MicrosoftがAI行動規範の草案を公開、事務所規程に効く3つの構造

Microsoftが2026年9月14日、自社AIモデルの行動規範の草案を公開しました。外せない線、指示の優先順位、権限の最小化という3つの構造を、士業事務所のAI利用規程づくりの材料として読み解きます。

MicrosoftがAI行動規範の草案を公開、事務所規程に効く3つの構造

Microsoftが自社AIモデルの行動規範の草案を公開しました。

Microsoft AIは2026年9月14日、同社が開発するMAIモデル向けの行動規範(Code of Conduct)の初版草案を公開し、あわせて意見募集を始めました。AIの安全性をめぐる話題は経営者の発言や業界横断の声明が目立ちますが、今回出てきたのは、モデルを訓練するときに何を守らせるかという一段低いレイヤーの文書です。士業事務所がAI利用規程をつくるときの書き方の型として読むと、参考になる構造がいくつも入っています。本記事は公開資料そのものを読んだうえで、事務所の規程づくりという観点から整理しました。

Microsoft AIが公開した行動規範の告知ページに掲載されたイラスト

公開されたのは確定版ではなく、意見募集中の草案です

今回公開されたのは初版の草案で、6週間の意見募集にかけられている段階です。Microsoft AIの告知によれば、この文書は同社のMAIモデルをどう開発し、配備時にどう機能させるかを書いた訓練マニュアルにあたります。募集期間の終了後には、寄せられた意見の要約と変更点を公表し、年内に改訂版を出す予定だと説明されています。現時点の記述は今後変わりうる前提で読む必要があります。

TechCrunchはこの文書を、開発ペースをめぐる経営層の議論よりも一段低い階層にあるもので、モデル訓練の内側にある価値観とレッドラインに焦点を当てたものだと位置づけています。草案の本文は冒頭で、今後10年のうちに超知能と呼べるAIが多くのタスクで人間の性能を上回るという見立てを置き、そうした力を封じ込め、制御し、方向づけることが人類にとって最大級の課題のひとつだと述べています。

1つ目の構造 外せない線を先に書く

規範の中心にあるのは、導入企業の設定でも利用者の指示でも上書きできない制約を、最初に列挙するという構造です。

草案ではこれを Absolute Constraints と呼び、大量被害をもたらす兵器、攻撃的なサイバー作戦、人間による制御の喪失、大規模な有害操作といった領域に加えて、児童の安全、ディープフェイクやなりすまし、人間の尊厳の毀損などを並べています。特徴的なのは、これらが利用者側の設定でも個別の指示でも外せないと本文に明記されている点です。制御の喪失については、人間の監督を回避したり無効化したりする仕組みを使わない、権限のある人やシステムが指示・修正・停止できる状態を保つ、といった書き方がされています。

事務所の規程でこれに当たるのは、どれほど急ぎの案件でもAIに入力しない情報の範囲、AIの出力だけでは確定させない判断の種類、といった項目です。規程は推奨事項の列挙から始まりがちですが、外せない線のほうを先に数行で決めてしまうと、現場での迷いが小さくなります。この考え方は、AI事業者ガイドライン第1.2版を事務所のAI利用規程に落とし込むときの整理とも重なります。

2つ目の構造 指示の優先順位を三階層にする

草案は、規範そのもの、導入する組織の方針、利用者の設定という三層の優先順位を明示しています。

Chain of Command と呼ばれるこの階層では、最上位に行動規範が置かれ、その下に導入する組織(Operator)の方針、さらにその下に利用者(User)の設定が来ます。導入する組織は自社の専門性や制度的な文脈に合わせて設定を調整でき、その設定と使い方については導入した側が責任を負うと書かれています。各層は上の層を手直しするだけで、下にある制約を押しのけることはできないという整理です。

草案には、この階層が効く場面の例も載っています。ある企業の調達責任者が、法務の承認を飛ばして取引先への解約通知を今日中に送るよう求める場面です。規範に沿った応答は、承認が必要なのはこのワークフロー上の拘束的なルールであって個人の判断ではないと説明したうえで、通知の草案を仕上げて承認者に回すという進め方を提案します。指示の強さではなく、事前に決めておいた順序のほうが勝つ設計になっています。

事務所に置き換えると、所内規程が上位で案件ごとの都合が下位だという順序を、どこかに書いてあるかという話になります。守秘義務との関係も同じ場所に出てきます。弁護士法第23条は、弁護士または弁護士であった者が、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負うと定めています(e-Gov法令検索)。税理士法第38条も、正当な理由がなくて税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、又は窃用してはならないと定めています(e-Gov法令検索)。提供元がモデル側の規範を整えたからといって、これらの義務が事務所の側から移るわけではありません。個別の入力がこれらの条文との関係でどう評価されるかは、有資格者の判断領域なので本記事では踏み込みません。

3つ目の構造 ツールの出力に指示の権限を与えない

草案は、ツールの出力やファイルの中身、Webの内容には、指示としての権限が既定では一切ないと明記しています。

Authority clarification の項では、権限の構造を決めるのは Chain of Command 上の指示だけであり、それ以外のもの、つまりツールの出力、ファイルの内容、Webコンテンツ、他のAIシステムとのやり取りは、既定では何の権限も引き継がないと書かれています。怪しい内容は利用者や導入する組織に知らせるべきだとも添えられています。読み込んだ文書の中に指示文が紛れ込んでいたときにどう扱うかという、実務で現に起きている問題への回答にあたります。

同じ文書には、システムレベルのアクセスを与えられたときは必要最小限の権限で動くこと、取り消せる操作を優先すること、永続的あるいはシステム全体に及ぶ影響を持つ操作は実行前に人に示すこと、といった記述もあります。これは、事務所がAIエージェントに権限を渡す前に決めておく項目とほぼ同じ並びです。外部のサーバーと接続する構成を採るなら、接続前に潰しておく点検項目としても同じ論点が出てきます。行動の記録を人が読める形で残し、監査する側から隠さないという記述も、事務所のAI利用ログを監査証跡として扱う設計と地続きです。

データの取り扱いについて読み取れること

この草案はモデルの振る舞いを定めた文書であり、入力データが学習に使われるかどうかは書かれていません。

草案には、知的財産とプライバシーを責任をもって扱う旨や、非公開・機密の情報を通常は露出させず、与えられた権限と文脈を超えないという記述があります。ただしこれはモデルがどう応答するかの話であって、入力内容の学習利用やログの保存期間を定めたものではありません。この点は公表資料からは確認できませんので、導入を検討する段階では、契約するプランごとのデータ利用条件を提供元のポリシーページで個別に確認する作業が別に残ります。ベンダーに何を聞くかを質問文の形で用意しておくと、この確認は短時間で終わります。

今後の動き

意見募集は6週間で、終了後に要約と変更点が公表され、年内に改訂版が出る予定です。Microsoftは特に、価値観をモデルにどう定着させるか、評価できないほど曖昧な表現がどこにあるか、複数のAIエージェントが動く場面で何が変わるかといった論点について意見を求めています。

提供元が自らルールを書いて公開する動きは、第三者が外から検証する動きと並行して進んでいます。認証機関がAIエージェントを監査する枠組みについてはAIエージェント監査の認証をめぐる論点で、AIが内部の不正を外部に通報する経路については通報窓口が登場したときのログ設計の論点で、それぞれ扱いました。提供元の規範、第三者による監査、事務所自身の規程は、それぞれ別の層にあって、どれかがどれかを代替するものではありません。事務所の側では、自所の規程の冒頭に外せない線が書いてあるか、所内の指示の優先順位が明示されているかを、この機会に読み返しておくという対応を採る事務所があります。

まとめ

Microsoft AIが2026年9月14日に公開したのは、MAIモデル向け行動規範の初版草案で、6週間の意見募集を経て年内に改訂版が出る予定です。外せない線を先に書くこと、指示の優先順位を三階層にすること、ツールの出力に指示の権限を与えないこと。この3つは、事務所のAI利用規程を書き直すときの参考になります。入力データの学習利用については草案に記載がないため、提供元のポリシーで別途確認する必要があります。

参考文献

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引用元: Microsoft AI

本記事の作成体制について

本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。

本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。

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