トランプは新たなAI規制を設けず、既存の刑事・民事法で対処する方針を示しました。
米国のAIをめぐる議論が、技術の話から統治の話へ移っています。2026年9月20日、ドナルド・トランプが自身のSNS投稿で「AI軍」の創設と「AI czar」の任命に触れ、あわせて新しいAI規制を設ける考えがないと述べました。同じ週には、AIが雇用を減らすと見る人のほうが多いという37か国調査も公表されています。政策の向きと世論の向きが、正面からずれている構図です。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で確認しています。
何が起きたか。AI軍、AI czar、そして「新しい規制は作らない」
トランプが示したのは、AI開発の速度を落とさないという一点です。The Decoderが2026年9月20日に報じた内容によると、発言の出どころはTruth Socialへの投稿です。
表明されたのは大きく3点です。第一に、宇宙軍をかたどった「AI Force」を創設するという構想。第二に、近く「AI czar」を任命するという意向で、これは米国で特定政策の総括役を指す呼び方です。ただし条件として「high IQ」の持ち主に限ると述べたと同記事は伝えています。第三に、AIが米国の経済生産の25%に達しうるという見立てで、中国に対する優位を保つとも語ったとされます。出典は同記事および上記のTruth Social投稿です。
規制については、悪用が起きた場合に成長を鈍らせる新しい規制ではなく、既存の刑事法と民事法で対処するという整理が示されました。あわせて、AIやデータセンターへの批判を左派による攻撃だと位置づけ、ロシアや気候変動をめぐる言説と同じ構図だと述べたと報じられています。米国の地域社会では、水と電力の消費、環境への影響、光熱費の上昇を理由にデータセンター建設への反対が起きており、今回の投稿はその逆風を意識したものと読めます。
なぜ重要か。規制の向きが国と州で割れ、世論とも離れている
この一件が示すのは、AIをどう統治するかという問いに対して、答えが一つに収束していないという事実です。同じ米国の中でも向きが揃っていません。
連邦のトランプ政権は、新しい規制を作らずに既存法で臨むという立場です。一方でカリフォルニア州は、AIモデルのキルスイッチ検討と独立した監査の導入を求める知事令に踏み込みました。この経緯はカリフォルニア州のAIキルスイッチ知事令を扱った記事で整理しています。欧州はさらに別の道で、包括的な法律に高リスク用途の義務を書き込む方式を採っており、その義務の適用時期についてはEU AI法の高リスク義務の延期を扱った記事にまとめました。規制を作らない、州が先に作る、包括法で作る。この三つが並走しています。
世論の側は、どちらかといえば慎重な方向に動いています。Pew Research Centerが2026年9月17日に公表した調査では、37か国のうち34か国で、AIは今後20年で雇用を増やすより減らすと考える人のほうが多いという結果が出ています。同調査は2026年2月8日から5月13日にかけて36か国の4万2,151人を対象に実施され、日本も対象国に含まれます。米国では18歳から34歳の層で「期待より懸念が上回る」と答えた割合が2024年の40%から55%へ上がったと同センターは報告しています。

日本の士業事務所から見ると、この話は遠い国の政治ニュースでは終わりません。AIを業務に入れるときの前提が、「規制が整うのを待つ」から「自分たちで線を引く」へ寄っていくからです。日本の人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律も、第1条で研究開発と活用の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図ることを目的に掲げる理念型の建て付けになっています。禁止行為を細かく並べる法律ではないため、顧問先の情報をどこまでAIに渡すか、どの作業を任せてどこから人が引き取るかという線引きは、事務所の側に残ります。その線引きの考え方はAIへの委任範囲の設計を扱った記事に寄せています。
今後の動き
見どころは3つあります。ひとつは、AI czarに誰が就くのか。政策の総括役が置かれれば、連邦の窓口が一本化され、州法や他国の規制との調整もその人物を通ることになります。
ふたつめは、AI Forceの実体です。現時点で公表されているのは構想の言及だけで、予算、権限、どの省庁の下に置くのかといった具体は明らかになっていません。名前が先に出た段階であり、中身は要確認です。
みっつめは、既存法で対処するという方針が実際に機能するかどうかです。AIの誤出力が現実の判断に入り込んだ事例はすでに報告されており、AIの誤情報が米軍の臨検判断に入り込んだ件はその一例です。こうした事案が積み上がったとき、既存の刑事法・民事法だけで責任の所在を裁けるのかという論点は、今後の議論で表に出てくると考えられます。
まとめ
トランプは、AI軍の創設とAI czarの任命に触れつつ、新しいAI規制は設けず既存の刑事法・民事法で対処する方針を示しました。同じ米国でカリフォルニア州は逆方向に動き、欧州は包括法で臨んでいます。規制の向きが揃わない期間が続くほど、AIをどこまで使うかの判断は、使う側の組織に委ねられます。
参考文献
- The Decoder「Trump announces “AI Force” and plans for an “AI czar” as he pushes unchecked AI growth」
- Truth Social(@realDonaldTrump の該当投稿)
- Pew Research Center「Globally, More People Expect AI to Cause Job Loss Than Growth」
- Pew Research Center 調査方法(Methodology)
- e-Gov法令検索 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律第1条
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引用元: The Decoder
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