補助金の事業計画をAIで下書きする 診断士が回す根拠数値の検証7工程

補助金の事業計画を生成AIで下書きすると数字の根拠が抜けます。中小企業診断士が根拠数値の検証を分離して回す7工程と、契約で組む守秘の設計を一次情報で整理します。

補助金の事業計画をAIで下書きする 診断士が回す根拠数値の検証7工程

補助金の事業計画支援とは、申請者の計画に根拠と一貫性を与える作業のことです。

生成AIに事業計画の下書きを書かせると、見た目の整った文章がすぐ出てきます。問題はそこに並ぶ数字です。この記事では、補助金申請の支援に生成AIを組み込むときに、どの工程でAIを使い、どの工程で数字の根拠を人が確かめるのかを分解し、診断士が負うことになる説明責任の所在まで整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁や事務局の公表資料で確認しています。

補助金の申請実務で、数字の根拠が問われる場面が増えている

出発点として押さえたいのは、申請の様式そのものが数値の裏づけを求める方向へ動いているという点です。ものづくり補助金の総合サイトは、事業計画の策定にあたってCAGR、つまり年平均成長率の算出に活用できるツールを公募要領のページで配布しています。計画の成長率を事務局側が同じ式で確かめられるようにする、という設計です。

要件の判定単位も細かくなっています。同ページの第23次公募に関する留意点として、返還等に関わる給与支給総額の考え方について、第23次公募から1人あたりで成長率を判定する扱いに限定したと記載されています。総額ではなく1人あたりで見るという変更は、計画段階で置く前提の数字が変わることを意味します。従業員数の増減をどう見込むかが、そのまま判定結果に効いてきます。

スケジュールも詰まっています。同ページによると、第23次締切の公募開始日は令和8年2月6日、申請開始は令和8年4月3日17時、申請締切は令和8年5月8日17時とされています。支援側から見ると、数字の根拠を固める時間は決して長くありません。だからこそ下書きを速く作る手段としてAIが使われ、そのぶん検証の工程が圧迫されるという構図が生まれます。

補助金の枠組み自体も動いています。中小企業庁はデジタル化・AI導入補助金2026の公募要領を公開しましたで、令和7年度補正予算事業からIT導入補助金の名称をデジタル化・AI導入補助金へ変更したと案内しています。AIを含むITツールの導入支援という位置づけが前面に出た形です。診断士から見れば、AIの導入支援そのものが補助対象として扱われる局面が広がったことになります。

不正受給への注意喚起も明示されています。ものづくり補助金の総合サイトは、虚偽の申請による不正受給などが判明した場合の取扱いに触れ、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第29条に言及しています。同条は、偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受けた者に対する罰則を定めた規定です。支援者が数字の根拠を確かめないまま申請書を仕上げることの重さは、この文脈で考えることになります。

事業計画の下書きと検証を分ける7工程

ここからが本題です。生成AIを使うこと自体は問題の中心ではありません。文章の生成と数字の検証を同じ工程に置いてしまうことが、支援の質を落とします。以下の七工程は、その二つを構造的に分けるための組み立てです。

第一工程は、根拠データの収集です。申請者の決算書、受注実績、生産能力、人員構成を、AIに触らせる前に集めます。ここで集めた数字が、以降のすべての前提になります。手元にない数字を推計で埋めるなら、その旨を最初から記録に残します。

第二工程は、計画の骨格の合意です。何を導入し、何が改善され、その結果どの指標が動くのか。この因果関係を申請者と口頭で確認し、一枚のメモにします。骨格が曖昧なまま文章を生成すると、もっともらしいが検証できない計画になります。

第三工程は、文章構成案の生成です。ここで初めてAIを使います。与えるのは第一工程のデータと第二工程のメモであり、AIに数字を作らせないことが要点です。

あなたは事業計画の構成担当です。以下の与件のみを使って、
補助金申請用の事業計画の構成案を作成してください。

【与件】
{決算数値、設備の仕様、想定する生産量、人員計画を記入}

【条件】
・与件に無い数値は一切作らないこと
・数値が不足している箇所は「要データ」と明記すること
・各項目に「この記述を裏づける資料」を1行で添えること
・推測にもとづく効果の記述は書かないこと
・出力は見出しと要点の箇条書きのみ。本文は書かないこと

第四工程は、要データ箇所の穴埋めです。AIが要データと記した箇所を一覧にし、申請者に確認して実数を入れます。この往復を省いて推計で埋めると、後の工程で根拠を問われたときに答えられません。

第五工程は、数値の再計算です。成長率や投資回収の計算を、AIの出力とは独立に表計算で回します。ものづくり補助金の総合サイトが配布しているCAGR算出ツールのように、事務局側が用意した計算方法がある場合はそれに合わせます。AIが示した数字と自分で計算した数字が合わない場合、合わない理由を特定するまで先へ進みません。

第六工程は、本文の生成と事実照合です。構成案と確定した数値をもとに本文を書かせ、出てきた文章の数字を一つずつ第一工程のデータへ突き合わせます。

あなたは文章校正の担当です。以下の事業計画本文に現れる
すべての数値について、照合表を作成してください。

【本文】
{本文を貼り付け}

【条件】
・数値ごとに、本文中の該当箇所と記載された値を抜き出すこと
・同じ指標が複数箇所に出る場合は、値が一致しているか判定すること
・単位の表記ゆれ(千円と万円など)も検出すること
・根拠資料名が本文に書かれていない数値は「根拠未記載」とすること
・判断や評価は行わず、抽出と一致判定だけを行うこと

第七工程は、診断士による最終確認です。計画の実現可能性、数値の整合、記載内容と申請者の実態の一致を確認します。ここは委任できない工程です。支援者として名前を出す以上、内容に責任が伴います。

この七つの並びで意図しているのは、AIが介在する区間を第三工程と第六工程に閉じ込めることです。前後の工程で人が数字を確定させ、真ん中で文章を組み立て、最後にもう一度人が突き合わせる。こうしておくと、後から問題が見つかったときに、どの工程を直せばよいかが一目で分かります。AIを全工程に薄く散らすと、誤りの入った場所を特定できなくなります。

七工程を通すと、AIが担うのは構成案と本文の下書き、そして照合表の作成です。数字を作ること、数字が妥当かを判断することは人の側に残ります。伴走型の支援全体の設計は、士業のチカラの中小企業診断士のAI導入支援を伴走型にする 補助金と組む7つの手順でも扱っています。

診断士の守秘義務は、条文ではなく契約で組み立てる

補助金支援で扱う情報は、決算書、取引先、原価構成、人員の給与水準と、申請者の中枢に近いものばかりです。ここを生成AIに投入するかどうかは、事務所として先に決めておく類の話になります。

制度面で押さえておきたいのは、中小企業診断士の位置づけです。登録の根拠は中小企業支援法第11条にあり、同条は経済産業大臣が登録簿を備えて中小企業の経営診断の業務に従事する者に関する事項を登録する旨を定めています。一方で、弁護士や税理士に置かれているような秘密保持の罰則付き条文が、診断士について同じ形で置かれているわけではありません。この違いは、診断士の守秘が契約と職業倫理に支えられていることを意味します。

したがって実務では、守秘の根拠を業務委託契約や秘密保持契約の条項として明示することになります。生成AIを支援業務に使う場合、その契約に第三者へのデータ提供やクラウドサービスの利用をどう位置づけるかが論点として立ち上がります。契約書が生成AIの利用を想定していない条項のままだと、後から解釈の揺れが生じます。

事業者側の取り扱いも確認しておくことになります。OpenAIのエンタープライズ向けプライバシーに関する説明やAnthropicの商用利用規約は、入力データの扱いを確認する出発点です。個人のアカウントで作業している場合と、法人契約で作業している場合では条件が異なります。

申請者への説明も避けて通れません。補助金の申請支援では、事業計画書作成支援者として名前を記載する場面があります。支援の過程で生成AIを使ったこと自体を伝えるかどうか、伝えるならどの粒度でかを、事務所として整理しておくと説明がぶれません。この論点は成果物へのAI利用をどこまで伝えるかで別途扱っています。

規程に落とすなら、投入を認めるデータの区分、使用を認めるサービスとプラン、出力を成果物へ反映する前の確認者、案件終了後のデータ削除手順の四点が骨格になります。補助金支援は案件が短期で回るぶん、終了後のデータが残りやすいという特性があります。削除の手順を決めておかないと、過去案件のデータが事務所内に蓄積し続けます。

もう一点、補助金の申請データは事務局側でも利用される前提が置かれています。ものづくり補助金の総合サイトは、提出された情報が中小企業庁関連事業データ利活用ポリシーに則って活用されると記載しています。申請者に説明するとき、事務所がAIを使うかどうかという話と、申請情報が制度側でどう扱われるかという話は別の論点です。ここを混ぜて説明すると、申請者の不安の向きがずれます。

数字の検証を飛ばしたときに起きる3つの場面

一つ目は、AIが出した業界平均値がそのまま計画に載る場面です。生成AIは、聞かれれば何らかの数値を返します。その数値の出所が示されないまま、業界平均の成長率はこうだという文が計画書に入り、審査の過程で根拠を問われる。回避策は第三工程のプロンプトにある通り、与件に無い数値を作らせないという制約を最初から課すことです。

二つ目は、同じ指標が箇所によって違う値になる場面です。売上高の見込みが、概要では一つの値で、詳細では別の値になっている。文章を分割して生成すると起きやすく、通読しても気づきにくい種類の誤りです。第六工程の照合表は、この検出を目的としています。

三つ目は、申請者の実態と計画の記述がずれる場面です。AIが生成した文章は一般的に整っているため、申請者が読んでも違和感を持ちにくい。結果として、実際には稼働していない設備や存在しない体制が計画に書かれたまま進む。不正受給の注意喚起が補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第29条に触れている以上、支援者としてここを確かめる工程は外せません。回避策は、完成稿を申請者に音読してもらい、一文ずつ実態と照らす場を設けることです。

支援工程にAIを入れたときの工数と単価の考え方

工数の内訳は変わります。下書きの作成時間は圧縮され、検証と往復の時間が相対的に増えます。従来は文章を書く時間が支援工数の大半を占めていた事務所ほど、この変化は大きく見えるはずです。総工数が減るか増えるかは、検証をどこまで丁寧にやるかで決まります。

現実的には、初回の案件で工数が増える事務所が多いはずです。プロンプトを整え、照合表の様式を作り、往復の型を決めるまでは手探りになります。二件目、三件目で形が固まり、そこからようやく圧縮が効き始めます。最初の一件だけを見て導入の可否を判断すると、効果を取りこぼします。

単価の設計をどうするかは、この構造変化と直結します。文章を書く時間で単価を組んでいた場合、その時間が減ると値付けの根拠が薄くなります。一方で、根拠数値の検証と実態確認は、AIに置き換えられない工程として残ります。支援の価値を検証と実現可能性の判断に置き直すという整理が、値付けの考え方として現実的です。

体制面では、誰が最終確認を持つかを決めておきます。補助金支援は繁忙期が締切に集中するため、複数案件を並行して回すことになります。下書きの生成を補助者に任せる場合でも、数値の照合と実態確認は診断士本人が行う工程として固定しておかないと、締切直前に確認が形骸化します。経営力向上計画など他の支援メニューとの工程共通化については、経営力向上計画の作成支援をAIで組み直すで整理しています。

審査側もAIを使う前提で、計画の質が問われる方向へ

今後の論点は二つに整理できます。一つは、申請件数と審査体制の関係です。下書きの生成コストが下がれば、申請の総数は増える方向へ働きます。審査側がその量をどう捌くかによって、書類の見た目の整い方ではなく、数値の裏づけと実現可能性が選別の軸になる可能性が高まります。

もう一つは、支援者の記載です。ものづくり補助金の総合サイトは、事業計画書作成支援者名の記載に関する注意に触れています。誰が支援したかが記録される仕組みがある以上、支援の質は個人に紐づいて蓄積していきます。AIで量を捌く方向へ振り切った事務所と、検証に時間を割いた事務所の差が、中期的には採択実績として見える形になってくることが論点になります。

診断士の側で言えば、AIが書ける部分を自分の商品にしないという判断が要る局面です。書く速さで勝負する余地は縮み、数字の出所を辿り、申請者の実態と突き合わせ、実現可能性を説明する部分が残ります。ここは経験と現場感覚の領域であり、AIの進歩とは別の軸で価値が決まります。

三つ目の見方として、補助金の枠組み自体がAI導入を対象に含めてきたことも押さえておきたいところです。中小企業庁のデジタル化・AI導入補助金2026の案内は、AIを含むITツールの導入を支援すると説明しています。支援者がAIを使って申請書を作り、その申請の中身がAIの導入である、という構図が生じます。導入効果を語る側が、自分の業務でどうAIを使っているかを説明できるかどうか。それが支援先からの信頼の材料になる場面が出てきます。

よくある質問

補助金の事業計画を生成AIで書いてよいのですか

公募要領で生成AIの利用そのものを一律に禁じる旨の記載は、確認した範囲では見当たりません。ただし虚偽の申請に関する注意喚起は明示されており、出力された内容が申請者の実態と合っているかを確かめる責任は支援者と申請者に残ります。利用の可否より、検証の工程をどう置くかが実務上の論点になります。

AIが出した業界平均の数値は使えますか

出所が確認できない数値は、計画の根拠としては弱いままです。業界統計を使うのであれば、統計の名称、調査年、対象範囲を一次資料で確認し、その出典を計画書に記載する形にします。AIには出典の候補を挙げさせ、確認は人が行うという分担が現実的です。

支援者名の記載はどう扱われますか

ものづくり補助金の総合サイトは、事業計画書作成支援者名に関する記載の注意に触れています。支援に関わった事実を記録する仕組みがあるため、支援の内容と成果は支援者に紐づきます。詳細な取扱いは各締切回の公募要領を確認することになります。

決算書を生成AIに読み込ませてよいですか

判断の前に確認したいのは、使用するサービスが入力を学習に使う設定になっているかと、申請者との契約上の秘密保持の取り決めです。診断士の守秘は契約と職業倫理に支えられる構造のため、契約条項に生成AIの利用をどう位置づけるかを先に整理する運用例が見られます。

CAGRの計算はAIに任せてよいですか

計算そのものは機械的な処理ですが、事務局が示す算出方法に沿っているかの確認は人が行うことになります。ものづくり補助金の総合サイトはCAGR算出ツールを配布しており、公表されている計算方法に合わせるのが確実です。

第23次公募で変わった点は何ですか

同サイトの留意点によると、返還等に関わる給与支給総額の考え方について、第23次公募から1人あたりで成長率を判定する扱いに限定されています。総額では判断しないとされているため、計画段階で置く従業員数の前提が結果に影響します。

AIを使った分、支援料を下げるべきですか

料金の設計は各事務所の判断ですが、工数の内訳が下書きから検証へ移るという構造変化を踏まえて考えることになります。検証と実態確認の工程は残るため、その部分を支援の中心として値付けを組み直す考え方が示されています。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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