米国の裁判所はAI学習をフェアユースと判断し、入手方法を別に評価しました。
生成AIの学習データに書籍や記事が使われていることは広く知られていますが、それが法的にどう扱われるかは国によっても事案によっても揺れています。TechCrunch は2026年8月23日、米国の知的財産分野の実務家2名への取材をもとに、AI学習と著作権をめぐる現在地を整理した記事を公開しました。読んで印象的だったのは、争点が「学習してよいか」から「どうやって手に入れたか」「誰と競合するか」へ移っている点です。日本の士業事務所にとっても、生成AIの導入判断で繰り返し出てくる論点に重なります。なお本記事は公表情報の整理であり、個別事案についての判断を示すものではありません。
何が起きたか:AI学習と著作権の現在地
米国では、AI学習そのものを違反と見る判断と、フェアユース(公正な利用)に当たると見る判断が並存しています。フェアユースとは、批評や教育などの目的で著作物を許諾なく利用できる米国著作権法上の例外規定のことです。
象徴的なのが、Anthropic に対する15億ドルの和解です。TechCrunch によれば、William Alsup 判事は著作物を用いたAI学習それ自体をフェアユースに当たると判断した一方、海賊版のシャドウライブラリから書籍をダウンロードした行為を切り離して問題視しました。つまり和解金の対象になったのは「学習」ではなく「入手」の部分です。判事は判決文のなかで、大規模言語モデルが膨大な語を読み込む様子を、作家志望の読者が文学を学ぶ過程になぞらえています。
取材に応じた知的財産分野の弁護士 Cathy Gellis は、この判断はむしろAI企業に有利だと見ています。Reuters が報じた通り Anthropic は2028年に年間約2,000億ドルの売上を見込んでおり、15億ドルという金額の重みは相対的に軽いという見立てです。
3つの判決が分けた論点
TechCrunch の記事に登場する3つの事案は、それぞれ別の切り口を提示しています。
1つ目が前述の Anthropic の事案で、「学習」と「入手」を分けて評価した点が特徴です。学習用データをどこから調達したかが独立した争点になりました。
2つ目が、Thomson Reuters が法務向けAIプラットフォームを開発した Ross Intelligence を訴えた事案です。Stephanos Bibas 判事は、Ross の利用には「別の目的や異なる性格」がないため変容的ではないと判断しました。取材に応じた弁護士 Jason Henderson は、直接競合する目的で学習した場合に裁判所は否定的になり、競合しない場合には認める方向に傾いていると述べています。
3つ目が Thaler v. Perlmutter で、100パーセントAIが生成した著作物には著作権が発生しないと判断されました。ここから、どこまでがAI生成でどこからが人の創作かを立証できるのかという新しい問いが生まれています。
米国著作権法が1976年以来ほぼ更新されていないため、50年前の枠組みで新しい技術を評価せざるを得ない構造も、判断が分かれる背景にあります。
日本の著作権法ではどこが論点になるか
日本の枠組みは米国のフェアユースとは条文の作りが異なります。著作権法第30条の4は「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」を定め、その第2号で情報解析の用に供する場合を挙げています。ただし同条には、著作物の種類や用途、利用の態様に照らして著作権者の利益を不当に害する場合はこの限りでない、というただし書きが置かれています。関連して第47条の5は、情報解析の結果提供に付随する軽微利用を扱っています。
このただし書きをどう読むかについては、文化庁が2024年3月15日付けで文化審議会著作権分科会法制度小委員会の「AIと著作権に関する考え方について」を公表し、2024年7月には「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」も出ています。士業のチカラでも文化庁のチェックリストを顧問先支援にどう使うかやAI生成物の権利処理で扱っています。
米国の議論が日本の解釈にそのまま持ち込めるわけではありません。ただ、学習の適否と入手経路の適否を分けて考える発想や、既存事業と競合するかどうかを重視する発想は、日本で顧問先から相談を受ける際の整理軸としても参照されています。
士業事務所にとっての論点
弁護士や弁理士が顧客企業からAI開発や利用について相談を受ける場面では、こうした海外判例の動向が背景知識として問われる場面が増えています。中小企業診断士や行政書士がAI活用の支援に入る場合も、学習データの調達経路を確認する視点は共通します。
事務所が生成AIツールを業務に使う側に立つときも同じ構図が現れます。入力した文書が学習に使われるかどうかは各ベンダーの利用規約と設定に依存するため、公表資料で確認する作業が導入判断の一部になります。海外の判決は日本の事務所の義務を直接左右するものではありませんが、ベンダー各社のデータ方針が今後どう動くかを読むうえでの材料にはなります。
今後の動き
TechCrunch の記事によれば、Alsup 判事の判断は一つの地方裁判所の判断にとどまり、Anthropic が和解を選んだことで控訴審に進まず拘束力のある先例にはなりませんでした。他の裁判官が別の結論に至る余地は残っています。大半のAI企業が係争中であり、当面は判断が積み上がる過程が続くと見られます。日本側では、文化庁の考え方とその後のガイダンスがどう更新されるかが注目点です。
まとめ
米国では、AI学習そのものと学習データの入手経路を分けて評価する判断が示され、競合関係の有無も判断を左右しています。日本では著作権法第30条の4のただし書きの読み方が中心的な論点で、文化庁の考え方とチェックリストが参照資料になっています。海外判例の動向は、士業事務所が顧問先の相談に備えるうえでも、自事務所のツール選定を考えるうえでも押さえておきたい流れです。
参考文献
- TechCrunch「Is it legal to train AI models on copyrighted books? It’s complicated」
- e-Gov法令検索 著作権法
- 文化庁 AIと著作権
- 文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月15日)
- Reuters「Anthropic IPO valuation hinges on 190-200 billion 2028 revenue forecast」
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引用元: TechCrunch
本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。
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