金融庁長官がチーフAIオフィサーに、2026事務年度金融行政方針の3論点

金融庁が2026年9月15日に公表した2026事務年度金融行政方針を整理します。チーフAIオフィサー設置と金融庁AIトランスフォーメーション会議、監査法人モニタリングの見直しなど、士業事務所が押さえる3つの論点をまとめました。

金融庁長官がチーフAIオフィサーに、2026事務年度金融行政方針の3論点

金融庁は2026年9月15日、2026事務年度金融行政方針を公表しました。

金融庁が2026年9月15日に公表した2026事務年度金融行政方針には、行政の側が生成AIをどう使うかを正面から書いた節が入りました。チーフAIオフィサーに着任した金融庁長官の下に「金融庁AIトランスフォーメーション会議」を置き、政策立案から日常的な事務処理、モニタリング、市場監視まで、AIの利用と業務プロセスの改善を進めるという記述です。監督する側が自分の仕事の進め方をAI前提で組み替えると書いた文書ですから、監査法人や会計事務所、金融機関を顧問先に持つ税理士事務所にとっては、提出した資料がどう読まれるかという話でもあります。本記事は公表資料の記載を整理したもので、法令の解釈や個別事案の評価を示すものではありません。

金融行政方針の公表を受けて資料を読み込む事務所のイメージ

2026事務年度金融行政方針に何が書かれたか

2026事務年度金融行政方針は、本文と主なポイントの2本のPDFで公表されました。あわせて、内閣官房が2026年7月21日に策定した成長投資を促進するための金融戦略が別添として並んでいます。方針の末尾には、今回の金融行政方針はこの金融戦略との記載の重複を避け、補完が必要な項目を中心に作成したという注記が置かれました。つまり、政府全体の戦略が先にあり、金融庁の方針はその足りない部分を埋める位置づけになっています。

主なポイントに並ぶのは、金融戦略に掲げられた施策の具体化、個別金融機関と金融システム全体を捉えたモニタリングの高度化、金融機関のガバナンスの確保、金融犯罪・自然災害への対応、資本市場の信頼確保、そして「AIによる業務改革と人材・組織の強化を通じた金融行政の更なる進化」の各項目です。最後の項目に、生成AIの利活用と、それを前提とした政策立案・監督・モニタリング・市場監視の業務プロセス改善が書かれています。アカデミアとの連携強化と、検査官・モニタリング人材の体系的・中期的な育成も同じ項目に入りました。

本文PDFの第3章では、この取り組みが「金融行政のAIトランスフォーメーション(AX)」と名付けられています。金融庁の過去の政策検討過程や国内外の政策提言の文書を使った政策立案から日常的な事務処理までAIを使うこと、金融機関や利用者から取得した大量の文書やデータをAI・デジタル技術で処理してモニタリングに活かすこと、市場監視の業務プロセス全体でデジタルフォレンジックをはじめとする技術の活用を進めることの3点が具体的に挙げられています。財務局との連携を通じて地域金融機関のモニタリングにも広げるとも書かれました。

士業事務所が読むべき3つの論点

論点の1つめは、監査法人に対するモニタリングの進め方です。方針本文には、公認会計士・監査審査会が監査法人の規模に応じて業務の状況やリスクに着目し、オンサイトとオフサイトをより連動させた対応を図ると書かれています。脚注ではオフサイトの中身が示されており、日本公認会計士協会の品質管理レビュー結果の審査、金融庁関係部局や業界団体からの情報収集・分析、報告徴収による検査の改善状況のフォローアップなどが挙がっています。財務書類の個別の監査について虚偽証明等の疑義がある場合の検証も明記されました。審査会そのものは公認会計士法第35条が金融庁に置くと定めている組織です。監査の現場でデータ分析の比重が増えている流れは、同日にJICPAが公表した研究文書14号の整理とも重なります。

2つめは、審査や検査を受ける側から見た「読まれ方」の変化です。大量の文書やデータをAIで処理してリスクを把握するという記述は、提出資料の量が多いほど機械的に横串で読まれる可能性が高まることを意味します。監査調書や説明資料の一貫性、用語の揺れ、数値の根拠の示し方といった点は、これまでも品質管理の話題でしたが、監査調書のAI一次レビューを組む工程を自事務所側でも設計しておく実益は増えます。あわせて、事務所のAI利用ログを監査証跡として残す設計を整えておくと、何をAIに任せ何を人が判断したかを後から説明しやすくなります。

3つめは、金融機関側のAI利活用を金融庁が後押しする方向です。方針には、2026年3月3日に公表されたAIディスカッションペーパー第1.1版の改訂等を通じ、金融機関等におけるAI利活用の実務上の課題を整理するとあります。さらに「AI等の健全な利活用の推進に関する研究会」と「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」で技術・制度・監督の論点を検討し、金融戦略が2026年夏の立ち上げを掲げた「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」も動かすとされています。顧問先が金融機関である事務所は、ここで整理される論点がそのまま顧問先の社内規程の改定要因になります。第1.1版の内容は会計士が読む6つの論点として整理しています。

なお、金融庁が使う生成AIの基盤や、提出資料が処理される際のデータの取り扱いについては、今回の公表資料からは読み取れません。この点は要確認として扱い、続報を待つ形になります。事務所が自分たちで使うツールの側は別の話で、公認会計士法第27条が定める秘密を守る義務との関係から、入力した内容が学習に使われるかどうかを提供元の公式ポリシーで確かめる作業が前提になります。確認の観点はベンダーへの確認7項目にまとめています。

今後の動きと事務所の初動

当面の注目点は3つに絞れます。1つは「AI等の健全な利活用の推進に関する研究会」の議論と、それを受けたAIディスカッションペーパーの改訂内容です。2つめは検査官育成プログラムの整備で、方針本文には検査官の人材育成に関するプロジェクトチームを設け、ガバナンスや主要なリスク管理態勢に関するモニタリング上の実践的な着眼点を研修資料として取りまとめると書かれています。この着眼点が公表される形になれば、被監督側から見た「何を見られるか」の手がかりになります。3つめはアカデミアとの連携で、国立大学法人東京大学との基本協定が脚注で示されました。

事務所側の初動としては、金融行政方針の本文のうち自分たちの関与先に関わる章だけを抜き出して読む、監査や税務の説明資料でAIを使った部分と人が判断した部分の切り分けを記録に残す、顧問先が金融機関であれば研究会の開催案内を定点で追う、といった対応を採る事務所があります。いずれも今すぐ体制を作り替える話ではなく、公表資料の更新を追う仕組みを整える段階です。

まとめ

2026事務年度金融行政方針は、金融庁自身がチーフAIオフィサーと金融庁AIトランスフォーメーション会議を置き、政策立案からモニタリング、市場監視までAIを使う方向を示しました。士業事務所にとっての論点は、監査法人モニタリングのオンサイトとオフサイトの連動、大量データを機械的に読まれる前提での資料づくり、そして金融機関のAI利活用を後押しする研究会やディスカッションペーパーの改訂の3点です。

参考文献

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引用元: 金融庁

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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