AI議事録とは、面談の音声を文字にし、要点まで整理させる業務のことです。
面談の記録を残す作業は、士業の業務で最も後回しにされがちな部分です。記憶が新しいうちに書くのが理想でも、次の予定が詰まっていれば夕方まで手が付きません。この記事では、音声の文字起こしから議事録の整形までをAIに寄せる手順と、顧問先の会話を扱ううえでの守秘義務の論点を整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。音声データの取扱いについては個人情報保護委員会の注意喚起が判断の出発点になります。
議事録がAI活用の入口として選ばれる理由
導入の最初の一歩として議事録が選ばれるのには、はっきりした理由があります。出力の正しさを人間が判断しやすく、誤りがあっても元の音声に戻れるからです。
士業事務所の業務は、成果物の正しさに責任が伴うものが大半です。書面の作成をいきなりAIに任せると、事務所としての文章の品質基準をどう置くかという議論が先に来て止まります。議事録は違います。元になった会話が存在し、参加していた人が内容を知っているため、出力の検算が容易です。
もう一つ、効果が体感しやすいという利点があります。面談から議事録の完成までに要していた時間が、目に見えて短くなります。担当者が実感を持てると、次の業務への展開が進みます。逆に、最初に選んだ業務で効果が見えないと、事務所全体で導入の勢いが止まります。
作業の中身も分解しやすい形をしています。音声を文字にする工程、文字を要点に整理する工程、事務所の様式に整える工程の3つに分かれ、それぞれ別の道具を当てられます。全部を一つのサービスでやろうとすると選択肢が狭まりますが、分けて考えれば組み合わせが利きます。
ただし、扱うデータの性質は軽くありません。顧問先との面談の音声には、その事案のほぼすべてが入っています。書面より生々しい情報が含まれることも多く、扱いは慎重にします。業務全体の設計は士業のAI活用ガイドにまとめています。
文字起こしから議事録までの5ステップ
手順を具体的に書きます。
第1ステップは、録音の合意です。面談を録音することについて、相手に断りを入れます。ここを飛ばすと、後のすべてが成り立ちません。断り方は事務所ごとに型を決めておきます。記録の正確を期すために録音させていただく、という趣旨を最初に伝え、了解が得られた事実を記録に残します。
第2ステップは、文字起こしです。録音した音声を文字にします。この工程で確認するのは、どのサービスを使うか、音声データがどこに保存されるかの2点です。事務所が契約している法人向けのサービスに寄せるところは、他の業務と同じです。
第3ステップは、匿名化です。文字起こしの結果に、顧問先名、担当者名、取引先名、金額、住所が入ります。これらを記号に置き換えてから、次の整理の工程に渡します。置き換え表は案件ごとに手元に残しておき、最後に戻せるようにします。この工程を飛ばすと、面談の全内容がそのまま外部サービスに渡ることになります。
第4ステップは、要点の整理です。ここが生成AIの出番です。決まったこと、宿題になったこと、まだ結論が出ていない論点の3つに分けさせます。この分け方が士業の実務に合っているのは、次のアクションが宿題の欄にそのまま並ぶためです。
第5ステップは、有資格者の確認と整形です。整理された内容を読み、事実関係を確認し、事務所の様式に整えます。ここで見るのは、数値、固有名詞、期限の3点です。会話の中で出た数字や日付が正しく拾われているか、人の取り違えがないか、期限の認識が合っているか。この3点に絞ると、確認が形骸化しません。
5つの工程のうち、事務所として最初に型を決めるのは第1と第3です。録音の断り方と匿名化の作法が決まっていれば、残りは道具の使い方の問題に落ちます。逆にこの2つが決まっていないと、担当者が面談のたびに判断を迫られ、結局は従来のやり方に戻ります。
工程を分けておく利点は、道具を差し替えやすいことにもあります。文字起こしのサービスを変えても、匿名化の作法と要点整理の指示文はそのまま使えます。一つのサービスで全部をまかなう形にすると、乗り換えのたびに手順ごと作り直すことになります。事務所の資産として残るのは、道具ではなく手順のほうです。
第4ステップで使う指示文の例です。
あなたは士業事務所の事務スタッフです。以下の面談の文字起こしを読み、次の3つに分けて
整理してください。
1. 決まったこと
2. 宿題になったこと(担当と期限がわかる場合は併記)
3. まだ結論が出ていない論点
条件:
- 文字起こしに書かれていない事実を補わないこと
- 判断や評価、助言を書かないこと
- 発言者の表記は 甲、乙、当方 のまま扱うこと
- 数値・日付・金額は文字起こしのまま変更しないこと
- 各項目は1文で、箇条書きにすること
- 聞き取りが不明瞭で意味が取れない箇所は「聞き取り不明」と明記すること
文字起こし:
"""
(ここに貼り付け)
"""
宿題の抽出だけを別途行う場合の指示文です。次の予定を組むときに使います。
あなたは打合せ記録から作業項目を抜き出す役です。
以下の記録から、これから行う作業だけを列挙してください。
条件:
- 作業として明示されているものだけを拾い、推測で追加しないこと
- 担当が読み取れる場合は「当方」「先方」の別を添えること
- 期限が読み取れる場合はそのまま添え、読み取れない場合は「期限の記載なし」とすること
- 完了済みの事項は含めないこと
- 各項目は「動詞で終わる1文」にすること
記録:
"""
(ここに貼り付け)
"""
守秘義務の観点 音声データをどう扱うか
音声データは、文書より扱いが重くなります。理由は、含まれる情報の密度です。
面談の音声には、書面には残さない前置きや世間話、担当者の見立て、まだ確定していない条件が入っています。書面に整えた段階では落ちるはずの情報が、そのまま記録として残る点が特徴です。この性質を踏まえて、扱いを決めます。
決めるのは3点です。第1に、音声データをどこに保存し、いつ消すか。第2に、文字起こしのサービスに音声をそのまま渡すか、渡す前に区切るか。第3に、文字起こしの結果を要点整理に回す前に、どこまで匿名化するか。
第1の保存については、案件の終了後にどう扱うかを先に決めておきます。文字起こしが済めば音声そのものは残さない、という運用にしている事務所もあります。残すのであれば、事務所が管理する保存場所に置き、担当者の端末に散らばらないようにします。
第2については、事務所が契約している法人向けのサービスを使い、規約でデータの扱いを確認します。読む観点は他の業務と同じで、学習利用の有無、保持期間、処理される地域、管理者が利用状況を把握できるかの4点です。Anthropicはプライバシーポリシーを、GoogleはGemini APIの利用規約を、MicrosoftはMicrosoft 365 Copilotのプライバシーを公開しています。
第3の匿名化は、この業務で最も手を抜きやすい部分です。文字起こしの結果は長く、置き換え作業に手間がかかるためです。ただ、ここを飛ばすと、面談の全内容が識別可能な形で外部に渡ります。作業を軽くする工夫としては、面談中の呼称を最初から記号で統一しておく、という方法があります。
根拠になる規律は2層です。士業の側では、それぞれの資格法に秘密を守る義務の規定が置かれています。弁護士は弁護士法第23条、税理士は税理士法第38条、公認会計士は公認会計士法第27条、司法書士は司法書士法第24条、行政書士は行政書士法第12条、社会保険労務士は社会保険労務士法第21条、弁理士は弁理士法第30条です。個人情報の側では、安全管理措置が個人情報の保護に関する法律の個人情報保護法第23条に、第三者提供の制限が個人情報保護法第27条に置かれています。
これらの条文は録音や文字起こしを直接扱ったものではありません。したがって、条文から可否が一律に決まるわけではなく、事務所として説明できる運用を持っているかが実務の分かれ目になります。規程への落とし方は士業事務所のAI利用規程テンプレートで扱っています。
精度が出ない場面と、その対処
文字起こしの精度は、環境に大きく左右されます。うまくいかない場面には型があります。
1つ目は、複数人が同時に話す場面です。士業の面談では、顧問先の担当者が複数出席することがあります。発言が重なると、誰の発言か判別できなくなります。対処としては、録音機器を発言者の中心に置く、重要な確認事項は一人ずつ話す進行にする、といった運用側の工夫が効きます。
2つ目は、専門用語と固有名詞です。制度名、様式名、法人名は誤変換されやすい部分です。対処は、事務所でよく出る用語の一覧を作り、文字起こし後に置換をかけることです。手作業でも一度作れば使い回せます。
3つ目は、電話やオンライン会議の音声です。回線の状態によって、部分的に欠落します。欠落した箇所を推測で補われると、実際にはなかった発言が記録に残ることになります。指示文に、聞き取れない箇所は聞き取り不明と明記させる条件を入れておきます。
4つ目は、方言や早口です。地方の顧問先との面談では、無視できない要因になります。完全な精度を求めず、要点が拾えていれば足りる、という前提で使うほうが実務に合います。
5つ目は、録音時間が長い場合です。数時間に及ぶ面談を一度に処理させると、後半の扱いが雑になる傾向があります。対処は、面談の区切りごとに分割して処理することです。議題ごとに分けておくと、後で参照するときにも探しやすくなります。
いずれの場面でも、共通する対処は同じです。文字起こしの結果を正解として扱わず、有資格者が元の記憶と照合する工程を残すことです。この工程を省いた瞬間に、記録の信頼性が落ちます。
精度をどこまで求めるかという設計も、事務所として決めておく価値があります。逐語の完全な再現を目指すと、確認の手間が膨らみます。多くの事務所で実用になっているのは、要点が正しく拾えていればよいという水準です。逐語が要るのは、後で言った言わないの争いになり得る場面に限られます。そうした場面では、そもそも記録の残し方そのものを別に設計します。用途によって求める精度を変える、という考え方にしておくと、日々の作業が軽くなります。
実際に起きている失敗
1つ目は、録音の合意を取らずに録音した例です。後から相手に知られて、信頼関係を損ねます。断りを入れる型を事務所で決めておけば防げます。
2つ目は、文字起こしの結果をそのまま議事録として顧問先に送った例です。会話の言い淀みや脱線がそのまま残り、読みにくいだけでなく、確定していない条件が書面に残ります。整理と確認の工程を省かない、という一線を守ります。
3つ目は、匿名化を飛ばして外部サービスに投入した例です。作業の手間を惜しんだ結果ですが、面談の全内容が識別可能な形で渡ることになります。呼称を最初から記号で統一しておく運用が、この手間を軽くします。
4つ目は、音声データが担当者の端末に残り続けた例です。案件が終わっても消されず、端末の紛失や退職時に問題になります。保存場所と保存期間を先に決めておきます。
5つ目は、AIが推測で補った発言を、実際にあった発言として扱ってしまった例です。指示文に補完を禁じる条件を入れ、不明箇所は不明と書かせることで防げます。
費用と体制、導入の順番
費用は、文字起こしのサービスと生成AIのライセンス料が中心になります。文字起こしは時間あたりの従量制を採るサービスと、月額制のサービスがあり、事務所の面談量によって有利な形が変わります。金額は事業者と契約形態で変わるため、各社の料金ページで確認します。
工数は、初期の型づくりに集中します。参考値として、録音の断りの型づくりと保存場所の決定に半日、匿名化の作法と指示文の整備に1日ほど見ておくと、無理なく立ち上がります。運用に入ってからは、面談ごとの作業になります。
体制では、誰が確認するかを決めます。面談に出席していた人が確認するのが原則です。出席していない人が確認しても、記憶との照合ができません。担当者が一人で面談に出る事務所では、その人が確認まで持つ形になります。
導入の順番としては、所内の打合せから始める事務所が多く見られます。顧問先との面談ではなく、事務所内の会議で試すことで、匿名化の手間をかけずに精度と手順を確認できます。所内で型が固まってから、顧問先との面談に広げます。
補助金の活用を検討する場合は、IT導入補助金の公式サイトで対象ツールと申請要件を確認します。登録されたITツールが対象になるため、使いたいツールが登録されているかを先に調べる順番になります。
これから変わること
文字起こしの精度は上がり続けており、複数人の発言の分離も改善が進んでいます。運用側の工夫で補っていた部分が、道具の側で解決されていく方向にあります。
一方で、精度が上がるほど、記録として残る情報の密度も上がります。これまで書面に残らなかった発言が、そのまま検索可能な形で蓄積されていくことになります。事務所として、どこまでを記録に残すかという判断が新しい論点になります。
制度面では、個人情報保護法の見直しの議論が続いています。委員会の公表資料は個人情報保護委員会の報道発表で追えます。音声データの扱いに関する考え方が示されれば、事務所の運用も見直しの対象になります。
事務所内の記録を検索対象にする使い方が広がれば、過去の面談記録を横断して引けるようになります。担当者が変わっても同じ品質で答えられる利点がある一方で、誰がどの案件の記録にアクセスできるかという内部の権限設計が問われます。
よくある質問
録音の断りはどう入れればよいですか
事務所として型を決めておくと、担当者が迷いません。記録の正確を期すために録音させていただく、という趣旨を面談の冒頭で伝え、了解が得られた事実を記録に残す形が一般的です。相手が難色を示した場合は録音せず、従来どおり手書きのメモで対応します。
音声データの保存期間はどう決めますか
事務所として先に決めておく問題です。文字起こしが済めば音声は残さないという運用の事務所もあれば、案件終了まで保存する事務所もあります。共通しているのは、保存場所を事務所の管理下に置き、担当者の端末に散らばらせない点です。
匿名化はどこまで行いますか
顧問先名、担当者名、取引先名、住所、金額の置き換えが基本になります。加えて、業種と地域と規模の組み合わせのように、単独では識別できなくても組み合わせると特定できる情報も対象に含めておきます。面談中の呼称を最初から記号で統一しておくと、後の作業が軽くなります。
文字起こしの精度が低い場合はどうしますか
録音環境の見直しが最も効きます。機器の置き場所、発言が重ならない進行、専門用語の置換一覧の整備といった運用側の工夫で、かなりの部分が改善します。完全な精度を前提にせず、有資格者が記憶と照合する工程を残す設計にしておきます。
そのまま顧問先に送ってよいですか
整理と確認の工程を経てから送ります。文字起こしをそのまま送ると、言い淀みや脱線が残るだけでなく、確定していない条件が書面として残ることになります。数値、固有名詞、期限の3点を確認してから、事務所の様式に整えて送ります。
所内の会議から試す意味はありますか
あります。顧問先の情報を扱わないため、匿名化の手間をかけずに手順と精度を確認できます。所内で型が固まってから顧問先との面談に広げると、立ち上げが安定します。
参考文献
- 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等
- 個人情報保護委員会 法令・ガイドライン等
- e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律
- e-Gov法令検索 弁護士法
- e-Gov法令検索 司法書士法
- Anthropic プライバシーポリシー
- Microsoft 365 Copilot のプライバシー
- IT導入補助金
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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