電子取引の検索要件と保存先一本化 税理士がAIと回す棚卸し7工程

電子取引データの検索要件と改ざん防止措置を国税庁のチェックシートで確認し、顧問先の保存先を一本化する7工程を整理します。過去分の仕分けに生成AIを使う手順とプロンプト例も掲載します。

電子取引の検索要件と保存先一本化 税理士がAIと回す棚卸し7工程

検索要件とは、保存した電子取引データを3つの項目で探せる状態のことです。

顧問先の電子取引データが、メールとクラウドと共有フォルダに散らばったまま数年が過ぎている。この状態を年内に片づけるための手順を、7工程に分けて整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。国税庁の電子取引データ保存要件チェックシート(令和6年11月)では、原則的な保存要件が3つに整理されています。

保存要件は3つ、そのうち2つは棚卸しで決まる

先に結論を書くと、顧問先を詰まらせているのは要件の難しさではなく、データがどこにあるか誰も把握していないことです。

国税庁の電子帳簿等保存制度特設サイトから辿れる前掲チェックシートは、原則的な電子取引データの保存要件を3つに分けています。1つめが改ざん防止の措置、2つめがディスプレイ・プリンタの備付け、3つめが検索要件です。根拠は電子帳簿保存法第7条と、その施行規則です。同法第7条は、所得税および法人税に係る保存義務者は電子取引を行った場合に、財務省令で定めるところにより当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存する旨を定めています。

改ざん防止の措置については、チェックシートが4つの方法を挙げています。タイムスタンプが付与されたデータを授受する方法、受領したデータにタイムスタンプを付与する方法、訂正・削除の履歴が残るシステム等でデータを授受・保存する方法、そして改ざん防止のための事務処理規程を策定・運用・備付けする方法です。専用システムを導入しない方法として事務処理規程の策定が挙げられており、国税庁のサイトに各種規程等のサンプルが掲載されている旨も案内されています。予算のない顧問先には、この4つめから入る選択肢があります。

検索要件のほうは、取引年月日、取引金額、取引先の3つの記録項目で検索できることが挙げられています。さらに、取引年月日または取引金額について範囲を指定して検索できること、2以上の任意の記録項目を組み合わせて検索できることも求められます。ここが、フォルダにファイルを放り込んでいるだけの顧問先で最初に引っかかる箇所です。

ただし前掲チェックシートは、緩和の道も示しています。基準期間、すなわち2年(期)前の売上高が5,000万円以下である場合、または電子取引データを出力した書面を取引年月日および取引先ごとに整理された状態で提示・提出することができるようにしている場合に、税務調査等の際にダウンロードの求めに応じることができれば、検索要件の扱いが変わる整理が示されています(出典: 前掲チェックシート)。顧問先の規模によって、必要な作業量が大きく変わるということです。

猶予措置についても整理があります。保存できなかったことについて相当の理由があり、かつ税務調査等の際にダウンロードの求めと出力書面の提示・提出の求めに応じることができる場合に、猶予措置の適用を受けることができる、という建て付けです。相当の理由の例として、システム等の整備が間に合わない、人手不足、システム整備の資金不足などが挙げられています。ここを安易な逃げ道として案内するのではなく、いつまでに原則に戻すかの期限とセットで顧問先に伝えるのが実務的です。一問一答の最新版の読み方は、士業のチカラの別記事にまとめています。

この3要件のうち、ディスプレイ・プリンタの備付けについては、チェックシートに実務上の補足が置かれています。ディスプレイやプリンタ等の性能や設置台数等は要件とされていないこと、スマートフォンのみで取引を行っていてパソコンやプリンタ等を保有していない場合でも、近隣の有料プリンタ等により速やかに出力できればこの備付け要件を満たしているものと取り扱われることが示されています。小規模な顧問先から、パソコンを買わないといけないのかと聞かれたときに、この記述を示せると話が早く進みます。

顧問先の保存先を一本化する7工程

結論として、先に決めるのは保存先です。要件の議論はその後にすると早く終わります。

第一工程は、電子取引の洗い出しです。チェックシートは電子取引の例として、いわゆるEDI取引、インターネット等による取引、電子メールにより取引情報を授受する取引(添付ファイルの場合を含む)、インターネット上にサイトを設けて当該サイトを通じて取引情報を授受する取引を挙げています。実務では、取引先からのメール、EDI、クラウドで受領した見積書・納品書・請求書、ECサイトで購入した商品の請求書や領収書、インターネットのみで確認できるクレジットカード・ネットバンキング・水道光熱費などの明細書が対象になり得るものとして例示されています。顧問先の担当者に、この例示をそのまま読み上げてもらうのが早道です。

第二工程は、現在の保存先の地図づくりです。誰のメールボックスに、どのクラウドの、どのフォルダに入っているか。担当者ごとに違うことが多いので、人単位で聞き取ります。ここで出てきた保存先の数が、そのまま今後の点検コストになります。

第三工程は、一本化先の決定です。会計ソフトの証憑保管機能に寄せるのか、文書管理サービスに寄せるのか、共有フォルダ+事務処理規程で回すのか。国税庁はJIIMA認証情報リストを公開しており、市販ソフトを探す際の手がかりになります。自社開発システムの要件定義に悩む場合の要件適合性に関する事前相談窓口も案内されています。

第四工程は、命名規則の設計です。検索要件の3項目が効くように、取引年月日・取引金額・取引先をファイル名や索引簿に入れる形にします。ファイル名で回すのか、索引簿の表計算ファイルで回すのかは、件数で決めます。月に数十件なら索引簿、数百件を超えるならシステム側の検索機能に寄せるのが現実的です。

第五工程は、過去分の仕分けです。ここで生成AIが効きます。メールの件名と本文から取引先名と金額を抜き出し、命名規則に沿ったファイル名の候補を出させる。出力はあくまで候補であり、採否は担当者が確認します。AI-OCRの読み取り精度の考え方はスキャナ保存の記事も参考になります。

第六工程は、改ざん防止措置の決定です。システムを入れるなら訂正・削除の履歴が残る機能を確認し、入れないなら事務処理規程を作って運用に乗せます。規程は作って終わりではなく、備付けと運用まで含めて要件に挙げられている点を顧問先に伝えます。

第六工程と第七工程の間に、もう一つ置いておきたい確認があります。一本化先が要件に対応しているかの裏取りです。会計ソフトの証憑保管機能を使う場合でも、そのプランで訂正・削除の履歴が残るのか、検索が3項目と範囲指定・組合せに対応しているのかは、機能表を見ないと分かりません。ベンダーの機能一覧とチェックシートの項目を並べて、対応する箇所に印をつけた1枚を作っておくと、顧問先への説明も調査時の説明も同じ資料で済みます。

第七工程は、税理士側の点検フローの設置です。月次で証憑を受け取るときに、保存先が一本化されたままか、命名規則が守られているかを見る。ここを月次業務に組み込まないと、3か月で元の散らばった状態に戻ります。

以下は、過去分のメールから証憑の索引を作るためのプロンプト例です。顧問先の実名は入れず、担当者が置換して使います。

あなたは経理資料の整理を補助するアシスタントです。
以下のメール本文から、証憑の索引に必要な項目を抽出してください。

【抽出する項目】
(1)取引年月日
(2)取引金額(税込・税抜の別が分かれば併記)
(3)取引先の名称
(4)書類の種類(請求書/領収書/納品書/見積書/その他)
(5)添付ファイル名

【出力形式】
CSV形式の1行。列は上記(1)〜(5)の順。
読み取れない項目は空欄にせず「要確認」と記入してください。
推測で金額や日付を補完しないでください。
複数の金額が記載されている場合は、すべてを候補として別行に出してください。

次は、一本化の方針を顧問先に説明する資料の骨子を作るプロンプト例です。

あなたは中小企業の経理体制を整理するアシスタントです。
以下の前提で、社内向け説明資料の骨子を作ってください。

【前提】
・企業:A社(従業員18名/卸売業)
・現状:請求書が担当者3名のメールと共有フォルダに分散
・方針:会計ソフトの証憑保管機能に一本化する
・期限:次の事業年度の開始まで

【出力形式】
(1)なぜ一本化するのか(3行)
(2)いつまでに何をするか(工程と担当者の欄を設けた一覧)
(3)担当者が今日から変える操作(5項目)
(4)想定される質問と回答(5組)
法令の要件は「国税庁のチェックシートで確認」と記載し、
条文の解釈や結論は書かないでください。

最後の確認は税理士が持ちます。AIが作った索引と骨子を、顧問先の実態およびチェックシートの項目と突き合わせ、要件との対応関係を確かめてから顧問先に渡します。この工程を飛ばすと、索引はできたが要件を満たしていない、という一番まずい状態になります。

顧問先データをAIに入れる前に決める3つのこと

先に決めるべきは、証憑をAIに読ませてよいかどうかです。順序を逆にすると、決裁より先に取引情報が外へ出ます。

一つめは、根拠となる守秘の義務です。税理士については税理士法第38条が秘密を守る義務を定めており、正当な理由がなくて税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、または窃用しないこと、税理士でなくなった後も同様であることが条文に置かれています。公認会計士については公認会計士法第27条が同様の義務を定めています。事務所規程には、この条文と生成AIの利用範囲を並べて書くのが実務的です。

二つめは、ツール側のデータ取扱いです。OpenAIはエンタープライズ向けプライバシーの説明で、ビジネス向けの提供において入力・出力を既定でモデルの訓練に使わない旨を案内しています。Anthropicも商用サービスに関する説明で商用製品の入力を既定で訓練に使わない旨を説明しています。証憑には取引先名と金額が並んでいますので、個人向けプランのまま読ませている状態は避けたいところです。会計ソフト側に組み込まれたAI機能を使う場合は、そのベンダーのデータ取扱いも別途確認します。

三つめは、個人情報の混入です。領収書や請求書には、個人事業主の氏名や住所が含まれることがあります。顧問先の個人データを外部のAIサービスへ渡す局面では、個人情報保護法第27条の第三者提供の制限が論点になります。同条第5項第1号は、利用目的の達成に必要な範囲内で個人データの取扱いの全部または一部を委託することに伴って提供される場合、提供を受ける者は第三者に該当しないものとする旨を定めています。委託として整理するのか、氏名を伏せてから入力するのか、事務所として建て付けを決めておきます。あわせて同法第23条の安全管理措置も、委託先の管理を含めて検討の対象です。

事務所規程に落とすなら、次の3点を書いた運用例が参考になります。第一に、証憑を入力してよいツールとプランを列挙する。第二に、顧問先へ説明し記録を残す手順を書く。第三に、入力を避ける情報の類型、たとえばマイナンバーが記載された書類を列挙する。顧問契約書に生成AIの利用に関する条項を置く事務所も出てきています。

一本化で起きやすい3つのつまずき

つまずきは、決めた先を守れなくなったところで起きます。

一つめは、一本化したのに担当者が元の場所にも保存し続けるケースです。二重保存そのものが要件違反になるわけではありませんが、どちらが正なのか分からなくなると、調査の場で説明ができません。一本化の初月は、旧保存先を読み取り専用にして書き込みを止める。この物理的な制約が、口頭のルールより効きます。

二つめは、命名規則がAIの出力任せになるケースです。AIが抽出した取引先名が正式名称と略称で揺れると、検索しても出てきません。索引を作る前に、顧問先の取引先マスタを用意し、それに照らして名寄せする工程を入れます。マスタが無い顧問先では、まずマスタを作るところが第一歩になります。

三つめは、猶予措置に寄りかかったまま年度をまたぐケースです。チェックシートは、相当の理由の例として、システム等の整備が間に合わない、人手不足、システム整備の資金不足などを挙げています。ここに該当する状況が続く限り猶予措置の枠内に留まれるとしても、顧問先の体制が整わないまま数年が過ぎると、過去分の整理コストが積み上がります。重加算税の加重措置など周辺の論点は別記事で扱っています。

さらに、顧問先の担当者が交代したときに運用が崩れないよう、手順書を1枚残しておく価値があります。手順書に書くのは3つだけで足ります。受領した証憑をどこに置くか、ファイル名をどう付けるか、迷ったら誰に聞くか。分厚いマニュアルは読まれませんが、1枚なら机の横に貼れます。実際、一本化が定着するかどうかは、この1枚があるかどうかで分かれます。

費用と工数、誰がどこまで持つか

工数は、顧問先の保存先の数にほぼ比例します。

以下は編集部が置いた目安であり、統計にもとづく実績値ではありません(出典: 公表統計ではなく想定値)。従業員20名規模の顧問先で保存先が3か所に分かれている場合、電子取引の洗い出しと保存先の地図づくりに3時間、一本化先の選定と命名規則の設計に3時間、過去1年分の索引作成の設計とAIプロンプトの調整に4時間、顧問先への説明と運用開始の立ち会いに2時間、といった配分になります。過去分の実データの整理は顧問先側で進めてもらい、税理士は設計と点検に回るのが、報酬と工数のバランスが取りやすい形です。

費用は、会計ソフト側の証憑保管機能を使えるなら追加費用ゼロで済む顧問先もあります。文書管理サービスを別に入れる場合は、利用者数とストレージ容量で価格が変わりますので、稟議の場では各社の公式料金ページで確認します。生成AIの利用料は、汎用サービスの法人プランで利用者ごとに月額数千円規模から始められます。

見積もりを出すときは、初期の設計費用と、月次の点検に乗る分を分けて示すのが実務的です。初期だけ受けて運用を渡してしまうと、半年後に崩れた状態を無償で立て直す羽目になります。月次の点検を顧問報酬の中に位置づけておけば、崩れかけた段階で戻せます。顧問先にとっても、調査の場で説明できる状態が続くことのほうが、初期費用の多寡より価値があります。

役割分担は、設計を税理士、実作業を顧問先、点検を月次の税理士業務に置く形が回りやすくなります。実作業まで受けるなら、その分を顧問報酬とは別建てのスポット業務として見積もるほうが、後の認識違いを防げます。

令和7年度改正以降に見ておく論点

ここから先は、制度の運用が固まってから動く領域です。

第一に、国税庁は令和7年4月に、請求書等を帳簿に自動連携する仕組みに対応した制度が新設された旨のパンフレットを公表しています。請求書データから帳簿への連携が制度側で位置づけられる流れは、記帳代行の作業構造そのものに影響します。顧問先にどこまで自動連携を入れるかは、報酬設計と併せて検討する論点になります。

第二に、要件の確認手段が整理されてきた点です。チェックシートと一問一答、JIIMA認証リスト、事前相談窓口という4つの入口が公表されています。顧問先から質問が来たときに、どの入口を案内するかを事務所で決めておくと、回答のばらつきが減ります。

第三に、AIによる仕分けの精度が上がるほど、人が確認する工程の位置づけが問われるという点です。全件を目視するのか、金額の大きいものと初回取引先だけを抜くのか。抽出基準を事務所として明文化しておくと、確認漏れが起きたときに原因を追えます。基準が無いまま運用すると、担当者ごとに確認の濃さが変わります。

よくある質問

電子取引データは紙に印刷して保存すれば足りますか

電子帳簿保存法第7条は、電子取引を行った場合に財務省令で定めるところにより電磁的記録を保存する旨を定めています。紙への出力については、国税庁のチェックシートで、猶予措置の要件や検索要件の扱いの中で出力書面の提示・提出に関する記述が置かれています。自社がどの類型にあたるかは、チェックシートの各項目を上から順に確認する形になります。

検索要件の3項目とは何ですか

国税庁の電子取引データ保存要件チェックシートでは、取引年月日、取引金額、取引先の3つの記録項目で検索できることが挙げられています。加えて、取引年月日または取引金額についての範囲指定検索と、2以上の記録項目の組合せ検索も挙げられています。

売上が小さい顧問先は検索要件が不要になりますか

チェックシートでは、基準期間すなわち2年(期)前の売上高が5,000万円以下である場合、または出力書面を取引年月日および取引先ごとに整理された状態で提示・提出できるようにしている場合について、税務調査等の際にダウンロードの求めに応じることができれば要件の扱いが変わる整理が示されています。個別の顧問先が該当するかは、チェックシートの項目を順に確認して判断する形になります。

システムを入れずに改ざん防止措置を満たせますか

チェックシートは、専用のシステムを導入しない方法として、改ざん防止のための事務処理規程を策定・運用・備付けする方法を挙げています。国税庁のサイトに規程のサンプルが掲載されている旨も案内されています。作成だけでなく運用と備付けまで含まれている点が要点です。

証憑を生成AIに読ませても守秘義務の問題は起きませんか

確認すべきは、そのツールが入力を学習に使うかという契約上の扱いと、個人データが含まれる場合の個人情報保護法上の整理の2つです。税理士法第38条は秘密を守る義務を定めていますので、事務所としてどのツールのどのプランを使うかを先に決め、顧問先への説明と記録を残す運用が参考になります。

AIが抽出した金額をそのまま索引に使ってよいですか

抽出結果は候補として扱い、担当者が原本と突き合わせる工程を置く運用が現実的です。プロンプトで、読み取れない項目を空欄にせず要確認と記入させ、推測での補完を禁じておくと、確認すべき箇所が明示されます。

猶予措置はいつまで使えますか

チェックシートは、保存できなかったことについて相当の理由があり、税務調査等の際にダウンロードの求めと出力書面の提示・提出の求めに応じることができる場合について、猶予措置の適用を受けることができると整理しています。期限の定めや相当の理由の判断は個別の事情によりますので、顧問先には原則的な保存へ移る目標時期を決めてもらう進め方が実務的です。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

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