情報源停止時の代替確認とは、商用データベースが使えない間に一次情報で裏づけを取る手順のことです。
普段使っている税務の専門誌やデータベースが、ある日突然開けなくなったら、事務所の調べものはどう回るでしょうか。2026年10月、税務研究会がPHPの脆弱性への対応に伴う予防的措置として、一部のホームページと税研ウェブサービスを停止しました。この記事では、公表されている経過を整理し、情報源が止まった日に、生成AIをどこまで使い、何を一次情報で確かめるかを7手順にまとめます。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。税務研究会の対応経過は、同社が公表しているお知らせの記載に基づきます(出典: 税務研究会 ZEIKEN PRESS)。
公表されている経過と、事務所側で読み取れる論点
税務研究会のお知らせによると、停止の理由は、PHPの脆弱性への対応に伴う安全確保のための予防的措置です。一部のホームページ(ZEIKEN PRESSを含む)と税研ウェブサービスが停止されました(出典: 税務研究会 お知らせ)。
経過は日付順に公表されています。2026年10月22日の15時30分にお問い合わせフォームが利用可能になり、17時頃にZEIKEN LINKSサイトが復旧しました。18時には、定期刊行誌の電子Book閲覧が臨時措置として提供され、19時には緊急システムメンテナンスのため、Webセミナー定額プランとWebセミナーの配信が停止されました。10月26日の16時30分時点では、税研ウェブサービスは今週中のサービス再開を目指して復旧作業中とされ、10月29日の17時に、一部のサービスが再開しました。10月30日の11時には、定期刊行誌・データベース、会員制度(一部商品を除く)、会場型・Live配信セミナーの申込受付が、臨時の申込ページで始まっています(出典: 税務研究会 お知らせ)。
臨時提供の内容も公表されています。定期刊行誌の電子Book閲覧は、税研ウェブサービスのログインサイトから可能で、対象は税務通信3920号、経営財務3772号、国際税務10月号、税務QA10月号とされています。書籍の購入は、Amazonと楽天ブックスで可能と案内されています(出典: 税務研究会 お知らせ)。
事務所側で読み取れる論点は3つあります。1つ目は、停止の期間が1日で終わらなかった点です。復旧は段階的に進み、再開した機能と準備中の機能が混在した期間がありました。2つ目は、再開の見通しが示されていない機能が残っていた点です。公表時点で、再開日時が記載なしの機能が複数ありました(出典: 税務研究会 お知らせ)。3つ目は、停止の影響が、専門誌の閲覧だけでなく、セミナー、申込、会員制度にも及んだ点です。
士業の情報源の停止は、民間の商用サービスに限った話ではありません。e-Taxの停止に伴う事務所の備えは、別の記事で整理しました(e-Tax停止と税理士事務所の備え)。本記事は、民間の商用情報源が止まる場合に絞ります。
情報源が止まった日の代替確認7手順
ここから実装です。情報源の停止に気づいてから、代替の確認を終えるまでを7手順にします。
第1手順は、停止の範囲の把握です。何が止まっているかを、提供元の公式なお知らせで確認します。今回のように、サービスごとに復旧の時期が異なる場合があるため、使っているサービス単位で状況を見ます。
第2手順は、調べものの棚卸しです。停止中に必要な調べものを書き出します。申告期限が近い案件、顧問先からの質問への回答、書面の根拠確認など、期日のあるものから順に並べます。
第3手順は、代替の確認先の選定です。商用の専門誌が止まっていても、一次情報は別の場所にあります。国税庁は、法令解釈通達の一覧ページで、所得税、相続税・贈与税、法人税、間接税などの基本通達や個別通達へのリンクをまとめています(出典: 国税庁 法令解釈通達)。また、質疑応答事例のページでは、国税当局が納税者からの照会に回答した事例のうち、他の納税者の参考になるものが掲載されています。ただし、掲載内容は照会事項と回答の要旨のみで、個別の取引には異なる課税関係が生じることがあると注意書きがあります(出典: 国税庁 質疑応答事例)。
第4手順は、条文の確認です。法令は、e-Gov法令検索で原文を確認できます。条番号の確認を、記憶や生成AIの出力に頼らず、原文を開いて行います。事務所内でよく使う法令は、検索の手間を省くため、ブックマークにまとめておく方法があります。
第5手順は、生成AIの使いどころの限定です。AIには、調べものの論点整理、確認すべき一次情報の候補の列挙、読み込ませた資料の要約までを任せます。条文や通達の内容そのものをAIに思い出させて答えさせることは避けます。AIが、存在しない条番号や通達番号を出力する危険があるためです。
第6手順は、有資格者による確認です。AIが挙げた候補を、国税庁やe-Govの原文で開いて確かめます。原文で確認できなかった項目は、結論に使わず、確認待ちとして記録します。
第7手順は、復旧後の見直しです。復旧後に、停止中に調べた内容を商用の情報源と突き合わせ、食い違いがないかを確かめます。停止中の対応で見つかった課題は、事務所の業務継続の手順に反映します。
以下は、第5手順で使える指示文の例です。
あなたは税理士事務所の補助者です。以下の調べものについて、論点の整理だけをしてください。
条文や通達の内容を、あなたの知識から答えないでください。
【調べもの】架空の顧問先A社の、ある費用の処理に関する論点
【依頼】
1. 確認すべき論点を3〜5個、箇条書きで挙げてください。
2. 各論点について、確認先として適切な一次情報の種類(法令、基本通達、質疑応答事例など)を挙げてください。
3. 条番号や通達番号は、確実でない限り書かず、「要確認」と記載してください。
4. 結論や当てはめは書かないでください。
以下の論点整理を点検してください。
- 条番号や通達番号が、根拠なく書かれていないか
- 結論や当てはめと読める記述が混じっていないか
疑いのある箇所だけを一覧にし、修正文は作らず指摘だけを返してください。
停止中にAIへ資料を入れるときの守秘義務・規程上の論点
情報源が止まると、手元にある資料をAIに読ませて調べものを進めたくなる場面が出ます。この局面は、守秘義務の観点で緩みが生じやすい場面です。
税理士法第38条は、税理士は正当な理由がなくて税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、又は窃用してはならないと定めています。税理士でなくなった後も同様です(出典: 税理士法第38条)。公認会計士については、公認会計士法第27条が、正当な理由がなく、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならないと定めています(出典: 公認会計士法第27条)。急ぎの調べもののために顧問先の情報をAIに入力する行為が、これらの条文でどう整理されるかは、サービスの契約条件や設定に左右されます。本記事では判断せず、事務所で確認する論点として挙げます。
運用の工夫として、停止中も入力の原則を変えない方法があります。調べものの論点整理には、顧問先名や金額を含めず、架空の事例に置き換えて入力します。個人情報保護法第27条は、個人情報取扱事業者が原則としてあらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはならないと定めています(出典: 個人情報保護法第27条)。顧問先の個人データを入力しない運用であれば、この論点に立ち入る場面を減らせます。
職員への周知として、税理士法第41条の2は、税理士が税理士業務のために使用人その他の従業者を使用するときの監督義務を定めています(出典: 税理士法第41条の2)。停止中の対応手順(代替の確認先、AIへの入力の原則、確認者)を、あらかじめ文書にしておくと、現場の判断がぶれにくくなります。
事務所規程に落とす場合は、情報源が停止した場合の連絡経路、代替の確認先の一覧、AIに入力してよい情報の範囲、復旧後の見直しの担当の4点が、運用例として考えられます。規程の文言そのものは、各事務所の体制に応じて検討する領域です。生成AIの障害時の備えは、別の記事で整理しています(士業事務所のBCPと生成AI障害時の代替手段)。
平時にできる棚卸しと、情報源ごとの依存度の見積もり
停止が起きてから慌てないために、平時にできる準備があります。ここでは、棚卸しの進め方を運用例として示します。
最初に、事務所が日常的に使っている情報源を一覧にします。商用の専門誌、データベース、会員制のサービス、セミナーの配信、公的機関のサイトなどを、種類ごとに分けて書き出します。次に、それぞれについて、調べものの何割ほどをその情報源に頼っているかを、担当者の感覚で構いませんので、大きく、中くらい、小さいの三段階で記録します。数値で測る必要はありません。
続いて、依存度が大きい情報源について、停止した場合に一次情報で代替できる範囲を確かめます。税法の条文であれば、e-Gov法令検索が代替の確認先になります。通達であれば国税庁の法令解釈通達のページ、個別の照会事例であれば質疑応答事例のページが候補です(出典: 国税庁 法令解釈通達)。一方で、実務上の解説や論点の整理といった商用の情報源が持つ価値は、一次情報では代替しにくい部分です。この部分は、停止中は確認待ちにする、あるいは複数の資料を突き合わせるといった対応を、あらかじめ決めておきます。
さらに、生成AIに任せる範囲と任せない範囲を、情報源の停止時用に決めておきます。論点の整理と確認先の列挙は任せる範囲、条文や通達の内容そのものの再現は任せない範囲、という線引きが運用例です。この線引きを、事務所の手引きに一ページで書いておくと、停止時の判断が揃います。
棚卸しの結果は、年に一度見直します。契約している情報源が増えたとき、担当者が替わったとき、提供元から案内が出たときが、見直しのきっかけになります。
情報源停止時に起こりがちな失敗と回避策
失敗例を3つ挙げます。いずれも想定される運用上の落とし穴です。
1つ目は、停止中にAIの記憶で通達の内容を答えさせてしまう失敗です。AIは、もっともらしい通達番号や趣旨を出力することがあります。専門誌が使えない焦りの中で、その出力を書面に載せかけるおそれがあります。回避策は、AIに通達の内容を答えさせない指示文を使うことと、一次情報を開いて確認する工程を手順に入れることです。
2つ目は、復旧後の突き合わせを省く失敗です。停止中に調べた内容は、暫定的な根拠で書かれています。復旧後に商用の情報源と照合しなければ、細部の食い違いに気づけません。回避策は、停止中に使った根拠を記録に残し、復旧後に確認する担当を決めておくことです。
3つ目は、停止の範囲を取り違える失敗です。今回のように、サービスごとに復旧の時期が異なると、使えるはずの機能が使えなかったり、その逆になったりします。提供元のお知らせの更新を確認せず、思い込みで動くと、調べものが止まります。回避策は、状況の確認先を決めておき、更新を担当者が追うことです(出典: 税務研究会 お知らせ)。
費用・工数・体制
代替の確認に使う国税庁やe-Govの情報は、無料で閲覧できる公的な情報源です。生成AIを使う場合の費用は、既に契約している法人向けプランがあれば追加の負担は小さくなります。具体的な製品名や価格は、各社の公式の料金表で確認します。
工数の面では、平時の準備が効きます。代替の確認先の一覧、よく使う法令のブックマーク、AIへの指示文のひな形は、停止が起きてから作ると時間がかかります。平時に整備しておき、年に一度見直す運用が考えられます。
体制は、情報源の状況を確認する担当、調べものの優先順位を決める担当、原文で確定する有資格者の三者に分ける形が運用例です。少人数の事務所では、担当者が兼ねる場合でも、確認の順番を文書にしておくと運用が安定します。
商用の情報源の契約形態によっては、停止期間中の扱い(申込期限の延長など)が案内されることがあります。今回の税務研究会のお知らせでも、一部の優待プランの申込期限を延長し、サービス復旧後に受け付ける旨が案内されています(出典: 税務研究会 お知らせ)。契約している情報源の案内は、事務所の担当者が確認します。
今後の展望と考察
論点は3つあります。
1つ目は、商用情報源への依存度の見える化です。事務所の調べものが、どの情報源にどの程度頼っているかを、一度棚卸ししておくと、停止時の影響を見積もれます。一次情報で代替できる範囲と、商用の解説に頼らざるを得ない範囲を分けておくと、備えが具体的になります。
2つ目は、生成AIの位置づけです。情報源が止まった局面でAIが役立つのは、論点整理や確認先の列挙など、判断の前段の作業です。条文や通達の内容を思い出させる使い方は、停止中ほど避けたい使い方になります。
3つ目は、提供元の情報の追い方です。復旧の経過は、段階的に更新される形で公表されました。更新のたびに、事務所内で共有する担当を決めておけば、現場の混乱を抑えられます。
よくある質問
商用の専門誌が使えない間、何を根拠に調べればよいですか
国税庁の法令解釈通達や質疑応答事例、e-Gov法令検索の原文が、一次情報の確認先になります(出典: 国税庁 法令解釈通達)。質疑応答事例は、個別の取引には異なる課税関係が生じることがあると注意書きがあります(出典: 国税庁 質疑応答事例)。
生成AIに通達の内容を答えさせてもよいですか
答えさせる使い方は避ける運用が考えられます。AIは、存在しない番号や趣旨を出力することがあるためです。論点の整理や確認先の列挙に使い、内容は原文で確認します。
税務研究会のサービスは、現在どこまで復旧していますか
提供元のお知らせでは、10月29日に税研ウェブサービスの一部が再開し、10月30日に一部の申込受付が臨時の申込ページで始まったと公表されています(出典: 税務研究会 お知らせ)。最新の状況は、提供元のお知らせを直接ご確認ください。
停止中に調べた内容は、そのまま顧問先に伝えてよいですか
暫定的な根拠である旨を記録に残し、復旧後に商用の情報源と照合する運用が考えられます。顧問先への回答の最終確認は、有資格者が行います。
AIに顧問先の情報を入力するときの注意点は何ですか
守秘義務と個人情報の論点があります。税理士法第38条や個人情報保護法第27条の論点が関わり、サービスの契約条件や設定に左右されます(出典: 税理士法第38条)。架空の事例に置き換えて入力する運用が考えられます。
停止への備えは、何から始めればよいですか
調べものの棚卸しと、代替の確認先の一覧づくりから始める方法があります。よく使う法令のブックマークと、AIへの指示文のひな形も、平時に整えておくと役立ちます。
参考文献
- 税務研究会 ZEIKEN PRESS お知らせ(システムメンテナンスに伴うサービス停止について)
- 国税庁 法令解釈通達
- 国税庁 質疑応答事例
- e-Gov法令検索 税理士法
- e-Gov法令検索 公認会計士法
- e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
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