kintone AIとは、kintone上の業務データを扱うAI機能のことです。
サイボウズは2026年4月22日、kintoneのAI機能であるkintone AIを正式版として提供すると発表しました(サイボウズ サイボウズ、「kintone AI」を正式提供)。案件管理や顧客管理をkintoneで回している士業事務所にとって、これは新しいツールを増やす話ではなく、すでに事務所の中にあるデータの扱い方が変わる話です。この記事では、導入を7つの工程に分け、守秘義務の線をどこに引くかまで含めて整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、製品の内容は提供元の公表資料で確認しています。
事務所にすでにあるデータが、AIの対象になるということ
士業事務所でkintoneが使われている場面は、だいたい決まっています。案件の進行管理、顧客台帳、相談履歴、請求の管理。紙とExcelで回していたものを載せ替えた結果、事務所の業務情報がひとつの場所に集まっている状態です。ここにAI機能が乗るというのは、集めたデータが検索と生成の対象になるということを意味します。
サイボウズの発表によると、kintone AIは、kintone AIラボでβ版として提供していた検索AIやアプリ作成AIなどのAI機能を正式な機能として提供するものとされています。提供開始は2026年6月14日の2026年6月版アップデートで、提供対象はスタンダードコースまたはワイドコースの契約者です。管理者がkintone AI管理という画面で利用したいAI機能を選択して利用を開始する形になっています(出典: サイボウズ 同社ニュースリリース)。
この提供の形は、事務所にとって重要な意味を持ちます。管理者が機能を選ぶ形であるということは、有効化の判断が事務所側にあるということです。気づいたら使えるようになっていた、という状態にはなりません。逆に言えば、有効化の前に何を決めておくかが、そのまま事務所の運用を決めます。
β版の提供が始まったのは2025年4月15日で、当時はkintone AIラボという枠組みの中でアプリ作成AIなどが公開されていました(サイボウズ サイボウズ、「kintone AIラボ」で開発中のAI機能をβ版として提供開始)。1年を挟んで正式版になったという経緯は、事務所側の検討にも使えます。すでにβ版を触っていた事務所は、正式版で何が変わるかを確認する作業から始められます。触っていなかった事務所は、まず対象データの棚卸しから入ることになります。
士業事務所がこの種の機能を検討するとき、判断が難しくなるのは、扱っている情報の性質が業種によってかなり違うためです。顧問先の勤怠データを預かる社労士事務所と、係争案件の記録を持つ法律事務所では、同じ案件管理アプリでも機微さの度合いが変わります。同じ事務所の中でも、請求管理と相談記録では性質が違います。だからこそ、製品の機能一覧を眺める前に、自分の事務所のどのデータが対象になるのかを先に確かめる順序が要ります。
機能の方向性としては、蓄積された業務データを活用するためのものと、現場主体で業務アプリを作る市民開発を支援するものが示されています(サイボウズ kintone AI)。士業事務所の文脈に置き換えると、前者は相談履歴や案件情報の検索に、後者は職員が自分でアプリを直す場面に効いてきます。開発者向けの技術情報はcybozu developer network のAI関連ページにまとまっています。
案件管理にkintone AIを入れる7工程
結論から書きます。工程は、対象データの棚卸し、アプリ単位の仕分け、権限の確認、有効化する機能の選定、試行、職員への説明、そして記録の設計の7つです。
第1工程は、対象データの棚卸しです。kintoneに何が入っているかを、アプリ単位で書き出します。士業事務所の場合、案件管理アプリに相談の内容が自由記述で入っていることが多く、そこに顧客の氏名、勤務先、家族関係、病歴といった情報が混ざります。棚卸しの目的は削ることではなく、どこに何があるかを把握することです。
第2工程は、アプリ単位の仕分けです。AIの対象にしてよいアプリと、外すアプリを分けます。分け方の基準は、扱う情報の性質と、その情報が事務所の外に出たときの影響の大きさです。請求管理や備品管理は前者、係争中の案件や労務相談の記録は後者に寄ります。全部を一度に対象にする必要はありません。
第3工程は、権限の確認です。kintoneはアプリごとにアクセス権を設定できますが、AIの検索がその権限をどう扱うかは、有効化の前に確認しておく項目です。職員Aが見られないアプリの内容が、AIの回答経由で見えてしまう構成になっていないかを確かめます。権限設計の考え方は、MCPロードマップを事務所の権限設計に落とす 接続で決める7項目で扱った視点がそのまま使えます。
第4工程は、有効化する機能の選定です。管理者が機能を選ぶ形になっているため、全部を一度に有効にせず、使う場面が明確なものから入れます。検索の支援は効果が分かりやすく、失敗しても影響が小さい領域です。アプリの作成や変更を支援する機能は、事務所の業務フローに直接触れるため、後回しにしても困りません。
第5工程は、試行です。実データではなく、架空の案件を入れたアプリで試すのが安全側です。相談内容の要約、類似案件の検索、期日の抽出。この3つを試すと、事務所の使い方に合うかどうかがだいたい判断できます。試行の期間は2週間程度を見込む設計が取り回しやすいという想定で、根拠は事務所内での見積もりであり、公表された統計ではありません。
第6工程は、職員への説明です。ここで伝えるのは操作方法より、使ってよい場面と使わない場面です。特に、AIが出した要約をそのまま顧客へ送らないこと、期日や金額は元データで確かめることの2点は、短い文章で明示します。操作方法は画面が変わると古くなりますが、この2点は変わりません。
第7工程は、記録の設計です。誰がどの機能をいつ使ったかを、どこまで残すかを決めます。kintone側のログで足りるのか、事務所として別に記録が要るのか。監査や問い合わせの場面を想定して、後から辿れる形にしておきます。
7工程のうち、実際に時間がかかるのは第1と第3です。棚卸しと権限の確認は、どちらもkintoneの画面を1つずつ開いて確認する作業になります。逆に、第4の有効化そのものは管理画面の操作なので短時間で終わります。導入の計画を立てるときは、この配分を誤らないようにします。有効化までの日数ではなく、棚卸しに充てる時間で計画を組むほうが現実的です。
もう1つ、順序を守る理由があります。第4の有効化を先にやってしまうと、職員が使い始めてから第2の仕分けを行うことになり、対象から外したいアプリが既に検索されている状態になります。取り消しはできても、見てしまった事実は戻りません。士業事務所の場合、この点は特に慎重に扱う価値があります。
ここからは手を動かす部分です。棚卸しの下書きを生成AIに任せるプロンプトを置きます。実データは入れず、アプリの設計情報だけを扱わせます。
あなたは士業事務所の事務局向けに、システムの棚卸し表を整理するアシスタントです。
以下に貼るのは、事務所で使っているkintoneアプリのフィールド一覧です
(フィールド名のみ。実データは含みません)。
次の作業だけを行ってください。
1. 各アプリについて、個人を特定し得るフィールド名を抜き出す
2. 自由記述のフィールドを抜き出し、何が書かれ得るかを推測せずに
「自由記述」とだけ記す
3. アプリ間で同じ意味と思われるフィールド名の揺れを一覧にする
4. 情報の機微さの評価はしない。判断が要る箇所には「要確認」とだけ付ける
5. 出力は箇条書き。存在しないフィールドを補わない
---
(ここにフィールド一覧を貼る)
もう1本は、職員向けの短い手引きです。操作ではなく判断の基準を書かせます。
士業事務所の職員に配る「案件管理システムのAI機能を使うときの手引き」を
下書きしてください。
前提:
- 職員は6名、うち有資格者は2名(架空の事務所)
- AIは検索と要約の支援に使い、顧客への回答は有資格者が出す
- 係争中の案件を扱うアプリはAIの対象外にしている
出力要件:
1. 冒頭3行で、使ってよい場面と使わない場面を書く
2. 期日、金額、氏名の3点については元データで確かめる旨を入れる
3. 法令の条番号や制度の可否は書かない
4. 操作手順は書かない
5. ですます調、600字以内、表は使わない
2本目のように、手引きを短く保つことが続けるコツです。長い文書は読まれず、読まれない文書は運用されません。
顧客情報が入るアプリを扱う前に決める3つのこと
決めるのは、職種ごとの守秘義務の建て付け、委託の枠組み、そして顧客への説明です。
1点目。士業の守秘義務は、職種ごとに別の条文で定められています。弁護士法第23条は、弁護士または弁護士であった者が職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負うと定めています。税理士法第38条、社会保険労務士法第21条、司法書士法第24条、行政書士法第12条、弁理士法第30条にも、それぞれ秘密を守る義務の規定が置かれています。条文の文言は職種ごとに違うため、複数の資格者が在籍する事務所では、いちばん厳しい建て付けに合わせる運用を採るところがあります。
2点目。クラウドサービスに顧客の個人データを預ける場面では、個人情報の保護に関する法律第25条が、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を求めています。kintoneの利用そのものは多くの事務所ですでに始まっているため、ここで新たに問われるのは、AI機能を有効にしたときに情報の流れがどう変わるかです。提供元の公表しているデータの取扱いに関する情報を確認し、確認した日付を残す運用が現実的です。
3点目。顧客への説明です。事務所が使っているシステムの名前を伝える必要はありませんが、どの業務でAIの支援を使っているかは、聞かれたときに答えられる状態にしておきます。特に、相談内容の要約にAIを使っている場合、その事実を伝えるかどうかは事務所の方針として決めておく事柄です。方針が決まっていないと、職員ごとに答えが変わります。
規程に落とすなら、書く項目は、AIの対象とするアプリの一覧、対象外とするアプリの一覧、有効化する機能、職員が守る2つの基本、そして見直しの頻度です。項目を増やすより、四半期に一度見直せる分量に収めるほうが機能します。
事務所内のシステム同士をつなぐ話まで広げるなら、接続の設計を先に決めておく必要があります。kintoneのデータを他のツールから参照させる構成にする場合の考え方は、士業事務所のMCPサーバー構築手順|顧客管理と会計連携の7工程で整理しています。
導入でつまずく3つの場面
1つ目は、対象アプリを分けずに有効化してしまう場面です。全部のアプリを対象にすると、検索の結果に係争中の案件や労務相談の記録が混ざります。回避策は、最初は事務的なアプリだけを対象にし、3か月ほど運用してから範囲を広げることです。狭く始めて広げるほうが、広げてから絞るより安全です。
2つ目は、フィールド名の揺れを放置したまま検索を使い始める場面です。同じ意味の項目が、あるアプリでは顧客名、別のアプリでは依頼者名になっていると、横断的な検索の結果が揃いません。AIの性能の問題に見えて、実際はデータ設計の問題です。回避策は、棚卸しの段階で揺れを一覧にし、統一する項目と残す項目を決めておくことです。
3つ目は、要約をそのまま外に出してしまう場面です。相談記録の要約は読みやすく、そのまま報告書に貼りたくなります。しかし要約は、元の記述から情報を落とす処理です。落ちた部分が重要でなかったかどうかは、元を読まないと分かりません。回避策は、外に出す文書に使う場合は元データを開いて確認する工程を手引きに書いておくことです。
3つに共通するのは、AIの精度ではなく、事務所側の準備で決まる部分が大きいという点です。準備の大半は、AIが登場する前から必要だったデータ整理でもあります。
付け加えると、つまずきの多くは導入から2、3か月後に表面化します。最初の数週間は物珍しさで丁寧に使われ、慣れてきた頃に手順が省略され始めるためです。導入時の説明だけで終わらせず、3か月後に一度、実際の使われ方を見る機会を作っておくと、ずれを早く見つけられます。見る対象は職員の操作ではなく、外に出た文書のほうです。要約をそのまま貼った形跡があれば、手引きの書き方を直す材料になります。
費用と工数、そして誰が持つか
費用面では、提供対象がスタンダードコースまたはワイドコースの契約者とされているため、ライトコースで運用している事務所はコースの変更が前提になります(出典: サイボウズ 同社ニュースリリース)。現在のコースと、変更した場合の月額の差を先に確認しておくと、検討が具体的になります。
工数で重いのは、第1工程の棚卸しです。アプリ数が多い事務所ほど時間がかかり、10アプリ程度で5時間前後を見込んでいる事務所があります。根拠は当該事務所の内製の見積もりであり、公表された統計ではありません。棚卸しは一度作れば資産になり、AIとは関係のない場面でも使えます。
体制としては、管理者権限を持つ人が有効化の判断を持ち、日々の運用は各アプリの担当者が持つ形が回りやすいところです。ただし、対象アプリの範囲を広げる判断は担当者に任せず、所長か事務局長の承認を通す形にしておきます。範囲の拡大は、気づかないうちに進むためです。
見直しの頻度は、四半期に一度で足ります。頻度を上げても、確認する内容がほとんど変わりません。むしろ、kintoneの機能追加のタイミングに合わせて、追加された機能を有効にするかどうかだけを判断する運用にしておくと、負担が軽くなります。
費用対効果の見方としては、削減時間で測るより、探す手間が減ったかどうかで見るほうが実態に合います。案件管理のデータを検索する場面は、1回あたりは短くても回数が多く、積み上げると無視できません。ただし、その時間は日報に現れないため、削減効果として説明しづらい性質があります。事務所として説明が要る場合は、導入前に数週間だけ、探すのにかかった時間を記録しておくと比較の基準ができます。
そして、コースの変更が必要になる事務所では、判断が費用の話に寄りがちです。ただ、コースの違いはAI機能だけではありません。変更の可否を検討する際は、AI以外の機能差も含めて総合的に見るほうが、後から使える機能が増えます。
これから論点になりやすいこと
第1に、機能の追加です。正式版として提供が始まった以上、今後も機能が増えていくことが見込まれます。事務所としては、機能が増えるたびに全部を有効にするのではなく、使う場面が説明できるものだけを選ぶ姿勢が要ります。
第2に、他のツールとの接続です。案件管理のデータを、文書作成や会計のツールから参照したいという要望は自然に出てきます。接続が増えるほど、権限の設計が効いてきます。どのツールがどのアプリを読めるのかを、一覧で管理する必要が出てきます。
第3に、職員の期待値です。AIが入ったことで、検索が速くなることを期待する職員と、入力が減ることを期待する職員が出てきます。後者の期待は、多くの場合そのままでは満たされません。何が楽になり、何は変わらないのかを、導入時に具体的に伝えておくと、定着の仕方が変わります。
よくある質問
kintone AIはいつから使えますか
正式版の提供開始は2026年6月14日の2026年6月版アップデートとされています(サイボウズ サイボウズ、「kintone AI」を正式提供)。提供対象はスタンダードコースまたはワイドコースの契約者で、管理者が利用したい機能を選択して開始する形です。
既存のkintoneを使っていれば自動で有効になりますか
管理者がkintone AI管理という画面で利用したいAI機能を選択して利用を開始する形と説明されています(出典: サイボウズ 同社ニュースリリース)。有効化の判断が事務所側にあるため、対象アプリの範囲を決めてから進められます。
係争中の案件が入ったアプリはどう扱えばよいですか
対象から外す判断をしている事務所があります。判断の材料になるのは、そのアプリに入っている情報の性質と、職員間のアクセス権の設定です。権限の設計を確認してから、対象に含めるかどうかを決める順序にすると、後戻りが減ります。
職種が違う有資格者が同じ事務所にいる場合はどうしますか
守秘義務の条文は職種ごとに置かれており、弁護士法第23条、税理士法第38条、社会保険労務士法第21条などで文言が異なります。複数資格の事務所では、いちばん厳しい建て付けに合わせて運用を統一するところがあります。
AIの要約をそのまま顧客への報告に使ってよいですか
要約は元の記述から情報を落とす処理なので、外に出す文書に使う場合は元データを開いて確かめる工程を挟む形が実務では一般的です。特に期日、金額、氏名の3点は、要約の段階で誤りが混ざりやすい箇所として扱われます。
まず何から始めればよいですか
kintoneに入っているアプリの棚卸しです。どのアプリにどんなフィールドがあるかを書き出すだけで、対象にするアプリと外すアプリの判断ができるようになります。棚卸しはAIとは関係のない場面でも使えるため、無駄になりません。
ライトコースでも使えますか
提供対象はスタンダードコースまたはワイドコースの契約者とされています(出典: サイボウズ 同社ニュースリリース)。ライトコースで運用している場合、コース変更の要否と月額の差を先に確認する形になります。
参考文献
- サイボウズ サイボウズ、「kintone AI」を正式提供(2026年4月22日)
- サイボウズ サイボウズ、「kintone AIラボ」で開発中のAI機能をβ版として提供開始(2025年4月15日)
- サイボウズ kintone AI
- cybozu developer network AI
- e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律
- e-Gov法令検索 弁護士法
- e-Gov法令検索 税理士法
- e-Gov法令検索 社会保険労務士法
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/
本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。
記載内容に誤りを見つけられた場合は、お問い合わせよりご指摘ください。確認のうえ速やかに訂正し、訂正履歴を記事内に残します。編集方針の詳細は運営者情報をご覧ください。