士業のChatGPT活用とは、下書きと整理をAIに寄せ、判断を有資格者に残す使い方のことです。
ChatGPTを開いてはみたものの、事務所の業務で何に使えばよいか決めきれないまま止まっている。この状態から抜けるいちばん早い方法は、使いどころを業務の型で決めてしまうことです。この記事では、士業事務所でChatGPTが効く6つの型と、それぞれの指示文の書き方、そして入力ルールの決め方を順に整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。生成AIサービスへの入力については個人情報保護委員会の注意喚起が実務の出発点になります。
使い始める前に事務所として決める2つのこと
先に結論を書きます。決めるのは、どのアカウントで使うかと、何を入力しないかの2つです。この2つが決まっていれば、あとは試しながら育てられます。
アカウントの種類から見ていきます。生成AIサービスの多くは、個人向けの無償版、個人向けの有償版、法人向けプランで、入力データの取扱いや管理機能が分かれています。事務所として使うなら法人向けプランに寄せる、という選び方が主流になりつつあります。理由は情報の取扱いだけではありません。誰がアカウントを持っているかを事務所側で把握でき、退職時に停止できる状態を作れることが大きいためです。ChatGPTの場合、データの取扱いに関する設定はサービス内の設定画面から確認でき、契約プランによって選べる項目が変わります。加入前に、事務所が契約しようとしているプランの規約に何が書かれているかを読んでおきます。
他社のサービスでは、公式ドキュメントが公開されています。Anthropicはプライバシーポリシーと商用利用規約を、GoogleはGemini APIの利用規約を、MicrosoftはMicrosoft 365 Copilotのプライバシーを公開しています。読む観点は共通で、入力が学習に使われるか、保持期間はどれくらいか、処理される場所はどこか、の3点です。
2つ目の、何を入力しないかについては、区分を先に作ります。公表資料や汎用の文例はそのまま入力してよいもの。顧問先の事案に関する記述は、識別できる情報を落としてから入力するもの。マイナンバー、口座番号、健康情報などは入力しないもの。この3段階に分けるだけで、担当者の迷いはほとんど消えます。守秘義務との関係は士業の生成AIと守秘義務で詳しく扱っています。
逆に、使い始める前に決めなくてよいこともあります。どのモデルを使うか、有償版にいくら払うか、事務所全体に広げるかどうか。これらは使ってみてから決めたほうが精度の高い判断ができます。最初から完璧な設計を作ろうとして半年止まっている事務所より、入力ルールだけ決めて一業務から始めた事務所のほうが、結果として早く形になっています。
士業事務所でChatGPTが効く6つの型
型ごとに、何を入力して何が返るかを書きます。順番は、効果が出やすい順です。
第1の型は、長文の要約です。打合せのメモ、顧問先から届いた資料、行政の公表資料を読み込ませて、決まったことと宿題に分けて整理させます。誤りが混ざっても原文に戻れるため、リスクが低く、最初の一歩に向いています。実際の使い方としては、面談中に取ったメモをそのまま貼り付け、返ってきた整理を叩き台にして議事メモを仕上げる流れが定着しやすい形です。メモの取り方が雑でも成立するので、面談中に記録を取ることへの負担が減るという副次的な効果もあります。
第2の型は、抽出と分類です。契約書から特定の条項を抜き出す、就業規則から該当箇所を拾う、証憑を科目ごとに仕分ける候補を出させる。探して並べる作業は人間がやると時間だけが溶けるため、投資対効果がはっきり見えます。抽出の型では、何を抜き出すかを先に列挙しておくと精度が安定します。抜き出す対象を曖昧にしたまま投げると、返ってくる内容が毎回変わり、比較ができなくなります。
第3の型は、下書きの生成です。通知文、案内文、届出の添え状、顧問先向けの説明メール。様式が決まっているものほど効きます。最終的な文言は有資格者が確定させる前提で使います。この型では、事務所で使っている既存の文例を一緒に渡すと出力が安定します。ゼロから書かせるより、既存の型に沿って書き換えさせるほうが、手直しの量が減ります。
第4の型は、言い換えです。専門用語で書かれた説明を顧問先向けに直す、逆に顧問先の口頭説明を業務用の記述に整える。士業の仕事の相当部分は翻訳作業なので、ここは使用頻度が高くなります。言い換えの型で気をつけるのは、平易にする過程で意味が変わってしまう場面です。数値と日付は変更させない、元の文にない断定を足させない、という条件を指示文に固定しておきます。
第5の型は、自己点検です。作成済みの書面を読ませ、数値の食い違いや参照先の不整合を指摘させます。正解を出させるのではなく、疑わしい箇所を挙げさせて有資格者が確認する使い方です。人間の目は、自分が書いた文章の誤りを飛ばして読みます。他人の目の代わりとして使う、と考えると位置づけがはっきりします。指摘の中には的外れなものも混ざりますが、確認する箇所を絞り込む役には十分立ちます。
第6の型は、想定問答づくりです。顧問先との面談前、あるいは調査や照会への対応前に、聞かれそうなことを列挙させます。準備の抜けを減らす用途で、経験の浅い担当者ほど効果を感じます。ベテランが頭の中で無意識にやっていることを、明示的な作業に落とせるという意味で、事務所内の力量差を埋める効果もあります。回答を書かせるのではなく質問だけを出させる点が、この型の勘所です。
6つの型のうち、どこから始めるかで迷ったら、第1と第2から入るのが無難です。出力の正しさを人間が判断しやすく、誤っていても原文に戻れば済むためです。第3の下書きから始めると、事務所としての文章の品質基準をどう置くかという議論が先に来て、そこで止まる事務所が少なくありません。
指示文の例を3つ挙げます。いずれも固有名詞は架空の表記に置き換えて使います。
要約の型で使うものです。
あなたは士業事務所の事務スタッフです。以下の打合せメモを読み、次の3つに分けて整理してください。
1. 決まったこと
2. 宿題になったこと(担当と期限がわかる場合は併記)
3. まだ結論が出ていない論点
条件:
- メモに書かれていない事実を補わないこと
- 判断や評価を書かず、書かれた内容だけを並べること
- 固有名詞は A社、甲、乙 のまま扱うこと
- 各項目は1文で、箇条書きにすること
打合せメモ:
"""
(ここに貼り付け)
"""
言い換えの型で使うものです。
あなたは専門的な文章を平易に書き直す編集者です。
以下の説明文を、専門用語に慣れていない読み手に向けて書き直してください。
条件:
- ですます調にすること
- 一文を60字以内に収めること
- 専門用語を残す場合は、初出時に短い補足を括弧で添えること
- 元の文にない断定や助言を足さないこと
- 数値と日付は元の文のまま変更しないこと
元の説明文:
"""
(ここに貼り付け)
"""
想定問答の型で使うものです。
あなたは面談の準備を手伝う役です。
以下の状況設定をもとに、相手から出そうな質問を列挙してください。
条件:
- 質問だけを出力し、回答は書かないこと
- 質問は具体的な場面が浮かぶ粒度にすること
- 想定される反論や、答えにくい質問も含めること
- 15件以内で、優先度の高い順に並べること
状況設定:
"""
(ここに貼り付け)
"""
3つに共通しているのは、AIに結論を出させていない点です。整理、書き換え、列挙までを任せ、正しいかどうかの判断は有資格者が行います。作業フローの中に確認工程を明示的に置いておくと、担当者が変わっても運用が崩れません。
指示文は事務所の資産になります。うまくいったものをテキストファイルに貯めておき、月に一度、所内で持ち寄って型を更新する。この回し方にしておくと、担当者の力量に関係なく出力の水準が保たれます。業務の型ごとの整理は士業のAI活用ガイドにまとめています。
事務所に広げるときの手順
一人で使えるようになった段階と、事務所として運用に乗せる段階では、やることが違います。広げる手順を書いておきます。
- 対象業務を一つ決めます。第1の型か第2の型から選び、担当者が複数いる業務にします。一人しか触らない業務で試すと、うまくいっても広がりません。
- 指示文を事務所の型として固定します。担当者が自由に書いていると、出力の水準が人によって変わります。まず一つの型を全員で使い、不足が見えたら足します。
- 確認工程を作業フローに書き込みます。誰がどの段階で出力を見るか、誰の名前で外に出すか。この一行が抜けると、責任の所在が消えます。
- 二週間から一か月ほど回して、振り返ります。良くなった点と、手間が増えた点の両方を挙げます。手間が増えた部分こそ、次の改善の材料になります。
- 効果が確認できたら、次の業務に広げます。同時に複数を動かすと、どれが効いたのか分からなくなります。
- 使わないと決めた業務は、理由を書いて記録に残します。あとから同じ議論を繰り返さずに済みます。
この手順で回している事務所に共通しているのは、決める人が一人に定まっていることです。全員の合意を取ってから進めようとすると、決まらないまま時間だけが過ぎます。所長が方針を決め、実務の担当者が回す、という役割分担が現実的です。
守秘義務と入力設定 規程に書いておくこと
先に結論を書きます。規程に書くのは、使ってよいサービス、入力しない情報、出力の確認者、記録の残し方の4項目です。
使ってよいサービスの指定では、事務所が契約した法人向けプランに一本化する例が増えています。無償版の利用を残すと、誰が何を入力したかを事務所として把握できない状態が続くためです。指定の書き方は、サービス名を規程本体に書き込まず、所内の一覧で管理する構成にしておくと、サービスが入れ替わっても規程を直さずに済みます。
入力しない情報の列挙は、具体的に書きます。個人名、法人名、住所、電話番号、口座番号、マイナンバー、健康情報。加えて、業種と地域と規模の組み合わせのように、単独では識別できなくても組み合わせると特定できる情報も対象に入れておきます。匿名化の作法まで書いておくと、担当者ごとのばらつきが減ります。
根拠になる規律は2層あります。個人情報の側では、安全管理措置が個人情報の保護に関する法律の個人情報保護法第23条に、第三者提供の制限が個人情報保護法第27条に置かれています。士業の側では、それぞれの資格法に秘密を守る義務の規定があります。税理士は税理士法第38条、弁護士は弁護士法第23条、社会保険労務士は社会保険労務士法第21条、司法書士は司法書士法第24条がそれぞれ規定を置いています。これらはAI利用を直接扱った規定ではないため、条文から可否が一律に決まるわけではありません。事務所として説明できる運用を持っているかが実務の分かれ目になります。
出力の確認者については、誰がどの段階で見るかを作業フローに書き込みます。ChatGPTの出力をそのまま外部に出さない、という一行を規程に入れておくだけでも、事故の多くは止まります。確認の観点を、数値、固有名詞、参照先の3点に絞っておくと、扱う量が増えても運用が保ちます。
記録の残し方は、案件記録に一行足すだけで足ります。どの案件で使ったかが分かれば、顧問先から質問されたときに事実として答えられます。記録がなければ、何が起きたかを事後に特定することもできません。凝った管理表を作ろうとすると続かないので、既存の案件管理の欄に一項目足す形が実務では長持ちします。
規程を書くときに迷いやすいのが、細かさの加減です。書き込むほど守られるように思えますが、実際には逆で、分量が増えるほど読まれなくなります。A4で1枚から2枚に収め、細部は別紙の手順書に逃がす構成が扱いやすくなります。手順書のほうは、匿名化の作法や指示文の型のように、更新頻度が高い内容を置きます。規程本体は年に一度の見直し、手順書は随時更新、という運用の切り分けにしておくと、改定の手間が現実的な水準に収まります。
なお、事務所の情報管理全般の考え方については、情報処理推進機構の情報セキュリティ関連ガイドラインが参考になります。生成AIに特化した資料ではありませんが、アカウント管理とログの確保という基本の押さえ方は、そのまま事務所の運用に使えます。
使い始めた事務所でよくある失敗
1つ目は、ChatGPTに正解を求めてしまう失敗です。条番号や判例、通達の内容を聞き、返ってきた答えをそのまま使う。生成AIは実在しない条番号を、実在するものと同じ文体で出力します。回避策は、条文はe-Gov法令検索の原文で開いて確認する工程を固定することです。確認できなかったものは書かない、という一線を引きます。
2つ目は、長すぎる指示文を作り込んでしまう失敗です。条件を足すほど精度が上がると考えて、指示文が膨らんでいきます。実際には、条件が矛盾して出力が不安定になる場面が増えます。回避策は、条件を5行から10行程度に抑え、うまくいかない部分だけを足していくことです。
3つ目は、担当者ごとに別のサービスを使い始める野良化です。事務所として把握できない利用が広がると、退職時の停止もできません。回避策は法人契約への一本化ですが、禁止だけを掲げると隠れて使われます。代わりに使える環境を先に用意します。
4つ目は、成果の測り方を決めずに導入した失敗です。何が良くなったか誰も説明できず、更新時期に契約を切って終わります。対象業務を決めた時点で、何を見て判断するかを一行書いておくだけで防げます。
5つ目は、ChatGPTに任せた作業の確認に、かえって時間がかかってしまう失敗です。出力が一見それらしいので、どこを見ればよいか分からず、結局は全文を読み直すことになる。これは指示文の設計が原因であることが多く、AIに結論を書かせている場合に起きます。整理や列挙までを任せ、判断を残す形に戻すと、確認すべき箇所がはっきりします。
6つ目は、事務所の外に出す文書を、AIの文体のまま出してしまう失敗です。生成AIの出力には特有の言い回しがあり、読み手には意外と伝わります。顧問先に送る文書は、事務所の文体に整えてから出す。この一手間を作業フローに残しておくと、品質の印象が変わります。
費用と体制の考え方
費用は、法人向けプランのライセンス料が中心です。一アカウントあたり月額数千円の水準が目安になりますが、事業者と契約形態で変わるため、各社の料金ページで確認します。全員に配るか、まず数名で試すかは、事務所の規模と業務量で判断します。試す段階では、対象を絞ったほうが振り返りがしやすくなります。
体制で決めるのは、運用を持つ人です。ツールに詳しい人よりも、業務の流れを知っている人が向きます。止める判断を正しく下せるかどうかが分かれ目になるためです。決めたら、月に一度は所内で使い方を共有する場を作ります。共有の場がないと、うまくいった型が個人の中に閉じたままになります。
導入時の費用を補助金でまかなうことを検討する場合は、IT導入補助金の公式サイトで対象ツールと申請要件を確認します。登録されたITツールが対象になるため、使いたいツールが登録されているかを先に調べる順番になります。中小企業向けの支援制度全般は中小機構の情報にまとまっています。
これから論点になること
事務所の内部データを検索対象にする使い方が広がることが見込まれます。過去の書面や手控えを引ける状態にすると、担当者が変わっても同じ品質で答えられるようになります。一方で、誰がどの案件の情報にアクセスできるかという内部の権限設計が新しい論点として立ち上がります。
制度面では、個人情報保護法の見直しの議論が続いています。委員会の公表資料は個人情報保護委員会の報道発表で確認できます。規定が変われば、事務所の入力ルールも見直しの対象になります。
そしてもう一つ、顧問先からの問い合わせが増えることが論点になります。どのサービスをどう使っているかを聞かれる場面が出てくるため、答えられる状態を先に作っておくと、説明が信頼の材料に変わります。使うかどうかの議論はすでに終わり、どう使ったかを説明できるかに軸が移りました。
よくある質問
無償版のChatGPTを事務所で使ってよいですか
事務所として決める問題です。無償版と法人向けプランでは、入力データの取扱いや管理機能が異なります。事務所での利用は法人向けプランに寄せる例が主流になっています。理由は情報の取扱いだけでなく、誰がアカウントを持っているかを把握できる点にもあります。
ChatGPTが出した条文をそのまま使ってよいですか
使わない前提で運用します。生成AIは実在しない条番号を、実在するものと同じ文体で出力します。条文はe-Gov法令検索の原文を開いて確認し、確認できなかったものは書かないという工程を作業フローに入れます。
顧問先の資料をそのまま貼り付けてよいですか
事務所の入力ルールで決めておく問題です。実務では、個人名や法人名などの識別できる情報を落としてから入力する運用が多く見られます。個別の事案で入力が許されるかどうかは、扱うデータの性質と契約内容によって整理が変わるため、有資格者の判断が要る領域です。
指示文はどれくらい作り込めばよいですか
短いところから始めて、うまくいかない部分だけを足していくやり方が続きます。条件を増やすほど精度が上がるとは限らず、矛盾する条件で出力が不安定になる場面が出てきます。5行から10行程度に抑え、事務所で共有しながら育てる形が現実的です。
ChatGPTと他のサービスはどう使い分けますか
用途で分ける事務所が増えています。長い文書の読み込みが多い業務、社内の資料と組み合わせる業務、検索と組み合わせる業務では、向き不向きが分かれます。まず一つのサービスで型を作り、足りない部分が見えてから二つ目を検討する順番が、無駄が少なくなります。
導入の効果はどう測ればよいですか
対象業務を決めた時点で、見る指標を一行書いておきます。作業にかかる時間でも、差し戻しの回数でも、担当者の実感でも構いません。基準を先に決めておくと、続けるか止めるかの判断が具体的になります。
参考文献
- 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等
- 個人情報保護委員会 法令・ガイドライン等
- e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律
- e-Gov法令検索 税理士法
- Anthropic プライバシーポリシー
- Google Gemini API 利用規約
- Microsoft 365 Copilot のプライバシー
- IT導入補助金
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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本記事の作成体制について
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