先行技術調査にAIを使う 検索と読み込みを分けた工程設計

先行技術調査にAIを使う工程設計を解説。一次選別と文献の読み込みへの当て方、観点の抽象化、検索との使い分け、報告書作成での線引きを整理します。

先行技術調査にAIを使う 検索と読み込みを分けた工程設計

先行技術調査のAI活用とは、文献の読み込みと整理を機械に寄せる工程設計のことです。

先行技術調査は、公開されている文献を扱う業務です。特許事務所の業務の中では、未公開情報の制約が及ばない数少ない領域になります。だからこそ、AIを当てやすい工程でもあります。この記事では、調査の工程を分解し、どこに何を当てるかを整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。生成AIサービスの利用については個人情報保護委員会の注意喚起が判断の出発点になります。

調査の工程を分解する

調査を一つの作業として扱うと、AIの当てどころが見えません。工程を分けます。

第1の工程は、調査の対象と範囲を決めることです。何を調べるのか、どの技術分野を対象にするのか、どこまでさかのぼるのか。ここで扱うのは検討中の発明の内容であり、未公開情報になります。

第2の工程は、検索式の組み立てです。分類、キーワード、出願人。どういう条件で文献を絞り込むかを決めます。

第3の工程は、検索の実行と結果の一次選別です。ヒットした文献から、読むべきものを絞ります。

第4の工程は、絞った文献の読み込みです。内容を把握し、構成要素を整理します。

第5の工程は、対比です。検討中の発明と、見つかった文献を比べます。ここも未公開情報を扱います。

第6の工程は、報告書の作成です。調査の結果を依頼者に伝える形にまとめます。

このうちAIを当てやすいのは、第3の一次選別と、第4の読み込みです。どちらも公開されている文献を扱う作業になります。第1と第5は未公開情報を扱うため、扱いが変わります。

事務所全体での使いどころは弁理士のAI活用で扱っています。

第1と第5の工程は扱いが変わる

先に制約を確認しておきます。

第1の工程で扱うのは、検討中の発明の内容です。何を調べるかを決めるには、何を出願しようとしているかが前提になります。この情報を外部のサービスに入力することには、慎重な判断が要ります。

営業秘密の枠組みは不正競争防止法第2条に定義が置かれており、公然と知られていないことが要素の一つになっています。弁理士の守秘義務は弁理士法第30条に置かれており、業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならないと定められています。

第5の対比も同様です。この文献は自社の発明とどう違うか、という問いは、未公開情報を渡すことになります。

したがって、AIを使うのは第3と第4に限定する設計が基本になります。この線引きは、担当者に伝わりにくい部分でもあります。調査という業務は公開文献を扱うから安全、という理解だけでは、質問文に未公開情報が混ざります。何を書かないかまで含めて共有しておきます。

第3の工程 一次選別に使う

検索でヒットした文献は、多い場合には数百件になります。この中から読むべきものを絞る作業に、AIが効きます。

やり方としては、各文献の要約と請求項を渡し、指定した観点に該当するかどうかを分類させます。観点は、調査の対象そのものではなく、技術的な特徴として抽象化したものにします。

あなたは技術文献を分類する役です。以下の文献一覧について、指定した観点に該当するか
どうかを分類してください。

観点:
- 観点A(技術的な特徴を抽象化して記述)
- 観点B(技術的な特徴を抽象化して記述)
- 観点C(技術的な特徴を抽象化して記述)

条件:
- 各文献について、観点ごとに「該当」「非該当」「判断できず」を出力すること
- 判断の根拠として、文献中の該当箇所を引用すること
- 一般的な技術知識で補わないこと
- 新規性や進歩性についての評価を書かないこと
- 文献番号を必ず併記すること

文献一覧:
"""
(各文献の要約と請求項を貼り付け)
"""

判断できずとされた文献が、人が読む対象になります。該当とされた文献も、実際に該当するかどうかは人が確認します。非該当とされた文献の扱いも、事務所として決めておきます。

この使い方の要点は、観点を抽象化することです。検討中の発明の構成そのものを観点として書くと、未公開情報を渡すことになります。技術分野で一般的に使われる用語のレベルまで抽象化して記述します。

抽象化の程度は、事務所として基準を決めておきます。担当者の判断に委ねると、案件ごとにぶれます。技術分野ごとに、どこまでが一般的な用語で、どこからが特徴的な記述になるかの目安を持っておくと運用が安定します。

第4の工程 文献の読み込みに使う

絞った文献を読む作業でも、AIが効きます。分量が多く、外国語の文献が混ざる場面では特に効きます。

抽出するのは、請求項の構成要素、実施例の条件、課題と効果の記載です。これらを表形式ではなく箇条書きで整理させると、後で比較しやすくなります。

あなたは技術文献から情報を抜き出す役です。以下の公開文献から、指定した項目だけを
抽出してください。

抽出する項目:
- 請求項に記載された構成要素(請求項ごとに)
- 実施例に記載された条件・数値の範囲
- 解決しようとする課題として記載されている内容
- 効果として記載されている内容
- 従来技術として記載されている内容

条件:
- 文献に記載がない項目は「記載なし」と出力すること
- 抽出した箇所は、文献中の表現をそのまま引用すること
- 段落番号や請求項番号を併記すること
- 新規性や進歩性についての評価を書かないこと
- 一般的な技術知識で補わないこと

公開文献:
"""
(ここに貼り付け)
"""

外国語の文献では、要点の把握に使えます。ただし、引用として使う場合の訳文は、正確さが求められるため別の扱いになります。読むための補助と、成果物としての翻訳は分けて考えます。

抽出した内容は、そのまま報告書には使いません。原文と突き合わせて確認します。特に数値の範囲と、構成要素の記載は、誤って抽出される場面があります。

確認を効率的に行うには、抽出の段階で出典を併記させておくことが効きます。段落番号や請求項番号があれば、原文の該当箇所にすぐ戻れます。出典の併記を条件に入れていないと、確認のたびに文献全体を読み直すことになり、抽出した意味が薄れます。

複数の文献を並べて比較する場面では、抽出の形式をそろえておきます。同じ項目、同じ順序で抽出しておけば、並べたときに差が見えます。形式がばらばらだと、比較のために整形し直す作業が発生します。指示文の中で項目と順序を固定しておけば、この手間が省けます。

読み込みの工程で拾えるのは、文献に書かれている内容までです。その文献が調査の目的に照らして重要かどうかは、判断の領域になります。抽出の結果を見て、どの文献を詳しく読むかを決めるのは人の仕事です。この判断のために、抽出は簡潔であるほうが役に立ちます。長い要約より、項目ごとの短い記述のほうが、比較には向きます。

検索そのものは専用の仕組みを使う

第2と第3の前半、つまり検索式の組み立てと検索の実行は、専用の仕組みの領域です。

特許の検索には、分類体系を使った絞り込みや、書誌事項での検索といった機能が要ります。汎用の生成AIは、これらの機能を持っていません。検索式の組み立てを相談する使い方もありますが、分類の体系や運用は正確さが求められるため、専用の仕組みと原典の確認が中心になります。

生成AIが効くのは、検索の結果として得られた文献を扱う段階からです。この境目を意識しておくと、道具の使い分けが定まります。検索の精度を上げる工夫と、読む負担を下げる工夫は、別の投資として考えます。

なお、検索式をAIに組み立てさせる場合、検討中の発明の内容を渡すことになります。この点でも、第1と第5の制約が及びます。

守秘義務と規程 調査業務での設計

設計として決めるのは4点です。

第1に、入力してよい情報の区分。公開文献はそのまま、事務所の様式は識別できる情報を落としてから、検討中の発明の内容は入力しない。この3段階が出発点になります。

第2に、観点の抽象化の基準です。分類に使う観点をどこまで抽象化するか。技術分野ごとに目安を持っておくと、担当者の判断がぶれません。

第3に、確認の工程です。抽出した内容を原文と突き合わせます。数値の範囲、構成要素の記載、文献番号の3点を見ます。文献番号の取り違えは、報告書の信頼を直接損ないます。

第4に、記録です。どの案件でどの範囲の作業にAIを使ったかを記録に残します。依頼者から質問されたときに、事実として答えられる状態を作ります。

依頼者との取り決めも起点になります。企業の知財部門では、外部のAIサービスへの技術情報の提供を社内規程で禁じている例が増えています。受任の段階で確認しておきます。

個人情報の側では、安全管理措置が個人情報の保護に関する法律の個人情報保護法第23条に置かれています。日本弁理士会の公表情報は、所属する団体の考え方を確認する材料になります。規程への落とし方は士業事務所のAI利用規程テンプレートで扱っています。

報告書の作成をどう扱うか

第6の工程、報告書の作成でもAIが使えますが、扱いには条件が付きます。

報告書には、検討中の発明と文献の対比が含まれます。この部分は未公開情報を扱うため、外部のサービスには渡しません。

一方、文献の紹介の部分、つまり各文献に何が書かれているかをまとめる部分は、公開情報に基づきます。ここは第4の工程で抽出した内容を整えるだけなので、AIが使えます。

報告書を分けて作る設計にすると、この線引きが実務に落ちます。文献の紹介部分を先に作り、対比と結論の部分は人が書き足す。この順番であれば、未公開情報を外に出さずに済みます。

依頼者向けの表現に整える作業も、文献の紹介部分についてはAIが使えます。技術的な記述を、依頼者の担当者が読める形に直す作業です。ただし、数値と文献番号は変更させない条件を入れます。

報告書の様式そのものは、事務所の資産です。過去の報告書から様式を抽出しておくと、記述の粒度がそろいます。この抽出も、発明の内容を含まない枠組みとして行えば、扱いが軽くなります。

報告書で気をつけるのは、断定の度合いです。調査の結果として言えるのは、この範囲を調べてこういう文献が見つかった、という事実までです。文章として整えると、この事実の記述が、より強い結論のように読める形になることがあります。調べた範囲と、その範囲で見つかったものという構造を、文章の中で保ちます。

依頼者に渡す前の確認では、この点も観点に含めます。文献番号、数値の範囲、構成要素の記載に加えて、断定の度合いが調査の範囲に見合っているか。この4点を見る形にしておくと、報告書の質が安定します。

調査業務でつまずくパターン

1つ目は、検討中の発明の内容を質問に含めた例です。調査は公開文献を扱う業務だから安全、という理解だけでは、この事故が起きます。

2つ目は、分類の観点を抽象化しなかった例です。発明の構成そのものを観点として書くと、未公開情報を渡すことになります。

3つ目は、抽出した内容を原文と突き合わせなかった例です。数値の範囲と構成要素の記載は、誤って抽出される場面があります。

4つ目は、文献番号を取り違えた例です。報告書の信頼を直接損ないます。確認の観点に含めておきます。

5つ目は、検索式の組み立てまで汎用の生成AIに任せた例です。分類の体系や運用は正確さが求められる領域であり、専用の仕組みと原典の確認が中心になります。

6つ目は、報告書全体をAIに作らせた例です。対比の部分は未公開情報を扱うため、文献の紹介部分と分けて作る設計にします。

7つ目は、抽出に出典を併記させなかった例です。原文に戻る手がかりがないと、確認のたびに文献全体を読み直すことになります。段落番号や請求項番号の併記を、指示文の条件に入れておきます。

8つ目は、抽出の形式をそろえずに複数の文献を扱った例です。項目と順序が文献ごとに変わると、比較のために整形し直す作業が発生します。指示文の中で形式を固定しておきます。

費用と体制、導入の順番

費用は、法人向けプランのライセンス料が中心になります。金額は事業者と契約形態で変わるため、各社の料金ページで確認します。調査に特化したツールを検討する場合は、扱う件数との釣り合いを見ます。

工数は、観点の抽象化の基準を作る作業に集中します。参考値として、事務所で扱う技術分野ごとの目安を決めるのに数日、指示文の型を整えるのに半日ほど見ておくと、無理なく形になります。

体制では、線引きを持つ人を決めます。あわせて、担当者への周知を行います。この業務では、何を入力しないかの理解が最も重要になります。抽象的な注意ではなく、実際の質問文の例を示して共有すると伝わります。

導入の順番としては、第4の文献の読み込みから始めます。公開文献をそのまま扱う作業であり、制約が及びません。効果も見えやすくなります。そこで型が固まってから、第3の一次選別に広げます。導入全体の進め方は士業事務所のAI導入の進め方にまとめています。

これから変わること

文献の検索と分類の仕組みは、進化が続いています。専用の仕組みの側にAIの機能が組み込まれる動きが進めば、汎用の道具を別に使う場面は減っていきます。

一方で、未公開情報を扱う工程の制約は残ります。検討中の発明を材料にする作業は、当面のところ事務所の中で完結させる設計が基本になります。

制度面では、個人情報保護法の見直しの議論が続いています。委員会の公表資料は個人情報保護委員会の報道発表で追えます。知的財産に関する制度については、所管する行政機関の公表資料を追う体制が要ります。

調査業務における事務所の価値も問い直されます。文献を見つけて読む作業の負担が下がると、どこに着目するかという判断と、その結果を依頼者の事業判断に結び付ける部分に重心が移っていきます。

よくある質問

調査は公開文献を扱うから制約なく使えますか

工程によって変わります。文献の読み込みと一次選別は公開情報を扱うため制約が及びませんが、調査の対象を決める工程と、検討中の発明との対比の工程では未公開情報を扱います。工程ごとに線を引きます。

分類の観点はどう書きますか

技術分野で一般的に使われる用語のレベルまで抽象化して記述します。検討中の発明の構成そのものを観点として書くと、未公開情報を渡すことになります。抽象化の程度は、事務所として基準を決めておきます。

検索式の組み立てに使えますか

分類の体系や運用は正確さが求められる領域であり、専用の仕組みと原典の確認が中心になります。また、検索式を組み立てさせるには検討中の発明の内容を渡すことになるため、この点でも制約が及びます。

外国語の文献にも使えますか

要点の把握には使えます。ただし、引用として使う場合の訳文は正確さが求められるため、別の扱いになります。読むための補助と、成果物としての翻訳は分けて考えます。

報告書の作成に使えますか

文献の紹介の部分は公開情報に基づくため使えます。検討中の発明との対比の部分は未公開情報を扱うため、人が書きます。報告書を分けて作る設計にすると、この線引きが実務に落ちます。

抽出した内容はそのまま使えますか

原文と突き合わせて確認します。数値の範囲と構成要素の記載は、誤って抽出される場面があります。文献番号の取り違えは報告書の信頼を直接損なうため、確認の観点に含めておきます。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

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