総務省は2026年9月14日、発信者情報開示WG第7回を開催しました。
総務省のデジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会は、2026年9月14日午前10時から発信者情報開示ワーキンググループの第7回会合をWeb会議で開きました。会合自体は非公開ですが、同日に配布資料が公表されています。テーマは令和3年改正で創設された裁判手続の実効性確保で、事務局資料には提供命令に応じない事業者への制裁という踏み込んだ論点まで並びました。発信者情報開示の実務を抱える法律事務所にとって、手続の前提が動きうる局面です。この記事は公表資料をもとに事実を整理したものです。

発信者情報開示WG第7回で示された論点
第7回の議事次第は、令和3年改正で創設された裁判手続の実効性確保に関する論点という1本に絞られています。事務局が用意した資料7-1は、論点を提供命令の実効性確保、プロバイダの性質や多層化を踏まえた検討、発信者情報の保有の3つに整理しています。
もっとも目を引くのは提供命令の扱いです。資料7-1の「ご議論いただきたい事項」には、「提供命令に応じなかった場合の制裁を設けるべきか。」という一文が置かれました。現行制度では、提供命令は特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律第15条に定めがあり、同法第8条の発信者情報開示命令と組み合わせて用いられます。ただ資料では、命令に強制力がないため対応しない事業者が存在するという構成員の指摘が繰り返し引かれています。
もう一つの論点は、申立人から下位プロバイダへの申立てを通知したことを条件に情報提供が発生する仕組み(同法第15条第1項第2号)についてです。迅速性を高める観点から、この通知の必要性と妥当性をどう考えるかが問いとして示されました。
数字で見ると何が起きているのか
背景にあるのは件数の伸びです。資料7-1によれば、非訟手続の申立件数は令和5年から令和7年の3年間で3,959件から10,072件へと約2.5倍に増えました。さらに総務省がプロバイダに任意で回答を求めた調査では、令和6年に申し立てられた発信者情報開示請求は訴訟・仮処分・非訟・任意請求を合わせて154,484件にのぼり、その大部分は任意請求だったとされています。
所要日数も資料に出ています。提供命令の発令から通知までの平均日数は、同じ資料7-1で国外事業者Aが49日、国外事業者Bが46日、国外事業者Cは対応実績なしと整理され、国内事業者は7日から57日まで大きくばらついていました。第二東京弁護士会消費者問題対策委員会が2024年9月4日から10月25日に実施したアンケート(資料7-1に抜粋掲載)では、提供命令が発令されてもコンテンツプロバイダが一切応じなかった事件が「ある」と答えた回答が7件、「ない」が13件でした。
発信者情報が消えてしまう問題については、別のワーキンググループでの手当ても資料7-1に整理されています。2025年10月1日の電気通信事業における個人情報等の保護に関するガイドラインの解説の改正で、業務の遂行上必要な通信履歴を少なくとも3か月から6か月程度保存することが社会的な期待に応える望ましい対応であると明記され、2026年2月のフォローアップでは保存期間を延ばした事業者が複数確認された一方、3か月に満たない事業者も一部残っていたと報告されています。
弁護士事務所の実務から見た読みどころ
影響が直接及ぶのは、ネット上の権利侵害案件を扱う弁護士です。資料7-1では、提供命令に応じない事業者がいるために発信者情報開示命令と仮処分を同時に申し立てる「ダブルトラック」が常態化していると構成員から指摘されており、司法リソースの観点から課題として取り上げられています。制裁や通知要件の見直しが具体化すれば、申立ての組み立て方そのものが変わる可能性があります。
多層化も実務の負担に直結します。資料7-1は、コンテンツプロバイダから下位のアクセスプロバイダへと提供命令と開示命令を積み重ねる想定図を示し、MVNOの契約数比率の上昇やIPoE接続を利用するISP数の増加を多層化の傍証として挙げています。申立ての回数が増えれば、期日管理と書面作成の負荷はそのまま事務所側に乗ります。
ここはAI活用の設計が効く領域でもあります。案件ごとの期限管理、提出書面の体裁チェック、過去の申立書式の横断検索といった事務作業は自動化と相性が良い一方、開示請求の可否や主張の組み立ては弁護士本人の判断領域です。通信の秘密にかかわる情報を扱う以上、どのツールにどこまで入力するかを先に決めておく運用が現実的で、事務所のAI利用ログをどう残すかや弁護士法72条とAIの整理と合わせて考える論点になります。
今後の動き
検討会は2025年9月17日に中間取りまとめを公表し、その後の状況変化を踏まえて2026年5月1日に会合の再開を発表しています。第7回で扱われた検討課題1に続き、資料上は検討課題2(発信者情報開示請求への対応の合理化)と検討課題3(手続の過程で得た情報の適切な取扱い)が残されており、議論はまだ途中です。
当面は、提供命令の制裁の是非、通知要件の見直し、アクセスプロバイダを裁判手続の全段階で相手方として維持することの妥当性という3点が、次回以降の資料でどう整理されるかが見どころになります。開示請求を継続的に扱う事務所では、現在進行中の案件の進行に合わせて総務省の公表資料を追う段階といえます。制度改正の方向が固まるまでは、リーガルテックと司法制度をめぐる議論と併せて動きを見ておくのが無難です。
まとめ
総務省の発信者情報開示ワーキンググループ第7回は、提供命令に応じない事業者への制裁、通知要件の見直し、プロバイダ多層化への対応という論点を示しました。非訟手続の申立件数は3年で約2.5倍、提供命令の通知までの平均日数は事業者間で最大50日近い差があると整理されています(出典: 資料7-1)。発信者情報開示の手続は、実効性確保の方向で見直しが進む局面に入っています。
参考文献
- 総務省 デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 発信者情報開示ワーキンググループ(第7回)配布資料
- 総務省 資料7-1 検討課題1.令和3年改正で創設した裁判手続の実効性確保に関する論点について(PDF)
- 総務省 デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会
- 総務省 「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 中間取りまとめ」及び意見募集の結果の公表
- e-Gov法令検索 特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律
※士業のチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴事務所の業務に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://shigyonochikara.jp/contact/
引用元: 総務省
本記事の作成体制について
本記事は士業のチカラ編集部が、公表されている一次情報のみを根拠に作成しています。法令の条文はe-Gov法令検索の原文で、行政の見解は各府省庁の公表資料で、それぞれ確認したうえで記載しています。引用元は本文中および参考文献にすべて明示しています。
本記事には特定の資格者による監修は入っていません。個別の事案について法令の当てはめや手続の可否を判断する必要がある場合は、当該分野の有資格者にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な法律判断・税務判断・労務判断を提供するものではありません。
記載内容に誤りを見つけられた場合は、お問い合わせよりご指摘ください。確認のうえ速やかに訂正し、訂正履歴を記事内に残します。編集方針の詳細は運営者情報をご覧ください。