ふたばとは、国税庁が公開する個人向けの税務相談チャットボットのことです。
顧問先から、チャットボットにこう書いてあったのですが、と言われる場面が増えています。この記事では、国税庁の税務相談チャットボット「ふたば」が答える範囲と答えない範囲を一次情報で確認し、税理士事務所が顧問先との間に引くべき線を7つに整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。国税庁のページによれば、ふたばは24時間利用でき、有人によるチャットではないと明記されています(出典: 国税庁 チャットボット(ふたば)に質問する)。
ふたばが2026年時点で答える4税目と、答えない領域
結論を先に置きます。ふたばの相談対象は個人の国税に限定され、税目も4つに絞られています。範囲外の質問に対して無理に答える設計にはなっていません。
国税庁のページによると、2026年8月時点でふたばが対応しているのは、所得税の確定申告(令和7年分)、消費税の確定申告(令和7年分)、インボイス制度、贈与税の申告(令和7年分)の4つです。加えて、年末調整(令和8年分)に関する相談が令和8年10月頃に開始予定と告知されています(出典: 国税庁 チャットボット(ふたば)に質問する)。
各税目の相談範囲はさらに細かく公開されています。所得税であれば、確定申告の手続、必要な書類、給与所得や事業所得、不動産所得、配当所得、譲渡所得といった所得区分ごとの相談、医療費控除や住宅ローン控除をはじめとする各種控除、確定申告書等作成コーナーの操作、納付方法までが列挙されています(出典: 国税庁 チャットボットの相談範囲)。インボイス制度については、制度の概要、登録申請の手続、公表サイト、インボイスの作成上の留意点、売手と買手それぞれの留意点までが範囲に入っています(同ページ)。
答えない領域も、同じページで明示されています。国税庁は、相談範囲について過去の年分には対応していないこと、所得税の確定申告と年末調整は日本国内の居住者を前提としていること、回答は一般的な事項の説明であり各種手続は自己の判断と責任において行うこととなることを注意事項として記載しています(出典: 国税庁 チャットボット(ふたば)に質問する)。個人情報は入力しないでください、という一文も同じ注意事項に置かれています(同ページ)。
この構造を押さえると、顧問先がふたばで解決できる範囲がはっきりします。単年度の一般的な手続、控除の要件確認、作成コーナーの操作、この3つです。逆に、過去年分の修正、複数年にまたがる判断、非居住者が絡む論点、個別事情に基づく当てはめは、設計上そもそも守備範囲の外に置かれています。
顧問先がふたばを使う前提で、税理士が引く7つの線
結論から書きます。ふたばの登場で税理士業務が縮むのではなく、一般的な説明の対価が下がり、個別判断の対価が相対的に上がります。理由は、一般論の提供コストが国の側で無料化されたからです。以下、事務所として引く線を7つに分けます。
線1 一般論と個別判断を、顧問料の説明で分ける
顧問先に対して、一般的な手続の説明はふたばやタックスアンサーでも取れる、と先に伝えます。そのうえで、顧問料が対価としているのは個別事情への当てはめと責任の引受けである、と説明の軸を移します。隠しておくと、顧問先が自分でふたばを見つけたときに、この程度なら無料で分かる、という誤解だけが残ります。
線2 ふたばの回答を持ち込まれたときの受け止め方を決める
顧問先がふたばの回答をスクリーンショットで送ってくる場面を想定しておきます。事務所としての受け答えは、その回答を否定することから始めない形が実務的です。国税庁自身が、回答は一般的な事項について説明していると明記しています(出典: 国税庁 チャットボット(ふたば)に質問する)。一般論としては合っていて、この案件では別の要素が効く、という構図で話すと噛み合います。
線3 事務所側でも一度は同じ質問を投げてみる
顧問先が何を見ているかを知らないまま話すと、説明がずれます。担当者は、担当先から出そうな質問をふたばに投げ、返ってくる回答の粒度を体感しておきます。年に一度、確定申告期の前に三十分だけ触る時間を取るだけでも、顧問先との会話の精度が変わります。
線4 事務所内の一次回答フローに組み込む
補助者が顧問先からの問い合わせを受けたとき、まずふたばとタックスアンサーで一般論を確認し、そのうえで税理士に上げる流れを作ります。補助者が自分の記憶で答えるより、公的な一次情報に当たってから上げるほうが安全側です。この流れは、内部の一次回答の設計を扱った労務相談のAI一次回答の考え方と共通します。
線5 生成AIとチャットボットを混同させない
ふたばは、AIが回答を選択して提示するウェブサービスであり、有人によるチャットではないと国税庁が説明しています(出典: 国税庁 チャットボット(ふたば)に質問する)。顧問先の側は、ChatGPTのような生成AIと同じものだと思っていることがあります。前者は国税庁が用意した回答集から選ぶ設計、後者は文章を生成する設計です。この違いを一言で説明できるようにしておくと、顧問先が生成AIの出力を鵜呑みにする事故を減らせます。
線6 過去年分と非居住者の論点は事務所が拾う
ふたばは過去の年分に対応していません(出典: 国税庁 チャットボットの相談範囲)。修正申告や更正の請求、非居住者が絡む論点は、顧問先が自力で調べても答えに辿り着きません。ここは事務所が能動的に声をかける領域です。年明けの案内文に、過去年分の見直しはご相談ください、の一文を入れるだけでも問い合わせの質が変わります。
線7 税理士が最終確認する工程を書面に残す
顧問先への回答が、ふたばやタックスアンサーの内容を踏まえたものであっても、最終的な判断は税理士が行います。この工程を記録に残します。税理士法第41条は、税理士が税理士業務に関して帳簿を作成し、委嘱者別かつ一件ごとに税務代理、税務書類の作成または税務相談の内容とそのてん末を記載すること、その帳簿を閉鎖後5年間保存することを定めています。AIツールを使った下調べが増えるほど、この記録の運用が実務の要になります。
以下は、事務所内でふたばの回答を検証する際に使えるプロンプト例です。
あなたは税理士事務所のレビュー担当です。以下は、国税庁のチャットボットが
返した一般的な説明と、顧問先の状況メモです。両者を突き合わせ、
「一般論のままでは当てはまらない可能性がある要素」を3つまで挙げてください。
判断は書かず、確認すべき事実と参照すべき資料名だけを列挙してください。
【一般的な説明】
(ここに貼り付け)
【顧問先の状況メモ】
顧問先甲(個人事業・小売業)。実在の氏名・住所・口座番号は伏せ字にする。
もう1本、顧問先向けの説明文を組み立てる用です。
以下の論点について、顧問先に渡す説明文の骨子を作ってください。
条件は3つです。第一に、一般的な取扱いと、この顧問先に固有の事情を
段落で分けること。第二に、断定的な表現を避け、確認中の事項は
確認中と明記すること。第三に、最終的な判断は担当税理士が行う旨を
末尾に必ず入れること。出力は400字以内の日本語で。
【論点】
(ここに記載)
2本目は、断定を避ける制約をプロンプトに埋め込んでいます。出力段階で表現を絞っておくと、税理士の最終確認の手間が減ります。
顧問先の相談内容をAIに入力する前に決めておくこと
守秘義務の根拠は、税理士法第38条にあります。正当な理由がなくて税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、又は窃用してはならない旨が定められており、税理士でなくなった後も同様とされています。この条文はe-Gov法令検索の原文で確認しています。
ふたばそのものについては、国税庁が個人情報を入力しないよう注意事項に明記しています(出典: 国税庁 チャットボット(ふたば)に質問する)。同じページには、回答精度の向上や機能改善を目的として、利用者の利用履歴、ユーザーエージェント情報、参照元URL、IPアドレス、アンケート情報を必要な範囲で記録している旨も記載されています(同ページ)。事務所として使う場合も、入力するのは一般化した質問文に限る運用が素直です。
汎用の生成AIに顧問先の相談内容を入れる場合は、論点がもう一段増えます。第一に、入力データが学習に使われるかどうかはツールと契約種別で異なります。ベンダーの公式ドキュメントで確認し、事務所として許可するツールを列挙します。第二に、伏せ字にする項目を型として決めます。顧問先名、代表者名、住所、マイナンバー、口座番号、具体的な金額のうち、どこまでを伏せるかを紙に落とします。第三に、顧問先への説明の枠を先に決めます。生成AIを業務に使う旨を顧問契約や業務委託契約にどう書くかは、担当者ごとの判断に委ねない領域です。
権限の切り分けも論点になります。補助者がどのツールにどの範囲でアクセスできるかは、資格の有無と業務の性質で分かれます。階層別の設計は士業事務所の生成AI権限設定 有資格者と補助者で分ける5階層のルールにまとめています。プロンプトに入れる個人情報の利用目的の整理はプロンプトへの個人情報入力と利用目的の範囲で扱っています。
もうひとつ、税理士業務の制限との関係が論点になります。税理士法第52条は、税理士または税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行ってはならないと定めています。同法第2条は税理士の業務として税務代理、税務書類の作成、税務相談を列挙しています。AIツールが顧問先に個別の助言を出す構図をどう評価するかは、ツール提供者側と利用者側の双方で議論が続いている領域です。事務所としては、AIの出力を顧問先へそのまま転送しない運用にしておくのが、いまの実務では無難な立て付けになります。
ふたばを巡って起きやすい3つの失敗
ひとつ目は、顧問先の自己解決を敵視することです。一般的な手続の説明を無料で取れる状態は、もう戻りません。ここで顧問先と綱引きをすると、顧問料の説明が守りに回ります。むしろ、ふたばで取れる範囲を事務所側から案内し、その外側を有償で引き受ける構図に組み替えるほうが、説明が通ります。
ふたつ目は、過去年分の質問をふたばに投げてしまう運用です。ふたばは過去の年分に対応していません(出典: 国税庁 チャットボットの相談範囲)。担当者がこの前提を知らないまま補助的に使うと、当年分の一般論を過去年分に当てはめる事故が起きます。事務所内の手順書に、対象年分の確認を先頭の工程として書き込みます。
みっつ目は、記録を残さないことです。AIツールを一次調査に使うと、調査の痕跡が残りにくくなります。誰がどのツールに何を入力し、どの一次情報で裏を取ったかを短く残す運用を作ります。帳簿の作成義務は税理士法第41条に定めがあり、税務相談の内容とそのてん末を記載し、閉鎖後5年間保存することとされています。ツールの利用記録は帳簿そのものではありませんが、てん末を書くための材料になります。
導入と運用にかかる工数の目安
ふたば自体は無料で、事務所側の追加費用は発生しません。かかるのは、事務所内の手順に組み込む工数だけです。
初期の整備としては、対応税目と相談範囲の要約を1枚にまとめる作業に半日弱、顧問先向けの案内文の作成に半日弱、補助者向けの手順書に半日弱を見込みます。数名規模の事務所であれば、確定申告期の前に二日ほど確保すれば形になります。これは公表統計ではなく編集部が支援現場で見てきた範囲の目安なので、自所での実測に置き換えてください。
運用面では、国税庁のページが対応税目を随時更新するため、年に二回ほど確認する時間を取ります。年末調整(令和8年分)の相談開始が令和8年10月頃と告知されているため(出典: 国税庁 チャットボット(ふたば)に質問する)、直近では秋口に一度見直す形になります。
担当は、確定申告期の運営を持っている人が兼ねるのが現実的です。新しい役割を作るほどの負荷ではありません。事務所全体でのAI投資の測り方は士業事務所のAI費用対効果をどう測るか|ROI測定の7手順を参照してください。
一般論の無料化が進んだ先で、何が残るか
国税庁は税務行政のデジタル化を継続的に進めており、チャットボットの対応税目も段階的に広がってきました。年末調整への拡張が予定されていることからも、方向性は読めます(出典: 国税庁 チャットボット(ふたば)に質問する)。
論点になるのは、一般論の提供がどこまで無料化されたときに、顧問料の説明が組み替わるかです。手続の説明と書類の作り方が公的に無料化されると、残るのは個別事情の当てはめ、判断の責任、そして税務調査への対応です。この3つは、いずれも一般論では代替できません。
もうひとつの論点は、顧問先の側のリテラシーです。ふたばの回答は一般論だと国税庁自身が書いていますが、読み飛ばす人はいます。事務所が顧問先に対して、公的なチャットボットの限界を説明する役回りを担う場面が増えていきます。報酬体系の組み替えについてはタイムチャージから月額固定へ AI時代の士業報酬を組み替える6論点で扱っています。
よくある質問
ふたばは税理士の代わりになりますか
一般的な手続の説明という範囲では重なりますが、個別事情への当てはめは対象外です。国税庁は、回答は一般的な事項について説明しており、各種手続はその申告内容も含め自己の判断と責任において行うこととなる、と注意事項に記載しています(出典: 国税庁 チャットボット(ふたば)に質問する)。責任の引受けが必要な場面では、役割が異なります。
事務所の業務でふたばを使ってもよいですか
利用に資格の制限は置かれていません。ただし、国税庁が個人情報を入力しないよう明記しているため、顧問先の固有情報を含まない一般化した質問文に限る運用が素直です。事務所として使う場合は、一次調査の入口として位置づけ、最終確認は税理士が行う工程を残します。
ふたばの回答をそのまま顧問先に転送してよいですか
転送そのものより、事務所の見解を添えるかどうかが実務の分かれ目です。一般論をそのまま渡すと、顧問先はそれを自分の案件への回答として受け取ります。この案件で効く要素を1行添えるだけで、受け取られ方が変わります。
対応していない税目の質問を投げるとどうなりますか
相談範囲の外にある質問には対応していません。国税庁は、ご相談が多い事項に対応しているため、すべての質問に対応しているわけではないと記載しています(出典: 国税庁 チャットボット(ふたば)に質問する)。範囲外の質問を続けても答えは出ないため、事務所内の手順書には対応税目の一覧を貼っておきます。
顧問先にふたばの存在を教えるべきでしょうか
教えたほうが、事務所にとって説明が楽になります。一般的な問い合わせが減り、個別判断に時間を回せます。教えないままにしておくと、顧問先が自力で見つけたときに、無料で分かる情報に顧問料を払っていた、という誤解が生まれます。
生成AIとチャットボットの違いを顧問先にどう説明しますか
回答の作り方が違う、という一点に絞ると伝わります。ふたばは国税庁が用意した内容から選んで提示する設計で、生成AIは文章そのものを作る設計です。生成AIは条番号や制度名を誤って生成することがあるため、税務の一次確認には向きません。
税理士法との関係で気をつける点はありますか
論点は主に3つあります。守秘義務は税理士法第38条、税理士業務の制限は同法第52条、帳簿作成義務は同法第41条に、それぞれ規定が置かれています。いずれも条文の当てはめは個別の事情によるため、事務所としての判断は有資格者が行う領域です。
参考文献
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/
本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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