Gemini 3.8 Liveで相談対応を回す前に 事務所が決める7つの線引き

Gemini 3.8 Live Extended Thinkingが Gmail と文書作成に入った2026年9月時点の状況と、士業事務所が相談対応に噛ませる前に決める7つの線引きを守秘義務の条文から整理しました。

Gemini 3.8 Liveで相談対応を回す前に 事務所が決める7つの線引き

Gemini 3.8 Liveとは、Googleの音声対話AIモデルのことです。

顧問先との会話を、リアルタイムで聞き取って要約するAIを同席させてよいか。この問いに事務所として答えを持っているでしょうか。この記事では、音声対話AIが業務メールと文書作成の内側に入ってきた2026年9月時点の状況を押さえたうえで、相談対応に噛ませる前に決めておく7つの線引きを整理します。本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で確認しています。Googleは2026年9月15日にGemini 3.8 LiveとGemini 3.8 Live Extended Thinkingを公開しました(出典: Google公式ブログ)。

音声AIがGmailと文書作成の内側に入った9月

結論から書くと、変わったのは音声AIの置き場所です。これまで音声認識は、録音ファイルを後から文字起こしする外付けの道具でした。今回公開された2モデルは、メールや文書といった業務ツールの内側で、会話しながら作業を進める位置に移りました。

公表された内容を整理します。Googleは2026年9月15日、Gemini 3.8 LiveとGemini 3.8 Live Extended Thinkingの2つを発表し、Gemini API、Google AI Studio、Gemini Enterprise、Search Live、Gemini Live、Google Workspaceに展開すると説明しています(出典: Google公式ブログ)。2つのモデルの役割は分かれています。Gemini 3.8 Liveは規模とコスト効率を重視した対話向け、Extended Thinkingは複雑で多段の推論を要する作業向けという位置づけです。

士業事務所に効いてくるのは展開先のほうです。Extended ThinkingはGemini Live、Google Workspace経由のドキュメント、そしてGmailとKeepで使える形になったと報じられています(出典: 9to5Google)。つまり、顧問先とのやり取りが集まっているメールと、書面の下書きを作る文書ツールに、音声で指示できるAIが標準装備されつつあるということです。開発者向けにはGemini APIとGoogle AI Studioで、企業向けにはGemini Enterpriseでプライベートプレビューとして提供されると説明されています(出典: Google AI for Developers)。

ここで事務所が直面する変化は2つあります。1つは、所員が意識してAIを開かなくても、業務ツールの中でAIに触れる状態になること。もう1つは、入力の単位がファイルから会話に変わることです。ファイルなら、入れる前に中身を確認できます。会話は、口から出た瞬間に入力が終わっています。この差が、守秘義務の設計に直接響きます。

変わっていないものも押さえておきます。音声で入ろうがテキストで入ろうが、顧問先の秘密を外部サービスに渡す行為であることに変わりはありません。判断と責任を有資格者が持つ構図も動きません。相談内容の評価、書面の内容、顧問先への回答。これらは従来どおり事務所側の領域です。音声AIができるのは、聞き取り、整理、下書きまでです。

相談対応に音声AIを噛ませる前に決める7つの線引き

先に全体像を示します。録音の可否、話者の範囲、情報区分、出力の扱い、保存と削除、アカウント、記録項目の7つです。この順で決めておくと、所員が現場で迷う場面がほぼ潰れます。

第1の線引きは、音声AIを起動してよい場面と、起動しない場面の切り分けです。初回相談、顧問先との定例、社内の打ち合わせ、第三者が同席する場。これらを一律に扱うと事故が起きます。実務では、顧問先と1対1で、事前に説明と同意を得た場面から始める事務所が多く見られます。同意の取り方は、口頭ではなく、契約書か覚書の条項に落としておく運用が扱いやすくなります。

第2は、話者の範囲です。音声AIは、誰の声かを選んで聞くわけではありません。相談室で隣の席の会話が入る、顧問先の従業員が途中から入室する、電話の相手の声が入る。こうした場面では、同意を取っていない人の音声が入力されます。回避策は、起動場所を限定することと、参加者が変わったら一度止めるという運用を決めることです。

第3は、情報区分です。顧問先を識別できる情報、識別できないが業務固有の情報、公開情報の3つに分け、どの区分までを音声AIに載せてよいかを決めます。実名や会社名を口に出さず、AとBで呼ぶ運用を採る事務所もあります。この方法は簡単ですが、会話が長くなると崩れやすいため、録音後の確認工程とセットにしておきます。

第4は、出力の扱いです。リアルタイム要約をそのまま顧問先に送る運用は取りません。AIが下書きし、有資格者が内容を確認し、送信する。この順序を業務フローに明記します。特に、相談内容の要約には、事実と評価が混ざりやすいという特徴があります。評価部分は有資格者が書き直す前提で設計します。

第5は、保存期間と削除です。音声データ、文字起こし、要約の3つは別々に扱います。どこに保存され、いつ消えるのか。Google Workspaceの設定側で消えるのか、事務所側で消すのか。この整理は、面談録音とAI議事録の保存・削除設計でまとめた枠組みがそのまま使えます。

第6は、アカウントです。個人のGoogleアカウントで顧問先の会話を扱う運用は、後から管理も削除もできなくなります。事務所として契約したWorkspaceのアカウントに寄せ、管理者側で利用範囲を設定します。所員の端末に入っている個人アカウントとの併用は、切り分けのルールを明文化しておきます。

第7は、記録項目です。いつ、誰の相談で、どの区分の情報を、どのツールに入れ、誰が確認したか。この5点を残しておくと、顧問先から問い合わせが来たときに事実で答えられます。記録を取る作業自体をAIに任せると本末転倒になるため、簡素な様式にとどめるのが続けるコツです。AIツールに顧問先データを渡す前の確認手順は、ChatGPT Workのデータエージェントを入れる前の確認でも整理しています。

運用に載せる際のプロンプト例を2つ挙げます。1本目は、相談メモの整理をAIに任せつつ、評価を書かせないための指示です。

あなたは士業事務所の記録担当です。以下の相談メモを、次の3区分で整理してください。
(1) 相談者が述べた事実(日付、金額、当事者、経緯)
(2) 事実関係が不明で、追加確認が要る点
(3) 有資格者が判断する論点(判断そのものは書かない)

制約:
- 法的評価、税務判断、見通しの記述は一切行わない
- 推測で補わない。メモに無い情報は「記載なし」と書く
- 固有名詞は甲、乙、A社の形に置き換える

【相談メモ】
(ここに匿名化済みのメモを貼り付け)

2本目は、音声でのやり取りをその場で要約させる場合に、入力範囲を絞るための枠組みです。

これから音声で相談内容を要約してもらいます。以下を厳守してください。
- 個人名、会社名、住所、電話番号、マイナンバーは要約に含めない
- 金額と日付は残すが、口座番号は伏せる
- 要約は事実の列挙のみとし、結論や助言は書かない
- 最後に「有資格者確認欄」という見出しを付けて空欄で終える

要約の粒度は、A4半ページ相当でお願いします。

この2本を所内の標準として配っておくと、所員ごとの指示のばらつきが減ります。

守秘義務と安全管理措置を、どこで書き分けるか

結論は、士業の守秘義務と、個人情報の安全管理措置を別々の軸として整理することです。理由は、根拠となる法令も、求められる対応も違うためです。

守秘義務の根拠は職種ごとに分かれています。弁護士については、弁護士法第23条が秘密保持の権利および義務を定めています。社会保険労務士については、社会保険労務士法第21条が、正当な理由なく業務に関して知り得た秘密を漏らし、または盗用することを禁じています。行政書士については、行政書士法第12条が同趣旨の規定を置いています。これらの条文を個別の場面にどう当てはめるかは、事務所の有資格者が判断する領域です。

個人情報の側面は別の軸になります。個人情報保護法第23条は、取り扱う個人データの漏えい、滅失または毀損の防止その他の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じることを定めています。外部のAIサービスを使う場合、この安全管理措置の中に、アカウント管理、アクセス権限、保存期間、削除手順が入ってきます。あわせて、個人情報保護法第27条の第三者提供の制限と、同条第5項第1号の委託の扱いをどう整理するかが論点として残ります。

事業者側のデータ取扱いも確認対象です。Googleは、Gemini関連サービスにおけるデータの取扱いをヘルプページで、Google Workspaceのサービス条件を専用ページで公表しています。個人向けの無償プランと、Workspaceの有償プランでは条件が異なるため、事務所が使っている契約の条件を個別に読む流れになります。2026年9月時点の公表内容であり、今後変更される可能性があるため要確認としておきます。

行政の考え方も押さえておきます。個人情報保護委員会は、生成AIサービスの利用について注意喚起を公表し、入力する個人情報を必要最小限にとどめる考え方を示しています。音声入力の場合、この「必要最小限」の制御が難しくなります。テキストなら送信前に消せますが、会話は口に出た時点で入力が終わっているためです。前節の第2と第3の線引きは、この制御を人の運用で補うためのものだと考えると位置づけが分かりやすくなります。

顧問先への説明は、業務委託契約書か覚書に条項として入れる運用例があります。書く内容は、利用するAIサービスの種別、音声を扱う範囲、保存期間、学習利用の有無、所内の確認体制の5点です。新規受任時と、ツールを切り替えた時点の2回で説明する形が取られています。

音声だからこそ起きる3つの失敗

1つ目は、同意していない人の声が入るケースです。相談室に第三者が同席した、電話をスピーカーにした、廊下の会話が拾われた。テキスト入力では起きない類の混入です。回避策は、起動場所と参加者を固定し、参加者が変わったら止めるという単純なルールに落とすことです。ルールが複雑だと現場で守られません。

2つ目は、リアルタイム要約の誤りが、そのまま顧問先に渡るケースです。音声認識は、同音異義語、固有名詞、数字の桁を取り違えることがあります。相談の場でその要約を画面共有すると、誤りが顧問先の記憶に残ります。回避策は、その場では要約を共有せず、有資格者の確認を経てから送る運用です。速さより、確認工程を残すほうを優先します。

3つ目は、会話の途中で顧問先が口頭で機微な情報を出してしまうケースです。話し始めた相手を止めるのは現実的ではありません。そのため、後処理での対応を用意しておきます。該当部分を記録から削除する手順、削除したことを記録に残す手順、顧問先に伝える手順の3つです。事前に手順があると、現場で判断に迷わずに済みます。AIエージェントに権限を渡す場合の設計と記録の考え方は、MCPのガバナンス整理も参考になります。

費用と体制、誰が線引きを決めるか

費用面から見ます。Gemini 3.8 Live Extended Thinkingは、Google AIの契約プランやWorkspaceの契約に紐づく形で提供され、開発者向けにはGemini API経由の従量課金が用意されています(出典: Google AI for Developers)。プラン構成と価格は改定が入るため、導入検討の時点で公表ページを確認する前提で考えます。

体制面では、線引きを決める人を先に決めます。所長がひとりで抱えると、日々の業務に押されて着手が遅れます。所内でAI運用の担当を置き、その担当が7つの線引きの素案を作り、有資格者が承認する形が回りやすくなります。素案は一度で完成させず、3か月ほど運用してから見直す前提にしておくと、現場と乖離しません。

工数の目安としては、線引きの文書化そのものは数時間から1日程度で書けます。時間がかかるのは、所員への周知と、実際の相談場面での試行です。まずは所内の打ち合わせで試し、顧問先が関わる場面には後から広げる順序が安全側です。

これから論点になること

まず、音声AIの利用に顧問先の同意をどう取るかの実務が、事務所ごとにばらついている点です。書面に条項を入れる事務所、都度口頭で確認する事務所、そもそも使わない事務所。この差は当面続きます。業界団体から考え方が示されるまでは、各事務所が自分の基準を持つしかありません。

次に、業務ツールの内側にAIが入ることで、利用の可視化が難しくなる点です。所員がAIを使ったかどうかを、後から確認できる仕組みがあるか。管理者側の機能とログの範囲は、導入時の確認項目として重みを増します。

最後に、相談対応の質の定義が変わる可能性です。聞き取りと整理が速くなるほど、事務所の価値は判断と責任の引き受けに寄っていきます。報酬設計をどちらに寄せるかが、次の論点になります。AIツールの選定基準を整理したい場合は、AI評価専門企業の資金調達から読むAI選定の論点も手がかりになります。

よくある質問

顧問先との相談を音声AIで要約しても差し支えありませんか

事務所として先に決めるのは、同意の取り方と入力範囲です。守秘義務の根拠は職種ごとに異なり、社会保険労務士であれば社会保険労務士法第21条、行政書士であれば行政書士法第12条が秘密を守る義務を定めています。個別の場面での可否は、契約条件と顧問先の意向を踏まえて事務所が判断する領域です。

同意していない第三者の声が入ってしまった場合はどうしますか

実務では、該当部分を記録から削除し、削除の事実を所内記録に残す手順を用意している事務所があります。あわせて、削除の範囲を顧問先に伝えるかどうかを事前に決めておくと、現場で迷いません。手順を事前に文書化しておく点が要点です。

Gemini 3.8 LiveとExtended Thinkingは、どちらを使えばよいですか

用途で分かれます。Gemini 3.8 Liveは規模とコスト効率を重視した対話向け、Extended Thinkingは複雑で多段の推論を要する作業向けとして位置づけられています(出典: Google公式ブログ)。相談の要約なら前者、長い資料を読み込ませたうえでの整理なら後者が候補になります。

入力した内容がAIの学習に使われるか、どこで確認できますか

Googleは、Geminiに関するデータの取扱いをヘルプページで、Workspaceのサービス条件を専用ページで公表しています。個人向けプランと法人向けプランで条件が異なるため、事務所が契約している内容を個別に確認する流れになります。2026年9月時点の情報であり、要確認としておきます。

所員が個人のGoogleアカウントで使っている場合、どう是正しますか

禁止だけを通達すると、見えないところで使われ続けます。事務所契約のアカウントを用意し、使ってよい範囲を示したうえで切り替える順序が現実的です。あわせて、個人アカウントで扱ってしまった情報の申告経路を用意しておくと、初期の是正が進みます。

音声の文字起こしは、どのくらいの期間保存すればよいですか

保存期間そのものに一律の基準はありません。事務所では、業務上の必要性と、個人情報保護法第23条が定める安全管理措置の観点を合わせて、期間を決めて文書化する運用が取られています。決めた期間で実際に消えているかを、定期的に確認する工程まで含めて設計します。

顧問先に説明するとき、何を伝えれば足りますか

実務でよく含められるのは、利用するサービス名、音声を扱う範囲、保存期間、学習利用の有無、所内の確認体制の5点です。専門用語を並べるより、どの場面で使い、どの場面では使わないかを具体的に伝えるほうが理解されやすくなります。

参考文献

※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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