AIリーガルテックとは、契約審査等の法律事務をAIが支援する技術のことです。
契約書の自動レビュー・自動修正をうたうAIサービスが増える一方で、その提供が弁護士法第72条に抵触しないかという論点は、2023年のガイドライン公表後も解消されていませんでした。この状況を受けて、内閣府の規制改革推進会議デジタル・AIワーキング・グループは2026年1月9日、弁護士法におけるAI活用の更なる明確化をテーマに議論を行い、法務省が検討会の早期設置を表明しています(弁護士法72条とAIリーガルテックサービス(内閣府規制改革推進会議))。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。この記事では、検討会設置に至った経緯と、弁護士・司法書士・行政書士の各事務所が業際の観点から今おさえておくべき論点を整理します。
AIリーガルテックの検討会設置に至る2026年の状況
法務省大臣官房司法法制部は2023年8月、AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係についてという文書を公表しました。弁護士法第72条は、弁護士又は弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で訴訟事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱うことを業とすることを禁じています。この2023年の文書では、非定型的な入力に応じて個別事案に応じた法的処理を行う機能や、個別の事案に応じた法的リスクの有無を表示する機能を持つサービスは違反となりうるとされ、弁護士又はその職員が最終的に精査・修正する運用であれば許容されるという整理が示されていました(AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について(法務省大臣官房司法法制部))。
この整理は事業者側からグレーゾーン解消制度への回答が慎重になりがちだとの指摘を受けてきました。2026年1月9日のワーキング・グループでは、日本経済団体連合会が企業法務の人手不足を背景に、AIが自動修正し弁護士が最終確認する分業モデルの実現を求めたほか、AIリーガルテック協会からは、グレーゾーン解消制度における違反の可能性という回答文言が業界の萎縮を招いているとの意見が出されました。学識経験者からは、弁護士法第72条の立法趣旨が1933年の事件屋排除にあり、現代のAI技術にそのまま適用することの限界を指摘する意見も示されています(弁護士法72条とAIリーガルテックサービス(内閣府規制改革推進会議))。
法務省はこの回では、2023年のガイドラインが事業者の萎縮を招いている可能性を認識していると説明し、ハルシネーションや機密漏洩などのリスク管理を課題としたうえで、検討会を早急に設置し段階的に課題解決を図る方針を示しました。座長からは、検討会の設置に加えて、将来の技術進化を想定した検討範囲の拡大、諸外国の規制動向の調査、業界との協調規制の枠組み、新法制定を選択肢から排除しない立法措置の検討、2026年6月の最終答申という期限設定という6つの論点が示されています(弁護士法72条とAIリーガルテックサービス(内閣府規制改革推進会議)の議論を要約した日本組織内弁護士協会の記事)。士業のチカラでは、この検討会の議論を今後も継続的に追っていきます。
士業のチカラでは、AIと業際・非弁行為の論点をこれまでも取り上げてきました。税理士法の業務独占と弁護士法72条 税務相談AIを読む7論点や、行政書士法23条の3の両罰規定 AI書類作成サービスと法人リスク7論点でも触れたとおり、士業の業務独占と生成AIサービスの守備範囲をどう線引きするかは、弁護士に限らず複数の士業で共通する論点になっています。契約審査AIの個別事案について、OLGAのAI契約レビュー刷新で何が変わるか 弁護士事務所が見る7つの判断軸で扱ったように、ベンダー側の機能追加が業際の論点に直結する場面も増えています。
契約書自動修正サービスをセーフハーバーの範囲で使う実装手順
検討会の結論が出るまでの間、事務所がAIリーガルテックを使う際に依拠できるのは、現時点で公表されている2023年の法務省整理です。この整理に沿って、契約審査AIを業際リスクなく事務所業務に組み込むための手順を7つに分けて整理します。
第一に、導入を検討しているサービスが、定型的な入力に対して既存のひな形を選別・反映するだけの機能なのか、非定型的な入力に応じて個別事案に応じた法的処理を行う機能なのかを、ベンダーの製品資料で確認します。後者に近い機能ほど、弁護士法第72条との関係で慎重な運用が必要になります。第二に、サービスが個別の事案に応じた法的リスクの有無を表示する機能を持つかどうかを確認します。リスク表示機能がある場合、その表示結果をそのまま依頼者に提示するのではなく、弁護士が内容を精査したうえで伝える運用にします。第三に、事務所内での利用フローを、AIが下書き修正案を出し、弁護士又はその職員が最終的に精査・修正するという順序で設計します。この順序自体が、2023年の整理が許容の条件として挙げるセーフハーバーの考え方に対応します。
第四に、AIへの入力段階で、契約類型ごとに使うプロンプトのテンプレートを作成し、事務所内で共有します。テンプレート化することで、担当者ごとに指示内容がぶれることを防ぎ、後から見直しやすい体制になります。以下は、契約書の初期レビューをAIに行わせる際のプロンプト例です。
あなたは契約書の下読みを補助するアシスタントです。以下の契約書について、
一般的に契約実務で論点となりやすい条項(損害賠償の上限、解除条件、
準拠法、秘密保持の存続期間)を洗い出し、条項ごとに要約してください。
個別の事案に対する法的リスクの評価やアドバイスは行わず、
条項の内容整理と、実務上よく議論される観点の提示にとどめてください。
最終的な法的判断は弁護士が行います。
契約書本文:
{契約書テキストを貼付}
第五に、AIが提示した修正案について、弁護士が変更履歴を確認できる形で保存する運用にします。誰が最終確認を行い、いつAIの提案を採用または不採用としたかの記録を残すことで、後日の説明責任を果たしやすくなります。第六に、依頼者への説明として、AIを利用している事実と、最終判断は弁護士が行っている事実の両方を伝えます。以下は、依頼者向けの説明文をAIに下書きさせる際のプロンプト例です。
以下の条件で、依頼者向けの説明文の下書きを作成してください。
・契約審査の初期段階でAIツールを利用していること
・AIの出力はあくまで論点整理の補助であり、最終的な法的判断と
修正内容の確定は弁護士が行っていること
・依頼者の秘密情報の取り扱いについて、利用するAIツールのデータ
利用ポリシーに基づいて説明すること
・断定的な法的評価を避け、丁寧で分かりやすい文体にすること
事務所名: {事務所名}
対象となる契約類型: {契約類型}
第七に、司法書士・行政書士が関与する複合案件では、それぞれの業務範囲を超える法的判断が必要になった時点で弁護士に取り次ぐ基準を、事務所間であらかじめ共有しておきます。不動産取引や企業再編など複数の士業が関わる案件ほど、AIが出した論点整理をどの士業がどこまで扱えるかの線引きが実務上の課題になりやすいためです。
業際と守秘義務、規程に落とし込む際の論点
AIリーガルテックの利用を検討する際、業際の論点と並んで整理しておく必要があるのが守秘義務です。弁護士については弁護士法第23条が、弁護士又は弁護士であった者はその職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負うと定めています。司法書士については司法書士法第24条が、司法書士又は司法書士であった者は正当な事由がある場合でなければ業務上取り扱った事件について知ることのできた秘密を他に漏らしてはならないと定め、行政書士については行政書士法第12条が同様の秘密保持義務を定めています。いずれの条文も、AIリーガルテックへの依頼者情報の入力を直接規定するものではありませんが、契約書という依頼者の機密情報そのものを外部のAIサービスに入力する以上、これらの義務との整合性を事務所として説明できる状態にしておく必要があります。
まず確認すべきは、利用するAIリーガルテックのデータ利用ポリシーです。入力した契約書データがモデルの学習に使われるのか、一定期間で削除されるのか、ベンダーの公式ドキュメントで確認します。学習利用を停止するオプションや、契約プランによってはゼロデータ保持での提供がある場合、そのプランを選んでいるかどうかを事務所として管理しておく必要があります。次に、依頼者への説明と同意取得の実務です。契約審査の初期段階でAIを利用する旨を受任時の説明事項に含め、依頼者から異議が出た場合はAIを使わない従来の方式に切り替えられる体制にしておくと、同意取得のプロセスとして説明しやすくなります。
事務所規程に落とし込む際は、まずAIリーガルテックに入力してよい契約書の範囲を定めます。相手方が存在する係争性のある案件の契約書か、通常の企業取引の契約書かで、入力の可否を分ける運用も考えられます。次に、AIの出力をそのまま依頼者に提示せず、弁護士又はその職員が精査したうえで提示する工程を明文化しておく運用が考えられます。最後に、利用したAIリーガルテックの名称、入力した契約書の種類、最終確認者を記録するログの保存ルールを定めます。これらはいずれも規範として断定するものではなく、2023年の法務省整理と検討会の議論を踏まえた運用例として、各事務所の実情に応じて調整する前提のものです。
AIリーガルテック導入でつまずきやすい失敗例
事務所がAIリーガルテックを導入する際、実際に起きやすい失敗パターンを3つ紹介します。
一つ目は、AIが提示した修正案をほぼそのまま契約書に反映し、弁護士による実質的な精査が形骸化してしまうケースです。件数をこなす必要がある事務所ほど、確認工程が名目上のチェックにとどまりやすくなります。確認工程には最低限、条項ごとの変更点を弁護士が目視で追える一覧を出力させるなど、精査の実質を担保する仕組みを組み込む必要があります。二つ目は、係争性のある案件の契約書を、通常の企業取引向けに設計されたAIリーガルテックに入力してしまうケースです。相手方との交渉が絡む案件は、非定型的な法的判断が必要になりやすく、業際の観点からもリスクが高い領域です。導入時点で対象案件の範囲を明確に定めていないと、現場の判断でなし崩し的に対象が広がりがちです。三つ目は、依頼者への説明を省略したまま契約審査AIを使い始め、後になって依頼者から入力データの取り扱いについて問い合わせを受けるケースです。受任時の説明事項にAI利用の有無を含めておかないと、個別の問い合わせのたびに対応が後手に回ります。
導入にかかる費用と体制
契約審査AIリーガルテックのライセンス費用は、サービスによって月額数万円のプランから、事務所単位の年間契約まで幅があります。既存の契約書レビューツールに機能追加として組み込まれているケースも多く、新規のツール導入というより既存契約の見直しで対応できる場合もあります。初期構築の工数としては、対象契約類型の選定、プロンプトテンプレートの作成、事務所内での運用ルールの周知に、小規模な事務所であれば数日から1週間程度を見込んでおくと現実的です。運用の主担当は、契約審査業務を日常的に担当するパートナー弁護士かシニアアソシエイトが持ち、四半期に一度程度、利用実績とログを確認する棚卸しの機会を設けると、規程の形骸化を防ぎやすくなります。司法書士・行政書士との連携がある事務所では、取次基準の共有会を年に数回設けることも、運用を継続的に見直すきっかけになります。
検討会設置後の展望と考察
2026年1月9日のワーキング・グループでの議論(弁護士法72条とAIリーガルテックサービス(内閣府規制改革推進会議))を踏まえると、法務省内に設置される検討会は、2026年6月の最終答申を一つの区切りとして議論を進めることになります。座長が示した6つの論点のうち、新法制定を選択肢から排除しないという方針が実際にどこまで具体化するかが、事務所にとって最も影響の大きい論点になります。新法が制定される場合、契約審査AIリーガルテックの提供者に対する登録制や届出制のような枠組みが導入される可能性も考えられますが、現時点では検討の方向性が示された段階であり、具体的な制度設計は明らかになっていません。自主規制の枠組みが先行して整備される可能性もあり、AIリーガルテック協会のようなAI業界側の団体と、日本弁護士連合会のような士業側の団体が、どのような形で協調規制の議論に参加していくかも注目される論点です。事務所としては、検討会の結論を待つ間も、2023年の法務省整理に沿った運用を継続しつつ、答申の内容が公表され次第、運用ルールを見直せる体制を維持しておくことが実務的な対応になります。
よくある質問
現時点で契約審査AIを事務所で使うこと自体は問題になりますか
現時点で公表されている2023年の法務省整理では、弁護士又はその職員が最終的に精査・修正する運用であれば許容されるとされています。個別の利用方法が整理の想定する範囲に収まっているかどうかを、導入前に確認しておくことが実務的な対応になります。
検討会の設置はいつ決まりますか
2026年1月9日のワーキング・グループで(弁護士法72条とAIリーガルテックサービス(内閣府規制改革推進会議))、法務省が検討会を早急に設置する方針を示しました。具体的な設置時期や検討会のメンバー構成は、本記事の執筆時点では公表資料に明記されておらず、要確認の状態です。
AIが出した契約書の修正案をそのまま依頼者に送ってもよいですか
2023年の法務省整理に沿えば、AIの出力をそのまま依頼者に提示するのではなく、弁護士又はその職員が内容を精査したうえで提示する運用が前提になります。精査の工程を省略すると、セーフハーバーの考え方から外れるおそれがあります。
司法書士や行政書士がAIリーガルテックを使う場合も同じ整理が当てはまりますか
2023年の法務省整理は弁護士法第72条との関係を扱ったものであり、司法書士・行政書士がそれぞれの業務範囲内でAIを利用する場面には、各士業法の業務独占規定との関係が別途論点になります。複合案件では、どの士業がどこまで扱えるかを事前に取り決めておく必要があります。
新法が制定された場合、既存のAIリーガルテック利用は見直しが必要になりますか
新法の内容次第ですが、登録制や届出制のような枠組みが導入される場合、利用しているサービスがその枠組みに対応しているかを確認する作業が発生する可能性があります。現時点では検討の方向性が示された段階のため、詳細は要確認です。
依頼者にAI利用をどう説明すればよいですか
受任時の説明事項に、契約審査の初期段階でAIツールを利用していること、最終的な法的判断は弁護士が行っていることの2点を含めるのが実務的です。依頼者から異議が出た場合に、AIを使わない方式に切り替えられる体制も併せて説明しておくと、同意取得のプロセスとして整理しやすくなります。
参考文献
- 弁護士法72条とAIリーガルテックサービス 令和8年1月9日(内閣府規制改革推進会議 デジタル・AIワーキング・グループ資料)
- AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について 令和5年8月(法務省大臣官房司法法制部)
- <速報>規制改革推進会議 2026年1月9日開催「弁護士法におけるAI活用の更なる明確化」の議論速習(日本組織内弁護士協会)
- e-Gov法令検索 弁護士法第72条
- e-Gov法令検索 弁護士法第23条
- e-Gov法令検索 司法書士法第24条
- e-Gov法令検索 行政書士法第12条
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本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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