Gemini Notebookとは、旧NotebookLMにあたる資料読み込み型のAIのことです。
高評価のボタンを押した瞬間に、その資料の扱いが変わる。この一点を知らないまま顧問先の資料を読み込ませている事務所があります。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、サービスの仕様はGoogleの公式ヘルプで確認しています。Googleの公式ヘルプによると、Gemini Notebookのコンテンツは、ユーザーがフィードバックを送信しない限りGoogleの基盤モデルのトレーニングに直接使用されないと説明されています(出典: Gemini Notebook のプライバシーと利用規約)。
資料読み込み型のAIが士業の作業と噛み合う理由
汎用のチャット型AIと、Gemini Notebookのような資料読み込み型のAIでは、向いている作業が違います。チャット型は問いに対して知識から答えを構成しますが、資料読み込み型は与えた資料の範囲内で答えを構成します。この差は、士業の業務にとって決定的です。
士業の実務でAIが失敗する典型は、存在しない条番号や判例を自信たっぷりに出力する場面です。これは知識から答えを構成する仕組みの帰結であり、プロンプトの工夫だけでは根絶できません。一方、資料読み込み型は答えの根拠を与えた資料に限定するため、出典が資料のどこかに紐づく形になります。回答に引用元が示される設計であれば、担当者が元の記載に戻って確認できます。
この設計が効く場面を、士業の業務に当てて挙げます。長い契約書や就業規則を読み込ませて論点を洗い出す作業、複数の通達や告示を並べて改正前後の違いを整理する作業、過去の相談記録を横断して類似案件を探す作業。いずれも、AIに知識を求めているのではなく、手元の資料を読む速度を上げているだけです。この線引きが保たれている限り、出力の検証は現実的な工数に収まります。
サービス名の変更にも触れておきます。従来NotebookLMと呼ばれていたこのサービスは、公式ヘルプではGemini Notebookという名称で説明されており、ヘルプページのURLも切り替わっています。事務所内の手順書やマニュアルにNotebookLMという名称で記載がある場合、更新のタイミングを決めておかないと、新しく入った職員が別のサービスと誤認する可能性があります。名称変更の正確な時期は公式の告知で確認する形になります(要確認)。
Googleの生成AIを事務所業務に組み込む観点は、Gemini使い方 士業事務所の業務に生かす8つの実装場面と守秘義務の論点でも扱っています。本記事はそのうち、資料を読ませる使い方に絞って整理します。
顧問先資料を読み込ませる前に押さえる7つの論点
ここでは有資格者二名、補助者三名の事務所を想定し、就業規則や契約書のレビュー、通達の読み込みを主な用途として整理します。
論点1 フィードバックボタンの扱いを、事務所の禁止事項として明示する
これが最も重要な運用上の分岐です。公式ヘルプによると、高評価または低評価のフィードバックを送信すると、関連するコンテンツ(プロンプト、カスタマイズ、ソース、アップロード、生成された出力)が収集され、特別なトレーニングを受けたチームがレビューし、最長で3年間保存されると説明されています(出典: Gemini Notebook のプライバシーと利用規約)。つまり、通常の利用では学習に使われない設計でも、親切心でボタンを押した瞬間に取扱いが変わります。事務所の運用としては、業務利用中はフィードバックボタンを押さないという一行を、規程か手順書に書いておく形が採られています。
論点2 アカウントの種別で条件が変わることを理解する
同じヘルプページには、Google WorkspaceまたはGoogle Workspace for Educationのユーザーについて、アップロード、クエリ、モデルの回答は、高評価または低評価のフィードバックを提供した場合でも人間のレビュアーによる確認は行われず、AIモデルのトレーニングにも使用されないと記載されています。仕事用アカウントからのアクセスにはGoogle Cloud利用規約が適用され、それ以外のユーザーにはGoogle利用規約が適用されるとも説明されています。事務所として使うなら、どの契約形態のアカウントで使っているかを把握していることが前提になります。個人のGmailアカウントで業務資料を扱っている職員がいないかは、導入時に確認する項目です。無料版と法人プランで扱いが異なる構造そのものについては、生成AIの法人プランと学習利用の比較で公式記載の読み方を整理しています。
論点3 読み込ませる資料を、案件単位で切る
ひとつのノートに複数の顧問先の資料を混ぜると、案件間の情報の壁が薄くなります。担当外の職員がそのノートを開けば、関係のない顧問先の資料まで検索できる状態になります。案件ごと、あるいは顧問先ごとにノートを分け、共有範囲を担当者に限る運用にします。共有の設定は既定値に任せず、作成時に確認する手順を置きます。事務所内の権限の考え方は士業事務所の生成AI権限設定 有資格者と補助者で分ける5階層のルールで整理しました。
論点4 出力の根拠を、資料の該当箇所で確認する運用にする
資料読み込み型のAIでも、要約の過程で意味が変わることはあります。とくに条件付きの記載、例外規定、経過措置のような箇所は、要約すると条件が落ちやすい部分です。出力を業務に使う前に、根拠として示された箇所を原文で開く工程を残します。
以下の作業を行ってください。
対象: このノートに読み込んだ就業規則(A社)
作業内容:
1. 労働時間・休憩・休日に関する定めを抜き出し、条番号とともに並べる
2. 抜き出した各定めについて、例外規定や但し書きがある場合は必ず併記する
3. 資料に記載が見当たらない事項は「規則に記載なし」と明示し、一般論で補わない
4. 法令との適合性についての結論は書かない。規則の記載内容の整理までを行う
5. 各項目に、根拠となる箇所(条番号・ページ)を付す
出力は文章形式で、表は使わないでください。
論点5 複数資料の突き合わせに使い、単一資料の要約に留めない
資料読み込み型の価値が最も出るのは、複数の資料を横断させる場面です。改正前後の条文、本則と附則、通達と質疑応答集、就業規則と労使協定。これらを同じノートに入れて差分を出させると、人が読み比べる時間が縮みます。単一の資料を要約させるだけなら、汎用のチャット型でも大差ありません。
以下の作業を行ってください。
対象: このノートに読み込んだ2つの資料
- 資料1: 改正前の規程(A社)
- 資料2: 改正後の規程(A社)
作業内容:
- 条ごとに、記載が変わった箇所を抜き出す
- 変更点を「追加」「削除」「文言修正」に分類する
- 数値・期間・金額が変わった箇所は、変更前後の値を並べて示す
- 変更の意図や妥当性についての評価は書かない。差分の事実のみを整理する
- どちらの資料にも見当たらない事項について推測しない
出力は条番号の昇順で、文章形式にしてください。
論点6 顧問先への説明の型を決めておく
顧問先の資料を外部サービスに読み込ませる以上、説明できる状態にしておく必要があります。説明の型としては、どのサービスを使っているか、そのサービスが入力内容を学習に使わない旨が公式にどう記載されているか、事務所として誰がアクセスできるようにしているかの3点を、短くまとめておく形が使えます。顧問契約の更新時に一度伝えておけば、案件ごとの説明は不要になります。
論点7 有資格者の確認を、成果物ごとに置く
読み込み型であっても、出力をそのまま成果物にしないという原則は変わりません。就業規則の論点整理であれば社会保険労務士が、契約書のレビューであれば弁護士が、最終的な内容を確認します。この工程を作業手順の中に行として置き、確認者を記録に残します。
士業の守秘義務とクラウド上の資料保管
守秘義務の条文は職種ごとに異なります。弁護士は弁護士法第23条が秘密保持の権利及び義務を、税理士は税理士法第38条が秘密を守る義務を、社会保険労務士は社会保険労務士法第21条が秘密を守る義務を、司法書士は司法書士法第24条が秘密保持の義務をそれぞれ定めています。いずれの条文も、正当な理由なく秘密を漏らすことを禁じる内容であり、クラウドサービスの利用がこれに触れるかを条文自体が答えているわけではありません。
事務所として整理しておく項目は3つあります。
第一に、資料がどこに保管され、どれくらいの期間残るかです。Gemini Notebookの場合、通常の利用ではノートに読み込んだ資料がユーザーの管理下に置かれる構成ですが、フィードバックを送信した場合は前述のとおり最長3年間保存されると説明されています。この非対称を、職員が理解しているかどうかが運用の分かれ目になります。
第二に、退職者や担当替えの際のノートの扱いです。個人のアカウントで作られたノートは、その職員が退職すると事務所の管理から離れます。事務所のアカウント体系でノートを持つ設計にしておかないと、案件資料の所在が追えなくなります。ここはツールの機能というより、アカウント管理の設計の問題です。
第三に、依頼者側のルールとの整合です。企業を顧問先に持つ事務所では、依頼者自身が生成AIの利用について社内規程を持っていることがあります。事務所の判断だけで進めると、依頼者の規程と食い違う場面が生じます。大口の顧問先については、事前に取り決めを書面化しておく運用が採られています。
個人情報を含む資料を扱う場合の留意点については、個人情報保護委員会が生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表しています。従業員名簿や労働者名簿のように、個人情報が構造化された形で並んでいる資料は、読み込ませる前に必要な範囲へ絞る作業を挟む価値があります。入力する情報の範囲そのものについては、プロンプトに個人情報を入れる前に決める運用ルールで7項目に分けて整理しました。
資料読み込み型でつまずきやすい3つの場面
ひとつ目は、読み込ませた資料の版が古いまま使い続ける場面です。ノートに読み込んだ時点の資料が固定されるため、元の資料が更新されても自動では追随しません。通達や告示のように更新されるものを扱う場合、いつの版を読み込んだかをノートの名前に入れておく運用が有効です。
ふたつ目は、資料に書かれていないことを聞いてしまう場面です。資料読み込み型でも、資料の範囲を超えた質問には一般的な知識で答える挙動を示すことがあります。質問の仕方を、資料の中から抜き出す形に統一しておくと、この混線が起きにくくなります。
みっつ目は、便利さゆえに読み込ませる資料が増えすぎる場面です。ノートに大量の資料を入れると、どの資料が根拠になったかの追跡が難しくなり、確認の工数が増えます。ひとつのノートに入れる資料は、その作業に必要な範囲に絞るほうが結果的に速くなります。
費用と工数をどう見積もるか
Gemini NotebookはGoogle Workspaceのサービスとして提供される形と、個人向けの形があり、機能や上限が異なります。事務所として使うなら、Workspaceの契約に含まれる形で使うのが管理上は素直です。利用料金と含まれる機能の範囲は契約プランによって変わるため、金額はGoogle Workspaceの製品ページと契約内容で確認する形になります(要確認)。
工数の面では、導入直後に増える作業があります。ノートの分け方を決める、共有設定を確認する、読み込ませてよい資料の一覧を作る。これらは初回だけの作業ですが、決めずに始めると後から整理するほうが手間になります。想定した規模の事務所であれば、最初の一週間を設計に充て、二週目から実務に入る進め方が現実的です。
効果の測り方は、資料を読む時間の変化で見ます。就業規則のレビューに要していた時間、通達の読み込みに要していた時間を、導入前に記録しておくと比較ができます。測定の手順は士業事務所のAI費用対効果をどう測るかで整理しています。
体制面では、ノートの命名規則と共有範囲の点検を誰が持つかを決めます。この役割がないと、数か月でノートが散らかり、どの案件のノートがどこにあるか分からなくなります。
資料を読ませる使い方が士業に定着するか
生成AIの使い方は、知識を引き出す方向から、手元の資料を扱う方向へ重心が移りつつあります。士業の業務は、依頼者から預かった資料を読むことが仕事の相当部分を占めるため、この移動は業務との相性がよい方向です。
一方で、資料を外部に預ける行為そのものへの慎重さは残ります。ここで効くのは、公式ドキュメントの記載を読み、どの条件でどう扱われるかを事務所として説明できるようにしておくことです。ベンダーの説明を鵜呑みにするのでもなく、漠然と避けるのでもなく、記載を読んで判断する。この姿勢が、依頼者への説明の説得力にもつながります。
今後の論点としては、名称やサービス構成の変更が続く可能性があります。Googleのサービスは統合と分離を繰り返す傾向があり、事務所の手順書がすぐに古くなります。年度ごと、あるいは半期ごとに公式ヘルプを読み直す時期を決めておくと、記載の変更を取りこぼしません。
事務所として今できるのは、フィードバックボタンの扱いとアカウント種別の確認という、すぐに決められる2点を先に片付けることです。この2点が決まっていれば、使い始めてから大きな事故になる余地は小さくなります。
よくある質問
NotebookLMとGemini Notebookは違うサービスですか
公式ヘルプではGemini Notebookという名称で説明されており、従来NotebookLMと呼ばれていたサービスにあたります。事務所の手順書に旧名称の記載がある場合は、更新の時期を決めておく形になります。
読み込ませた資料は学習に使われますか
公式ヘルプでは、コンテンツはユーザーがフィードバックを送信しない限りGoogleの基盤モデルのトレーニングに直接使用されないと説明されています。フィードバックを送信した場合の扱いは別に記載されているため、両方を読んだうえで運用を決める形になります。
高評価ボタンを押すと何が変わりますか
公式ヘルプによると、関連するコンテンツが収集され、特別なトレーニングを受けたチームがレビューし、最長3年間保存されると説明されています。業務利用中は押さないという運用を採る事務所があります。
Google Workspaceのアカウントなら安心ですか
公式ヘルプでは、Google WorkspaceまたはGoogle Workspace for Educationのユーザーについて、フィードバックを提供した場合でも人間のレビュアーによる確認は行われず、AIモデルのトレーニングにも使用されないと記載されています。ただし契約プランや管理者設定によって使える機能は変わるため、自事務所の契約内容の確認が前提になります。
顧問先に説明する必要がありますか
説明の要否を一律に決める規定は見当たりませんが、依頼者側に生成AI利用の社内規程がある場合は整合が論点になります。顧問契約の更新時に、使用しているサービスと管理方法を伝えておく運用が採られています。
通達や法令の読み込みに使えますか
公表されている資料を読み込ませる使い方は、守秘義務の観点では論点が小さくなります。ただし読み込んだ時点の版で固定されるため、いつの版かをノート名に残す運用が要ります。
顧問先ごとにノートを分ける必要がありますか
分けている事務所があります。ひとつのノートに複数の顧問先の資料を混ぜると、担当外の職員が関係のない資料まで検索できる状態になる点が論点になるためです。
参考文献
- Google Gemini Notebook のプライバシーと利用規約
- Google Workspace Gemini Notebook 製品ページ
- 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等
- e-Gov法令検索 弁護士法
- e-Gov法令検索 税理士法
- e-Gov法令検索 社会保険労務士法
- e-Gov法令検索 司法書士法
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/
本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。
記載内容に誤りを見つけられた場合は、お問い合わせよりご指摘ください。確認のうえ速やかに訂正し、訂正履歴を記事内に残します。編集方針の詳細は運営者情報をご覧ください。