OpenAIが2026年8月3日、Appleの営業秘密訴訟に公開反論しました。
OpenAIは2026年8月3日、Appleから提起された営業秘密の訴訟について、Apple is getting this wrong と題した文書を自社サイトで公開しました。注目すべきは反論の中身よりも、そこに添付された証拠の性質です。元従業員と現職従業員のiMessageのやり取りが日付と時刻つきで並び、退職後もアカウントとファイルにアクセスできる状態が続いていた経緯が読める形になっています。本記事は公表資料と報道をもとに事実関係を整理し、日本の士業事務所が自事務所の運用に照らして確認しておきたい論点を示すものです。特定の事案についての判断を示すものではありません。

何が起きたか:iMessageのやり取りが公開文書になった
OpenAIは公開文書で、Appleの訴訟を不注意で攻撃的、そして奇妙に個人的なものだと表現しました。この訴訟は、Appleがカリフォルニア州の連邦地方裁判所で、元Appleのエンジニアである Chang Liu が転職後にAppleの秘密情報へ不適切にアクセスしたと主張しているものです。The Decoder によれば、Appleは退職予告期間中の従業員にファイルや仕様書を持ち出すよう促していたとも訴えており、訴状では400人超の元Apple従業員がOpenAIに在籍しているとされています。
OpenAIが公開した メッセージ記録 は、この構図を裏返す内容でした。Liu のApple最終出社日は2026年1月22日ですが、その当日以降もApple側の従業員から技術的な質問や社内ファイルの所在確認が繰り返し届いています。2026年1月27日のやり取りでは、Apple側の従業員が「もちろん何人かに聞くこともできるけれど、あなたが一番詳しいから。もうここで働いていないとしても」と書き添えて技術的な見解を求めています。2月14日には回路図に関する照会が入り、3月5日には Liu が複数名のグループチャットに追加され、社内フォルダと担当者の連絡先を案内しました。この流れを終わらせたのは Liu 本人で、「これは極めて異例です。このスレッドから私を外してください」と書いています。
OpenAIはこの状態を「residual access」、つまり退職後もシステムへのアクセスが残る問題として説明し、退職時のアクセス権の管理が適切に行われていないことに原因があると主張しました。あわせて、Appleの社外代理人が2つのアジア系の姓を混同して別人にメールを送っていた点と、OpenAI法務責任者との電話協議があったという説明が事実と異なっていた点も、メール原文つきで公開しています。同社は2026年8月6日、却下申立て(Motion to Dismiss)のPDF も同じページから公開しました。
なお The Decoder は、公開されたチャットはAppleのアクセス管理に問題があったことを示すとしても、OpenAIが新規入社者に秘密情報の持ち込みを促したというAppleの中核的な主張そのものには答えていないと評価しています。この訴訟は米国の裁判所で審理されているもので、結論は出ていません。
士業事務所にとっての論点:退職者のアクセス権と記録の残り方
この一件から日本の士業事務所が読み取れる論点は、3つに整理できます。いずれも米国の裁判の勝敗とは関係なく、事務所の秘密管理の設計に直接かかわる部分です。
第一の論点は、退職者のアクセス権の棚卸しです。今回問題になった構造は、クラウドストレージやチャットツールを日常的に使う事務所にそのまま当てはまります。共有ドライブの権限、電子申請システムのID、会計ソフトや税務ソフトのアカウント、そして個人端末に残った同期フォルダ。退職手続きのうち、どのアカウントをいつ止めたかを台帳で残している事務所と、口頭確認で済ませている事務所では、後から検証できる材料が大きく変わります。個人情報を扱う場面では、個人情報の保護に関する法律第23条(安全管理措置)と同法第24条(従業者の監督)が関係する領域として、退職者を含む取扱者の範囲をどう管理するかが論点になります。
第二の論点は、チャットの一行が公開文書になるということです。今回公開されたのは訴訟資料ではなく、当事者が自社サイトに掲載した記録です。事務所内のチャットツールに書いた依頼者名や案件の断片、生成AIに投げた質問文とその履歴も、同じ性質の記録として残ります。守秘義務の観点では、どのツールに何が残るかを把握しているかどうかが分かれ目になります。生成AIサービスの場合、入力データが学習に使われるかはベンダーの設定と契約形態によって異なり、公表されているポリシーページで確認する以外に方法がありません。事務所として、どのアカウント種別を使っているかを記録しておく運用を採る事務所が増えています。
第三の論点は、善意の照会が穴になりうることです。公開されたメッセージで印象的なのは、Apple側の従業員に悪意が見えないことです。急ぎの案件で、その内容を一番知っているのは辞めた同僚だった、という現場の合理性がそのまま記録に残っています。日本では営業秘密について不正競争防止法第2条(定義)に定義が置かれ、秘密として管理されていることが要素として挙げられています。退職者への照会を止める仕組みが事務所側にあるか、そもそも照会が起きたことを把握できるかは、秘密管理の実態を説明する場面で論点になります。
今後の展望と初動:記録で説明できる状態をつくる
米国の訴訟としては、OpenAIの却下申立てに対する裁判所の判断と、Appleが求めた仮差止めの扱いが次の節目になります。日本の士業事務所にとっての実務的な動きとしては、以下のような確認が挙げられます。
退職・異動時のアカウント停止チェックリストを、クラウドサービス単位で棚卸ししている事務所があります。共有ドライブの外部共有リンクを定期的に洗い出し、期限切れ設定を入れている事務所もあります。生成AIツールについては、無料アカウントの個人利用と事務所契約のアカウントを明確に分け、どちらを使ったかがログで追える状態にする段階です。過去の退職者について、いつどのアカウントを停止したかの記録が残っているかを確認する作業も、あとから遡るには時間がかかるため早い段階で着手する事務所が出ています。
事務所内のアクセス権を職位や担当で切り分ける設計については、事務所のAI権限を階層別ルールで設計する記事と、AnthropicがSlack常駐AIの権限設計を公開した件を扱った記事でも整理しています。守秘義務との関係を先に押さえたい場合は、士業と生成AIの守秘義務を扱った記事が出発点になります。
まとめ
OpenAIは2026年8月3日、Appleの営業秘密訴訟に対する反論として、元従業員と現職従業員のiMessageのやり取りとメール原文を自社の公開文書として掲載しました。訴訟の結論は出ていませんが、退職後もアクセス権が残る構造と、チャットの一行が公開文書として読まれる現実は、日本の士業事務所の秘密管理にもそのまま重なります。アカウント停止の記録が残っているかを確認する段階です。
参考文献
- OpenAI Apple is getting this wrong(2026年8月3日、8月6日更新)
- The Decoder OpenAI fires back at Apple’s trade secret lawsuit with chat logs showing Apple employees kept texting their former colleague(2026年8月4日)
- TechCrunch The wildest allegations in Apple’s trade secrets lawsuit against OpenAI(2026年7月13日)
- e-Gov法令検索 不正競争防止法
- e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律
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引用元: The Decoder
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