税理士のAI活用 業務別の使いどころ7つと顧問先情報の線引き

税理士業務でAIが効く7つの使いどころを整理。説明文作成や資料点検の指示文、顧問先情報の線引き、会計システムとの住み分けを実務目線で解説します。

税理士のAI活用 業務別の使いどころ7つと顧問先情報の線引き

税理士のAI活用とは、記帳と資料整理の下ごしらえをAIに寄せる業務設計のことです。

税理士事務所の業務は、月次で繰り返される作業の比率が高く、AIの効果が出やすい構造をしています。一方で、扱う情報は顧問先の経営そのものであり、入力の線引きを決めずに始めると止まります。この記事では、税理士業務でAIが効く7つの使いどころと、守秘義務を踏まえた運用の設計を整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。生成AIサービスの利用については個人情報保護委員会の注意喚起が判断の出発点になります。

税理士事務所で先に決めておくこと

順番から書きます。ツールを選ぶ前に決めるのは、顧問先の情報をどう扱うかです。

税理士の守秘義務は税理士法第38条に置かれています。同条は、正当な理由がなくて税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、又は窃用してはならないと定めており、税理士でなくなった後にも及ぶ構成になっています。

税理士事務所が扱う情報は、顧問先の売上、利益、給与、取引先、資金の流れです。企業にとって最も外に出したくない種類の情報が、日常的に手元にあります。この性質から、入力する情報の線引きは慎重に設計します。

業務範囲の規定も視野に入ります。税理士法第52条は、税理士または税理士法人でない者が税理士業務を行うことを制限しています。この規定が生成AIの利用にどう及ぶかは、公表された行政の見解が限られているため、現時点では論点として整理しておく段階です。事務所としては、税理士が判断し確定させる構造を保つことが実務上の対応になります。

個人情報の側では、安全管理措置が個人情報の保護に関する法律の個人情報保護法第23条に置かれています。ただし、資格法の守秘義務の対象は個人情報に限られないため、法人の経営情報が抜け落ちないように設計します。

決めることは3つです。入力してよい情報の区分、使ってよいサービスの指定、出力を外に出す前の確認工程。守秘義務の詳細は士業の生成AIと守秘義務で扱っています。

税理士業務でAIが効く7つの使いどころ

効果が出やすい順に挙げます。

第1は、資料の整理と要約です。顧問先から届く資料は形式がばらばらで、読み取るだけで時間がかかります。届いた資料の中身を整理し、確認が要る点を洗い出す作業に効きます。

第2は、証憑からの情報抽出です。日付、金額、取引先、摘要を拾って並べる作業。会計システムの機能と組み合わせる場面もありますが、システムに乗らない資料の処理では汎用の道具が効きます。

第3は、顧問先向けの説明文の作成です。税制の改正内容、申告の準備で必要な資料の案内、月次の報告の文面。専門的な内容を平易に書き直す作業は、事務所の業務のかなりの部分を占めます。

第4は、月次資料の下書きです。数値そのものは会計システムから出るとして、その数値をどう説明するかの文章部分が対象になります。前月との差の説明、注意して見る点の整理。

第5は、資料の自己点検です。作成済みの資料を読ませ、数値の食い違いや前後の矛盾を指摘させます。正解を出させるのではなく、疑わしい箇所を挙げさせて担当者が目を通す使い方です。

第6は、想定問答づくりです。顧問先との面談の前、調査の対応の前に、聞かれそうなことを列挙させます。準備の抜けを減らす用途で、経験の浅い担当者ほど効果を感じます。

第7は、事務所内のナレッジ検索です。過去の資料や手控えを引ける状態にすると、担当者が変わっても同じ品質で答えられます。ただし顧問先の情報を含むため、他の6つとは別の設計が要ります。詳細は士業事務所のRAG構築で扱っています。

逆に、向かない使い方も明確です。税額の計算そのものを任せること、通達や取扱いを知識として尋ねること、判断の結論を出させること。いずれも誤りが混ざりやすく、しかも誤りが検出しにくい領域です。税に関する取扱いは国税庁の公表資料で確認します。

向き不向きの差は、確認の手間で説明できます。資料の整理や説明文の作成であれば、元の資料に戻れば正しいかどうかが分かります。一方、取扱いを尋ねる使い方では、返ってきた内容を確かめる作業が、自分で調べる作業とほぼ同じ手間になります。時間の節約にならないどころか、それらしい誤りに引きずられる分だけ危険が増えます。

7つの使いどころの中で、事務所の規模による差が出るのが第7のナレッジ検索です。担当者が数名の事務所では、そもそも全員が全顧問先を把握している場合があり、検索できる状態にする効果は限られます。担当者が入れ替わる規模になってから検討する、という順番でも遅くありません。

使う指示文の型

事務所で共有する指示文の例を挙げます。固有名詞は記号に置き換えて使います。

顧問先向けの説明文を作る型です。

あなたは会計事務所の事務スタッフです。以下の「元の説明」を、専門用語に慣れていない
読み手に向けて書き直してください。

条件:
- ですます調で統一すること
- 一文は60字以内を目安にすること
- 元の説明にない事実や結論を足さないこと
- 数値・日付・金額は元の説明のまま変更しないこと
- 判断や助言を書かず、事実の説明にとどめること
- 専門用語を残す場合は、初出時に短い補足を括弧で添えること
- 顧問先は A社、担当者は 甲 のまま扱うこと

元の説明:
"""
(ここに貼り付け)
"""

資料の点検に使う型です。

あなたは書類の点検役です。以下の資料を読み、次の観点で疑わしい箇所だけを列挙してください。
修正案は書かず、指摘のみを出力してください。

観点:
- 数値・日付・金額が資料内で食い違っている箇所
- 合計と内訳が合っていない箇所
- 参照先(別紙・様式番号・科目名)が資料中に存在しない箇所
- 表記がゆれている勘定科目名や取引先名

出力形式:
- 該当箇所の引用(20字以内)/指摘の理由 を1行ずつ
- 指摘がない場合は「指摘なし」とだけ出力すること

資料:
"""
(ここに貼り付け)
"""

どちらの型でも、AIに判断させていない点が共通しています。整理と指摘までを任せ、正しいかどうかの結論は税理士が出します。

守秘義務と規程 顧問先情報をどう扱うか

税理士事務所に固有の設計を書きます。

第1に、入力する情報の区分です。3段階に分けます。公表資料や事務所の汎用文例など、そのまま入力してよいもの。顧問先の事案に関する記述など、識別できる情報を落としてから入力するもの。マイナンバー、口座番号、個人の所得や資産に関する具体的な数値など、入力しないもの。

第2に、匿名化の水準です。顧問先名をA社、代表者を甲、取引先を乙に置き換える。金額は桁を丸める。日付は年月までにする。税理士事務所で特に注意するのは、業種と地域と規模の組み合わせです。地方で特定の業種の顧問先が限られる場合、名前を伏せても分かる場面があります。

第3に、確認の工程です。税理士が出力を確認し、確定させる工程を作業フローに明示します。見る観点は、数値、固有名詞、参照先の3点に絞ると運用が保ちます。条文が含まれていたらe-Gov法令検索の原典で確認します。生成AIは実在しない条番号を、実在するものと同じ文体で出力します。

第4に、記録です。どの顧問先の業務で生成AIを使ったかを記録に残します。既存の顧問先管理に一項目足す形で足ります。

第5に、退職時の扱いです。税理士法第38条は、税理士でなくなった後にも義務が及ぶ構成を採っています。事務所を離れる人のアカウントを止める手順を、入退職の手続き一覧に組み込んでおきます。

第6に、顧問先への説明です。何に使っているか、何を入力しないか、誰が確認するかの3点を答えられる状態にします。日本税理士会連合会の公表情報は、所属する団体の考え方を確認する材料になります。規程への落とし方は士業事務所のAI利用規程テンプレートで扱っています。

会計システムとの住み分け

税理士事務所に固有の論点として、会計システムとの関係があります。

会計システムの側にもAIの機能が組み込まれる動きが進んでいます。証憑の読み取り、仕訳の候補提示、異常値の検出。これらはシステム内のデータを前提にした処理であり、そのシステムを使っている限り追加の契約は要りません。

汎用の生成AIが効くのは、システムに乗らない部分です。形式のそろわない資料の整理、顧問先向けの文章の作成、複数の資料を横断した確認。この住み分けを決めておくと、道具の重複を避けられます。

判断の順番としては、まず会計システムに機能が追加されていないかを確認します。そのうえで、システムでは扱えない業務に汎用の道具を当てます。この順番であれば、余計な契約を抱えずに済みます。

住み分けを決めるときは、担当者に伝わる形にしておきます。この作業はシステム、この作業は汎用の道具、と一覧にしておけば、担当者が迷いません。一覧がないと、慣れている道具に何でも投げる状態になり、向かない使い方が混ざります。

顧問先が使っている会計システムが事務所と異なる場合、資料の形式がそろわない場面が出てきます。この部分は汎用の道具が効く領域です。顧問先ごとにシステムが分かれている事務所ほど、汎用の道具を持っておく意味が大きくなります。

なお、電子帳簿保存の枠組みは電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律に定められており、国税関係帳簿書類の電磁的記録による保存等は同法第4条に置かれています。電子取引の実務的な取扱いは国税庁の電子帳簿等保存に関する情報で確認します。

税理士事務所で起きている失敗

1つ目は、税額の計算をAIに任せた例です。計算そのものは会計システムや税務ソフトの領域であり、生成AIに向く作業ではありません。それらしい数字が返るぶん、誤りに気づきにくくなります。

2つ目は、存在しない条番号や通達番号が資料に載りかけた例です。形式が正しく文脈にも合っているため、確認しなければ通ります。原典で確認する工程を作業フローに固定します。

3つ目は、匿名化したつもりで顧問先が特定できた例です。地方で特定の業種の顧問先が限られる場合、名前を伏せても分かる場面があります。置き換えの範囲に業種と地域の組み合わせを含めます。

4つ目は、無償版に顧問先の資料をそのまま貼り付けた例です。事務所として使ってよいサービスを指定していなかったことが原因です。代わりに使える環境をセットで用意します。

5つ目は、AIが書いた税務上の判断が資料に残った例です。指示していないのに結論や見通しが混ざります。指示文で判断を書かせない条件を入れ、確認の観点にも入れておきます。

6つ目は、繁忙期に確認工程が飛ばされた例です。申告の時期は量が増え、確認が形だけになりがちです。観点を3点に絞っておくと、量が増えても運用が保ちます。

7つ目は、顧問先に送る文章がAIの文体のまま出た例です。生成AIの出力には特有の言い回しがあり、読み手には意外と伝わります。事務所の既存の文面を一緒に渡す運用と、最終の文言を人が決める運用の両方で対応します。

8つ目は、担当者ごとに使い方が分かれ、成果が共有されなかった例です。うまくいった指示文が個人の中に閉じたままだと、事務所の型になりません。月に一度、短くてよいので持ち寄る場を作ります。

費用と体制、導入の順番

費用は、法人向けプランのライセンス料が中心になります。金額は事業者と契約形態で変わるため、各社の料金ページで確認します。会計システムの機能で足りる部分は追加の契約が要らないため、まずそこを確認します。

工数は、初期の設計に集中します。参考値として、入力区分の決定と匿名化の作法の整理に数日、指示文の型づくりと確認工程の設計にさらに数日を見ておくと、無理のない立ち上げになります。繁忙期を避けて着手するほうが定着します。

体制では、運用を持つ人を決めます。業務の流れを知っている人が向きます。あわせて、出力を確定させる税理士を明示します。

導入の順番としては、第1の資料整理と第3の説明文作成から始めます。どちらも元の資料に戻れるため、リスクが低く効果が見えやすくなります。導入全体の進め方は士業事務所のAI導入の進め方にまとめています。

試す段階では、顧問先の資料ではなく所内の資料を使う方法もあります。事務所の業務手順書、過去に作った案内文の型、所内会議のメモ。顧問先の情報を含まないため、入力の線引きに気を取られずに操作と精度を確認できます。所内で型が固まってから、顧問先に関する資料の扱いを検討する順番にすると、議論が噛み合います。

効果の測り方も、対象業務を決めた時点で一行書いておきます。作業にかかる時間でも、差し戻しの回数でも、担当者の実感でも構いません。厳密な計測を始めると計測そのものが負担になるため、担当者の感覚で足ります。基準がないと、続けるか止めるかの判断が感覚論になります。

これから論点になること

顧問先の側でもAI利用が進むため、届く資料の性質が変わります。根拠が薄い資料が混ざるようになり、受け取る側の確認の手間が増える面があります。

会計システムへのAI機能の組み込みが進めば、汎用の道具を別に契約する必要が薄れる業務も出てきます。事務所としては、住み分けを定期的に見直す作業が要るようになります。

制度面では、個人情報保護法の見直しの議論が続いています。委員会の公表資料は個人情報保護委員会の報道発表で追えます。税制についても改正が続くため、公表資料を追う体制は変わりません。

報酬の設計も論点です。記帳や資料整理にかかる時間が短くなった業務について、価格の根拠をどこに置くかを整理しておくと、交渉の場で軸がぶれません。考え方は士業のAI活用と報酬設計で扱っています。

よくある質問

顧問先の試算表を生成AIに入力してよいですか

事務所として先に決めておく問題です。個別の事案で入力が許されるかどうかは、扱う情報の性質と契約内容によって整理が変わるため、税理士の判断が要ります。実務では、識別できる情報を落としてから入力する運用、法人向けプランに限定する運用を採る事務所が多く見られます。

税額の計算に使えますか

向きません。計算は会計システムや税務ソフトの領域です。生成AIはそれらしい数字を返すぶん、誤りに気づきにくくなります。文章の整理や資料の点検といった、検算できる作業に使います。

通達や取扱いを尋ねてよいですか

尋ねる使い方は誤りが混ざりやすくなります。取扱いは国税庁の公表資料で確認します。生成AIに使わせるなら、確認済みの資料を渡して、その中から探させる形にします。

どの業務から始めるのがよいですか

資料の整理と、顧問先向けの説明文の作成です。元の資料が手元にあるため出力を検算でき、時間の削減も体感しやすくなります。繁忙期を避けて着手すると定着します。

会計システムのAI機能との使い分けはどうしますか

システム内のデータを前提にした処理はシステム側、形式のそろわない資料や文章の作成は汎用の道具側という住み分けが実務に合います。まず会計システムに機能が追加されていないかを確認してから、汎用の道具を検討します。

顧問先にAI利用を説明しますか

聞かれる前に答えられる状態にしておく事務所が増えています。何に使っているか、何を入力しないか、誰が確認するかの3点を伝えられれば、たいていの問いに答えられます。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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