商標検索といった複数の検索手段を備えています。称呼検索には「称呼(単純文字列検索)」と「称呼(類似検索)」の2種類があり、いずれもカタカナのみの検索に限定されます。図形商標検索には「Graphic Image Park」というツールが用意され、JPEG・GIF・PNG・TIFF形式の画像入力に対応しています(出典:INPIT J-PlatPat講習会でのご質問と回答)。

こうした検索機能を使いこなすには経験が必要とされており、実務解説の記事では、検索の仕方によっては網羅的に検索できていない可能性があること、情報反映にタイムラグが生じること、検索結果をどう評価するかが非常に難しく経験が必要であることが指摘されています(出典:京都の商標屋さん)。生成AIを調査の下書きに使う動きが広がる背景には、この評価の難しさを補いたいという実務上のニーズがあります。

一方で、AIによる類否判断の限界も指摘されています。画像検索については、AIによる検索結果はまだ実証実験の途上であり、ウィーン図形分類に基づく調査のほうが明確とされています。また、AIが指定商品・指定役務を適切に選択したとしても、そもそもユーザーが弁理士に依頼する際に入力した指定商品・指定役務が正しいとは限らないという、根本的な課題も指摘されています(出典:商標登録ドットコム)。生成AIは、短時間で自動的に商標調査ができる段階には達しておらず、弁理士など専門家が補助ツールとして使うべき段階にあるとされています(出典:前掲の商標登録ドットコム)。

こうした指摘は、生成AIの精度が低いという単純な話ではありません。商標の類否判断は、外観・称呼・観念という3つの観点を総合的に考慮し、指定商品・指定役務の関係性まで踏まえて行う判断であり、そもそもAIが単独で完結させることを想定していない性質の作業だという理解が実務者の間では一般的です。

AIとJ-PlatPatを併用する商標調査7確認軸

ここからは、生成AIとJ-PlatPatを併用して商標調査を行う際、弁理士が確認すべき軸を7つに分けて説明します。有資格者である弁理士本人の最終判断を、確認軸のどこかで飛ばさない設計にしています。

第一の確認軸は、依頼者からのヒアリング内容の正確性です。指定商品・指定役務の入力が誤っていれば、その後のAIによる分析がどれだけ精緻でも、調査結果全体の前提が崩れます。事業内容や将来の展開計画を丁寧にヒアリングし、指定商品・指定役務を弁理士自身が確定させる工程を、AI活用の前段階として置きます。

第二の確認軸は、AIに任せる範囲の切り分けです。称呼の候補出しや、類似する可能性のある既存商標の一次抽出のように、網羅性を補う作業はAIに任せやすい一方、類否の最終判断は弁理士本人が担う工程として区別します。以下は、この切り分けを整理するプロンプト例です。

あなたは弁理士事務所のアシスタントです。
架空の依頼者E社が出願を検討している商標案「甲印」について、
外観・称呼・観念の3つの観点から、類似する可能性のある
既存の登録商標のカテゴリを洗い出してください。
最終的な類否判断は行わず、弁理士が確認すべき候補の整理に留めてください。

第三の確認軸は、J-PlatPatでの一次確認です。AIが提示した候補について、J-PlatPatの称呼検索・商標検索・図形商標検索を用いて実在を確認します。称呼検索がカタカナのみに限定される点や、類似検索のヒットがそのまま類似商標を意味するわけではない点を踏まえ、機械的な判断で終わらせません。

第四の確認軸は、図形商標の確認方法です。画像検索によるAIの判断はまだ実証実験の途上とされているため、図形商標についてはウィーン図形分類に基づく調査を併用し、AIの画像検索結果だけに頼らない設計にします。以下は、この併用方針を整理するプロンプト例です。

上記で洗い出した候補のうち、図形要素を含む商標について、
ウィーン図形分類のどのカテゴリに該当し得るかを整理してください。
画像検索の結果はあくまで一次候補として扱い、
最終確認はウィーン図形分類に基づく調査で行う前提としてください。

第五の確認軸は、検索結果の網羅性の検証です。J-PlatPatの検索は、検索の仕方によっては網羅的に検索できていない可能性があると指摘されています。AIに検索式のバリエーションを複数提案させ、弁理士が実際にJ-PlatPatで試すことで、網羅性を補う進め方が考えられます。

第六の確認軸は、情報反映のタイムラグへの対応です。J-PlatPatの情報反映には一定のタイムラグが生じるため、出願直前には最新の公報や係属中の出願についても別途確認する工程を残しておきます。

第七の確認軸は、有資格者による最終判断です。外観・称呼・観念のいずれの観点でも、類否の最終判断はAIやツールの出力をそのまま採用するのではなく、弁理士本人が判断する工程として位置づけます。依頼者への調査結果の説明も、この最終判断を踏まえて弁理士が行います。拒絶理由通知の応答書をAIで下書きするでも扱ったように、出願段階に限らず、拒絶理由通知への対応など後工程でも同様に、AIの下書きと弁理士本人の最終確認を分ける設計が一貫して求められます。

依頼者情報の秘密保持とAI活用で決めておく3つのこと

ここでは、商標調査に生成AIを取り入れる際、弁理士事務所として決めておきたい論点を3つに整理します。

一つ目は、弁理士自身の秘密を守る義務の根拠です。弁理士法第30条は、弁理士又は弁理士であった者が、正当な理由なくその業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を漏らし、または盗用してはならないと定めています。依頼者の商標案や事業展開計画は、この条文が対象とする秘密に含まれ得る情報です。

二つ目は、生成AIツールのデータ利用方針の確認です。出願前の商標案は、公開されれば先行技術としての価値を失う可能性がある情報です。AIツールに入力したデータが学習に利用されるかどうかを、契約前に確認しておく必要があります。AIは発明者になれない前提で弁理士が顧客に組む記録体制でも扱ったように、AIをどの工程でどう使ったかを記録として残しておく運用は、商標調査においても同様に有効です。

三つ目は、依頼者への説明の実務です。商標調査にAIを併用していることや、最終判断は弁理士本人が行っていることを、依頼者にあらかじめ説明しておく運用が、調査結果への理解を得るうえで実務的です。

AI活用でつまずく2つの失敗例と回避策

商標調査に生成AIを取り入れる際に起きがちな失敗を、2つ紹介します。

一つ目は、AIが提示した候補をそのまま依頼者に「類似商標なし」として報告してしまうケースです。AIによる画像検索はまだ実証実験の途上とされ、称呼検索の類似検索でヒットしないことがそのまま非類似を意味するわけでもありません。回避策は、第三・第四の確認軸で触れたJ-PlatPatでの一次確認とウィーン図形分類の併用を、省かず経由することです。

二つ目は、依頼者からのヒアリングを省略し、AIに指定商品・指定役務の入力を任せきりにしてしまうケースです。最初のユーザー入力が正しいとは限らないという課題は、AIの精度がどれだけ上がっても解消されません。回避策は、第一の確認軸で触れたヒアリングを、AI活用の前段階として欠かさず行うことです。

費用・工数・体制をどう見積もるか

生成AIを商標調査に併用する費用は、既存の契約している生成AIツールの範囲内であれば、大きな追加コストは発生しません。J-PlatPatの利用自体は無償です。

体制面では、AIによる一次候補の抽出と、J-PlatPatでの確認、最終的な類否判断を、それぞれ別の工程として明確にしておくと、担当者が変わっても同じ品質の調査を維持しやすくなります。小規模な事務所であれば、弁理士本人がすべての工程を担う形でも運用は成り立ちます。

商標調査AI活用が示す今後の展望

商標調査における生成AIの活用は、称呼や図形の候補出しといった網羅性を補う工程では今後さらに広がると見込まれます。一方で、類否判断そのものをAIに委ねられる段階には至っておらず、外観・称呼・観念を総合的に考慮する判断は、当面は弁理士本人が担う領域として残ると考えられます。AIツールの精度が向上するほど、どこまでをAIに任せ、どこからを有資格者が担うかという線引きの精度が、事務所の信頼性を左右する論点になっていきます。

J-PlatPat側の検索機能も、今後アップデートが続くと見込まれます。事務所としては、AIツールとJ-PlatPatの双方の変化を継続的に把握し、7つの確認軸を定期的に見直す運用を持っておくことが、長期的な調査品質の維持につながります。

よくある質問

AIだけで商標調査を完結させることはできますか

現時点で公表されている情報からは、AIだけで調査を完結できる段階には至っていないとされています。AIは補助ツールとして候補の洗い出しに使い、J-PlatPatでの一次確認と弁理士本人の最終判断を経る運用が実務的です。

AIの画像検索結果はどこまで信頼できますか

画像検索によるAIの判断はまだ実証実験の途上とされており、ウィーン図形分類に基づく調査のほうが明確という指摘があります。図形商標については、AIの画像検索結果だけに頼らない確認が実務上の対応になります。

J-PlatPatの称呼検索で何もヒットしなければ安心ですか

称呼検索の類似検索でヒットしなかったことがそのまま非類似を意味するとは限りません。検索の仕方によっては網羅的に検索できていない可能性も指摘されており、複数の検索式で確認しておく必要があります。

依頼者への説明で気をつけることはありますか

商標調査にAIを併用していることと、最終的な類否判断は弁理士本人が行っていることを、あらかじめ伝えておくと、調査結果への理解を得やすくなります。

出願前の商標案をAIツールに入力してよいですか

入力の可否は、各AIツールのデータ利用方針を確認したうえで判断する論点です。出願前の商標案は公開されれば先行技術としての価値を失う可能性があるため、学習利用の有無を契約前に確認しておく実務が考えられます。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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