不動産登記のオンライン申請にAIを噛ませる 司法書士事務所の7工程

不動産登記のオンライン申請に生成AIをどこまで組み込めるかを7工程に分解し、記載事項の突合や添付情報の点検の使い方と、司法書士が持つ確認工程の線引きを整理しました。

不動産登記のオンライン申請にAIを噛ませる 司法書士事務所の7工程

オンライン申請とは、登記の申請を電子情報処理組織を使って行う方法のことです。

登記申請1件あたり、書類の確認と入力にどれだけ時間をかけているでしょうか。不動産登記の実務は、依頼者からの資料受領、内容の確認、申請情報の作成、添付情報の準備、送信、補正対応、完了後の書類返却という一連の流れで構成されています。この流れのうち、生成AIが効く工程と、司法書士が判断を持つ工程ははっきり分かれます。この記事では、その線引きを7工程に分解して整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、手続の運用は法務省と登記・供託オンライン申請システムの公表資料で確認しています。

オンライン申請の枠組みと、AIが入り込める余地

まず制度の枠組みを押さえます。登記の申請方法は不動産登記法第18条に定めがあり、電子情報処理組織を使用する方法と、申請情報を記載した書面を提出する方法が掲げられています(出典: e-Gov法令検索 不動産登記法第18条)。オンライン申請は前者にあたり、実際の手続は登記・供託オンライン申請システムを通じて行います(出典: 登記・供託オンライン申請システム)。

登記の申請で中核になるのが本人確認と権利の確認です。登記識別情報の提供については不動産登記法第22条に規定があり、登記権利者及び登記義務者が共同して権利に関する登記を申請する場合の取扱いが定められています(出典: e-Gov法令検索 不動産登記法第22条)。相続による所有権の移転の登記については不動産登記法第76条の2に申請に関する規定が置かれています(出典: e-Gov法令検索 不動産登記法第76条の2)。これらの条文が扱う領域は、司法書士の判断が中核にある部分です。

一方で、登記申請の実務には、判断ではなく作業として積み上がっている工程が相当あります。依頼者から届いた資料の記載事項を拾って表にする、住所や氏名の表記ゆれを洗い出す、必要な添付情報の一覧と手元の資料を突き合わせる、依頼者への案内文を作る。こうした工程は、正確さは要るが判断は要らない領域です。ここが生成AIの入り込む余地になります。

司法書士の業務範囲は司法書士法第3条に列挙されており、登記又は供託に関する手続について代理することなどが掲げられています(出典: e-Gov法令検索 司法書士法第3条)。AIを噛ませるかどうかを検討するときは、この条文が想定する業務の中核部分と、その周辺にある事務作業を分けて考えると整理しやすくなります。

制度面では、手続のデジタル化が段階的に進んでいます。商業登記におけるリモート署名の運用については商業登記リモート署名の実務対応で扱いました。登記原因証明情報の特別委任方式については登記原因証明情報の特別委任方式で整理しています。

登記申請の7工程とAIの配置

工程を順に見ていきます。各工程で、何を入力し、何が返り、誰が確認するかを明示します。

工程1は、依頼受領時の資料棚卸しです。売買、相続、抵当権抹消など、案件の類型ごとに必要となる資料は決まっています。届いた資料と必要資料の一覧を突き合わせ、不足を洗い出す。この作業は、案件類型さえ与えればAIが一覧を出せます。ただし、出てきた一覧が自分の事務所の運用に合っているかは人が確認します。地域の法務局の運用や、取引の相手方の要求によって、実務上そろえる資料は変わるためです。

工程2は、記載事項の抽出と突合です。登記事項証明書、住民票、印鑑証明書、契約書。これらに書かれた氏名、住所、生年月日、不動産の表示を拾い、相互に矛盾がないかを確かめます。表記ゆれの検出はAIが得意な領域です。旧字体と新字体、丁目の表記、番地とハイフンの違い。人が目で追うと見落とす差分を機械的に拾えます。ただし、拾った差分をどう処理するか、つまり住所変更登記が要るのか、相違を証する書面をそろえるのかという判断は司法書士が行います。

工程3は、申請情報のドラフト作成です。ここは慎重な設計が要ります。申請情報そのものをAIに生成させると、登記の目的や原因の記載が実務と合わない形で出てくることがあります。現実的なのは、事務所が持っている定型の申請情報のひな形を土台に、工程2で確定させた記載事項を差し込む形です。AIには、差し込み後の内容とひな形の想定が食い違っていないかを点検させる役割を持たせます。

工程4は、添付情報の準備と点検です。何を電子的に提供し、何を書面で提出するか。原本還付の要否はどうか。この整理を案件ごとに一覧化します。AIには一覧の作成と抜けの指摘を任せ、実際にどの方式を採るかは人が決めます。

工程5は、司法書士による最終確認です。本人確認、意思確認、登記原因の確認。この工程はAIに任せません。オンライン申請の枠組みであっても、確認の責任が変わるわけではありません。工程図の中で、この工程を明確に区切って表示しておくと、事務所内で工程が崩れにくくなります。

工程6は、送信と進捗管理です。登記・供託オンライン申請システムでの送信自体は人が行います(出典: 登記・供託オンライン申請システム)。AIが効くのは、その前後の管理業務です。案件ごとの期限、補正の有無、完了予定日。これらを整理して一覧にする作業は自動化しやすい領域です。

工程7は、補正対応と完了処理です。補正の連絡が来たときに、何が指摘されたのかを整理し、必要な対応を洗い出す。ここでもAIは整理役として使えます。ただし、補正内容の解釈と対応方針の決定は司法書士の判断です。完了後は、依頼者への報告書の下書きにAIを使えます。

工程2と工程4で使えるプロンプトを2本置きます。1本目は、記載事項の突合用です。実在の個人情報は入れず、事務所で加工した形で使う前提です。

あなたは書類の記載事項を突き合わせる補助者です。
以下の各書類から、氏名・住所・生年月日・不動産の表示を抽出し、
書類間で表記が異なる箇所をすべて列挙してください。
法的な判断や、どう処理すべきかの助言は書かないでください。抽出と差分の指摘だけを行ってください。

出力形式:
- 項目名(氏名/住所/生年月日/不動産の表示)
- 書類ごとの記載内容
- 差分の種類(旧字体・新字体/丁目表記/番地の区切り/その他)
- 差分の程度(同一とみてよい可能性が高い/要確認)

判断に迷う差分は、すべて「要確認」に分類してください。

【書類1】登記事項証明書の記載
(貼り付け。実在の個人情報は伏せ字にする)

【書類2】住民票の記載
(貼り付け)

【書類3】契約書の記載
(貼り付け)

2本目は、添付情報の抜け点検用です。案件類型を与えて一覧を出させ、手元の資料と照合します。

あなたは登記申請の事務手続を整理する補助者です。
以下の案件類型について、一般に添付情報として整えられる書類の一覧を作成してください。
そのうえで、手元にある資料と突き合わせ、一覧にあって手元にないものを列挙してください。

注意:
- 法務局ごとの運用差や個別事情には触れず、一般的な整理にとどめてください
- 提出方式(電子提供・書面提出・原本還付)の要否は判断せず、選択肢として並べるだけにしてください
- 一覧が網羅的でない可能性がある旨を、出力の冒頭に1行で明記してください

【案件類型】
(例: 売買による所有権移転/相続による所有権移転/抵当権抹消)

【手元にある資料】
(一覧を貼り付け)

この2本で出てきた素材を持って、工程5の最終確認に進みます。抽出も点検もAIに任せてよい一方、そこで見つかった論点をどう処理するかを決めるのは司法書士である。この構図を業務フロー図に書き込んでおくことをおすすめします。

依頼者情報と守秘義務をめぐって先に決める4点

登記業務が扱うのは、氏名、住所、生年月日、不動産の所在、そして取引金額です。個人情報の塊であり、クラウドサービスに入力する運用を組むなら、事前の整理が要る領域になります。

根拠となるのは司法書士法第24条です。同条は、司法書士又は司法書士であつた者は、正当な事由がある場合でなければ、業務上取り扱つた事件について知ることのできた秘密を他に漏らしてはならないと定めています(出典: e-Gov法令検索 司法書士法第24条)。事務所の補助者が資料整理を行う場合も、この枠組みを前提に運用を組むことになります。

個人情報の取扱いについては、個人情報保護委員会が2023年6月2日に生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表しており、個人情報を含むプロンプトを入力する場面の留意点が示されています(出典: 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起)。

決めておきたいのは次の4点です。第一に、入力時の加工方針です。氏名を記号に置き換え、住所を丁目までにとどめ、地番を伏せる。表記ゆれの検出という目的なら、こうした加工をしても作業は成立します。第二に、利用するサービスの条件です。入力内容が学習に使われない設定になっているか、履歴がどこに保存されるかを確認し、確認結果を記録に残します。第三に、補助者が使える範囲です。工程番号で線を引き、工程5をAI利用の対象外として明記します。第四に、記録の残し方です。どの案件のどの工程でAIを使い、誰が確認したか。この記録があると、後から手順を説明できます。プロンプトに個人情報を入れる際の判断枠組みはプロンプトに個人情報を入れる前に 士業事務所が決める運用ルール7項目にまとめています。

事務所規程に落とすなら、運用例として次の形が考えられます。AI利用を認める工程を工程番号で列挙すること。本人確認と意思確認をAI利用の対象外として明記すること。入力前の加工ルールを定めること。そして、案件ファイルにAI利用の記録欄を設けること。いずれも事務所の規模と扱う案件の性質によって適した形が変わるため、そのまま使うのではなく調整する前提で扱ってください。

オンライン申請でAIがつまずく3つの型

一つ目の型は、地域ごとの運用差を無視した一覧が出てくるケースです。生成AIは一般的な整理を返すため、特定の法務局の運用や、地域の慣行を織り込みません。回避策は、AIが出した一覧を事務所の案件類型別チェックリストと突き合わせる工程を挟むことです。AIの一覧を出発点にし、事務所の蓄積で上書きする。この順序にしておくと、抜けが減ります。

二つ目の型は、不動産の表示を誤って整形してしまうケースです。地番と住居表示の混同、床面積の小数点の扱い、区分建物の表示の省略。ここは表記の正確さがそのまま登記の成否に効く領域です。回避策は、不動産の表示についてはAIの出力を採らず、登記事項証明書からの転記に限定する運用にすることです。AIには差分の指摘だけをさせ、確定値は原典から取る。この線を引いておくと事故が減ります。

三つ目の型は、補正内容の解釈をAIに委ねてしまうケースです。補正の指摘は簡潔な文言で来ることが多く、背景にある実務上の意図を読み取る必要があります。回避策は、AIには指摘事項の整理と対応候補の列挙までを任せ、どの対応を採るかの決定を司法書士が行う工程を固定することです。

導入の工数と体制

初期の手間は、AIの設定よりも工程の言語化にかかります。案件類型ごとの必要資料一覧、記載事項の突合ルール、確認者の割り当て。これらが担当者の頭の中にある事務所では、まずそれを文書にする作業から始まります。

次の数字は公的な出典があるものではなく、編集部が置いた試算の目安です。案件類型3つ分の工程整理に2日、プロンプトの作成とテストに半日、補助者への説明と試行に2週間。この程度を見込むと初期の見立てが外れにくくなります。効果を測るときは、申請1件あたりの総時間ではなく、記載事項の突合と資料の抜け確認にかけていた時間の減り方で見るほうが実態に合います。最終確認の工程は短縮の対象ではないためです。

体制の面では、補助者が工程1から工程4と工程6、工程7を担い、司法書士が工程5を担う分担が自然な形になります。オンライン申請システムの運用や次期システムの動向は次期オンライン申請サービスが9月本格運用へでも触れました。

登記実務のデジタル化が次に向かう先

手続のデジタル化は、申請の入口だけでなく、証明や本人確認の方法にも広がっています。電子署名やリモート署名の運用が整うほど、事務所が扱う書類の形は紙から電子へ移ります。そうなると、AIが扱える対象も増えます。紙をスキャンして読み取る工程が消え、最初から構造化されたデータとして届くようになるからです。

一方で、増えるのは判断の重みです。作業が減った分、事務所に残るのは本人確認と意思確認、そして登記原因の見極めです。この部分に時間を配分できる体制を先に作っておくかどうかで、デジタル化の恩恵の受け取り方が変わってきます。作業の削減を目的にAIを入れるのではなく、判断に使う時間を増やすために入れる。この順序で考えておくと、投資の判断がぶれにくくなります。

よくある質問

申請情報をAIに作らせてもよいですか

事務所のひな形を土台に記載事項を差し込む形と、AIにゼロから生成させる形では、実務上の扱いが大きく変わります。後者は登記の目的や原因の記載が実務と合わない形で出てくることがあるため、ひな形を土台にする進め方を採る事務所が多くなっています。

依頼者の個人情報を生成AIに入力しても守秘義務の問題は生じませんか

情報の粒度と利用するサービスの条件によって整理が変わります。司法書士法第24条が秘密保持の義務を定めており(出典: e-Gov法令検索 司法書士法第24条)、個人情報保護委員会も生成AIサービスの利用について注意喚起を公表しています。入力前の加工方針を事務所として決めておく進め方が実務的です。

不動産の表示をAIに整形させてもよいですか

登記事項証明書からの転記に限定する運用を採る事務所が多くなっています。地番と住居表示の混同や区分建物の表示の省略は、そのまま申請の成否に効くためです。AIには差分の指摘だけをさせ、確定値は原典から取る形が安全側に倒れます。

本人確認の工程にAIを使えますか

本人確認と意思確認は、司法書士の判断が中核にある工程です。登記識別情報の提供については不動産登記法第22条に規定があり(出典: e-Gov法令検索 不動産登記法第22条)、確認の責任がオンライン申請だからといって変わるものではありません。AI利用の対象外として工程図に明記する事務所が増えています。

補正が出たときのAIの使い方はどうなりますか

指摘事項の整理と対応候補の列挙までをAIに任せ、どの対応を採るかの決定を司法書士が行う分け方が現実的です。補正の文言は簡潔なことが多く、背景の読み取りには実務の理解が要ります。

補助者にAIを使わせる場合に何を決めておきますか

利用を認める工程、入力前の加工ルール、確認者、記録の残し方の4点です。工程番号で線を引いておくと、補助者が判断に迷う場面が減ります。

小規模な事務所でも導入する意味はありますか

記載事項の突合と資料の抜け確認に時間をかけている事務所ほど効果が出ます。まず、その2工程に月あたり何時間かけているかを測ってから導入の可否を判断すると、投資の見立てが立てやすくなります。

相続登記の案件でもAIは使えますか

戸籍の読み取りと相続関係の整理は、判断が絡む度合いが高い領域です。相続等による所有権の移転の登記の申請については不動産登記法第76条の2に規定があります(出典: e-Gov法令検索 不動産登記法第76条の2)。資料の受領一覧づくりや依頼者への案内文の下書きなど、周辺の作業から使い始める事務所が多くなっています。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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