JICPA研究文書14号 公認会計士が監査に生かす7手順

日本公認会計士協会が監査へのデータアナリティクス活用に関する研究文書を公表しました。会計事務所が監査手続に組み込む7つの手順と守秘義務の論点を解説します。

JICPA研究文書14号 公認会計士が監査に生かす7手順

テクノロジー委員会研究文書第14号とは、監査へのデータアナリティクス活用に関する研究文書のことです。

日本公認会計士協会は2026年9月15日、テクノロジー委員会研究文書第14号(監査へのデータアナリティクス活用に関する研究文書)を公表しました(出典:日本公認会計士協会)。本記事では、この研究文書の公表を受けて、会計事務所が監査手続にデータアナリティクスや生成AIをどう組み込むか、判断の進め方を7つの手順に分けて解説します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しており、法令の条文はe-Gov法令検索の原文で確認しています。同協会は本研究文書の公表にあたり、監査証跡の電子データ化や非財務情報の活用拡大、AI技術による大量データの高速分析が現実のものとなり、監査の品質及び効率性を大きく向上させる可能性が高まっていると説明しています(出典:前掲の日本公認会計士協会)。

監査へのデータアナリティクス活用が問われる2026年の状況

日本公認会計士協会は、2026年9月10日に開催した常務理事会の承認を経て、2026年9月15日にテクノロジー委員会研究文書第14号を公表しました。本研究文書は、監査におけるデータアナリティクスの重要性及び活用方法を明らかにすることを目的としており、会員である公認会計士が実務の参考にできるよう位置づけられています(出典:日本公認会計士協会)。

同協会は、監査証跡の電子データ化と非財務情報の活用拡大が進む中で、AI技術による大量データの高速分析が現実のものとなり、監査の品質及び効率性を大きく向上させる可能性が高まっていると説明しています(出典:前掲の日本公認会計士協会)。本研究文書は、テクノロジー委員会研究文書第13号「公認会計士業務におけるオープンデータの活用と実践に係る研究文書」に続く形で、同日付で公表されたものです(出典:日本公認会計士協会 研究文書第13号)。同協会は過去にもテクノロジー委員会研究文書第11号(監査におけるAIの利用に関する研究文書)を公表しており、監査実務へのデータアナリティクスとAIの活用に関する研究文書の蓄積が進んでいる状況です。

会計事務所にとって、こうした研究文書の蓄積は、監査手続そのものを見直す契機になります。データアナリティクスやAIを監査に取り入れるかどうかは、単なるツール導入の問題ではなく、監査人としての判断をどこに残すかという設計の問題でもあります。研究文書が繰り返し公表されている背景には、監査証跡の電子データ化が進むほど、人手による全件確認が現実的でなくなっていくという実務上の事情があります。監査業務で生成AIを使った記録をどう残すかでも扱ったように、AIの活用が進むほど、その利用過程を記録として残す設計が実務上の論点になっています。

データアナリティクス活用を監査手続に組み込む7手順

ここからは、テクノロジー委員会研究文書第14号の公表を受けて、会計事務所が監査手続にデータアナリティクスを組み込む判断を、7つの手順に分けて説明します。有資格者である公認会計士本人の最終判断を、手順のどこかで飛ばさない設計にしています。

第一の手順は、本研究文書の内容確認です。同協会の会員向けページから前書文と本文のPDFを取得し、研究文書が想定しているデータアナリティクスの活用範囲を確認します(出典:日本公認会計士協会)。

第二の手順は、自事務所の監査業務のうち、データアナリティクスを適用しやすい領域の洗い出しです。仕訳データの全件分析や、異常値の検出など、定型的な分析作業を中心に、適用候補を一覧化します。以下は、この洗い出しを生成AIに手伝わせるプロンプト例です。

あなたは会計事務所のアシスタントです。
架空の監査対象企業D社(製造業、年間仕訳件数約20万件)について、
データアナリティクスの適用に適した監査手続の候補を一覧化してください。
公認会計士本人の判断が必要な工程は別枠で明示してください。

第三の手順は、既存の監査調書作成プロセスとの整合確認です。データアナリティクスの分析結果を監査調書にどう反映するか、既存のプロセスとの整合を事前に確認しておきます。

第四の手順は、分析結果の検証方法の設計です。データアナリティクスやAIが出力した分析結果を、そのまま監査意見の根拠にするのではなく、公認会計士本人がサンプルベースで検証する工程を設計します。以下は、この検証設計を整理するプロンプト例です。

上記で洗い出した監査手続の候補について、
データアナリティクスの分析結果を公認会計士がどう検証するか、
サンプル抽出の考え方も含めて検証設計案を作成してください。

第五の手順は、監査チーム内での役割分担の明確化です。データアナリティクスのツール操作を担当するスタッフと、分析結果の監査上の意味づけを判断する公認会計士の役割を、チーム内で明確に分けておきます。

第六の手順は、監査法人・事務所内での試行導入です。まずは限定的な監査対象や手続範囲で試行し、分析結果の精度や運用上の課題を確認してから、適用範囲を広げる進め方が実務的です。

第七の手順は、有資格者による最終確認です。データアナリティクスやAIがどれだけ高度な分析を行っても、監査意見の形成という最終判断は公認会計士本人が担う工程として残します。この工程を省かない設計にしておくことが、監査の信頼性を維持する土台になります。

監査データの秘密保持とAI活用で決めておく3つのこと

ここでは、監査業務にデータアナリティクスやAIを取り入れる際、会計事務所として決めておきたい論点を3つに整理します。

一つ目は、公認会計士自身の秘密を守る義務の根拠です。公認会計士法第27条は、公認会計士が正当な理由なくその業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らし、または盗用してはならないと定めています。監査対象企業の仕訳データや財務情報は、この条文が対象とする秘密に含まれ得る情報です。

二つ目は、データアナリティクスツールやAIサービスのデータ利用方針の確認です。監査対象企業のデータをクラウド上のツールで処理する以上、そのデータがどう扱われ、学習にどう使われるかを各サービスの公式ドキュメントで確認しておく段階です。

三つ目は、監査対象企業への説明の実務です。データアナリティクスやAIを監査手続に取り入れる場合、どの範囲のデータを、どのツールで、どう扱うかを監査対象企業にあらかじめ説明しておく運用が実務上の起点になります。監査契約の締結時や監査計画の説明時に、この点を含めておくことが考えられます。

AI活用でつまずく2つの失敗例と回避策

監査業務にデータアナリティクスやAIを取り入れる際に起きがちな失敗を、2つ紹介します。

一つ目は、分析結果をそのまま監査意見の根拠として採用し、公認会計士本人による検証工程を省略してしまうケースです。分析の精度がどれだけ高くても、監査意見の形成という判断そのものをツールに委ねることはできません。回避策は、第四の手順で触れた検証設計を、試行導入の段階から組み込んでおくことです。

二つ目は、監査チーム内でデータアナリティクスの操作ができる人材が偏り、属人化してしまうケースです。特定のスタッフしか操作方法を理解していない状態では、担当者の異動や退職の際に運用が滞ります。回避策は、第五の手順で触れた役割分担を、複数人が担当できる形で設計しておくことです。

費用・工数・体制をどう見積もるか

データアナリティクスツールの導入費用は、利用するツールの契約形態によって幅があります。既存の監査ソフトウェアにデータアナリティクス機能が組み込まれている場合は、追加費用が発生しないこともあります。

体制面では、第五の手順で触れた役割分担を踏まえ、ツール操作の担当者と、分析結果の検証を担当する公認会計士を、監査チームごとに明確にしておくことが望ましい進め方です。試行導入の段階では、通常の監査手続と並行して確認する期間を設けておくと、精度の見積もりもしやすくなります。

監査法人・事務所の規模によっては、データアナリティクスの運用を専門に担当する部署を置く例も見られますが、小規模な事務所では、監査チームのリーダーが兼務する形でも運用は成り立ちます。重要なのは、誰が分析結果を検証し、誰が最終判断を下すかを、監査調書に残る形で明確にしておくことです。

研究文書の蓄積が示す今後の展望

テクノロジー委員会研究文書第14号の公表は、監査実務へのデータアナリティクス活用が、個別の会計事務所の取り組みから、業界全体で参考にできる知見の蓄積へと段階を進めていることを示しています。同協会が第11号、第13号、第14号と研究文書を重ねてきたことを踏まえると、今後も監査へのAI・データアナリティクス活用に関する研究が継続的に公表されると見込まれます。会計事務所としては、こうした研究文書の更新を継続的に確認し、自事務所の監査手続にどう反映するかを見直す運用が論点になっていきます。

よくある質問

データアナリティクスを導入すれば監査工数は減りますか

工数の削減効果は、監査対象企業の業種やデータの複雑さによって変わる論点です。定型的な分析作業の一部は効率化が見込めますが、公認会計士本人による検証工程は残るため、削減できる範囲を事前に見極めておく必要があります。

小規模な会計事務所でも活用を検討する価値はありますか

監査対象の規模にかかわらず、第二の手順で触れた適用領域の洗い出しは着手しやすい取り組みです。ただし、データアナリティクスツールの導入コストと、監査対象企業の規模を照らし合わせて判断する論点になります。

分析結果に誤りがあった場合、責任はどうなりますか

分析結果の解釈と監査意見の形成は、最終的に公認会計士本人が担う工程です。データアナリティクスやAIはあくまで分析を補助する位置づけであり、その結果をどう監査に反映するかの判断は有資格者に委ねられています。

研究文書はどこで入手できますか

日本公認会計士協会の公式サイトから、前書文と本文のPDFが公開されています。閲覧にあたっては著作権規約への同意が求められます。

AIによる異常値検出はどこまで信頼できますか

異常値検出の精度は、使用するデータの質やツールの設計によって変わるため、一律に評価できる論点ではありません。検出結果を監査手続にどう反映するかは、公認会計士本人がサンプルベースで検証したうえで判断する実務が考えられます。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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