商事法務研究会の取りまとめを読む 弁護士・司法書士が組む7つの実務対応

商事法務研究会のAI時代における民事司法を考える研究会の取りまとめを読み解き、弁護士・司法書士事務所が着手できる7つの実務対応と、秘密保持義務・AI証拠への対応の論点を整理します。

商事法務研究会の取りまとめを読む 弁護士・司法書士が組む7つの実務対応

取りまとめとは、民事訴訟実務でのAI利活用の論点を整理した報告書のことです。

民事訴訟の実務でAIをどこまで使えるのか。この問いに、裁判官業務と弁護士・司法書士業務の両面から整理を加えた文書が公表されました。この記事では、公益社団法人商事法務研究会のAI時代における民事司法を考える研究会の取りまとめを手がかりに、事務所が明日から着手できる7つの実務対応を整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。

取りまとめが何を検討し、何を検討していないのか

結論から書きます。この取りまとめは、AIが裁判を代替する話ではありません。裁判官と法律実務家が使う道具としてのAIについて、今すぐ効果が見込める用途と、慎重な検討が要る用途を切り分けた文書です。

研究会は令和7年11月7日の第1回から令和8年6月26日の第12回まで開催され、委員名簿や各回の議事概要、研究会資料が公表されています(出典: 商事法務研究会 AI時代における民事司法を考える研究会)。同じページで、取りまとめの本体と概要のPDFが公開されています。

概要によれば、検討のアプローチは二段構えです。ひとつは、今後数年程度の間に裁判所および弁護士・司法書士の業務でAIを利活用することで一定の効果が見込めると一応想定できるものを抽出する、想定ユースケースの検討。もうひとつは、将来的な展望を視野に入れた想定基本機能の検討です(出典: AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ概要)。

想定基本機能として定義されたのは3つです。利用者の言い分を入力すると訴訟物たる権利や法律関係について一定の見解が出力される法的分析機能。一定の事実関係と関係資料データを入力すると、その事実の存否と理由について一定の見解が出力される事実認定機能。そして、その前提となる判例文献調査機能です(出典: AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ概要)。

重要なのは、概要が現時点での限界にも触れている点です。想定基本機能には現在実装されていない機能も含まれるため、現時点での検討には限界があるとされています(出典: AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ概要)。つまり、いま市販されているサービスがこの3機能をすべて備えているという話ではありません。実装済みなのは判例文献調査機能にあたる領域で、概要でも現時点において民間事業者によってリーガルリサーチサービスとして提供されている機能と位置づけられています(出典: AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ概要)。

司法の担い手についての整理も明確です。憲法は裁判の基本的な担い手として法律専門職である裁判官を想定しており、個人の尊重の観点からAIに司法の作用を代替させることを指向するのは相当ではない、という記載があります(出典: AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ概要)。士業のチカラでは日弁連会長談話が示したAI時代の民事司法も扱いましたが、方向性は一貫しています。

弁護士・司法書士業務で名指しされた用途と7つの実務対応

先に結論です。取りまとめが弁護士・司法書士業務で挙げた用途は、いずれも下書きと整理の領域です。事務所が着手すべきは新しいツールの導入ではなく、その下書きをどう検証するかの手順づくりです。

概要では、弁護士・司法書士業務の利活用の具体例として、膨大なデータの集約・分析、裁判例や文献の要点抽出、主張書面等の着想獲得や素案作成、登記事項証明書の読み取りなどによる権利関係の確認が挙げられています(出典: AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ概要)。ここから、7つの実務対応を組み立てます。

第一の対応は、用途の一覧化です。事務所で現にAIを使っている業務を書き出し、取りまとめが挙げた用途と照らします。一致するものは、公表された整理の射程に入っている用途です。一致しないものについては、なぜその用途で使っているのか、どんな検証をしているのかを言語化しておきます。外部から問われたときに答えられる状態を作る作業です。

第二の対応は、ヒューマン・イン・ザ・ループの内実を書くことです。概要では、訴訟代理人として求められる役割を自覚し、AIの利活用において求められるヒューマン・イン・ザ・ループの内実を確保していくことが重要だと整理されています(出典: AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ概要)。人が関与すると書くだけでは内実になりません。誰が、何を、どの資料と突き合わせて確認したかを、業務ごとに一文で書き出します。

第三の対応は、責任の所在の明示です。概要は、原則として出力を用いた結果について弁護士・司法書士に責任があるとしたうえで、利活用の場面、範囲、方法について留意すべき点は少なくないものの画一化は困難であり、自律的・継続的な検討が望ましいと整理しています(出典: AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ概要)。事務所の運用としては、成果物に名前を出す者が確認の範囲を自分で定義しておく形になります。

第四の対応は、出典検証の固定化です。判例文献調査機能の領域では、出力された裁判例や文献が実在するか、引用が原典と一致するかが第一の確認点になります。生成AIの条番号と施行日は疑うで整理したとおり、条番号と日付は生成AIが最も取り違えやすい要素です。原典にあたる工程を、確認者の手順書に固定項目として書き込みます。

第五の対応は、データセット由来の偏りへの意識づけです。概要は、裁判例や文献のデータセットに付与されるアノテーションデータの質に依存し、バイアスが課題であると指摘しています(出典: AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ概要)。検索で出てこなかった裁判例が存在しないとは限らない、という前提を事務所内で共有しておきます。

第六の対応は、登記関係の読み取りの扱いです。登記事項証明書の読み取りによる権利関係の確認は、司法書士業務で実務に近い用途です。読み取りの誤りは権利関係の誤認に直結しますので、原本との突き合わせを省略しない運用が要ります。件数が多い事務所ほど、突き合わせの手順を短くする工夫より、抜き取りではなく全件確認を維持する判断が問われます。

第七の対応は、事務職員を含む研修です。概要は、AIガバナンスの文脈で、所属する弁護士・司法書士および事務職員への研修も求められるとし、注意事項の周知とルール化の要否の検討を期待するとしています(出典: AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ概要)。実務上、AIに最初に触れるのは事務職員であることが多く、ここを外すと規程が機能しません。

出力の検証手順を固定するためのプロンプト例を挙げます。リーガルリサーチの出力を受け取った側で使うものです。

あなたは法律事務所の出力検証担当です。
以下はAIが出力した裁判例・文献の一覧と、それに基づく要点整理です。

次の観点だけで問題点を列挙してください。文章の巧拙は評価しないでください。

1. 裁判例の事件番号・裁判所・年月日が揃っているか(欠けている項目を明示)
2. 要点整理の記述のうち、一覧にない情報が混ざっていないか
3. 条番号・施行日が記載されている箇所(すべて抽出し「原文未確認」と付記)
4. 出力が特定の結論に寄っている兆候があるか(根拠を示して指摘)

検索で出てこなかった裁判例が存在しない、という前提は置かないでください。

出力一覧: {ここに貼る}
要点整理: {ここに貼る}

もう1本、素案作成の場面で使う指示です。着想の獲得と素案作成は取りまとめでも挙げられた用途ですが、そのまま提出物にしない前提を指示側に埋め込みます。

あなたは法律事務所の書面作成補助です。
以下の事案メモをもとに、主張の組み立ての選択肢を提示してください。

出力の制約:
- 完成した書面の形にしないこと。論点の列挙と、各論点の組み立て案にとどめる
- 各案について、立証上のハードルを1行で併記する
- 参照した法規範は条番号を書き、末尾に「原文未確認」と付記する
- 事実に争いがある部分は「争点」と明示し、断定しない

実在の当事者名や個人情報は出力に含めないでください。
架空の「甲」「乙」を用いてください。

事案メモ: {ここに貼る}

秘密保持義務とAIガバナンスを事務所規程にどう落とすか

結論を先に置きます。取りまとめは、秘密保持義務について対象情報の入力に適切な対応が必要であるとだけ述べ、具体的な線引きは事務所側に委ねています。だからこそ、事務所が自分で書くしかありません。

概要には、弁護士・司法書士業務に関する整理として、秘密保持義務の対象情報等の入力に適切な対応が必要であるという記載があります(出典: AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ概要)。根拠となる条文は職種ごとに置かれています。弁護士は弁護士法第23条が、職務上知り得た秘密を保持する権利を有し義務を負うと定めています。司法書士は司法書士法第24条が、正当な事由がある場合でなければ業務上取り扱った事件について知ることのできた秘密を他に漏らしてはならないと定めます。条文はいずれも漏示を禁じる形であり、AIへの入力という行為類型を名指しするものではありません。個別の場面への当てはめは有資格者の判断に属します。

個人情報の側面では、個人情報保護法第23条が安全管理措置を定めています。個人情報保護委員会は生成AIサービスの利用について注意喚起を公表しており、入力が利用目的の達成に必要な範囲に収まっているかという観点が示されています(出典: 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等)。訴訟記録には機微な情報が含まれますので、入力の範囲は業務の必要性から逆算して決める順序が実務に合います。

概要では、利活用環境の格差が生じるおそれについても指摘があり、引き続きの検討が期待されています(出典: AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ概要)。規模の小さい事務所ほど、高価なツールを揃えるより、無料や低廉なツールを使う際の入力範囲の線引きを明確にすることが現実的な対応になります。

事務所規程に落とすなら、次の5項目が候補になります。ひとつは、AIに入力してよい資料の範囲を業務類型ごとに定めること。ひとつは、依頼者の同意を要する場合の判断者を決めること。ひとつは、出力を成果物に用いる際の確認者と確認項目を書くこと。ひとつは、事務職員が使う場合の範囲と承認の要否。もうひとつは、使用したツール名と用途を記録に残す旨です。依頼者への説明の設計は成果物へのAI利用をどこまで伝えるかで整理しています。

業際の論点も併せて見ておく必要があります。法務省が公表したガイドラインをめぐる整理は弁護士法72条の新ガイドラインで扱いました。事務所が自ら使う場面と、顧問先企業がサービスを選ぶ場面では、見るべき論点が変わります。

AIを利用して作成された証拠への対応

取りまとめが踏み込んだ領域として、AIを利用して作成された証拠の扱いがあります。ここは事務所の日常業務に直接効いてきますので、独立して整理します。

概要によれば、証拠提出の前提となる訴訟代理人の対応について、現在も資料が不自然でないかを十分に吟味・検討して証拠提出しているものの限界があり、明らかな偽造等でなければ依頼者を信じざるを得ない側面もあるとの指摘が紹介されています(出典: AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ概要)。偽造等の危険性をチェックする在り方を含め、最低限の水準等の整理が必要との指摘も記載されています。

判断枠組みについては、AIによる偽造等の判定の技術的フローは確立しておらず、枠組みを設けるのは時期尚早とされ、まずは法律実務家による事件類型に応じた具体的検討が期待されています(出典: AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ概要)。

画像や文書の補正、いわゆるエンハンスについては別の扱いです。概要は、偽造等とは異なり有用な場面もあるため一律禁止は不相当としつつ、程度によっては証拠評価を誤らせる可能性があり、その程度を客観的に区別して的確なルールを定めることは困難だとしています。そのうえで、まずは証拠申出時にAI利用の有無等を明示するプラクティスが期待されています(出典: AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ概要)。

事務所としての当面の実務対応は、依頼者から受領した資料について、作成経緯を聞き取る項目を受任時のヒアリングに加えることです。撮影や作成の日時、元データの所在、加工の有無。この3点を最初に聞いておけば、後から証拠として使う段階で遡る手間が減ります。聞き取った内容を記録に残しておくことも、後の説明に効いてきます。

研修と体制、そして費用の考え方

概要は、AI時代に求められる能力として、AIを過信することのないよう出力が法的・倫理的に妥当であるかを批判的に検証する能力が今後一層重要になると整理しています(出典: AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ概要)。この能力は、ツールを導入すれば身につくものではありません。

事務所でできる研修の形は、難しく考える必要はありません。実際に出た出力のうち、検証で誤りが見つかったものを事務所内で共有する。この積み重ねが最も効きます。概要でも、裁判官について失敗例も含めた議論により集団全体としての適正な利活用の進展が期待されるとの整理が示されています(出典: AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ概要)。失敗を共有できる場を作るところが出発点になります。

体制面では、AIの利活用に関する窓口を決めます。ツールの追加申請を受け、入力範囲の判断を回し、記録を確認する役割です。弁護士・司法書士が兼任する事務所が多いと思われますが、事務職員を含めた研修が求められる以上、事務局側にも担当を置く形が運用しやすくなります。

費用面では、リーガルリサーチ系のサービスと汎用の生成AIで性格が異なります。前者は月額の定額が中心で、後者は利用量で動きます。どちらも、検証にかかる時間を費用に含めて見たときの総額で判断するほうが実務に合います。検証を薄くして費用を下げる選択は、責任が事務所に残る以上、取りにくい判断です。

短期の課題と中長期の課題をどう切り分けるか

今後の焦点は、短期と中長期の切り分けです。概要は、法律実務家等において短期的課題について速やかに具体的検討を開始し、中長期的課題についても問題意識を共有して、批判も含めた議論が始まることで不断かつ柔軟な見直しがされることが望まれるとしています(出典: AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ概要)。

事務所の側で短期に属するのは、入力範囲の線引き、出典検証の固定化、証拠の作成経緯のヒアリング、事務職員を含む研修の4つです。いずれも今月から着手できます。中長期に属するのは、法的分析機能や事実認定機能が実装された場合の業務設計で、これは実装の進み方を見ながら考える領域になります。

もうひとつ、民事裁判情報データベースの始動が繰り返し言及されている点は見落とせません。概要は、データベースの始動により、データセットとして利用可能な裁判例が飛躍的に増加し、実装可能性が高まりつつあると整理しています(出典: AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ概要)。使えるデータが増えれば、サービスの精度も競争環境も変わります。事務所のツール選定は、いま良いものを固定するより、乗り換えやすい状態を保つほうが得策になりそうです。

よくある質問

この取りまとめはどこが公表したものですか

公益社団法人商事法務研究会が設置したAI時代における民事司法を考える研究会が公表しました。研究会のページで取りまとめと概要のPDF、各回の議事概要や研究会資料が公開されています(出典: 商事法務研究会 AI時代における民事司法を考える研究会)。

AIが裁判官の代わりをするという話ですか

そうした方向は示されていません。概要には、個人の尊重の観点からAIではなく人間である裁判官が国民と向き合いながら裁判を行うことが求められ、AIに司法の作用を代替させることを指向するのは相当ではないという記載があります(出典: AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ概要)。

弁護士・司法書士業務では何が挙げられていますか

膨大なデータの集約・分析、裁判例や文献の要点抽出、主張書面等の着想獲得や素案作成、登記事項証明書の読み取りなどによる権利関係の確認が挙げられています(出典: AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ概要)。

AIで作った証拠を出すことは禁止されましたか

新しい規律が設けられたわけではありません。概要では、偽造証拠提出禁止の規律を設けるべきとの意見もあったものの、更なる規律の要否は実効性や他との整合性から慎重な検討が必要とされています(出典: AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ概要)。

画像の補正を加えた証拠はどう扱えばよいですか

概要は、一律禁止は不相当としつつ、まずは証拠申出時にAI利用の有無等を明示するプラクティスを期待するとしています(出典: AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ概要)。事務所としては、受領資料の作成経緯を受任時に聞き取る運用が土台になります。

事務職員のAI利用は事務所として管理が要りますか

概要は、AIガバナンスの項目で、所属する弁護士・司法書士および事務職員への研修も求められるとし、注意事項の周知やルール化の要否の検討を期待するとしています(出典: AI時代における民事司法を考える研究会取りまとめ概要)。

小規模事務所は何から着手すればよいですか

入力範囲の線引きと、出典検証を手順に固定することの2つからです。いずれも費用をかけずに着手でき、後から規程に書き起こす際の土台になります。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

記載内容に誤りを見つけられた場合は、お問い合わせよりご指摘ください。確認のうえ速やかに訂正し、訂正履歴を記事内に残します。編集方針の詳細は運営者情報をご覧ください。