事業計画書の作成支援とは、経営者の構想を実行できる計画へ整える作業のことです。
事業計画書は、経営者の構想を、第三者が読んで理解できる形にした文書です。書く作業そのものより、構想を引き出し、実行できる形に整える部分に時間がかかります。この記事では、作成支援の工程を分解し、AIを当てられる部分と、人が担う部分を整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。生成AIサービスの利用については個人情報保護委員会の注意喚起が判断の出発点になります。
事業計画書に求められるもの
作成支援の設計を考える前に、この文書が何のためにあるかを押さえます。
第1に、経営者自身が考えを整理するための文書です。頭の中にある構想を書き出すことで、抜けや矛盾が見えてきます。この用途では、書く過程そのものに意味があります。
第2に、第三者に説明するための文書です。金融機関、取引先、公的な支援機関。読み手によって、知りたいことが変わります。
第3に、実行の指針としての文書です。誰が、いつまでに、何をするか。計画として機能するには、この部分が具体的である必要があります。
3つの用途のうち、どれが中心かによって、書くべき内容が変わります。作成支援を始める前に、この確認をします。用途が曖昧なまま書き始めると、誰にとっても中途半端な文書になります。
生成AIが得意なのは、集めた材料を文章にする部分です。一方、構想を引き出す部分と、実行できる形に整える部分は、人が担います。この分担が、作成支援でのAIの位置づけになります。
事務所全体での使いどころは中小企業診断士のAI活用で扱っています。
工程を分解する
作業を分けます。
第1の工程は、用途と読み手の確認です。何のために作るのか、誰が読むのか。
第2の工程は、構想の引き出しです。経営者から話を聞き、何をしたいのか、なぜそれをするのかを言葉にします。
第3の工程は、材料の収集です。市場の状況、自社の実績、必要な資金。公開情報と自社の情報の両方を集めます。
第4の工程は、構成への割り当てです。集めた材料を、計画書の構成に沿って並べます。
第5の工程は、文章化です。読み手に伝わる形に書きます。
第6の工程は、数値計画との整合です。文章で書いた内容と、数値の計画が食い違わないようにします。
第7の工程は、確認と修正です。
このうちAIが効くのは、第3の材料の整理、第4の割り当て、第5の文章化です。第2の構想の引き出しは対面の作業であり、第6の数値計画は表計算の領域になります。
第2の工程 構想の引き出しは人が担う
ここが作成支援の中核です。機械では代替できません。
経営者は、自分の事業について語ることに慣れていない場合が多くなります。何をしたいかは言えても、なぜそれをするのか、なぜ今なのか、なぜ自社なのかは、当たり前すぎて言葉になっていません。
この部分を引き出すのが、支援の価値になります。質問を重ね、経営者自身が気づいていなかった動機や前提を言葉にしていく。この作業は、相手との関係の中でしか成立しません。
準備でAIが使えます。確認する項目の一覧を用意しておくと、面談が短くなります。この一覧は、計画書の構成から逆算して作ります。
聞き取ったメモの整理にも使えます。話の順番のまま書かれたメモを、事実として語られた内容、経営者の考えとして語られた内容、確認が要る点に分ける。
あなたは事務所の事務スタッフです。以下のヒアリングメモを、次の3つに分けて
整理してください。
1. 事実として語られた内容
2. 経営者の考えや意向として語られた内容
3. 確認が要ると思われる点
条件:
- メモに書かれていない事実を補わないこと
- 経営や財務についての評価や提案を書かないこと
- 支援先は A社、経営者は 甲 のまま扱うこと
- 数値・日付はメモのまま変更しないこと
- 各項目は1文で、箇条書きにすること
ヒアリングメモ:
"""
(ここに貼り付け)
"""
確認が要る点として挙がったものが、次の面談で聞く対象になります。整理を面談の直後に行えば、経営者に一度で必要なことを聞ける可能性が上がります。
整理した結果を経営者に確認してもらう使い方もあります。話した内容がこう整理されました、と示して、認識のずれを早い段階で見つける。計画書が完成してから食い違いが分かるより、この段階で確認するほうが手戻りが小さくなります。箇条書きに整っているぶん、経営者も確認しやすくなります。
聞き取りの場では、経営者の言葉をそのまま残すことも意識します。整った表現に直しながら聞くと、経営者の実感が抜け落ちます。断片のままでも、経営者が使った言葉を書き留めておくと、後の文章化で使えます。計画書に経営者自身の言葉が残っていると、説明の場でも語りやすくなります。
第3と第4の工程 材料の整理と割り当て
材料には性質の違いがあります。扱いを分けます。
公開情報は、市場の統計、業界の資料、行政の公表資料です。外部のサービスに入力しても、公になっていない情報が外に出ることにはなりません。整理させる作業に制約なく使えます。
支援先の情報は、実績、設備、人員、取引先の状況です。契約上の守秘の範囲を確認したうえで扱います。財務の詳細は、入力しない区分に置く例が多く見られます。
割り当ての作業では、事務所の型と、集めた材料を渡します。材料が型のどこに対応するかを整理させ、対応がない項目を洗い出させます。
あなたは文書の構成を整理する役です。以下の「材料」を、「計画書の構成」に沿って
割り当ててください。
条件:
- 材料に書かれている内容だけを使い、推測で補わないこと
- 対応する材料がない項目は「材料に該当なし」と出力すること
- どの項目にも当てはまらない材料は「未分類」としてまとめること
- 評価や提案を書かないこと
- 支援先は A社、経営者は 甲 のまま扱うこと
- 数値・日付は材料のまま変更しないこと
計画書の構成:
"""
(ここに貼り付け)
"""
材料:
"""
(匿名化した箇条書きを貼り付け)
"""
該当なしとされた項目が、追加で材料を集める対象になります。この洗い出しが、実は最も価値のある部分です。人が整理すると、分かった気になって抜けを見落とします。
第5の工程 文章化での注意点
文章化では、事務所の過去の計画書を文例として渡します。ゼロから書かせるより、既存の型に沿って書き換えさせるほうが手直しが減ります。
注意するのは、経営者が言っていないことを書かせないことです。生成AIは、それらしい効果や見込みを自然に補います。市場が拡大している、需要が見込まれる、競合に対して優位性がある。こうした記述が、根拠なく入り込みます。
指示文で明示的に禁じ、確認の観点にも入れておきます。加えて、各段落がどの材料に基づくかを併記させておくと、確認が突き合わせの作業になります。
もう一つ、文章の調子にも注意します。事業計画書は、実行できる計画である必要があります。前向きな表現が並んでいても、実行の裏付けがなければ計画として機能しません。書ける計画ではなく、できる計画を書く。この基準を持っておくと、文章化での判断が定まります。
読み手による書き分けも設計に含めます。金融機関向けと、社内向けでは、強調する部分が変わります。ただし、版が増えるほど管理が難しくなるため、元になる材料を一つに保ち、そこから作り直す形にしておきます。
第6の工程 数値計画との整合
数値の計画そのものは、表計算の領域です。生成AIに計算をさせると、それらしい数字が返るぶん誤りに気づきにくくなります。
生成AIが効くのは、文章と数値の整合を確認する部分です。文章で書いた前提と、数値の計画の前提が食い違っていないか。売上の見込みの根拠として書いた内容と、計画の数値が対応しているか。
あなたは文書の整合を点検する役です。以下の「文章」と「数値の一覧」を突き合わせ、
対応が取れていない箇所だけを列挙してください。
観点:
- 文章中に記載された数値で、一覧に対応がないもの
- 一覧にある項目で、文章中に説明がないもの
- 文章と一覧で数値が食い違っている箇所
- 期間の記述が文章と一覧で異なる箇所
条件:
- 数値の妥当性についての評価を書かないこと
- 改善の提案を書かないこと
- 対応が取れている箇所は出力しないこと
- 支援先は A社 のまま扱うこと
文章:
"""
(ここに貼り付け)
"""
数値の一覧:
"""
(ここに貼り付け)
"""
この確認は、複数の資料を並行して作る場面で特に効きます。文章を直したときに数値の資料が置き去りになる事故は、よく起きます。修正のたびに回す運用にしておくと、抜けが残りません。
守秘義務と規程 支援先の情報を扱う設計
中小企業診断士は、他の7士業と資格法の建て付けが異なります。経営診断の業務に従事する者の登録は中小企業支援法第11条に置かれ、試験については中小企業支援法第12条に定めがあります。実務では、支援先との契約に守秘条項を置いて対応する例が一般的です。
したがって、設計の起点は契約になります。守秘の範囲が定められているなら、その範囲が入力の判断にも及びます。
事業計画書の作成支援では、扱う情報が特に機微になります。新規の事業の構想、資金の調達の計画、事業承継の方針。外に出た場合の影響が大きく、関係者が限られる案件では、状況の記述だけで誰の話か分かってしまう可能性が残ります。
決めるのは4点です。第1に、入力してよい情報の区分。第2に、匿名化の水準。企業名を記号に置き換えても、業種と地域と規模と構想の内容が揃えば特定できる場面があります。第3に、確認の工程。第4に、記録です。
個人情報の側では、安全管理措置が個人情報の保護に関する法律の個人情報保護法第23条に置かれています。従業員に関する記述を含む場面では、この観点も重なります。
支援先への説明も準備します。何に使っているか、何を入力しないか、誰が確認するかの3点です。中小企業向けの支援制度全般は中小機構の情報にまとまっています。規程への落とし方は士業事務所のAI利用規程テンプレートで扱っています。
経営者が持ち込む下書きへの対応
近年増えているのが、経営者が自社でAIを使って作った計画書を持ち込む場面です。
体裁が整っているぶん、内容の検討が甘くなりがちです。実行の裏付けがない施策、根拠のない見込み、一般論としてもっともらしいが自社では成立しない構成。これらが自然な文章として書かれていると、読み流してしまいます。
対応としては、持ち込まれた資料に対する確認の観点を決めておきます。この施策は誰が実行するのか、この見込みの根拠は何か、この資源は自社にあるのか。事実の裏付けを問う質問を、標準の確認事項として持っておきます。
もう一点、経営者が自分で書いていない計画書は、実行の段階で機能しません。書かれた内容を経営者が説明できなければ、金融機関との面談でも答えられません。持ち込まれた下書きを土台にする場合でも、経営者自身の言葉で語り直してもらう工程を挟みます。
この場面が増えると、支援の価値のありかも変わります。文章を作る部分ではなく、実行できる計画かどうかを問い、経営者の言葉に変えていく部分に重心が移ります。
作成支援でつまずくパターン
1つ目は、用途と読み手を確認せずに書き始めた例です。誰にとっても中途半端な文書になります。
2つ目は、構想の引き出しをAIに任せようとした例です。経営者との関係の中でしか成立しない作業であり、機械では代替できません。
3つ目は、経営者が言っていない見込みが文章に混ざった例です。市場が拡大している、需要が見込まれる。こうした記述が根拠なく入り込みます。
4つ目は、数値の計算そのものを任せた例です。計算は表計算の領域です。
5つ目は、文章と数値の整合を確認しなかった例です。複数の資料を並行して作る場面で、食い違いが生じます。
6つ目は、経営者が説明できない計画書を作った例です。実行の段階でも、金融機関との面談でも機能しません。
7つ目は、分量が膨らんで伝わらなくなった例です。生成AIを使うと分量を増やすことが容易になりますが、読み手にとっては何が重要かが分からなくなります。分量の目安を先に決めておきます。
8つ目は、作成の途中で用途が変わったのに構成を見直さなかった例です。当初は社内向けだった計画書を金融機関に出すことになる、といった変更は実務でよく起きます。用途が変われば、強調する部分も変わります。変更が生じた時点で構成に戻ります。
費用と体制、導入の順番
費用は、法人向けプランのライセンス料が中心になります。金額は事業者と契約形態で変わるため、各社の料金ページで確認します。
工数は、事務所の型を作る作業に集中します。参考値として、過去の計画書から構成の枠組みを抽出するのに数日、指示文の型を整えるのに半日ほど見ておくと、無理なく形になります。
体制では、型を管理する担当を決めます。個人で活動している場合は自分ですが、更新の日を決めておかないと古い構成のまま使い続けることになります。
導入の順番としては、第4の割り当てから始めます。材料と型を突き合わせる作業であり、該当なしの洗い出しという副次的な価値もあります。そのうえで、第5の文章化に広げます。導入全体の進め方は士業事務所のAI導入の進め方にまとめています。
補助金の申請に関わる場合は、IT導入補助金の公式サイトのような制度の公募要領で、求められる記載事項を確認します。制度ごとに構成が定められている場合があります。
これから変わること
経営者の側でのAI利用は、さらに広がります。下書きを持ち込まれる場面が増え、支援の入り口が変わります。文章を作る部分の価値は下がり、実行できる計画かどうかを問う部分に重心が移ります。
行政のデータの公開も進みます。行政のデジタル化の動きはデジタル庁の重点計画で確認できます。材料集めの負担が下がれば、構想の引き出しに使える時間が増えます。
制度面では、個人情報保護法の見直しの議論が続いています。委員会の公表資料は個人情報保護委員会の報道発表で追えます。
事業計画書の作成支援において、変わらないのは、経営者自身が語れる計画でなければ機能しないという点です。道具がどれだけ良くなっても、この部分は人と人の作業として残ります。
よくある質問
事業計画書をAIに書かせてよいですか
集めた材料を文章にする部分には使えます。ただし、構想を引き出す部分と、実行できる形に整える部分は人が担います。経営者が説明できない計画書は、実行の段階でも金融機関との面談でも機能しません。
経営者が持ち込んだ下書きはどう扱いますか
体裁が整っているぶん、内容の検討が甘くなりがちです。この施策は誰が実行するのか、この見込みの根拠は何か、この資源は自社にあるのか。事実の裏付けを問う確認事項を標準として持っておきます。
数値の計画にも使えますか
計算は表計算の領域です。生成AIが効くのは、文章と数値の整合を確認する部分になります。文章で書いた前提と、数値の計画の前提が食い違っていないかを見ます。
支援先の情報をどこまで入力できますか
契約上の守秘の範囲を確認します。新規の事業の構想、資金の調達の計画、事業承継の方針は、扱いが特に機微になります。関係者が限られる案件では、状況の記述だけで誰の話か分かる可能性が残ります。
匿名化はどこまで行いますか
企業名の置き換えに加えて、業種と地域と規模と構想の内容の組み合わせまで見ます。新規性のある構想ほど、名前を伏せても特定できる場面があります。
どの工程から始めるのがよいですか
材料を型に割り当てる工程からです。効果が見えやすく、該当なしの洗い出しによって追加で集めるべき材料がはっきりするという副次的な価値もあります。
参考文献
- e-Gov法令検索 中小企業支援法
- e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律
- 中小機構 中小企業向け支援情報
- 中小機構
- IT導入補助金
- 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等
- デジタル庁 デジタル社会の実現に向けた重点計画
- 情報処理推進機構 情報セキュリティ関連の各種ガイドライン
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/
本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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