Sakana Namazuの初期設定と国内処理 士業事務所が先に変える3か所

Sakana Namazuは初期設定で入力データが学習に使われる場合があり、国内処理も保証されていません。士業事務所がオプトアウトと投入範囲、守秘義務と個人情報保護法の論点をどう整理するかを解説します。

Sakana Namazuの初期設定と国内処理 士業事務所が先に変える3か所

Sakana Namazuとは、Sakana AIが提供する日本語特化のLLMのことです。

顧問先の資料を国産LLMに入れれば国内で処理される、という前提は、Sakana Namazuについては公表内容と食い違います。この記事では、Sakana Namazuの学習利用の初期設定とデータ処理地域の記載を一次情報で確認したうえで、士業事務所が導入前に決めておく設定と規程の項目を整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。Sakana AIの公式サイトのFAQは、入力データについて「初期設定では、ご入力いただいたデータをモデルの学習・改良に利用する場合があります」と記載し、あわせてデータ処理の国内完結は保証していないと明記しています。

国産LLMでも処理地域は別問題 Sakana Namazuの公表内容を読む

結論から書くと、Sakana Namazuの公表内容で士業事務所が最初に読むべきは、性能でも料金でもなく、FAQの2項目です。ひとつは学習利用の初期設定、もうひとつはデータ処理地域の扱いです。

Sakana Namazuは、Sakana AIが提供する日本語特化のLLMです。公式サイトによれば、公開モデルKimi K2.6をベースに、日本語性能と回答の中立性を高めるための追加学習を独自に行ったモデルで、OpenAI互換のAPIとして提供されます。接続先のbase_urlとモデル名を書き換えるだけで既存のコードから呼び出せる設計で、Web検索とコード実行も同じAPIから使えます。日本語の業務文書やメールを扱う事務所にとって、切り替えの手数が小さいことは実務上の利点です。

料金は月額費用がなく、消費したトークン量とツール利用分の従量制です。同社の公表値では、sakana-namazuの入力が100万トークンあたり0.95米ドル、出力が4.00米ドル、キャッシュ済み入力が0.15米ドルとされています。ツール利用料は、Web検索がページ本文の取得込みで1,000回あたり7.00米ドル、コード実行が1時間あたり0.12米ドルです。円建て表記は1ドル160円換算の参考価格で、請求は米ドル建てのみと記載されています(出典: Sakana Namazu 公式サイト 料金)。

性能面では、ベースモデルとの比較が公表されています。同社の説明では、数学的推論のAIME26、幅広い知識と推論力のMMLU-Pro、コーディングのLiveCodeBench v6ではベースモデルの水準を維持しつつ、日本語の指示理解と応答品質のJFBench、社内の日本語翻訳ベンチマーク、特定の国の価値観に偏らない中立性を測るFairPoliticsQAではベースを上回ったとされ、FairPoliticsQAは34.10%から56.30%へ向上したと記載されています(出典: Sakana Namazu 公式サイト モデル性能)。技術的な背景は同社の技術ブログで説明されています。

ここまでは導入を後押しする材料です。問題は残る2項目です。公式FAQは、入力したデータが学習に使われるかという問いに対し、初期設定では学習・改良に利用する場合があり、Consoleの設定からいつでもオプトアウトできると回答しています。つまり、何もしなければ学習利用がオンの状態から始まる建て付けです。さらに、データの処理が日本国内で完結しているかという問いに対しては、現時点では日本国内で完結させることを保証していないと回答しています。国内のベンダーが提供するモデルであることと、データが国内でのみ処理されることは、公表内容の上では別の話として扱われています。

法人での利用については、円建て支払い、請求書払い、リージョン指定、ゼロデータ保持といった要件を相談できると案内されています。個人向けの初期設定のまま顧問先の資料を扱うのか、法人プランで条件を確定させてから扱うのかは、事務所側が最初に選ぶ分岐です。なお同社は、GDPR等への対応を進めている段階として、EU・EEA域内、イギリス、スイスでは提供していないとも記載しています。

事務所で先に変える3か所 オプトアウトから利用範囲の線引きまで

結論として、Sakana Namazuを事務所に入れるなら、アカウント作成の直後に変える設定と、変えられない部分を運用で埋める手順を先に決めておくのが現実的です。順に見ていきます。

第1に、学習利用のオプトアウトです。公式FAQが案内するとおり、学習への利用はConsoleの設定からオプトアウトできます。ここで注意したいのは、オプトアウトは将来の学習データからの除外であって、すでに学習済みのモデルからの遡及的な削除ではないという点です。詳細は同社のプライバシーポリシーに記載があります。したがって、設定変更前に投入したデータの扱いは、設定変更後のデータとは分けて考える運用になります。事務所での実務手順は次のとおりです。アカウントを作る、鍵を発行する前に設定画面でオプトアウトを行う、その画面を日付入りで記録に残す、担当者名とともに事務所の管理台帳に転記する。この順番を守れば、最初の1回目の入力から学習利用オフの状態で始められます。

第2に、処理地域の扱いです。国内完結が保証されていない以上、事務所として選べるのは、投入する情報の側を絞ることか、法人プランでリージョン指定を含む条件を確定させることのどちらかです。前者を選ぶ場合は、投入してよい情報の線引きを文書にします。たとえば、顧問先名と担当者名を伏せた一般論の相談、公開されている法令・通達・様式の読み解き、事務所内部の手順書の下書き、この3種類までを許可範囲とし、顧問先から預かった資料そのものは対象外とする、といった書き方です。線引きの考え方は税理士の守秘義務とAI入力範囲を整理した記事でも扱っています。

第3に、確認工程です。日本語性能が高いモデルほど、出力の日本語が滑らかで、誤りが目立ちにくくなります。条番号、施行日、金額、税率、期限といった検証可能な要素は、出力をそのまま使わず、e-Gov法令検索や府省庁の公表資料で原典を開いて突き合わせます。最終的な判断と対外的な成果物への反映は有資格者が行い、確認者の氏名と確認日を記録に残します。この工程を手順書に明示しておくと、担当者が代わっても品質が落ちにくくなります。

実際の使い方を具体化します。次のプロンプトは、顧問先の情報を入れずに、公開されている様式の読み解きだけをモデルに任せる形です。

あなたは日本の事務所の業務補助です。以下の条件を守って回答してください。

条件:
- 実在の企業名・個人名・住所・マイナンバー・取引金額は入力されていません。架空の「甲社」「乙」で記述します。
- 法令の条番号と施行日は、確度が低い場合「要確認」と明記し、推測で書かないでください。
- 出力は「事実」「確認が必要な点」「有資格者に確認する論点」の3つに分けてください。

依頼:
公開されている{様式名}について、記入項目を上から順に並べ、各項目で入力ミスが起きやすい箇所を指摘してください。

次のプロンプトは、事務所内部の手順書を下書きさせる用途です。顧問先の実データを使わずに済むため、処理地域の不確実性が残る段階でも使いやすい部類です。

あなたは士業事務所の業務設計担当です。以下の前提で、事務所内部向けの手順書の下書きを作成してください。

前提:
- 対象業務: {業務名}
- 想定担当者: 資格者1名と補助者2名
- 顧客の実データは一切使いません。手順の骨格だけを書きます。

出力形式:
1. 目的
2. 手順(番号付き。各手順に「入力するもの」と「出力されるもの」を明記)
3. 有資格者が最終確認する工程(どの手順の直後か明示)
4. 記録に残す項目(確認者名・確認日を含む)
5. この下書きだけでは決められない論点(箇条書き)

どちらのプロンプトも、モデルを「下書き役」に固定し、判断を戻さない形にしています。日本語が自然なモデルほど、断定的な文体で誤った内容を返したときの見分けがつきにくくなるため、出力の側に、要確認の欄と、有資格者に確認する論点の欄をあらかじめ作らせておくのが実務的です。

導入の順序としては、まず1業務に絞って2週間ほど試し、出力の誤りの種類を記録します。条番号の誤り、様式の版ずれ、用語の取り違えのどれが多いかが見えたところで、確認工程の重点を決めます。最初から全業務に広げると、誤りの傾向がつかめないまま運用が固まってしまいます。ツール選定そのものの進め方はAIツールのベンダーに確認する質問リストにまとめています。

顧問先資料を入れる前に確認する守秘義務と個人情報保護法の論点

ここが士業事務所にとって最も重い部分です。結論を先に書くと、学習利用のオプトアウトを行っても、処理地域の不確実性が残るかぎり、顧問先の個人データを投入する判断は事務所ごとに検討が必要になります。

士業の守秘義務は、それぞれの資格法に規定があります。弁護士法第23条、税理士法第38条、公認会計士法第27条、司法書士法第24条、行政書士法第12条、社会保険労務士法第21条、弁理士法第30条がそれにあたります。いずれも正当な理由なく業務上知り得た秘密を漏らすことを禁じる規定で、外部のクラウドサービスへの入力がここにどう位置づくかは、投入する情報の内容と契約条件の組み合わせで変わってきます。

個人情報保護法の側では、2つの条文が論点になります。個人情報保護法第27条は第三者提供の制限を定めており、同条第5項は、利用目的の達成に必要な範囲内で取扱いの全部または一部を委託することに伴って個人データが提供される場合、提供を受ける者は第三者に該当しないものとすると規定しています。クラウドサービスの利用がこの委託の枠で整理できるかどうかが、まず検討される点です。

もうひとつが個人情報保護法第28条です。外国にある第三者への提供の制限を定めた条文で、原則としてあらかじめ外国にある第三者への提供を認める旨の本人の同意を得ることを求め、その際に当該外国の制度や第三者の講じる措置などの情報を本人に提供することを規定しています。データ処理が国内で完結すると保証されていないサービスに個人データを投入する場合、この条文が検討対象に入ってくる点は押さえておく必要があります。個人情報保護委員会は生成AIサービスの利用について注意喚起を公表しており、あわせて個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)も参照先になります。

事務所規程に落とすなら、運用例として次の項目を書き分けている事務所があります。第1に、使用を認めるサービスとプランの列挙です。個人プランと法人プランを区別し、どちらで契約したかを明記します。第2に、投入してよい情報の類型です。公開情報、匿名化した一般論、顧問先の実データの3段階に分け、3段階目は原則として対象外とし、例外を認める場合の決裁者を書きます。第3に、顧問先への説明です。委任契約書や業務委託契約書にAI利用に関する条項を置く、または別紙で説明して同意を得る運用が見られます。第4に、記録です。誰が、いつ、どのサービスに、どの類型の情報を入れたかを残します。第5に、設定の点検頻度です。ベンダー側の初期設定やポリシーは変わり得るため、四半期ごとに設定画面とポリシーの更新日を確認する運用例があります。規程の作り方はAI事業者ガイドラインを事務所規程に反映する記事で詳しく扱っています。

顧問先への説明では、学習には使われないと言い切るのではなく、どの設定を事務所として行い、どこまでが確認できていて、どこからが確認できていないのかを分けて伝えるほうが、後の説明責任を果たしやすくなります。処理地域について保証がない旨は、公表されている事実としてそのまま伝えられます。

「国産だから安心」で起きる3つの失敗

失敗例の1つ目は、設定を変える前に投入してしまうケースです。アカウントを作ってすぐ試したくなるのは自然ですが、初期設定では学習利用がオンの状態から始まる建て付けである以上、最初の1回目が学習データに入る可能性があります。オプトアウトは将来の学習からの除外であって、遡及的な削除ではありません。回避策は単純で、鍵を発行する前に設定を変え、その画面を記録に残すことです。

2つ目は、ベンダーの所在地とデータの処理地域を混同するケースです。国内企業が提供しているから国内で処理されるはずだ、という推測は、Sakana Namazuの公表内容とは一致しません。回避策は、規程に、処理地域について事業者が公表している内容を書き写す欄を設け、確認日とともに記録することです。推測ではなく公表内容を書き写す欄にしておくと、担当者の思い込みが入りにくくなります。

3つ目は、事務所内で利用が野良化するケースです。OpenAI互換のAPIで接続先を1か所変えるだけで動くという手軽さは、裏返せば、既存のツールの向き先を誰かが勝手に変えられるということでもあります。誰がどの鍵を持ち、どのツールがどのモデルを呼んでいるかが把握できなくなると、事故が起きたときに範囲を特定できません。回避策は、鍵の発行を管理者に一本化し、鍵ごとに用途と担当者を台帳に書くことです。あわせて、禁止だけを書いた規程は運用が止まるだけなので、架空データに限る、顧問先情報は入れない、試した結果を管理者に共有する、という条件付きの試用ルートを別紙で用意する運用例があります。

費用と工数 トークン単価より重いのは規程改定の体制

費用面は、公表されている単価から見積もれます。入力が100万トークンあたり0.95米ドル、出力が4.00米ドルという水準は、フロンティアモデルを大量に使っている事務所にとってはコスト圧縮の選択肢になり得ます(出典: Sakana Namazu 公式サイト 料金)。ただし、Web検索は1,000回あたり7.00米ドル、コード実行は1時間あたり0.12米ドルと別建てで、請求は米ドル建てのみです。円建て支払いや請求書払いを求める場合は法人プランでの相談になります。

工数面で重いのは、モデルの導入そのものではなく、規程と説明の整備です。投入してよい情報の線引きを決める、顧問先への説明文と同意の取り方を決める、記録の様式を作る、担当者に周知する。この一連を初回に固めるまでが山で、以降は四半期ごとの点検が中心になります。体制としては、設定と鍵の管理を管理者ひとりに集約し、規程の改定は資格者が承認する形が運用しやすい形です。

比較検討の際は、単価だけでなく、学習利用の初期値、処理地域の記載、ゼロデータ保持の可否、契約形態の4点を同じ表の項目として並べると、事務所内での合意が早くなります。単価が安くても、投入できる情報の範囲が狭ければ実務での使い道は限られます。

今後の論点 リージョン指定とゼロデータ保持をどう位置づけるか

Sakana AIは法人での利用について、リージョン指定やゼロデータ保持といった要件を相談できると案内しています。これが標準の提供条件として明文化されるのか、個別契約での対応にとどまるのかは、今後の公表内容を見る必要があります。士業事務所にとっては、この2点が契約書面に落ちるかどうかが、顧問先の実データを扱えるかどうかの分岐になります。

もうひとつの論点は、公表内容の更新への追随です。初期設定やポリシーは事業者の判断で変わり得ます。導入時に確認した内容が、半年後も同じとはかぎりません。規程に確認日を書く欄を設け、四半期ごとに公式FAQとプライバシーポリシーの記載を読み直す運用にしておくと、変更に気づかないまま運用を続ける事態を避けやすくなります。

日本語特化モデルという打ち出しは、日本語中心の業務が多い士業事務所には合致します。だからこそ、性能の話と、データの取扱いの話を切り離して評価する姿勢が要ります。使えるかどうかを決めるのは、日本語の自然さではなく、投入できる情報の範囲です。

よくある質問

Sakana Namazuは初期設定のままだと入力データが学習に使われますか

公式FAQは、初期設定では入力データをモデルの学習・改良に利用する場合があると記載しています。学習への利用はConsoleの設定からいつでもオプトアウトできるとされています(出典: Sakana Namazu 公式サイト FAQ)。事務所で使う場合は、鍵を発行する前に設定を変える運用にしている例があります。

オプトアウトすれば過去に入れたデータも学習から消えますか

いいえ、遡及的な削除ではありません。同社のプライバシーポリシーでは、オプトアウト後は将来の学習データセットから除外する取り扱いとされており、すでに学習済みのモデルからの遡及的な削除とは区別されています。詳細はプライバシーポリシーをご確認ください。

国産のLLMなのでデータは国内で処理されますか

公式FAQは、現時点ではデータの処理を日本国内で完結させることは保証していないと記載しています(出典: Sakana Namazu 公式サイト FAQ)。ベンダーの所在地とデータの処理地域は、公表内容の上では別の事項として扱われています。

顧問先の資料を入れてよいかはどう判断しますか

判断の前提として、守秘義務の根拠条文と契約条件の両方を確認する運用が一般的です。守秘義務は各資格法に規定があり、たとえば税理士法第38条がこれにあたります。個人データを含む場合は個人情報保護法第27条の委託の整理と、同法第28条の外国にある第三者への提供の制限が論点になります。最終的な判断は、事務所の資格者が個別事情をふまえて行うことになります。

法人プランにすると何が変わりますか

円建て支払い、請求書払い、リージョン指定、ゼロデータ保持といった要件を相談できると案内されています(出典: Sakana Namazu 公式サイト)。個別の提供条件は契約時の確認事項になるため、事務所側で必要な条件を先に書き出してから問い合わせるほうが話が早くなります。

出力された条番号はそのまま書面に使えますか

そのまま使わない運用が一般的です。生成AIが条番号を誤る事象は日本語性能の高さとは別の問題として起こり得るため、e-Gov法令検索の原典を開いて突き合わせ、確認者の氏名と確認日を記録に残す工程を挟む例が多く見られます。

事務所内で誰がどう使ったかを把握するにはどうしますか

鍵の発行を管理者に一本化し、鍵ごとに用途と担当者を台帳に記録する運用例があります。OpenAI互換のAPIは接続先の設定を1か所変えるだけで切り替わるため、鍵の管理が把握の起点になります。あわせて、架空データに限定した試用ルートを別紙で用意しておくと、把握できない利用が減ります。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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