辻・本郷税理士法人の生成AIガイドラインを読む 事務所独自版を作る7つの構成要素

辻・本郷税理士法人が公表した生成AI利活用ガイドラインの構成を材料に、税理士事務所が独自ガイドラインを作る7つの構成要素と、作成の手順を整理します。

辻・本郷税理士法人の生成AIガイドラインを読む 事務所独自版を作る7つの構成要素

生成AI利活用ガイドラインとは、事務所のAI利用方針を示す文書のことです。

辻・本郷税理士法人は、2025年9月1日に生成AI利活用ガイドラインを自社サイトで公表しています(出典:辻・本郷税理士法人 生成AI利活用ガイドライン)。この記事では、公開されたガイドラインの構成を材料に、事務所が自前のガイドラインを作るときの7つの構成要素を整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、事務所の方針は当該法人の公開ページで確認しています。なお、他の法人の文書を評価する記事ではなく、公開されている記載を、自所の文書づくりの比較材料として読む記事です。

公開された文書は何を書いているのか

まず、公開ページの記載を、事実として整理します。同法人のページによると、このガイドラインは、生成AIを業務に導入して活用するにあたり、お客様や事業関連者に対して、利用方針と安全対策を伝えるために策定された文書です(出典:辻・本郷税理士法人 生成AI利活用ガイドライン、2025年9月1日公表)。

基本方針の部分では、AI技術が税務・会計サービスの品質向上と業務効率化に貢献するという認識と、お客様の重要情報を取り扱う税理士法人として、情報セキュリティとプライバシー保護を最重要課題に置く姿勢が書かれています。利用範囲としては、最新の税法や会計基準に関する情報収集と共有の強化、複雑な案件の分析や解決策の検討の支援、資料作成や定型的な質問への回答補助といった目的が挙げられています(出典:同ページ)。

さらに、税務や会計に関わる学習データについては、その時点での関連法令を参照したうえで、有資格者である税理士や会計士によるチェックを行う旨が記載されています。生成AIが生成する情報は、内容の正確性や完全性を保証するものではない、という注記も入っています。お客様情報については、学習させる際にお客様を特定できないよう、暗号化、匿名化、除外といった処理を行い、最新のセキュリティ対策で情報漏えいの防止に努めるとされています。知的財産権への配慮と、AIの進展や社会情勢の変化、法的要請に応じた見直しも明記されています(出典:同ページ)。

ここまでが、公開されている記載の整理です。以降は、この記載を材料にした編集部の整理です。同法人の文書そのものについての評価は行いません。

文書の特徴として、読み手に注目したいのは、これが社内向けの規程ではなく、お客様と事業関連者に向けた方針の表明になっている点です。社内規程は、所員が何をしてよいかを細かく定める文書です。対外向けの方針は、事務所がどういう考えでAIを使うかを、外から見て分かる形で示す文書です。二つは役割が違うので、事務所が作る場合も、分けて考えるのが整理しやすくなります。

社内規程の作り方は、事務所のAIガイドラインの作り方で整理しています。この記事は、その対外向けの側面を補う位置づけです。

事務所独自のガイドラインに入れる7つの構成要素

公開ページの構成を、事務所が自前の文書を作るときの骨組みに引き直すと、次の7つの要素に整理できます。条文や公開情報の当てはめではなく、文書づくりの設計例として読んでください。

要素1は、目的と位置づけです。誰に向けた文書か、何のために公表するのかを、冒頭に一文で置きます。公開ページは、お客様と事業関連者に利用方針と安全対策を伝えるため、と目的を明示しています。対外向けなのか、所員向けなのかが曖昧だと、後の文面がぶれます。

要素2は、基本方針です。AIで何を高めたいのか、何を最優先にするのかを書きます。公開ページでは、サービスの品質向上と業務効率化を掲げつつ、情報セキュリティとプライバシー保護を最重要に位置づけています。事務所独自の文書では、自所の優先順位を、自分の言葉で書くことが肝心です。他の文書の文言をそのまま写すと、実際の運用との間にずれが出ます。

要素3は、利用範囲です。どの業務にAIを使うのか、使わない業務は何かを書きます。公開ページは、情報収集、案件分析の支援、資料作成の補助といった用途を挙げています。事務所の場合、使う業務だけでなく、使わない業務や、使う前に所長の承認が要る業務も書いておくと、運用が安定します。

要素4は、有資格者による確認です。AIの出力を、誰がどの段階で確認するかを書きます。公開ページは、有資格者のチェックを明記しています。ここは、AIに任せる部分と、有資格者にしか任せられない部分の線引きに直結します。事務所では、確認の担当者と記録の残し方まで、運用文書に落としておくのが現実的です。

要素5は、情報の取扱いです。顧客情報を入力する場合の条件を書きます。公開ページは、お客様を特定できない処理を行うとしています。事務所の場合は、入力してよい情報の区分、匿名化の方法、入力先サービスの学習利用の設定を、明文化します。

要素6は、正確性についての注記です。AIの出力は、内容の正確性や完全性を保証するものではないという趣旨を、文書に入れます。この注記は、読み手に対して、AIの限界を正直に示す役割を持ちます。

要素7は、見直しの方針です。AIの進展や、社会情勢、法的要請に応じて見直す旨を書きます。ガイドラインは、一度作って終わりの文書ではありません。見直しの頻度と、見直しの担当者を決めておくと、文書が形骸化しにくくなります。

ガイドライン作成の6ステップ

7つの要素を、実際の文書にする手順を示します。所員が数名から十数名の事務所を想定した運用例です。

ステップ1は、現状の利用実態の把握です。所員が今どのツールをどの業務に使っているかを、ヒアリングして一覧にします。個人アカウントでの利用も含めます。入力は所員の回答、返ってくるのは用途の一覧です。

ステップ2は、他の文書の構成の比較です。公開されているガイドラインを複数集め、目次の構成を並べて比べます。比べるのは、文言ではなく、どの項目が入っているかです。文言の流用は避け、項目の有無だけを参考にします。

ステップ3は、自所の優先順位の決定です。何を最優先にするのかを、所長が自分の言葉で決めます。ここが決まらないと、文書全体が借り物になります。

ステップ4は、下書きの作成です。7つの要素ごとに、自所の運用に即した文章を書きます。下書きにはAIを使えますが、出力は有資格者が全文を読んで直します。

ステップ5は、法令との突き合わせです。守秘義務や個人情報の取扱いに関する記載が、条文と矛盾していないかを、e-Govの原文で確認します。当てはめの判断が要る箇所は、有資格者が個別に判断します。

ステップ6は、公開と運用です。対外向けの方針として公表する場合は、掲載場所と更新日を決めます。運用が始まったら、見直しの日付を台帳に残します。

下書きづくりに生成AIを使う場合のプロンプト例を示します。架空の事務所名を使い、実在の顧問先情報は入れません。

あなたは士業事務所のAI利用ガイドラインの下書き補助です。
架空の事務所「甲税理士事務所」のために、次の7つの見出しで、
ガイドラインの下書きを作ってください。

1. 目的と位置づけ
2. 基本方針
3. 利用範囲(使う業務、使わない業務、承認が必要な業務)
4. 有資格者による確認
5. 情報の取扱い
6. 正確性についての注記
7. 見直しの方針

条件:
- 断定は避け、事務所が自分で決めるべき箇所は「要確認」と書く
- 法令の条番号は書かない(有資格者が別途確認する)
- 他の事務所の文章をそのまま使わない

【事務所の前提】
(ここに架空の前提を貼り付け)

次のプロンプトは、完成した下書きを点検するための例です。

以下は、事務所のAI利用ガイドラインの下書きです。
次の観点で点検し、問題のある箇所を指摘してください。

- 規範を断定している表現がないか
- 根拠のない数字や日付がないか
- 運用の実態と合わない記載がないか
- 有資格者の確認工程が抜けていないか

修正案は出さず、指摘と理由だけを箇条書きで返してください。

【下書き】
(ここに貼り付け)

守秘義務と個人情報保護の観点で、文書に何を書くか

ガイドラインの核心は、顧客情報の扱いです。この章では、条文の引用に留めて整理します。

税理士の守秘義務について、税理士法第38条は、正当な理由がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、または窃用してはならないと定めています(出典:e-Gov法令検索 税理士法第38条)。生成AIへの入力が、この規定との関係でどう評価されるかは、入力する情報の内容や、入力先サービスの契約条件によって変わります。評価は、有資格者や職能団体の見解を踏まえた個別の判断に委ねられる領域であり、本記事では結論を示しません。

個人データを扱う場合は、個人情報保護法の規定も関わります。第23条は、個人データの漏えい、滅失、毀損の防止のために、必要かつ適切な措置を講じる旨を定めています(出典:e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律第23条)。第25条は、個人データの取扱いを委託する場合の、委託先への必要かつ適切な監督を定めています(出典:e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律第25条)。また、第21条は、個人情報を取得した場合の、利用目的の通知または公表を定めています(出典:e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律第21条)。

ガイドラインを対外向けに公表する場合、これらの規定との関係で、書き方を確認する必要があります。たとえば、利用目的にAIの利用を含めて説明するかどうか、委託先としてのAIサービスの位置づけをどう書くかは、事務所の契約形態によって変わります。ここは、有資格者が個別に判断する部分です。

文書に落とすときの運用例を挙げます。入力してよい情報の区分と、匿名化の方法を、文書に明記する運用があります。入力先サービスの学習利用の設定と、その確認日を、台帳に残す運用があります。顧客への説明と同意の取り方を、契約書や説明資料に反映する運用もあります。学習利用の設定は、生成AIの法人プランと学習利用の比較が参考になります。

小規模事務所が文書を作るときの現実的な調整

大規模な法人の文書を参考にするとき、小規模な事務所には、そのまま当てはまらない部分があります。ここでは、数名規模の事務所が、構成を調整する際の考え方を整理します。運用例であり、唯一の正解ではありません。

調整の一つ目は、項目の粒度です。大規模な法人では、情報セキュリティの対策を、技術的な仕組みとして細かく書けます。小規模な事務所では、導入している仕組みが限られるため、細かく書くと、実態との差が目立ちます。仕組みの名前を並べるより、入力してよい情報の区分と、確認の流れを、短く具体的に書く方が、実態に合います。

二つ目は、更新の負担です。文書が長いと、見直しのたびに修正箇所が増えます。小規模な事務所では、一枚から二枚に収まる分量にして、見直しの頻度を保てる設計にする運用があります。全体を長くするより、見直しが続くことを優先する考え方です。

三つ目は、所員への周知です。対外向けに公表する文書でも、所員が内容を知らなければ、運用は定着しません。公表前に、所員全員で読み合わせをする運用があります。読み合わせで出た疑問は、文書の曖昧な箇所を見つける材料になります。

四つ目は、顧問先からの問い合わせへの備えです。ガイドラインを公開すると、顧問先から、具体的な運用について質問が来る場合があります。想定問答を、事務所内で簡単に用意しておくと、対応が安定します。想定問答の作成にも生成AIを使えますが、回答の内容は、所長が確認します。

五つ目は、文書の置き場所です。事務所のサイトに載せるのか、契約時の説明資料に添えるのか、両方なのかを決めます。載せる場所が複数あると、更新時に差が出やすいため、元の文書を一つに決めて、そこから展開する運用が管理しやすくなります。

公開前の点検では、次の問いを順に確認します。文書に書いた対策は、実際に運用しているか。数字や日付を書いている場合、出典や根拠は残っているか。法令の条文を引用している場合、原文で確認したか。AIの出力の扱いについて、有資格者の確認という工程が書かれているか。これらは、文書を公開してから慌てないための、最低限の確認項目です。

公開版を作るときの失敗例と回避策

対外向けのガイドラインは、書き方を誤ると、かえって事務所の負担になります。起こりやすい失敗を三つ挙げます。

一つ目は、実態と文書がずれることです。文書に書いた安全対策が、実際には運用されていない状態は、公表した以上、説明の負担が増えます。回避策は、実際に運用している内容だけを書き、運用が追いつかない項目は、将来の方針として区別して書くことです。

二つ目は、他の文書の文言を流用することです。他の文書は、その法人の規模や体制を前提にしています。体制が違う事務所が同じ文言を使うと、書かれた対策を実行できません。回避策は、構成の項目だけを参考にし、文言は自所の運用に合わせて書くことです。

三つ目は、正確性の注記だけで責任を免れたかのような書き方になることです。注記は、AIの限界を示すものですが、有資格者の確認という工程があって初めて意味を持ちます。回避策は、注記と、確認工程の説明を、セットで書くことです。免責の書き方は、AIレビューの結果説明と責任範囲も参考にしてください。

費用・工数・体制の目安

ガイドラインづくりに、どのくらいの工数がかかるのでしょうか。以下は、数名規模の事務所を想定した編集部の目安です。

利用実態のヒアリングと一覧づくりは、半日程度が一つの目安です。他の文書の構成比較は、数件を集めて、数時間で足ります。下書きの作成と、所長によるレビューは、数日を見込む運用が現実的です。法令との突き合わせは、有資格者が個別に行うため、その分の工数を別に見ておきます。費用面では、新しいツールの購入は必須ではなく、既存のAIツールと文書作成ソフトで足ります。

体制は、文書の担当者と、所長による承認の二層が分かりやすいです。担当者が一人に偏ると、退職や異動で更新が止まります。複数名で持つ形を勧めます。

今後の展望と編集部の考察

士業の事務所が、AIの利用方針を対外的に公表する動きは、今後も広がるのかが論点になります。公表が広がれば、顧問先は、複数の事務所の方針を見比べるようになります。そのとき、文書の中身が、実際の運用と合っているかが、信頼を左右します。

編集部の見立てとして、方針の公表は、早く出すことより、実態に合った内容を継続的に更新することに価値があります。この見立ては編集部の考察であり、公表資料から直接導かれる結論ではありません。

よくある質問

他の法人のガイドラインを、そのまま使ってもよいですか。

文言をそのまま使う運用はお勧めしません。他の法人の文書は、その法人の体制や規模を前提にしています。項目の構成を参考にしつつ、文言は自所の運用に合わせて書くのが基本です。著作権の扱いは、文書ごとの利用条件を確認してください。

ガイドラインは対外向けと社内向けで分けるべきですか。

分けて考える運用が整理しやすいです。社内向けは、所員が何をしてよいかを細かく定める文書です。対外向けは、事務所の考え方と安全対策を、外から見て分かる形で示す文書です。両者の内容に矛盾がないことを確認します。

正確性についての注記は、必要ですか。

AIの出力の限界を示す注記は、公開されている文書にも入っています。注記を入れるかどうかは、事務所の判断です。入れる場合は、有資格者の確認工程の説明と、セットで書く運用があります。

公表したガイドラインの見直しは、どのくらいの頻度で行いますか。

頻度に決まりはありません。公開ページは、AIの進展や社会情勢、法的要請に応じて適宜見直すとしています。事務所では、四半期に一度など、自所で決めた周期で見直す運用が考えられます。

守秘義務との関係は、どう確認すればよいですか。

税理士法第38条の原文を、e-Gov法令検索で確認します。そのうえで、個別の運用が条文とどう関わるかは、有資格者や職能団体の見解を踏まえて判断します。

条文の引用は、どう確認すればよいですか。

e-Gov法令検索で、法令名と条番号を検索して、原文を開いて確認します。記憶や二次情報の条番号は使わない運用が基本です。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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