中小企業診断士のAI活用 調査と資料作成に効く7つの場面

中小企業診断士の業務でAIが効く7つの場面を整理。公開情報と支援先情報の線引き、資料整理の指示文、契約を起点にした守秘の設計を解説します。

中小企業診断士のAI活用 調査と資料作成に効く7つの場面

診断士のAI活用とは、資料の把握と作成の下ごしらえを寄せる業務設計のことです。

中小企業診断士の業務は、企業の状況を把握し、整理し、伝えることが中心です。読む資料も作る資料も多く、その分だけ生成AIの当てどころがあります。この記事では、診断士の業務でAIが効く7つの場面と、支援先の情報を扱ううえでの設計を整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。生成AIサービスの利用については個人情報保護委員会の注意喚起が判断の出発点になります。

診断士の業務で先に決めておくこと

順番から書きます。ツールを選ぶ前に決めるのは、支援先の情報をどう扱うかです。

中小企業診断士は、他の7士業と資格法の建て付けが異なります。経営診断の業務に従事する者の登録は中小企業支援法第11条に置かれ、試験については中小企業支援法第12条に定めがあります。他の士業のような一律の秘密保持の規定とは構成が違います。

実務では、支援先との契約に守秘条項を置いて対応する例が一般的です。したがって、情報の扱いを決める起点は、契約の内容になります。契約で守秘の範囲が定められているなら、その範囲が入力の判断にも及びます。

個人情報の側では、安全管理措置が個人情報の保護に関する法律の個人情報保護法第23条に置かれています。支援先の従業員に関する情報を扱う場面では、この観点も重なります。

扱う情報の性質も押さえておきます。財務の状況、経営者の考え、事業の課題、取引先との関係。企業にとって外に出したくない情報が中心になります。特に、業績が芳しくない企業の支援では、その事実自体が機微な情報になります。

決めることは3つです。入力してよい情報の区分、使ってよいサービスの指定、出力を外に出す前の確認工程。守秘義務の考え方は士業の生成AIと守秘義務で扱っています。

診断士業務でAIが効く7つの場面

効果が出やすい順に挙げます。

第1は、公開資料の要約です。業界の統計、行政の公表資料、公開されている企業情報。読むだけで時間がかかる資料を、下ごしらえとして整理させます。公開情報を扱うため、入力の判断が軽くなります。

第2は、ヒアリング内容の整理です。経営者から聞いた話を、確認できた事実と、まだ分からない事項に分ける。話の順番と、整理の順番は一致しません。

第3は、資料の下書きです。診断の報告書、提案の資料、補助金の申請書。文章として書く作業が多く、効果が出やすい部分になります。

第4は、言い換えです。専門的な内容を、経営者に伝わる形に直す。この翻訳作業は、診断士の業務の相当部分を占めます。

第5は、資料の自己点検です。作成済みの資料を読ませ、数値の食い違いや前後の矛盾を指摘させます。合計と内訳の不一致、参照先の不整合といった機械的に拾える部分に効きます。

第6は、想定問答づくりです。経営者への報告の前、金融機関への説明の前に、聞かれそうなことを列挙させます。

第7は、事務所内の資料検索です。過去の報告書や作業記録を引ける状態にすると、担当者が変わっても同じ品質で答えられます。ただし支援先の情報を含むため、別の設計が要ります。詳細は士業事務所のRAG構築で扱っています。

向かない使い方も明確です。財務指標の計算そのものを任せること、支援先の状況について結論を出させること、制度の要件を知識として尋ねること。いずれも誤りが混ざりやすく、しかも誤りが検出しにくい領域になります。

公開情報と支援先の情報を分ける

診断士の業務では、この線引きが設計の中心になります。

公開情報を扱う作業は、制約が軽くなります。業界の動向、統計、行政の公表資料。これらを読み込ませて整理させる作業は、入力の判断に迷いません。

一方、支援先の情報を扱う作業では、契約上の守秘の範囲を確認します。財務のデータ、経営者の発言、事業の課題。これらを外部のサービスに入力することには、慎重な判断が要ります。

線引きが難しいのは、両方が混ざる作業です。業界の動向を踏まえて支援先の状況を分析する、という作業では、公開情報と支援先の情報が同時に必要になります。

この場合の対応は2つです。第1に、支援先の情報を記号に置き換えたうえで扱う。第2に、公開情報の整理までを機械に任せ、支援先との突き合わせは人が行う。

第2の方法のほうが、線引きが単純になります。公開情報から得た材料を人が受け取り、支援先の状況に照らす。この分担であれば、支援先の情報を外に出さずに済みます。

匿名化する場合でも、業種と地域と規模と経営の状況が揃えば特定できる場面があります。地方で特定の業種の企業が限られる場合は、特に注意が要ります。

もう一点、支援先が事業承継や再生の局面にある場合、その事実自体が外に出したくない情報になります。関係者が限られる案件では、状況の記述だけで誰の話か分かってしまう可能性が残ります。こうした案件については、外部のサービスを使わない判断に倒しておくほうが安全側に立てます。

線引きを決めたら、案件ごとにどちらに当たるかを最初に判断します。案件を受ける段階で、この案件では外部のサービスを使うか使わないかを決めておけば、作業の途中で迷いません。判断を後回しにすると、作業の勢いで入力してしまう場面が生まれます。

使う指示文の型

事務所で共有する指示文の例を挙げます。

公開資料の整理に使う型です。

あなたは資料から情報を抜き出す役です。以下の公開資料から、指定した項目だけを
抽出してください。

抽出する項目:
- 市場の規模や動向として記載されている内容
- 事業者数や従業者数として記載されている内容
- 制度や支援策として記載されている内容
- 課題として記載されている内容

条件:
- 資料に記載がない項目は「記載なし」と出力すること
- 抽出した箇所は、資料中の表現をそのまま引用すること
- 出典としてページ番号や章の名称を併記すること
- 資料に書かれていない一般的な知識で補わないこと
- 評価や提案を書かないこと

公開資料:
"""
(ここに貼り付け)
"""

ヒアリング内容の整理に使う型です。

あなたは事務所の事務スタッフです。以下のヒアリングメモを、次の3つに分けて
整理してください。
1. 事実として語られた内容
2. 経営者の考えや意向として語られた内容
3. 確認が要ると思われる点

条件:
- メモに書かれていない事実を補わないこと
- 経営や財務についての評価や提案を書かないこと
- 支援先は A社、経営者は 甲 のまま扱うこと
- 数値・日付はメモのまま変更しないこと
- 各項目は1文で、箇条書きにすること

ヒアリングメモ:
"""
(ここに貼り付け)
"""

どちらの型でも、AIに評価をさせていない点が共通しています。整理までを任せ、判断は診断士が行います。この線引きを作業フローに明示しておくと、担当者が迷いません。

守秘義務と規程 契約が起点になる設計

設計として決めるのは5点です。

第1に、入力してよい情報の区分です。公開資料はそのまま、支援先の情報は識別できる情報を落としてから、財務の詳細や経営者の個別の発言は入力しない。この3段階が出発点になります。

第2に、契約との整合です。支援先との契約に守秘条項がある場合、その範囲が入力の判断にも及びます。契約を締結する段階で、AIの利用について触れておくかどうかを決めておきます。

第3に、匿名化の水準です。企業名を記号に置き換えても、業種と地域と規模が揃えば特定できる場面があります。地方の支援では、この点が特に問題になります。

第4に、確認の工程です。出力を外に出す前に、数値、企業名、日付、出典の4点を確認します。統計の数値を扱う場面では、出典の確認が特に重要になります。生成AIは、それらしい数値と出典を組み合わせて出力することがあります。

第5に、記録です。どの支援先の業務でAIを使ったかを記録に残します。

支援先への説明も準備します。何に使っているか、何を入力しないか、誰が確認するかの3点です。支援先が公的な支援制度を利用している場合、報告の相手方が別にいる場面もあるため、扱いを整理しておきます。中小企業向けの支援制度全般は中小機構の情報にまとまっています。規程への落とし方は士業事務所のAI利用規程テンプレートで扱っています。

公的な支援の場面での扱い

診断士の業務には、公的な支援制度に関わる場面があります。ここには固有の論点があります。

支援機関の枠組みで活動する場合、その機関の情報管理の運用に従うことになります。事務所として使ってよいサービスを決めていても、支援機関の運用と衝突する可能性があります。

補助金の申請支援に関わる場合、IT導入補助金の公式サイトのような制度の公募要領で、支援事業者に求められる要件を確認します。情報管理に関する要件が定められている場合があります。

また、公的な支援の場面では、報告の相手方が支援先だけではありません。支援機関や行政に提出する報告書が発生します。この報告書に含まれる情報の扱いも、設計の対象になります。

実務としては、公的な支援に関わる案件については、事務所の標準の運用とは別に扱いを確認する、という段取りにしておくと安全側に立てます。案件を受ける段階で確認する項目に加えておきます。

資料作成の作業をどう組み立てるか

診断士の業務では、資料の作成が成果物そのものになる場面が多くなります。組み立て方を書きます。

第1に、構成を決めます。何を、どの順番で伝えるか。ここは支援先の状況と、報告の相手方によって変わるため、人が決める部分になります。

第2に、材料を集めます。公開資料からの情報、ヒアリングで得た内容、財務のデータ。この段階でAIが効くのは、公開資料の整理とヒアリング内容の整理です。

第3に、材料を構成に割り当てます。集めた材料を、決めた構成のどこに置くかを決めます。この作業もAIに任せられますが、支援先の情報を含む材料を扱うため、扱いの判断が要ります。

第4に、文章として書きます。事務所の過去の資料を文例として渡すと、出力が安定します。ゼロから書かせるより、既存の型に沿って書き換えさせるほうが手直しが減ります。

第5に、確認します。数値、企業名、日付、出典の4点を見ます。加えて、支援先が言っていない内容が混ざっていないかも確認します。生成AIは、それらしい分析や提案を自然に補います。

この5段階のうち、第1と第5は人が担う部分です。第2から第4にAIを当てる設計にすると、成果物の質を保ちながら作業を軽くできます。

もう一点、資料の分量についても考えておきます。生成AIを使うと、分量を増やすことが容易になります。ただし、経営者が読む資料としては、分量が増えるほど伝わりにくくなります。書けるようになったから書く、という方向に流れないよう、分量の目安を先に決めておきます。

導入でつまずくパターン

1つ目は、財務指標の計算そのものを任せた例です。計算は表計算や専用のソフトの領域です。それらしい数字が返るぶん、誤りに気づきにくくなります。

2つ目は、統計の数値をAIに尋ねた例です。それらしい数値と出典が組み合わされて出力されます。統計は公表資料の原典で確認します。

3つ目は、支援先の状況について結論を出させた例です。判断の領域であり、それらしい説明が返るぶん誤りに気づきにくくなります。

4つ目は、匿名化したつもりで支援先が特定できた例です。地方で特定の業種の企業が限られる場合、業種と地域と規模から分かる場面があります。

5つ目は、契約との整合を確認しなかった例です。守秘条項の範囲が入力の判断にも及びます。

6つ目は、公的な支援の場面で標準の運用をそのまま適用した例です。支援機関の情報管理の運用と衝突する可能性があります。案件ごとに確認します。

費用と体制、導入の順番

費用は、法人向けプランのライセンス料が中心になります。金額は事業者と契約形態で変わるため、各社の料金ページで確認します。個人で活動している診断士も多く、その場合も事務所名義または屋号での契約にしておくと、扱いが明確になります。

工数は、線引きの整理に集中します。参考値として、公開情報と支援先の情報の区分を決めるのに数日、指示文の型を整えるのに半日ほど見ておくと、無理なく形になります。

体制では、個人で活動している場合、自分で確認する形になります。観点を絞って機械的に見る設計にしておかないと、見落としが起きます。数値、企業名、日付、出典の4点に絞る、といった決め方をしておきます。

導入の順番としては、第1の公開資料の要約から始めます。制約が軽く、効果も見えやすくなります。そこで型が固まってから、支援先の情報を扱う作業の設計に進みます。導入全体の進め方は士業事務所のAI導入の進め方にまとめています。

これから変わること

支援先の側でもAI利用が進みます。経営者が自社で調べた内容を持ち込む場面が増え、その内容が自社の状況に当てはまるかを判断する部分に、診断士の役割が移っていきます。

行政の公表資料もデータとして扱いやすい形になっていきます。行政のデジタル化の動きはデジタル庁の重点計画で確認できます。資料を読む負担が下がれば、分析と提案に使える時間が増えます。

制度面では、個人情報保護法の見直しの議論が続いています。委員会の公表資料は個人情報保護委員会の報道発表で追えます。

もう一点、報酬の設計も論点になります。資料の作成にかかる時間が短くなった業務について、価格の根拠をどこに置くかを整理しておくと、支援先との話が具体的になります。考え方は士業のAI活用と報酬設計で扱っています。

よくある質問

支援先の財務データを入力してよいですか

契約上の守秘の範囲を確認します。中小企業診断士は他の士業と資格法の建て付けが異なり、契約に守秘条項を置いて対応する例が一般的です。財務の詳細は入力しない区分に置く例が多く見られます。

どの作業から始めるのがよいですか

公開資料の要約からです。業界の統計や行政の公表資料を扱う作業であれば、入力の判断が軽く、効果も見えやすくなります。そこで型が固まってから、支援先の情報を扱う作業の設計に進みます。

統計の数値を尋ねてよいですか

尋ねる使い方は誤りが混ざりやすくなります。それらしい数値と出典が組み合わされて出力されることがあります。統計は公表資料の原典で確認し、生成AIに使わせるなら確認済みの資料を渡して探させる形にします。

匿名化はどこまで行いますか

企業名の置き換えに加えて、業種と地域と規模の組み合わせまで見ます。地方で特定の業種の企業が限られる場合、名前を伏せても分かる場面があります。経営の状況が特徴的な場合、さらに特定しやすくなります。

公的な支援の場面では扱いが変わりますか

支援機関の情報管理の運用に従うことになるため、事務所の標準の運用とは別に確認します。案件を受ける段階で確認する項目に加えておくと、後から問題になりません。

一人で活動している場合の確認はどうしますか

自分が作った資料を自分で確認する形になるため、観点を絞って機械的に見る設計にしておきます。数値、企業名、日付、出典の4点に絞る、といった決め方をしておくと、見落としが減ります。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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