生成AIの免責表示とは、出力の正確性を保証しない旨を示す記載のことです。
事務所サイトに生成AIの出力は正確性を保証しないという一行を足せば足りるのか、それとも書き方次第で顧問先への説明として機能が変わるのか。この問いに事務所として答えを持っていますか。この記事では、税理士・公認会計士・弁護士の事務所を想定し、公開済みの他法人ガイドラインの記載を材料に、生成AIの利用方針と免責文をサイトに載せるときの7つの確認項目を整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、他法人の方針は当該法人の公開ページで確認しています(確認日は2026年10月3日)。なお、文例は運用上の一例であり、特定の文言を推奨するものではありません。
公開されている生成AIガイドラインに何が書かれているか
最初に、実在する公開文書の記載を事実として確認します。辻・本郷税理士法人は、2025年9月1日付で生成AI利活用ガイドラインを自社サイトで公開しています(出典:辻・本郷税理士法人 生成AI利活用ガイドライン、2026年10月3日確認)。同ページには、「生成AIが生成する情報は、内容の正確性、完全性を保証するものではありません。」という記載があります(出典:同ページ)。あわせて、税務・会計に関する情報については、有資格者が最新の法令や事務所の経験と照らして確認する趣旨の記載があり、顧客の機密情報の管理方法として、暗号化や匿名化、学習への利用の除外といった措置にも触れています(出典:同ページ)。
ここで押さえたいのは、免責の一文が単独で置かれているのではなく、有資格者による確認と情報管理の説明と組になっている点です。免責だけを切り出してサイトに載せると、読者には責任を逃れる文言として映りかねません。一方、確認工程と情報管理を併記すると、事務所がAIをどう使うかの説明として読まれます。この構造の違いが、サイト掲載の設計を考える出発点になります。
なお、同ページが利用しているAIサービスの名称を特定していない点も、設計上の参考になります。サービス名を載せるか伏せるかは、事務所ごとに判断が分かれる論点です(出典:同ページの記載内容を編集部が確認)。
免責文だけでは足りない理由 士業の読者が見る3つの視点
顧問先や見込み客がサイトを読むとき、見ているのは大きく三つです。一つ目は、事務所がAIを使っているのかどうか。二つ目は、自分の情報がAIに入力されるのかどうか。三つ目は、最終的な判断を誰が行うのかです。免責文はこのうち三つ目の一部にしか答えていません。
ここで、士業の守秘義務の条文を確認しておきます。税理士法第38条は、税理士は正当な理由がなくて税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、又は窃用してはならない旨を定めています(出典:e-Gov法令検索 税理士法)。公認会計士法第27条は、公認会計士は正当な理由がなく、その業務上取り扱つたことについて知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならない旨を定めています(出典:e-Gov法令検索 公認会計士法)。弁護士法第23条は、弁護士又は弁護士であつた者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う旨を定めています(出典:e-Gov法令検索 弁護士法)。
これらは条文の紹介にとどめます。生成AIへの入力がこれらの条文との関係でどう評価されるかは、個別の事案と各職能団体の見解を踏まえて、有資格者自身が判断する領域です。サイトに載せる文面は、その判断を事務所が行ったうえでの運用方針を、読者に分かる言葉で示すものになります。
事務所サイトに載せる文面を決める7項目
ここから先は、編集部が整理した運用上の項目であり、いずれかの団体の推奨ではありません。
項目一は、利用の有無と範囲の明示です。業務で生成AIを使う場面があるとと書くのか、使う場面を限定しているとと書くのかで、読者の受け取り方が変わります。使わない業務を明記する運用も考えられます。
項目二は、有資格者が確認する工程の明示です。辻・本郷税理士法人の公開ページが、有資格者による確認に触れているように、AIの出力がそのまま顧客に渡らない構図を示す書き方があります(出典:辻・本郷税理士法人 生成AI利活用ガイドライン)。
項目三は、正確性や完全性に関する免責の位置づけです。免責文は、確認工程の説明の後ろに置くのか、冒頭に置くのかで、読後の印象が変わります。単独で太字にして目立たせるより、方針の一部として並べる運用が多いと考えられます。
項目四は、情報の取り扱いです。顧客情報を入力するのか、匿名化するのか、学習に使われない設定や法人向けプランを使うのかを、事務所の実態に合わせて書きます。実態と違う記載は、掲載しない運用が安全側です。
項目五は、顧客が選べる余地です。AIの利用を望まない顧客への対応を、サイト上でどう示すかは、顧問契約書との整合も含めた論点です。顧問契約書側の設計は、AIの税務誤答に税理士はどう備えるか 顧問契約書の免責条項を設計する7手順で整理しています。
項目六は、更新の仕組みです。辻・本郷税理士法人は、AIの進歩や状況の変化に応じて、ガイドラインを定期的に見直す旨を記載しています(出典:辻・本郷税理士法人 生成AI利活用ガイドライン)。サイトに載せた文面が古くなると、実態との乖離が生じます。更新日と更新担当を決めておく運用が考えられます。
項目七は、問い合わせ窓口です。読者が懸念を持ったときの連絡先を、方針の末尾に置きます。
顧問先との説明に落とすための実装手順
文面を作る作業そのものに、生成AIを使うことができます。ただし、公表する文書は事務所の意思表示ですから、AIの出力は叩き台にとどめ、最終版は所長と有資格者が確定する構図にします。手順を、入力と出力を明示して示します。
手順一。事務所の実態を棚卸しします。入力は、使っているAIツール名、使う業務、入力する情報の種類、法人プランか個人プランかの別です。出力は、自所の実態を一枚にまとめた台帳になります。ここでツール選定の議論に入らず、現状の記録に徹します。
手順二。方針の骨子を作ります。入力は台帳と、上記7項目です。出力は、各項目に一〜二文を当てた骨子案です。AIに骨子案を作らせる際のプロンプト例を次に示します。
あなたは士業事務所の広報担当の補助です。以下の事務所の実態メモをもとに、
「生成AI利用方針」の骨子案を作ってください。
条件:
- 項目は「利用範囲」「有資格者による確認」「情報の取り扱い」「正確性に関する注記」「更新と問い合わせ」の5つ
- 各項目は2文以内
- 法令の解釈や、特定の結果の保証を書かない
- 事務所の実態メモに書かれていないことは書かず、不足は「要確認」と書く
事務所の実態メモ: (ここに、架空のA事務所の例などを入力)
手順三。有資格者が骨子を確認します。入力は骨子案です。確認の観点は、事務所の実態と一致しているか、守秘義務に関する説明が実態より強い表現になっていないかです。出力は、修正済みの骨子と、修正理由のメモです。この工程は、AIに任せません。
手順四。文面を整えます。ここで再度AIを使い、読みやすさを整えさせます。次のプロンプト例が使えます。
以下の文面を、顧問先の経営者が読む前提で、専門用語を減らして整えてください。
条件:
- 意味を変えない。事実の追加や削除をしない
- 「絶対」「確実」などの断定語を使わない
- 変更した箇所を一覧にして最後に示す
文面: (修正済みの骨子を入力)
出力された変更箇所の一覧を、有資格者が目で追います。意味が変わった箇所があれば、元の表現に戻します。
手順五。公開と台帳管理です。サイトに載せた日付、文面の版、承認者を台帳に残します。顧問先への案内メールや、顧問契約書の更新時の説明にも、同じ文面を使うと一貫します。
守秘義務・規程上の論点 サイトの文面と実態をそろえる
サイトに載せる方針は、事務所の実態と一致していることが前提です。実態は法人向けプランで、学習利用を行わない設定になっているのか。個人の無料アカウントが混ざっていないか。この確認は、文面作りより先に行います。
AIサービス側のデータの扱いは、ベンダーの公式文書で確認します。たとえばOpenAIのヘルプセンターは、ChatGPT Business、Enterprise、Edu、ChatGPT for Healthcareのワークスペースの内容を、デフォルトではモデルの学習に使わない旨を記載しています(出典:OpenAI ヘルプセンター Data Controls FAQ、2026年10月3日確認)。同じ文書は、個人向けではImprove the model for everyoneの設定をオフにすると、新しい会話が学習に使われない旨も記載しています(出典:同ページ)。個人情報保護委員会は、生成AIサービスの利用に関する注意喚起を、2023年6月2日に公表しています(出典:個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起)。
文面に学習に使われない設定で利用しているとと書くなら、その設定が全所員のアカウントで維持されているかを、定期的に点検する仕組みが要ります。点検の頻度と担当者は、事務所の規程に書く運用が考えられます。規程の作り方は、事務所のAI利用ガイドラインの作り方 判断フローと周知・更新の設計で整理しています。
事務所規程に落とすなら、次の要素が運用例として挙げられます。サイト掲載文の責任者、掲載前の承認手続き、実態との乖離を見つけたときの修正期限、顧客からの照会への回答手順です。AI契約書レビューの結果を顧問先に説明する場面の責任範囲の整理は、AI契約書レビューの結果を顧問先にどう説明するか 責任範囲と免責の7設計も参考になります。いずれも運用例であり、各職能団体の規則との関係は、団体の最新の資料で確認する領域です。
掲載する場所と見せ方の設計
文面の中身が固まったら、サイトのどこに置くかを決めます。公開例では、方針を独立したページとして用意し、フッターから辿れるようにする形があります。辻・本郷税理士法人の公開ページも、ガイドラインとして独立したページで公開されています(出典:辻・本郷税理士法人 生成AI利活用ガイドライン、2026年10月3日確認)。独立ページにすると、更新日を明記しやすく、顧問契約書や案内メールからURLで参照できます。
一方で、問い合わせフォームの直前や、見積書の注記に短い要約を置く運用もあります。ここで気をつけたいのは、要約と全文で表現の強さが食い違わないことです。要約側だけが断定的になると、全文との整合が崩れます。要約は全文の一部を抜粋する形で作り、独自の言い回しを足さない運用が考えられます。
また、サイトに載せる文面は、検索エンジンやAIの回答にも引用され得ます。意図しない切り取りで意味が変わらないよう、免責の一文は、前後の文脈ごと読まれても誤解が少ない書き方にしておく考え方があります。たとえば、主語を事務所に置き、誰が何を確認するのかを、同じ段落内に収めます。
さらに、職種ごとの広告や表示に関する規律は、各職能団体の会則や指針で定められている場合があります。サイトの文面を整える際は、所属する団体の最新の資料で、表示に関する扱いを確認する工程を、手順に組み込む運用が考えられます。この確認は、AIの有無にかかわらず、サイト更新のたびに行う定型作業として位置づけると、負担が小さくなります。
最後に、文面を公開した後の反応を記録しておく運用も有効です。顧客からの照会の件数や内容を、四半期ごとに振り返れば、どの項目の説明が足りないかが見えます。照会が多かった項目は、次回の改訂で具体化する候補になります。
失敗例と回避策
失敗例一。サイトに情報は暗号化し匿名化しているとと書いたが、実際は匿名化の工程が一部の担当者に依存しており、ばらつきがあった。回避策は、書く前に実態を台帳で確認し、実施率が確認できない工程は、断定せず運用を進めているといったといった表現にとどめることです。
失敗例二。免責文を単独で大きく掲げた結果、顧客から責任を取らない事務所なのかというという照会が来た。回避策は、有資格者による確認の工程と併記し、免責を方針の一部として位置づけることです。
失敗例三。方針を公開した後、AIツールを入れ替えたが、サイトの文面が古いまま残った。回避策は、ツールの導入や変更の際に、サイト文面の見直しをチェックリストに組み込むことです。
失敗例四。AIが作った文面に、存在しない法令名や条番号が混入していた。回避策は、条番号をe-Govで開いて確認し、確認できなかった条文は載せないことです。
費用・工数・体制
文面作りの費用は、AI利用料より工数が中心になります。棚卸しから公開までを、数名規模の事務所で行う場合の目安は、編集部の見立てとして、所長と有資格者の確認時間を含め、数時間から一日程度です。ただし、この見立ては公表資料に根拠を持つ数値ではなく、事務所の規模や既存規程の有無で大きく変わります。
体制としては、文面の起案担当、有資格者の確認担当、公開担当を分ける運用が考えられます。小規模事務所では兼務になりますが、確認担当が起案者と同一にならないようにすると、見落としが減ります。年に一度の見直しの日程を、事務所の年間予定に入れておく運用もあります。
今後の展望と独自考察
士業の事務所が、生成AIの利用方針をサイトに載せる動きは、公開例が増えるほど、顧客からの比較対象になります。公開された文面は、読者から見れば、事務所がAIにどう向き合うかの手がかりです。免責の有無よりも、確認工程と情報管理の説明が、どれだけ具体的かが論点になります。この見立ては編集部の考察であり、公表資料から直接導かれる結論ではありません。
また、顧問契約書、サイト、見積書、案内メールの四つで、AIに関する記載が食い違わないかも、今後の点検項目になります。サイトの文面は、事務所の実態を映す窓であり、実態の整備が先に来ます。
よくある質問
免責文は載せたほうがよいですか。
載せるかどうかは、この記事では判断しません。公開例として、辻・本郷税理士法人は、正確性と完全性を保証しない旨を記載しています。載せる場合も、有資格者による確認工程と併記する運用が、公開例からは読み取れます。
免責文を載せれば、責任を免れられますか。
この記事では、法的な効果の評価は行いません。法的な効果は、個別の事案や契約の内容で変わるため、有資格者や専門家が個別に確認する領域です。
利用しているAIサービス名は載せたほうがよいですか。
事務所ごとに判断が分かれます。辻・本郷税理士法人の公開ページは、利用サービス名を特定していません。サービス名を載せる場合は、入れ替え時の更新負担も考慮します。
顧客がAIの利用を望まない場合は、どうしますか。
方針に、問い合わせ窓口と、個別の相談に応じる旨を置く運用が考えられます。顧問契約書の条項と合わせて設計します。
文面の更新は、どのくらいの頻度が目安ですか。
公表資料に決まった頻度はありません。辻・本郷税理士法人は、AIの進歩や状況の変化に応じて見直す旨を記載しています。ツールの導入や変更があった時点と、年に一度の定期見直しを組み合わせる運用があります。
文面づくりにAIを使ってもよいですか。
骨子の起案や読みやすさの調整に使う運用があります。最終版の確定は有資格者が行い、AIの出力に含まれる条番号や数値は、一次情報で確認します。
参考文献
- 辻・本郷税理士法人 生成AI利活用ガイドライン
- 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起
- OpenAI ヘルプセンター Data Controls FAQ
- e-Gov法令検索 税理士法
- e-Gov法令検索 公認会計士法
- e-Gov法令検索 弁護士法
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/
本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。
記載内容に誤りを見つけられた場合は、お問い合わせよりご指摘ください。確認のうえ速やかに訂正し、訂正履歴を記事内に残します。編集方針の詳細は運営者情報をご覧ください。