賃金不払の監督指導22,605件・128億円、社労士が押さえる3つの論点

厚生労働省が令和7年の賃金不払監督指導結果を公表。22,605件・128億5,782万円の内訳と、金額解決率85.5%が示す論点を社労士向けに整理しました。

厚労省が9月1日から36協定支援を拡充、45時間の一律指導を見直し

厚生労働省は2026年8月21日、令和7年の賃金不払監督指導結果を公表しました。

賃金不払が疑われる事業場への立入調査の年間集計が出そろいました。件数は前年から増え、対象労働者数と金額は減るという、方向のそろわない数字です。本記事は厚生労働省の公表資料に記載された数値のみを根拠に、士業のチカラ編集部が構成したものです。法令の当てはめや個別事案の評価は行わず、公表された事実と、社会保険労務士をはじめとする士業事務所が顧問先対応で確認することになる論点の整理にとどめます。

厚生労働省

公表された賃金不払の監督指導結果は何を示したか

結論から言えば、件数は微増、対象労働者数と金額は減少という結果です。厚生労働省が2026年8月21日に公表した資料によれば、令和7年に全国の労働基準監督署が取り扱った賃金不払事案は22,605件で、前年比251件の増加でした。対象労働者数は173,016人で前年から12,181人の減少、金額は128億5,782万円で43億5,331万円の減少です。

このうち令和7年中に労働基準監督署の指導により使用者が賃金を支払い、解決に至ったものは21,731件、割合にして96.1パーセントでした。対象労働者数では167,828人で97.0パーセント、金額では109億9,703万円で85.5パーセントとなっています。件数と人数の解決率が9割を大きく超えている一方で、金額ベースの解決率だけが85.5パーセントにとどまっている点は、読み方の分かれるところです。

厚生労働省は同じ資料で、令和7年中に解決せず翌年に繰り越しになったものや、倒産・事業主の行方不明により賃金が支払われなかったものも件数に含まれると注記しています。倒産により解決が困難な事案については、賃金の支払の確保等に関する法律第7条が定める未払賃金の立替払制度を迅速かつ適正に運用していくとしています。詳細な是正事例と送検事例は別紙の監督指導結果にまとめられています。

社労士事務所にとっての論点はどこにあるか

論点は3つに整理できます。第一は、金額の解決率が件数の解決率より10ポイント以上低いという構造です。一件あたりの不払額が大きい事案ほど、年内の解決に至りにくい傾向をうかがわせます。顧問先の規模や業種によって、監督指導が入った場合の着地イメージが変わるという前提で説明を組み立てる事務所が出てくると見ています。

第二は、件数が前年から増えている点です。人数と金額が減る一方で取扱件数が増えているという組み合わせは、一件あたりの規模が小さい事案が増えたか、監督署が拾う事案の幅が広がったか、いずれかの可能性を示唆します。厚生労働省は今回の資料で増加の要因までは説明していないため、断定はできず、今後の是正事例の内容を見て判断する段階です。

第三は、直近の監督指導方針の見直しとの関係です。厚生労働省は2026年8月19日に、時間外労働等に係る相談・支援及び監督指導を見直すと公表しており、9月1日から時間数に着目した一律の指導のあり方が変わります。時間外労働の管理と割増賃金の支払は実務上ひと続きの論点なので、両方の公表資料を並べて顧問先に説明する準備を進める事務所が増えそうです。

AI活用で変わる部分と、変わらない部分

賃金不払の多くは、意図的な未払よりも、勤怠データと賃金計算の突合が追いつかないことに起因すると指摘されてきました。この領域は生成AIやRPAとの相性が比較的よく、打刻データと給与明細の差分抽出、固定残業代の上限超過の洗い出し、就業規則と実際の運用のずれの検出といった一次スクリーニングを機械側に寄せる動きが広がっています。数値の突合という定型作業を先に潰しておけば、有資格者が判断に時間を使える構造になります。

一方で変わらない部分もあります。従業員の氏名・給与額・労働時間は個人情報であり、外部の生成AIサービスに投入する際の取扱いは事務所の規程とサービス側の設定に依存します。学習利用の有無やデータ保持期間はベンダーの公表資料で確認する項目であり、顧問先データを扱う前に事務所側の運用ルールを固めておく必要が語られています。AIの出力をそのまま結論として顧問先に渡さず、有資格者が確認する工程を残す設計が一般的です。

今後の展望

当面の注目点は3つあります。ひとつは、9月1日から始まる監督指導の見直しが、賃金不払事案の取扱件数にどう影響するか。ふたつめは、金額ベースの解決率が来年の集計で改善するか、85パーセント前後で定着するか。みっつめは、別紙に掲載された是正事例のうち、勤怠管理システムの不備に起因するものがどの程度を占めるかです。3つめは事務所のデジタル化提案の材料に直結する部分でもあります。

まとめ

厚生労働省は2026年8月21日、令和7年の賃金不払監督指導結果を公表しました。取扱件数は22,605件で前年比251件増、対象労働者数は173,016人で12,181人減、金額は128億5,782万円で43億5,331万円減です。解決率は件数96.1パーセント、金額85.5パーセントで、金額ベースだけが低い点が読みどころになります。社会保険労務士を中心に、9月からの監督指導見直しと合わせて顧問先へ説明する場面が増えそうです。

参考文献

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引用元: 厚生労働省

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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