記帳代行の自動化とは、証憑の読み取りから仕訳までを機械に寄せる工程設計のことです。
記帳代行は、税理士事務所の業務の中で最も量が多く、最も定型的な作業です。だからこそ自動化の対象になりやすい一方、顧問先ごとに資料の形式が違うために、期待どおりに進まない場面も多くなります。この記事では、記帳代行の工程を5つに割り、それぞれにどの道具を当てるかを整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。生成AIサービスの利用については個人情報保護委員会の注意喚起が判断の出発点になります。
自動化が進まない理由は工程の混在にある
記帳代行を一つの作業として扱うと、自動化の議論が進みません。実際には性質の違う工程が混ざっているためです。
顧問先から資料を受け取る工程、資料を読み取る工程、勘定科目を判断する工程、システムに入力する工程、確認する工程。それぞれ求められるものが違い、当てるべき道具も違います。
自動化が進まない事務所は、この混在を分けないまま道具を探しています。仕訳を自動でやってくれるツールという括りで探すと、実際に時間を食っている工程に効かない道具を選んでしまいます。
実務で最も時間がかかっているのは、多くの場合、資料を受け取って読める形に整える工程です。顧問先から届く資料は、紙、写真、表計算のファイル、システムからの出力が混在します。この段階の手戻りが、後の工程すべてに響きます。
したがって、工程を分けて、どこに時間がかかっているかを測るところから始めます。測らずに道具を入れると、効かない場所に投資することになります。この整理は、道具を入れるかどうかにかかわらず事務所の資産になります。
事務所全体でのAIの使いどころは税理士のAI活用で扱っています。ここでは記帳代行に絞って書きます。
工程1 資料の受け取りと形式の統一
最初の工程です。ここが整うと、後のすべてが軽くなります。
やることは2つです。第1に、顧問先ごとに資料の出し方を決めます。写真ではなくスキャン、月末にまとめてではなく随時、といった取り決めです。顧問先に負担がかかるため一律には決められませんが、事務所として推奨する形を示すだけでも変わります。
第2に、受け取る場所を一本化します。メール、郵送、持参、クラウドの共有場所が混在していると、そろっているかどうかの確認だけで時間がかかります。
この工程で効く道具は、生成AIというより資料の受け渡しの仕組みです。顧問先が自分でアップロードできる場所を用意し、そこに集約する。会計システムの機能に含まれている場合もあります。
生成AIが効くのは、届いた資料の中身を一覧にする作業です。何が届いていて、何が足りないかを整理させます。
あなたは会計事務所の事務スタッフです。以下の資料一覧を読み、次の観点で整理してください。
観点:
1. 届いている書類の種類と件数
2. 期間の抜けがある書類(月をまたいで連続していないもの)
3. 記載が読み取れない項目がある書類
条件:
- 一覧に書かれていない書類を補わないこと
- 金額の妥当性や仕訳の判断を書かないこと
- 顧問先は A社 のまま扱うこと
- 各項目は1行で出力すること
資料一覧:
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(ここに貼り付け)
"""
この工程の改善は、道具よりも顧問先との取り決めが効きます。資料が整った形で届くようになれば、後の工程の自動化率が上がります。
工程2 資料の読み取り
第2の工程です。ここは専用の機能が効く領域です。
会計システムの多くが、証憑の読み取り機能を持っています。日付、金額、取引先、摘要を画像から拾う機能です。この機能を使っている事務所では、汎用の生成AIを別に用意する必要は薄くなります。
汎用の道具が効くのは、システムの読み取りに乗らない資料です。形式が特殊な明細、手書きのメモ、複数の情報が混在した資料。これらは人が読んで入力していた部分であり、下ごしらえを任せられます。
読み取りの精度は、元の資料の状態に大きく左右されます。傾いた写真、影が入った画像、印字が薄い伝票。この部分は道具の性能より、工程1の取り決めで解決する部分が大きくなります。
読み取った結果は、そのまま使わず確認します。金額と日付は特に、誤読が起きやすい項目です。合計と個々の金額を突き合わせる、期間の抜けを見る、といった機械的な確認が効きます。
電子帳簿保存の枠組みは電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律に定められており、国税関係帳簿書類の電磁的記録による保存等は同法第4条に置かれています。実務的な取扱いは国税庁の電子帳簿等保存に関する情報で確認します。読み取りの自動化を進めるほど、保存の要件との関係を整理しておく必要が出てきます。
工程3 勘定科目の判断
第3の工程です。ここが記帳代行の中核であり、最も慎重に扱う部分になります。
会計システムには、過去の仕訳から科目の候補を提示する機能を持つものがあります。同じ取引先の同じ内容であれば、候補の精度は高くなります。この機能は、システム内のデータを学習の材料にしているため、事務所の実績が積み上がるほど効きます。
汎用の生成AIに科目を判断させる使い方は、慎重に扱います。理由は2つです。第1に、判断の根拠が事務所の実績ではないこと。第2に、誤った候補が自然な形で出てくること。
現実的な使い方は、候補を出させるのではなく、判断が要る取引を洗い出させる形です。過去と違うパターンの取引、金額が大きく動いた項目、初めて出てきた取引先。これらを列挙させれば、人が見る箇所が絞れます。
あなたは経理資料の点検役です。以下の取引一覧について、次の観点で注意が要る取引を
列挙してください。
観点:
- 同じ取引先で、過去の記録と摘要の内容が大きく異なる取引
- 初めて出てきた取引先の取引
- 同じ取引先で、金額の桁が過去と異なる取引
- 摘要から内容が読み取れない取引
条件:
- 勘定科目の判断や提案を書かないこと
- 一覧に書かれていない情報を補わないこと
- 取引先は A社、B社 のまま扱うこと
- 該当がない観点は出力しないこと
取引一覧:
"""
(ここに貼り付け)
"""
科目の最終的な判断は税理士が行います。この構造は、道具の性能が上がっても変わりません。税理士法第52条は税理士または税理士法人でない者が税理士業務を行うことを制限しており、この規定が生成AIの利用にどう及ぶかは公表された行政の見解が限られているため、現時点では論点として整理しておく段階です。事務所としては、税理士が確定させる構造を保つことが実務上の対応になります。
工程4 システムへの入力
第4の工程です。ここは会計システムの領域であり、生成AIの出番は限られます。
自動化の程度は、使っているシステムと、顧問先のデータの形によって決まります。銀行やクレジットカードの明細を自動で取り込む機能があれば、手入力の部分は大きく減ります。
ここで検討するのは、道具というより顧問先との連携です。顧問先が自社で入力する部分と、事務所が代行する部分の線引きを見直すと、全体の作業量が変わります。顧問先の側にも入力の負担が発生するため、報酬の設計とセットで話す論点になります。
なお、この工程で生成AIが効く場面があります。システムに取り込むためのファイルの形式を整える作業です。顧問先から届いた表計算のファイルを、システムが読める形に並べ替える。この作業は定型的で、指示文で定義できます。列の順序、日付の書式、金額の表記。顧問先ごとに違うこれらを、事務所の標準に合わせる作業は、人がやると単調なうえに間違えます。
もう一点、この工程で見落とされやすいのが、取り込んだ後の突き合わせです。取り込んだ件数と元の資料の件数が合っているか、合計金額が一致しているか。自動で取り込む部分が増えるほど、この確認の重みが増します。取り込みが成功したという表示だけを見て次に進むと、抜けに気づきません。
自動化を進めるうえでの判断として、どこまでを事務所が担うかという線もあります。顧問先が自社で入力できる部分を増やせば、事務所の作業は減ります。ただし、顧問先の負担は増えます。この線引きは、報酬の設計と切り離せない話になります。
工程5 確認と守秘義務・規程の設計
最後の工程です。自動化を進めるほど、この工程の設計が重要になります。
確認の観点は3つに絞ります。合計と内訳が合っているか。期間の抜けがないか。過去と異なるパターンの取引が説明できるか。すべての仕訳を一つずつ見る設計にすると、量が増えたときに確認が形だけになります。
守秘義務の観点も整理します。税理士の守秘義務は税理士法第38条に置かれており、税理士でなくなった後にも及ぶ構成になっています。記帳代行で扱うのは顧問先の取引そのものであり、事業の内容が具体的に分かる情報です。
入力してよい情報の区分を決めます。取引の内容を汎用の生成AIに渡す場合、取引先名と金額を記号に置き換えるかどうかを判断します。ただし、記帳の作業では金額そのものが処理の対象になるため、置き換えると作業にならない場面があります。この場合、そもそも汎用の道具に渡さず、会計システム内で完結させる設計を選びます。
個人情報の側では、安全管理措置が個人情報の保護に関する法律の個人情報保護法第23条に置かれています。給与に関する資料を扱う場合、個人の所得情報が含まれるため、扱いはさらに慎重になります。
顧問先への説明も準備します。何に使っているか、何を入力しないか、誰が確認するかの3点です。日本税理士会連合会の公表情報は、所属する団体の考え方を確認する材料になります。規程への落とし方は士業事務所のAI利用規程テンプレートで扱っています。
自動化でつまずくパターン
1つ目は、工程を分けずに道具を探した例です。実際に時間を食っている工程に効かない道具を選ぶことになります。
2つ目は、資料の受け取り方を変えずに読み取りの精度を求めた例です。元の資料の状態が読み取りの精度を決めるため、顧問先との取り決めのほうが効きます。
3つ目は、科目の判断まで汎用の生成AIに任せた例です。判断の根拠が事務所の実績ではないため、誤った候補が自然な形で出てきます。
4つ目は、確認をすべての仕訳に対して行おうとした例です。量が増えると形だけになります。観点を3つに絞ります。
5つ目は、繁忙期に導入を始めた例です。新しいやり方を覚える時間がなく、従来のやり方に戻ります。着手は繁忙期を避けます。
6つ目は、顧問先ごとに違うやり方を作った例です。担当者が入れ替わったときに引き継げません。事務所としての標準を決め、顧問先の事情による例外を最小限にします。
7つ目は、自動化の効果を測らずに進めた例です。読み取りの機能を入れたが、実際には修正の手間が増えていた、という結果に気づかないまま契約が続きます。工程ごとの時間を導入前に把握しておけば、この判断ができます。
8つ目は、担当者が確認の意味を理解しないまま作業した例です。合計と内訳の突き合わせを、形式的な手順として教えると、なぜそれを見るのかが伝わりません。何を防ぐための確認かを説明しておくと、想定外の異常にも気づけるようになります。
費用と体制、報酬への影響
費用は、会計システムのライセンス料が中心になります。読み取りの機能が上位のプランに含まれる場合、プランの変更で対応できることもあります。汎用の生成AIを併用する場合は、一アカウントあたり月額数千円の水準が目安になります。金額は事業者と契約形態で変わるため、各社の料金ページで確認します。
工数は、工程の整理と顧問先との取り決めに集中します。参考値として、工程の棚卸しと時間の把握に数日、顧問先への案内と受け取り方の変更に1か月から数か月を見ておくと、無理のない進め方になります。顧問先が関わる部分は、事務所の都合だけでは進みません。
体制では、標準を決める人を置きます。顧問先ごとにやり方が分かれると、担当者の引き継ぎが難しくなります。
報酬への影響も整理しておきます。記帳代行は作業量に対して価格が付いている場面が多く、自動化がそのまま減収につながる構造があります。価格の根拠を作業量から別のものへ移す検討は、自動化と同時に進めます。考え方は士業のAI活用と報酬設計で扱っています。
補助金の活用を検討する場合は、IT導入補助金の公式サイトで対象ツールと申請要件を確認します。会計システムは登録されている場合が多い領域ですが、年度によって扱いが変わるため公募要領で確認します。
これから変わること
証憑の読み取り精度は上がり続けています。手入力の部分が減るほど、事務所の作業は確認と判断に寄っていきます。この変化は、担当者に求められる力の質を変えます。入力ができる人より、異常に気づける人の価値が上がります。
顧問先の側で経理のデジタル化が進めば、事務所に届く資料の形も変わります。紙の束を預かる形から、データを受け取る形への移行が進むほど、工程1と工程2の負担が減ります。
制度面では、電子帳簿保存に関する取扱いの整理が続いています。国税庁の公表資料で確認します。個人情報保護法の見直しの議論も続いており、委員会の公表資料は個人情報保護委員会の報道発表で追えます。
記帳代行そのものの位置づけも変わっていきます。作業を代行する価値が下がる一方で、数字から経営の状態を読み、顧問先に伝える価値は残ります。事務所として、どちらに軸足を置くかの判断が問われます。
よくある質問
記帳代行はどこまで自動化できますか
工程によって差があります。読み取りと入力は自動化が進みやすく、資料の受け取りと最終の確認は人が関わる部分が残ります。科目の判断は、過去の実績から候補を出す仕組みが効きますが、確定は税理士が行います。
汎用の生成AIで仕訳を判断させてよいですか
慎重に扱う領域です。判断の根拠が事務所の実績ではないため、誤った候補が自然な形で出てきます。候補を出させるより、判断が要る取引を洗い出させる使い方のほうが実務に合います。
読み取りの精度が低い場合はどうしますか
元の資料の状態が精度を決めるため、顧問先との取り決めが最も効きます。写真ではなくスキャン、傾きや影のない状態での提出といった案内をするだけで変わります。道具を替えるより先に、この部分を見直します。
どの工程から手を付けますか
まず工程ごとに時間を測ります。多くの事務所で時間を食っているのは、資料を受け取って読める形に整える工程です。測らずに道具を入れると、効かない場所に投資することになります。
自動化すると報酬は下げることになりますか
事務所の方針として決める問題です。記帳代行は作業量に価格が付いている場面が多く、自動化がそのまま減収につながる構造があります。価格の根拠を作業量から別のものへ移す検討を、自動化と同時に進める事務所が増えています。
導入はいつ始めるのがよいですか
繁忙期を避けます。新しいやり方を覚える時間が確保できない時期に始めると、担当者は従来のやり方に戻ります。顧問先との取り決めが関わる部分は、事務所の都合だけでは進まないため、余裕のある時期に着手します。
参考文献
- e-Gov法令検索 税理士法
- e-Gov法令検索 電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律
- e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律
- 国税庁 電子帳簿等保存制度
- 国税庁
- 日本税理士会連合会
- 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等
- IT導入補助金
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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